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【ライブレポ・セットリスト】向井秀徳アコースティック&エレクトリック『藝祭2023 ゲストライブ』at 東京芸術大学 美術校地野外ステージ

向井秀徳のステージは、リハーサルの時点で異様なオーラを放っていた。向井は鳥貴族でサワーで乾杯しそうなウェイウェイ大学生が歓声を上げる中、渋い顔をして準備を進めている。その温度差が凄い。場所は東京芸術大学。彼は学園祭のゲストアーティストとして呼ばれたのだ。

 

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「ハッ!ヘイヘイヘイイイ!This is 向井秀徳!東京芸術大学!ハッ!」と自己紹介を挟みながら独特なマイクチェックをしている。そしてアコースティックギターを爪弾きながら『CRAZY DAYS CRAZY FEELING』を歌い、テレキャスターに持ち替えて尖ったギターサウンドで『SENTIMENTAL GIRL’S VIOLENT JOKE』を歌った。

 

PAへの細かい指示はほとんどせず「調整しといてください」と丸投げして「便所に行く」と言ってステージを後にした。野外ステージで周辺には出店や展示がされているものの、ステージ周辺だけは明らかに違う空気が流れている。

 

ファンからすればいつも通りの向井秀徳だが、それ以外の人にとっては「バリヤバイ人」に見えるだろう。特に今回は学園祭の無料ライブということで、ライブを初めて観る人や通りすがりの人もいるようだ。

 

開演の時間になったものの、向井はステージに登場しない。その代わりに学園祭のステージ運営を行っている学生の代表が登場し「今から向井秀徳さんによる質問&お悩み相談トークショーを行います」と告げる。CRAZYな企画に驚きどよめく観客。しかもラジオのコーナーみたいな企画だと、運営が考えるコンセプトまで発表していた。

 

学生の呼び込みでステージに再登場した向井秀徳。ギターを持たずにHENTAIかと思う笑みを浮かべながら「This is 向井秀徳!」と挨拶をして観客を眺めている。機嫌は良さそうだ。便所に行ってスッキリしたからだろうか。そんなCRAZYな向井の姿にどよめく会場。

 

ここから『向井秀徳の質問&お悩み相談トークショー』が始まるわけだが、向井のシュールな回答でカオスな空気になってしまった。諸行無常な時間であった。

 

覚えている限りの質問と回答をまとめておこうと思う。

 

質問:向井さんがキラメキを感じる時はどんな時ですか?

 

向井秀徳:キラキラした繁華街でうごめいているキラキラした女性を見た時。キラキラガールを求めているわけですわ。今日はキラキラした学生が集まっているのでしょうが、近眼だからよく見えん。ふうううううううう!

 

煌めきを感じているのか、回答のテンションが高い。

 

質問:音楽をやっていなければ何をやっていたか?

 

向井秀徳:ゾッとするね。私は社会性に問題がありますので。ひとりぼっちだ。でもそれが心地良い。ひとりぼっちになりたいんだ。でもこうして皆さんの前に立っているので、本当は繋がりたいんだ。ロンリーロンリー眼鏡なんだ。私はどうしたらいい?

 

向井秀徳の方が悩みを打ち明けていた。

 

向井秀徳「ラジオっぽくやれと言われたからラジオを意識して喋っているつもりですが、ラジオっぽくやれていますよね?」

司会の学生「できていると思います。去年のナンバーガールのオールナイトニッポンの企画を参考にさせてもらいました」

向井秀徳「あれは酷い放送だった......」

 

ナンバーガールは2023年9月に1回だけ『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めた。その放送内でファンからの生電話質問に答えるというコーナーがあったのだが、それもカオスな空気になっていた。どうやら向井本人もバリヤバイ空気だったことは感じ取っていたようだ。学園祭運営はバリヤバイ空気を再現したかったのだろうか。

 

質問:ナンバーガールの解散ライブで『透明少女』を4回やったのは何故ですか?

 

向井秀徳:繰り返されるものが好きなんだな。繰り返したいんだ。そして蘇りたいんだ。メンバーにセットリストをLINEで送ったら間違っていると指摘されたが、俺の頭が見る景色はバグってない。

 

『透明少女』は諸行無常の一環だったらしい。ちなみに「間違っている」と指摘したのは中尾憲太郎だったらしい。

 

質問:もしも大学教授になったら何をしたいか?

 

向井秀徳:学生を地元に帰らせ地酒を持って来させる。そして1週間後に全員で飲み会をやるんだ。地酒を持って来なかった奴には単位をやらん。そいつは落第だ。

 

司会の学生は「ぜひ参加したいです」と言っていた。

 

質問:熱中できるものが見つからない。向井さんのようにかっこよくなるにはどうすればいいかでしょうか?

 

向井秀徳:知らん!お前はダメだ!諦めろ!厳しいこと言うと思っただろ?世の中は厳しいんだよ!でも諦めた先に見える何かもあるんじゃないですか?

 

厳しい言葉ではあるが、これは向井なりのエールかもしれない。

 

質問:おすすめの癒し方法はありますか?

 

向井秀徳:風呂に入れ!入浴剤も入れておけ!

 

気軽な方法をおすすめしていた。

 

質問:他人と比較して辛くなってしまいます。どうすればいいですか?

 

向井秀徳:それはわかります。誰もがそういう部分があるでしょう。だから酒を飲みましょう。酒を飲めば気が大きくなる。冷酒を10分で3合飲め!そうすればどうでもよくなる。ひやおろし!!!

 

そう言いながらアサヒスーパードライを飲む向井秀徳。

 

質問:大学で三味線など日本の伝統楽器を勉強しています。伝統楽器を今の時代に拡める方法はありますか?

 

向井秀徳:知らん!楽器を拡めるとか興味がない!ただ三味線という楽器の音色は、心を震えさせますよね。和楽器ならば琴が大好きです。倍音が重なる瞬間、あまりの気持ちよさに私は天使のようにアヘアヘアヘと飛んでいきます。アヘアヘアヘ〜。でも今も伝統楽器を奏でる人はたくさんいますよね?アヘアヘアヘ〜。

 

バリヤバイことを言っていた。

 

質問:やるせ無い気持ちになったら、向井さんならばどうしますか?

 

向井秀徳:走る。

 

質問とお悩み相談に約30分間答え、向井は「便所に行ってくる!」と告げてステージを後にした。

 

便所に行きスッキリしてから、再びステージに戻ってきた向井秀徳。ギターを持ち奏で始めると『向井秀徳の質問&お悩み相談コーナー』とは全く違う、ピンと張り詰めた空気へと変わった。むしろ本来の向井秀徳のライブはこれが通常の空気なのだろう。

 

「Matsuri Studioからやって参りました。this is向井秀徳」と挨拶すると、初見の学生が多いのかクスクス笑いが聞こえた。だが『6本の狂ったハガネの振動』が演奏されると学生も静かに聴き入る。もしくはサウンドと歌の凄みに圧倒されたのだろうか。

 

かと思えば『夏の幽霊』や地獄図(ヘルズ)に楽曲提供した『天国』のセルフカバーでは、包み込むような優しい歌と演奏をしている。ソロだとバンドよりも様々な表現をする向井秀徳を観ることができるのだ。

 

「Matsuri Studioからロンリーロンリーロンリー眼鏡がやって参りました。thisis 向井秀徳!」と挨拶すると、失笑と共に歓声が湧き上がるシュールな空気になってしまう。音楽と喋りとで全く違う空気感にする、ジェットコースターのようなライブだ。

 

音楽性の幅広さでも、曲ごとに違う空気感にしている。KIMONOSのバージョンではハウスミュージックだった『yureru』はアコースティックアレンジで歌い、変拍子の複雑な演奏をギター1本でやりながら『Amayadori』を歌ったりと、音楽でも様々な情景を見させてくれる。

 

ナンバーガール再結成後のツアーでも演奏された『KU-KI 』は語りかけるような歌声で披露したりと、原曲と全く違うアレンジになっていることも面白い。『Water Front』の歌い上げるような歌唱も、ZAZEN BOYZの時とは少し違う。

 

そんな中で特に印象深く感じたアレンジは『sakana』だ。ルーパーを使いその場でカッティングやアルペジオでリフを弾いて録音し、音を重ねて演奏していた。複雑ながらも繊細に音を重ねて歌う姿に痺れた観客が多いのだろう。演奏後は観客から歓声が湧き上がっていた。

 

向井も強い手応えがあったのだろう。キメ顔で「This is 向井秀徳!」と言っていた。

 

「ぶっ倒れる前に、水をガバ飲みするんだな。喉が渇いた時は、時すでに遅し。だからガバ飲みするんだなあ」と観客に水分補給の重要さを伝える向井。

 

今回のライブは野外。夕方とは言え暑いし学園祭なのでライブに慣れていない人も多い。ライブ中に倒れた人が多発していたので、改めて注意をしていたようだ。

 

向井秀徳「無理をしないでくださいね。しっかり水分補給をしてください。なぜならあと4時間やりますから」

観客「うおおおおおおお!!!!」

向井秀徳「嘘です。私も無理はしません」

 

向井は自身の体調管理もしっかりと行っているようだ。

 

ブルースの影響を感じるギター奏法で『The Days Of NEKOMACHI』『KASASU』を演奏し観客を心地よく揺らすと、再びMCへ。観客の体力や体調に配慮しているので、様子を見ながらライブを進めているのかもしれない。

 

無理はすんなよ。何かの歌詞にありますね。「僕はそんなに強くない」と。その通り!

 

強くなれというのはプレッシャーがありますね。私は弱みの塊ですよ。ロンリーロンリー眼鏡なんです。人間は弱いんですよ。それが普通ですからね。

 

まるで前半のお悩み相談に対する全ての相談に対する答えを言っているかのような、向井なりのメッセージや優しさを感じる言葉に思った。

 

そこから続く『omoide in my head』も、若者へのメッセージとしての歌唱だったのかもしれない。ナンバーガールでの騒やかな演奏とは違い、スローテンポで語りかけるように歌っている。ギターはブルースやジャズを組み合わせたかのような奏法で、ナンバーガールの騒やかな演奏とは全く違う印象を与えるサウンドだった。

 

上野の向こうに寿湯という、銭湯があるんです。私はよく渋谷区から自転車で寿湯に

行くんです。電動アシスト付き自転車で!

 

・・・・・・。

 

その時に東京芸大の前を通って向かうんです。今はなくなったんですけど、大学の入口に喫煙所があったからです。忍び込んでタバコを吸って休憩していました。

 

するとつなぎを着た学生さんがやってきたんですね。制作でペンキがつなぎに付いたんでしょう。真っ赤なペンキで染まっていて、まるで殺人現場で血まみれになった人みたいな状態で。

 

きっとこの人は血まみれになってでも、何かを作りたいんでしょう。学校でそんな気持ちになれるって、いいなあと思います。

 

そんな学校に呼んでもらえたことを、心から嬉しく思います。

 

向井秀徳がライブでこれほど丁寧で真っ直ぐな話をMCですることは珍しい。それは大学の学園祭だからだろうし、東京芸術大学という場所だからこそなのだろう。

 

そして『永遠少女』『はあとぶれいく』を激しく叫ぶように歌い演奏し、騒やかに「This is 向井秀徳!」と言ってステージを後にした。

 

すぐにアンコールの拍手が巻き起こる会場。おそらく向井秀徳を初めて観た人も少なくはないだろうし、なんなら存在をこの日初めて知った学生客もいたかもしれない。しかしアンコールの拍手や歓声は壮大で、それが彼の音楽がしっかりと伝わった証拠に感じた。

 

「東京芸術大学!またいつか忍び込ませてもらえたらと思います。Matsuri Studioからやって参りました。ロンリーロンリー眼鏡!This is向井秀徳!」と決めゼリフを言って『IGGY POP FAN CLUB 』が演奏された。

 

この楽曲は知っている人が多いのだろうか。イントロのリフが鳴ると、この日1番の歓声が湧き上がっていた。感情を込めて叫ぶように歌う向井の姿にもグッとくる。

 

「最後に松任谷先輩の曲を」と告げてからのラストソングは『守ってあげたい』。かつて峯田和伸とのデュエットでカバーしていた松任谷由実の名曲だ。

 

優しく温かな歌と演奏を響かせ、最後に「This is 向井秀徳!」と告げてライブは終了した。

 

前半はカオスなトークショーがあった。だが後半は90分も素晴らしい音楽を奏でてくれた。そきていつも以上にメッセージを伝えようとする向井秀徳の姿にグッときた。

 

この日のライブは思い出になっても、ずっとインマイヘッドされ続けるだろう。

 

■向井秀徳アコースティック&エレクトリック『藝祭2023 ゲストライブ』at 東京芸術大学 美術校地野外ステージ セットリスト

1.6本の狂ったハガネの振動

2.夏の幽霊

3.天国

4.yureru

5.Amayadori

6.KU-KI 

7.Water Front

8.sakana

9.The Days Of NEKOMACHI

10.KASASU

11.omoide in my head

12.永遠少女

13.はあとぶれいく

 

アンコール

14.IGGY POP FAN CLUB 

15.守ってあげたい