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【ライブレポ・セットリスト】カネコアヤノ ⽇本武道館 ワンマンショー 2023

2021年にカネコアヤノが初の日本武道館公演を行った時、ファンは「ついに武道館まで来たか!」という特別な想いや興奮した気持ちを持って会場へ足を運びライブを観たと思う。

 

カネコアヤノもバンドメンバーも、いつものライブより浮き足立った様子に見えたし、特別な会場の凄みを実感しながら演奏しているように見えた。

 

そんな空気に満ちたライブだったので、いつも以上にエモーショナルだったし、多幸感で包まれていた。

 

 

それから1年弱。再びカネコアヤノが日本武道館に帰ってきた。今回は2デイズ開催だ。当時は大きいとすら感じた会場も、今ではカネコアヤノにとって適正な規模に思える。彼女の人気や評価は今でも上昇しているし、その規模に見合うライブをやっているからだ。

 

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だからか今回の武道館は、初回とは会場の雰囲気が違う。観客は良い意味で「いつもと同じ気持ちで」楽しもうとしているように見える。

 

カネコアヤノも初回の武道館と雰囲気が違う。自分はアリーナ最前列でステージ袖から登場する瞬間も見れたが、笑顔を見せながらカメラマンに向けてポーズを取っていた。リラックスした様子で肩の力も抜けているようだ。

 

しかしステージにあがり演奏を始めると、ピンと張り詰めた空気になった。2021年の武道館は緊張した面持ちながらも「よろしくねー」とゆるく挨拶して始めたので、それとは全く違う空気だ。

 

ステージの照明が段々と薄暗くなり、天井から吊るされた無数の豆電球が、星のように煌めく。まるで星以外の光が一切ない野外に4人がいるようだ。そこでカネコアヤノとバンドはジャムセッションライブを始めた。

 

いや、セッションというよりも、音を互いに確かめ合っていると言った方が正しい。弦を1本ずつ奏でたり、タムを1回だけ叩いたりと、演奏といった感じではない。リズムだってあやふやだ。

 

それなのに少しずつ「バンドの演奏」へと変化していく。音を確かめ合って、ステージ上でゆっくりと準備を進め、自然と音楽になっていく。「音」が「音楽」へ変化する様子を見せられているような気分だ。

 

セッションから繋がるような流れで1曲目に『追憶』が演奏された。音源では弾き語りだったが、今回はミニマムなバンドサウンドでの披露である。

 

繊細すぎて脆さもある演奏にヒリヒリする。そんなステージを観客は息を飲むように集中して見つめる。カネコアヤノは1曲目から武道館を自らの空気にしてしまった。初回の武道館とは違う方法で、会場を掌握してしまった。

 

2曲目は『アーケード』。前回の武道館ではラストに演奏されたライブ定番曲だ。1曲目では座っていた観客は前方から順番に立ち上がり、腕を上げたり身体を揺らしたりと自由に楽しんでいる。大きな会場でも4人がドラムの周囲に小さくまとまるように集まり音を合わせる様子も印象的だ。

 

さらに『カウボーイ』を続けて熱気を上げていく。挨拶もせずに始めたライブだし、ここ数年はライブ本編でMCをすることはない。言葉ではなく音楽だけで観客の心を掴んでしまう。

 

『栄えた街の』『予感』とミドルテンポの楽曲を続けた頃には、ライブハウスと変わらない空気感になっていた。カネコアヤノとバンドは、どんな場所でも変わらない。変わらずに自身を貫いたライブをやる。だからこそ武道館に当たり前のように立てるアーティストになったのだろう。

 

2曲目以降はステージの照明は明るく、演奏やパフォーマンスからも明るい印象を感じたが『エメラルド』からライブ展開が変わる。照明は薄暗くなったからだ。その中で白いスポットライトを浴びる4人の姿が浮かび上がる演出で、ステージが幻想的な空気で包まれている。

 

武道館規模のライブだが、他のアーティストのように派手な演出はない。最小限の照明演出によって、演奏を際立たせることを優先しているようだ。

 

そんな幻想的な照明に包まれながら『セゾン』と『爛漫』を続ける。熱量の高い演奏と叫ぶような歌声の迫力にも圧倒されてしまう。幻想と迫力が組み合わさり、4人の姿が神々しく見える。

 

しかしすぐ側で歌ってくれているような、心の近さを感じる瞬間もある。カネコアヤノの弾き語りから始まった『ジェットコースター』が、まさにそれだ。

 

薄暗い照明の中で、語りかけるように優しく歌い、沁みいるような繊細な演奏をする。武道館なのに自分の部屋で歌ってくれているような心の近さを感じる。

 

そこから『明け方』を明るく演奏し『やさしいギター』『季節の果物』とリリース前の新曲を心地よいサウンドで届ける。今回のライブはリリース前の新曲がいくつか披露された。多くの人が初めて聴いたであろう曲でも、武道館を埋め尽くす観客の心を掴んでしまう。

 

新曲が続いた後に活動初期の楽曲『退屈な日々にさようならを』が披露されると、彼女の音楽の軸は変わっていないことと、リリース当時よりも歌声が力強く進化していることを実感してグッとくる。当時から武道館で通用する音楽をやっていたのかもしれない。

 

この曲ではスモークがステージを包む演出があった。そこに眩しいぐらいの光が照らされて、楽曲の壮大さを際立たせる。最小限の演出ではあるが、武道館だからこそ映える最高の演出だ。

 

演出のパターンはここからさらに増えていく。照明が落とされ暗闇になり、さらにスモークに包まれたステージで披露された『車窓より』も武道館だからこそ映える演出だった。

 

この規模でステージが見えなくなるほどの暗闇を作り出し、音に集中させる環境を作り出される体験は、他のライブでは滅多にない。カネコアヤノのライブ演出は、無駄を省くことでライブにおいて最重要な「音楽」を際立たせるのだ。

 

新曲『月明かり』と『気分』は本村拓磨(Ba.)が操作するサンプラーの音も使用されており、今までのカネコアヤノのライブにはなかったサウンドも取り入れていた。この2曲も最新アルバムに収録される新曲だ。ライブで披露することで最新作で新しい挑戦をしていることを伝えいている。

 

ここからまた空気が変わる。『抱擁』ではメンバーの後方がスモークで包まれ、そこに光が当たることで、後光が差したような美しい景色を作り出した。音楽の素晴らしさだけでなく、幻想的であり壮大な景色にも感動してしまう。そこから続く『光の方へ』でも、また空気が変わった。カネコアヤノは客席を真っ直ぐ見つめ、叫ぶように歌う。照明も明るくシンプルなものに戻った。ライブも後半。それに向けて全てを出し切るような勢いになってきた。

 

演奏を終えると曲間なしで林宏敏が歪んだギターソロを弾き、それが『愛のままを』のイントロへと変化し曲が始まった。この曲も前半より歌も演奏も激しい。やはり叫ぶように歌っているし、本村拓磨までも曲中に叫んでいる。観客も演者のテンションに連れられてか身体をお菊動かしたり腕を上げるひとが増えてきた。

 

そんな熱気を作り出し一呼吸置いてから、ゆっくりと『わたしたちへ』を続けた。この日一番に感じる轟音を鳴らすバンドと、やはり真っ直ぐな眼差しで歌うカネコアヤノ。シューゲイザーの影響を感じるサウンドは壮大で、武道館の規模と相性がいい。あまりの凄みに圧倒させられてしまう。

 

ラストは最新アルバムのタイトル曲『タオルケットは穏やかな』。今度は繊細な表現で語りかけるように歌っている。観客はその言葉や音楽をしっかりと受け取るようにステージに集中している。

 

武道館という大きな会場のライブを、リリース前の最新作のリード曲で締める。それは最新のカネコアヤノが最高であることをライブで伝えているように思えた。

 

「ありがとうございました」と言ってステージを去ったカネコアヤノとバンド。本編で彼女が喋った言葉はこれだけだった。しかし音楽だけで観客と心の距離を近づけ、音楽だけで観客の心を掴んでしまった。

 

しかし直接伝えたい言葉はあるようだ。アンコールで出てきた彼女は、少し緊張した様子で、少しだけ語った。

 

この間までは鼻クソをほじっている小学生だったのに、こんな場所に立てるようになってしまって。本当に生きてて良かったです。

 

ありがとうございます!スタッフのみなさんもありがとうございます!あ、最初のありがとうございますは皆さんに対してです。ありがとう以外はないんです。それが全てです。健康にまた会えることを願っています。

 

飲みに行くなり、ご飯を食べに行くなり、まっすぐ帰るなり、ネトフリ見るなりして、明日を迎えてください。

 

じゃあやります!ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!

 

終わるのは寂しいですけど、また会いましょう!ありがとうございます!

 

選挙に立候補した政治家のように、何度も「ありがとうございます!」と言って軽く会釈するカネコアヤノ。しかし演奏が始まれば背筋を真っ直ぐ伸ばし、目を見開き歌い演奏する。

 

ラストは『さよーならあなた』。爽やかで明るい歌と演奏が会場に響き渡る。ステージの照明も明るく楽曲の魅力を引き立てる。しかし時折繊細な演奏になったり、力強い一面も見せたりと「カネコアヤノの音楽とライブの魅力」を凝縮した様なラストソングだ。

 

アウトロでは長尺のセッションになり林宏敏がギターソロをかき鳴らし、他の3人がドラムの周りに集まり円を作る様に演奏している。そのセッションは5分ほどはあったと思う。大量のスモーク演出も使われ、演奏するメンバーが煙に吸い込まれていく様子も圧巻だ。そんな景色と最高の演奏に鳥肌が立つ。「カネコアヤノ」というバンドを組んでいるのだと思ってしまうほどの、凄まじいバンドサウンドだ。

 

真島昌利のように「またね」と一言だけ残して去っていくカネコアヤノ。いつもより大きくて特別な会場ではあるが、彼女の立ち振る舞いはいつも通りである。それは場所は関係なく常に変わらず最高の演奏をするというポリシーからくるものかもしれないし、武道館を当然にやれるアーティストになったということからくるものかもしれない。

 

どちらにしろ今回の日本武道館公演は、いつも通りに最高のライブだった。

 

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■ カネコアヤノ ⽇本武道館 ワンマンショー 2023 at 日本武道館 2023年1月18日(水) セットリスト

01.追憶

02.アーケード

03.カウボーイ

04.栄えた街よ

05.予感 ※新曲

06.エメラルド

07.セゾン

08.爛漫

09.ジェットコースター

10.明け方

11.やさしいギター ※新曲

12.季節の果物 ※新曲

13.退屈な日々にさようならを

14.車窓より

15.月明かり ※新曲

16.気分 ※新曲

17.抱擁

18.光の方へ 

19.愛のままを

20.わたしたちへ

21.タオルケットは穏やかな※新曲

 

En1.さよーならあなた

 

タオルケットは穏やかな

タオルケットは穏やかな

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