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【ライブレポ・セットリスト】Eve Live Tour 2022 「廻人」追加公演 at 日本武道館 2022年8月29日(月)

Eveのライブは開演前から世界観が作り込まれていた。

 

客入れのBGMはない。しかしステージには白い幕が張られ、そこにアニメーション映像が流れていた。時折アニメの動きに合わせて効果音が流れる。その都度緊張と興奮が高まる。まるで客席全体もアニメの世界の一部になっているような錯覚を覚える演出だ。

 

自分は初めてEveのワンマンに参加した。だから他の公演がどのような演出なのかはわからない。しかし今回のライブは世界観や魅せ方に関して、徹底的にこだわっていることは感じ取れた。

 

そんな独特な雰囲気の中で行われたEveのライブツアー『廻人』の追加公演。会場は日本武道館。ワンマンとしては過去最大規模の大きさだ。

 

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Eveの作る世界観は開演時間を過ぎると、さらにドープになっていく。明るかった客席の電気が一瞬で暗くなり観客のざわめきが盛れる中、『廻人』をSEにアニメ映像が流れる。美しく壮大な映像に引き込まれてしまう。

 

白い幕の向こうにEveとバンドメンバーの姿が見えた。それすらもアニメの登場人物に思うようなオーラがある。それにもやはり引き込まれてしまう。そんな最高の始まり方だから、演奏前から観客の心を掴んでしまった。

 

そしてスクリーンに「廻人」という文字が浮かび上がると演奏が始まり、『藍才』『夜は灰か』をなだれ込む様に続けた。観客も自然と手拍子を鳴らしたりと盛り上がっている。

 

しかし他のアーティストのライブとは少し違った雰囲気に感じた。観客は我を忘れて興奮していると言うよりも、ステージに集中して見つめることを優先しているようだったからだ。

 

Eveのライブは少し特殊な演出がされている。ステージ奥の巨大スクリーンには美しいタッチのアニメーション映像が流れており、ステージ前に張られた幕には歌詞やエフェクト映像が映し出されている。

 

そのため後方と前方とで違う映像が映されるので、映像に奥行きを感じるのだ。

 

他のアーティストも映像演出を使うことは多いが、このような立体的で映像が現実世界の一部に感じるような独特な見せ方をすることは珍しい。まるで映像と音楽を使った芸術作品を鑑賞している様な気分になる。

 

とはいえ観客に鑑賞させるだけでなく、参加できる隙も作ってはある。『YOKU』ではバンドメンバーが手拍子を煽り、それに合わせた一体感ある手拍子が客席から響いてた。

 

その音に乗るように歌うEveの歌声を聴いていると、観客の手拍子までも演奏の一部のように感じる。だから鑑賞と参加がミックスされたような不思議な感覚になった。そんな新しい体験が心地よくも刺激的だ。

 

ステージが再び暗転し『double』をSEにしたアニメ映像が流れ、映像の終わりに「Smile」という文字が浮かび上がった。Eveが過去に発表したアルバム『Smile』のことを示しているのだろう。どうやらこのライブは過去に発表されたアルバムの楽曲を数曲ずつ順番に演奏するようだ。ここからはアルバム『Smile』の楽曲が順番に披露されていく。

 

次に披露された『LEO』では映像以外の演出も取り入れ、さらに魅せるパフォーマンスを繰り広げた。

 

後方スクリーンにも前方の白い幕にもロウソクをイメージた映像が映り、幻想的な雰囲気を作り出す。それに加えてステージ上のセットにも実際の火が灯っていた。それも美しくて引き込まれてしまう。

 

そこから畳み掛けるようなボーカルの『レーゾンデートル』とダンサンブルな『いのちの食べ方』を続けるギャップも良い。アニメーション映像も疾走感を煽るような内容で盛り上げてくれる。さまざまな方向性の音楽で楽しませてくれるライブなのだ。

 

『slumber』をSEにしたアニメ映像が流れて『おとぎ』の収録曲が披露されてからは、ライブの雰囲気が前半とは違ったものになっていく。

 

長めのイントロからの『トーキョーゲットー 』で盛り上げ、『アウトサイダー』へとなだれ込むとEveが「東京!!!」と叫び煽る。その瞬間にステージを覆っていた幕が落ち、会場の熱気がいっきに上昇した。先程まで白い幕で隠れていたEveとバンドメンバーの姿がはっきりと観客の前に見える。

 

それまでスタンドマイクだったEveはハンドマイクに変わり、煽りながら音源よりも感情的に歌っている。ステージから銀テープが発射されたりと演出も盛り上げる方向に振り切っている。この日のライブで最も盛り上がった瞬間かもしれない。

 

そんな勢いを保ったまま『ラストダンス』でさらに盛り上げる。前半は映像作品を鑑賞しているような雰囲気があるライブだった。しかしここからはEveが生身のまま音楽でぶつかってくるような、人間臭いライブになっていく。

 

自分はこのライブ中盤以降の流れが心にぶっ刺さった。ひたすらに感情的なボーカルに痺れ、それを支える演奏の力強さに感動した。

 

ここまでノンストップで12曲を続けたが「こんばんは。Eveです。今日は夏休みの思い出を作りに来ました」という挨拶から最初のMCが行われた。

 

Eve「ツアーが終わって追加公演を行うまで、3年も経ちました」

観客「??????」

Eve「違う。3ヶ月だ」

観客「wwwwwwww」

 

歌やパフォーマンスはキレッキレだが、MCはゆるっゆるで天然発言をしている。そんな姿に親近感が湧いてしまう。

 

ライブが始まってからずっとふわふわしていたんだけど、武道館に立っている実感を今感じ始めています。

 

今日は久々のライブです。思い返すと2年半前から思うようにライブができない日々が続いていました。アリーナライブも中止になってしまったりと。

 

2年前の夏は街から人も消えてしまって、当たり前のことができなくなって、その時に改めて大切なものは何かを考えました。そんな時に書いた曲を次にやります。今日のために作ったんじゃないかと思うような曲です。

 

コロナ禍のこと。ライブのこと。そして次に演奏する曲のこと。さまざまな想いを語ってから『杪夏』が披露された。

 

この曲からはピアノとストリングスの演奏も加わり、サウンドを美しく彩っていた。海や空をイメージした映像が流れ、楽曲の壮大な世界観を見事に表現している。そして何よりもEveの歌声が良い。魂を込めて歌っていることがわかる。

 

また会えたなら 覚えていたい

この景色をずっと

Eve / 杪夏

 

最後のフレーズを聴いて、これはファンへのメッセージなのだと思った。この歌詞がスクリーンに大きく映し出されたのも、これが最も伝えたい部分だからだろうか。

 

『蒼のワルツ』もピアノとストリングスが参加した演奏だった。個人的にはこの楽曲の歌声に、この日のライブで最も心が動かされた。サビの歌声が は伸びやかで温かみを感じるのに、力強くて迫力がある。ボーカリストとして物凄い才能を持っていると確信する歌唱だった。

 

演出も素晴らしかった。〈雲が残る合間〉という歌詞があるからか、ステージの床には雲をイメージした煙が現れEveとバンドメンバーの足元を隠していた。まるでEveたちが雲の上にいるように見える。空や海や海中の映像がスクリーンに映っているのも楽曲の世界観を最大限に引き出す理由だ。

 

壮大で感動的な楽曲を2曲続けたが、続く『心海』では疾走感ある演奏で盛り上げた。

 

ピアノとストリングスを交えた演奏なので壮大さは感じるものの、軸はロックサウンド。自然と手拍子が巻き起こったりと、再び観客を巻き込むライブ展開になっていく。

 

Eveの歌声を求めて会場に来ているファンが多いかもしれないが、バンドの演奏も重要だ。彼らが最高の演奏で支えるからライブは成り立っている。

 

『fanfare』ではEveがステージから去りバンドメンバーだけのジャムセッションが繰り広げられた。

 

その音は迫力があるし演奏は技術力がある。そんな演奏を聴いていると、このバンドの音がなければライブは成立しないのだと実感する。それをEve自身もわかっているからこそ、バックバンドの見せ場も作ったのだろう。ソロ名義ではあるがバンドを組んでライブをやっている感覚に近いのかもしれない。

 

ライブも後半。Eveが再登場するとバンドのセッションから間髪入れずに『ナンセンス文学』へとなだれ込む。ラストスパートをかけるように勢いを増す歌と演奏。Eveがサビで煽ると観客の手拍子の音もどんどん大きくなっていった。

 

「あと3曲やったら帰ります!行けるか武道館!」と煽り『ドラマツルギー』を続ける。さらにパフォーマンスは激しくなっていく。サビの歌声はさらに力強くなっていく。

 

Eveはネット初のミュージシャンではあるが、生のライブでこそ実力を最大限発揮できるミュージシャンではないだろうか。そう思うほどの凄みを感じる。

 

そのまま最後まで駆け抜けるのかと思いきや、再びステージに白い幕が張られ『廻人』をSEに使ったアニメ映像が流れる。ライブ前半のように映像を見せて鑑賞させるようなライブになるのかと予想したが、それは少し違った。

 

次に披露されたのは代表曲『廻廻奇譚』。前半のように映像で見せる演出ではあった。しかし中盤以降の生身でぶつかってくるような魂が込められた歌声でもあった。

 

映像はMVを生で再現するかの様な映像演出だった。しかも後方スクリーンとステージ前の幕を使った立体的な映像演出なので迫力もある。ライブを構成する全てに魅せられて痺れてしまうような展開だ。

 

代表曲で圧倒的なパフォーマンスを見せ付けてから最後に披露されたのは『退屈を再演しないで』。この曲では会場を多幸感で満たす様なパフォーマンスだった。

 

「最後だけどまだ踊れる?」とEveが言ってからハンドマイクでステージ全体を動き回り歌っていた。それに応えるように観客は腕を上げたり身体を揺らしたりと楽しんでいる。ステージに置かれたミラーボールに光が当たり会場全体を美しい光で照らしたり、紙吹雪がアリーナに舞い散る演出も美しい。

 

完璧と言える歌と演奏と演出を最後に披露し、颯爽と去っていくEve。これで終演だとしても、納得するほどの完璧さである。

 

しかしやはりまだ彼の歌を聴きたい。観客はみんなそう思っているのだろう。盛大なアンコールの拍手が鳴り響く。

 

それに応えて始まったアンコール1曲目は『Bubble』。真っ暗に暗転したステージなら、音が鳴った瞬間に目を覆いたくなるほどに眩しい光がステージから放たれた。そんなアンコールの始まり方も最高だ。音楽という光で観客を照らしていることを表現している様に思う。

 

あっという間に終わってしまいますね。武道館、すごい景色でした。楽しんでもらえましたか?

 

とても良い追加公演ができました。まさか自分がこんなにたくさんの曲を作れるとは思ってもいなかったし、日本武道館に立てる日が来るとは思ってもいませんでした。

 

ここに立てているのは僕だけの力ではありません。ここに集まってくれているみんなや、バンドメンバーや、映像を作ってくれたクリエイターさんや、美味しいご飯を食べさせてくれるスタッフさんのおかげで立てています(笑)

 

僕はみんなのことを他人だとは思っていません。だからまた会いに来てください。

 

最後のMCでファンや関係者への感謝を伝えるEve。スタッフがどんなご飯を食べさせているのかが気になる。

 

このライブはEveにとって特別な公演だったのだろう。そんな想いを歌に乗せるように『君に世界』を優しい歌声で届ける。観客も穏やかに彼の歌やメッセージを受け取っているようだ。

 

「本当にありがとうございました!バンドメンバーを紹介させてください!」と言って1人ずつバンドメンバーを紹介するEve。紹介し終えると「まだ行けるか!」と叫び『群青讃歌』へとなだれ込む。これが最後の曲だ。

 

ハンドマイクでステージ全体を移動しつつ会場全体を眺めながら歌うEve。客席からは自然と手拍子が鳴り響く。銀テープもステージから発射されたりと、最後にもうひと盛り上がりさせるような演出も最高だ。

 

前半は魅せるライブ内容だった。中盤は歌と演奏で圧倒させるようなパフォーマンスだった。しかし最後は会場全体を巻き込み、観客全員を幸せにするような多幸感に満ちたライブになっていた。約2時間のライブで様々な感動を味わえるライブだった。

 

Eveはネット初のシンガーである。しかし彼は人間臭いのかもしれない。ワンマンライブを初めて観てそんなことを感じた。熱い想いを持っていてそれが楽曲や歌に表れているように思った。

 

楽曲のクオリティや歌声が魅力的なのはもちろんだが、彼の一番の魅力はそんな感情をしっかりと音楽に乗せることができることではと感じた。

 

闇を祓ってしまうような多幸感に満ちたライブを観て、そんなことを思った。

 

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■Eve Live Tour 2022 「廻人」追加公演 at 日本武道館 2022年8月29日(月) セットリスト

1.廻人

2.藍才

3.夜は灰か

4.YOKU

5.double

6.LEO

7.レーゾンデートル

8.いのちの食べ方

9.slumber

10.トーキョーゲットー 

11.アウトサイダー

12.ラストダンス

13.杪夏

14.蒼のワルツ

15.心海

15.fanfare

16.ナンセンス文学

17.ドラマツルギー

18.廻人

19.廻廻奇譚

20.退屈を再演しないで

 

EN1.Bubble

EN2.君に世界

EN3.群青賛歌

 

廻人 / 初廻盤 (CD+Blu-ray)

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