オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

ライブで隣の席に迷惑なノリ方をする客がいた

自分の隣の座席に変な動きをする客がいた。日本武道館で行われたEveのライブを観た時のことである。

 

その客は手拍子の音が無駄に大きかった。しかもリズム感がないのか、手を叩くタイミングがおかしい。バラードなのにヘドバンしていたし、エアギターも弾いていた。

 

隣の客などほっとけばいいのだが、変なリズムの手拍子は耳に入ってくるし、変な動きも目に入ってしまう。無視することが難しいのだ。ライブの楽しみ方は自由だが、限度を超えると周囲に迷惑がかかることを理解してほしい。

 

でも自分はその変な客を許したいと思った。全然許せる範囲に思った。むしろ自由に楽しんでくれと思った。

 

その客は中学生ぐらいの小柄な男の子だった。めちゃくちゃキラキラした目でステージを見ていた。その表情からは、ひたすらに音楽に夢中になって、ひたすらにライブに感動していることが伝わってきた。マスクの下は最高の笑顔だと伝わるほどにだ。

 

こんなに楽しんでいる客に注意などできない。注意する気にもならない。好きなものに夢中になっている人は美しいからだ。

 

ここまでキラキラした表情をして変な動きをしているということは、おそらくライブに慣れていないのだろう。学生ならライブに頻繁に行けるほどのお小遣いを貰えないだろうし、高校生だとしてもバイト代は高が知れる。

 

滅多にいけない「大好きなアーティストのライブ」という特別なイベントのために、少ない貯金を崩してきたのかもしれない。微笑ましいじゃないか。

 

ふと自分が初めてお小遣いを使って行ったライブを思い出した。その時の自分も変な動きをしていたかもしれない。

 

中学生の時に静岡市民文化会館で観た↑THE HIGH-LOWS↓のライブが、初めて自分のお金で行ったライブだった。

 

しかも1階席の6列目。ヒロトもマーシーもめちゃくちゃ近い。テレビや雑誌の中にしかいなかったロックスターが、自分のすぐ目の前に立ち音楽を鳴らす。その事実に開演前震えていた。

 

生の迫力ある歌声には感動したし、耳をつんざくようなギターの音には興奮した。身体に響くドラムとベースの音にはびっくりした。ヒロトは客席を眺めながら、ひとりひとりに指差して目を合わせていた。自分もヒロトに指さされて目があった気がする。

 

生のロックンロールはCDと比べ物にならないほど凄いのだと思ったし、生で音楽を聴くことはこれほどまでに素晴らしい体験なのだと実感した。あまりにも衝撃的だったので、我を忘れてしまった瞬間がたくさんあったと思う。

 

おそらく変なタイミングで手拍子をしていただろうし、マーシーが前に出てきてギターソロを弾いた時は興奮して変な腕の挙げ方をしていた。ヒロトがこっちを観て歌っている時は、ひたすらにジャンプしていた。

 

あの日のライブは自分の人生にとって大切な思い出になったが、周囲の人には申し訳ないことをした。ものすごく迷惑な客だったと思う。今思うと反省だらけの思い出だが、それでも最高と思える音楽体験たった。

 

そしてもうひとつこのライブで、忘れられない嬉しい出来事もあった。

 

自分の隣の席にはメンバーと同世代と思われる男性がいた。その人に「君はロックンロールのライブに来たのは初めてかい?めちゃくちゃ良い表情で楽しんでいて最高だったよ」と話しかけてもらった。

 

それが嬉しかった。なぜか褒められたような気がした。この言葉をかけてもらえたから、音楽は自由に聴いてかまわないし、ライブはとことん楽しんでいいのだと思うことができた。

 

だからEveに夢中になって我を忘れて楽しんでいる彼に、昔の自分を重ねてしまった。だから全てを許してあげようと思った。彼を許し認めることは、過去の自分を肯定し救うことでもあるからだ。

 

そういえば甲本ヒロトは94年に行われたTHE BULUE HEARTSのライブツアー『凸凹ツアー』のMCで、このようなことを言っていた。

 

コンサート会場で他人を見てはいけない。BLUE HEARTSだけを見つめるんだ!

 

決して隣の人がノリ方がヘタクソだったとか、ちょっと危ないヤツだったとか、そういうのも許してやれよ!一番変なのは自分なんだぞ!

 

自分はこのライブを生で観てはいないが、ライブDVDでこの言葉を話しているヒロトを観た。この言葉に心をつかまれた。

 

 

ヒロトの考えは今でも変わっていないのだろう。2015年に行われたザ・クロマニヨンズのライブでも、このようなことを話していたらしい。

 

このツアー、最初の方なんだけど、わりと上手くいってます(笑)。プロの人がこういうのもなんだけど、練習して良かったなあと。

 

みんなは練習いりません。最初から最後まで、自由に楽しんでください。歌いたいやつは歌えばいいし、踊りたいやつは踊ればいいし、じーっと観てたいやつはじーっと観てればいいです。今日だけは、隣の人がどんなノリ方してても許してあげてください。時々は、俺、迷惑かけてないかなって、気にしながら暴れてください。最後まで仲良く頼むぞ!

引用:ザ・クロマニヨンズ@赤坂BLITZ 2015.11.11 邦楽ライブレポート

 

この言葉も最高だ。その場にいる全ての人の楽しみ方を肯定している。そしてロックンロールには思いやりが大切だとも伝えている。彼はブレないからずっとカッコいい。

 

自分が過去に行ったザ・クロマニヨンズのライブでも、ヒロトは同じようなことを話していた。その時は「僕たちが一番変なノリ方をしています。だから自由にノってくれよ」と話していた。

 

その言葉にもグっと来た。めちゃくちゃ説得力があった。たしかにヒロトが一番変な動きをしていたからだ。

 

しかもヒロトはチ〇コも出していた。自分の隣の席の男の子はチ〇コを出していない。チン〇コを出されたら流石に許せないが、チ〇コを出していないならば全然許せる。チ〇コはステージ上でなければ、出してはならない。

 

自分もヒロトのようにカッコよくありたい。あの日自分に話しかけてくれた隣の席の男性のように優しくありたい。きっと隣の男の子も慣れていないライブに緊張しつつも、憧れのミュージシャンを生で観れて嬉しかったのだろうから。

 

Eveのライブは素晴らしかった。隣の席の男の子はやはりキラキラした目をしている。心の底から楽しんだようだ。

 

この男の子に一言だけ話しかけた。あの時の自分が隣の席の男性に肯定し受け入れて貰えた時と同じように、自分も男の子の楽しみ方を認めてあげたいと思ったからだ。

 

自分「ライブに来たのは初めて?めちゃくちゃ良い表情で楽しんでいて最高だったよ」

男の子「え?あ、ありがとうございます。でもライブは今月だけで10本行ったし、ロッキンは全通しました」

自分「・・・・・・」

 

 

 

 

 

「は????????」

 

 

 

 

 

それならあの変なノリなんだ?リズム感のない手拍子は何故だ?バラードでヘドバンするな!エアギターするな!そもそも何故にそんなお金を持っている?医者か社長の息子か?資産家の家柄か?甘やかされてるのか?バイトを頑張りすぎてるのか?

 

様々な感情が沸いてきて、先程までの親近感や好感は消滅した。むしろイラついてきた。自分はヒロトのように無条件で許すほどカッコよくなれない。そんな自分にも嫌悪感を抱いた。

 

でも、やはり自分は、彼の変なノリ方を受け入れて許したい。だからグッと抑えて、彼を受け入れようと思った。

 

音楽の楽しみ方は自由だから限度を超えない限りは他人が口出しすることではないし、男の子もいつかは「俺、迷惑かけてないかな」とたまに気にしながら楽む日が来るだろう。音楽を通して認め合えるから、音楽は素晴らしいのだ。

 

それに男の子はチ〇コを出していなかった。チン〇コを出されたら流石に許せないが、チ〇コを出していないならば全然許せる。チ〇コはステージ上でなければ、出してはならない。

 

チンコを出していないならば、全面的に許す。