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【ライブレポ・セットリスト】メレンゲ ワンマンライブ at 新宿LOFT 2022年8月24日(水)

演奏が始まった瞬間、「メレンゲってこんなバンドだっけ?」と思った。

 

バンド自体の活動が止まって約1年半。自分が最後にライブを観てから2年以上経っている。その頃とはサウンドの印象が少し変わった気がする。それに驚いてしまった。

 

もちろんそれはマイナスの意味ではない。プラスの意味だ。

 

この日のライブは衝動が溢れていた。いつも以上に尖ったサウンドと爆音だった。まるで人気も実力も急成長している若手バンドのライブを観ているような気持ちになった。結成20年を超えるバンドとは思えない勢いを感じる。

 

それは久々のライブだからこそかもしれない。だから客前で演奏することへの喜びでが音に表れていたことが理由だろう。観客もいつも以上の期待を持ってライブを観ていたように思う。そしてバンドはその期待に応えていた。

 

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新宿ロフトで行われたメレンゲのワンマンライブ。ライブタイトルはない。バンドが音楽を鳴らすこと以外の情報を与えずに楽しんでほしいからだろうか。そんなライブだから想いがしっかりと伝わった。想いが音に乗っていた。

 

1曲目の『輝く蛍の輪』からしても歌と演奏が凄まじい。久々のライブとは思えないクオリティである。

 

クボケンジの歌声は絶好調。彼らがロックバンドだと再認識させるような爆音も気持ち良い。最高のライブスタートだ。

 

そんなロックサウンドの後に続いたのは『君に春を思う』。美しいメロディと優しい歌と演奏が魅力的な楽曲だ。

 

真夏のピークが去ったと天気予報氏がテレビで言う季節になったものの、まだまだ暑さが残る8月下旬。しかし桜色の照明に包まれながら〈今日君が笑う それだけで春だ〉と歌われた瞬間は、春のような心地よく温かな空間になっていた気がした。

 

かと思えば音楽によって夏のような熱さも感じさせたりもする。サビで多くの人が腕を上げて盛り上がった『きらめく世界』がそうだ。ロックバンドの力強さと煌びやかな音色が組み合わさっていて、メレンゲにしか鳴らせない音楽になっている。今日は久々のライブだからか、そこに衝動が増しているのも良い。

 

クボケンジ「久々のライブですね。1年半ぶりです」

タケシタツヨシ「こんなに人が来てるくれるとは思ってなかったんで、久々にマスクをせずに人前に出ることに緊張します」

クボケンジ「この1年間何してたの?」

タケシタツヨシ「労働ですね... 。明るい話題はないです」

クボケンジ「そうですよね。明るい話題なんて何もないよ。しかも今年は暑いですし。そんな曲です」

 

この後に披露されたのは『ソト』。「そんな曲」だとは知らなかった。

 

しかし過去にクボケンジが綴ったセルフライナーノーツに「熱い曲です」と書かれていたことは覚えている。だから「そんな曲」なのだろうか。たしかに赤い照明に包まれながら重低音を響かせ演奏するバンドの姿はアツい。

 

そういえばこの曲は2009年に行われた渋谷AXでのライブで、志村正彦をゲストに招いて一緒に歌っていた。その時のMCは少し噛み合っていなかったけど、演奏が始まってからの相性の良さは最高だったことを覚えている。やはりこの曲はアツい。

 

メレンゲはメロディの美しさが魅力のひとつだと思う。そんな魅力が遺憾無く発揮されている『アルカディア』をそこから続ける流れもアツい。しかも〈会いにきたんだよ〉という歌詞がある曲でもある。久々のワンマンライブで、久々にファンと会う再開のテーマとしてベストな曲だ。

 

そんなメレンゲの作るメロディの美しさは、落ち着いた演奏だとより映える。クボのエレキギターの弾き語りから始まり、サポートドラムの小野田尚史が叩くパーカッションが心地よく響く『CAMPFIRE』では、それを特に感じた。

 

リバーブのかかったイントロをゆっくり弾いてからバンドの演奏が重なった『願い事』でもメロディの美しさを感じるのだが、それに加えてバンドの力強さやロックバンドとしてのクールさも感じる。ライブの定番曲になっているのは、そういったバンドの強みがいくつも表れている曲だからだろう。

 

『声』もそのような楽曲だが、この曲は温かさも感じる。ロックを基調としているものの、サウンドにどことなく優しさがあるのだ。これもメレンゲの魅力のひとつだろう。

 

正直なところメレンゲは爆発的に売れたバンドではない。しかしその魅力はファン以外にも伝わる部分はあるはずだ。それを実感するエピソードをMCでは語っていた。

 

クボケンジ「テレビ観た?俺の話が出てきたんだけど?」

タケシタツヨシ「俺の、話???」

クボケンジ「川谷絵音くんがテレビでメレンゲの曲を紹介してくれたんですよ。俺は誰にも褒められることなく死んでいくと思っていたから、めちゃくちゃ嬉しくって」

タケシタツヨシ「ラジオでは『アオバ』を紹介してくれたよね。もう少し早く言ってくれたら良かったのに(笑)ところで今日はテレビを観て来てくれた人は...」

クボケンジ「そんな人いるわけないだろ!ここにいるのはコア中のコアだよ!皆さん、見つけてくれてありがとうございます!」

 

つい最近、川谷絵音がテレビ番組で「歌詞が凄い曲」として『彼女に似合う服』を紹介していた。〈どうでもいいやりとりが でも今日でついに宝物〉という歌詞について「プラスの言葉を悲しさを表現するために使われていることが凄い」と語っていた。

 

しっかり楽曲を聴き込んでいるからこその批評に思う。川谷絵音様、どうかメレンゲと対バンしてください。

 

そしてクボがアコースティックギターに持ち替えて、「褒めてもらった曲を」と言ってから『彼女に似合う服』を披露した。カラフルな照明に包まれながら優しく歌うクボ。タケシタも時折笑顔を見せたりと楽しそうだ。

 

メレンゲは実力があるバンドだと思う。クボは天才ソングライターだと思う。でもなかなか世の中に認められなかった。過小評価されているどころか、見つかってすらいない。

 

しかしテレビで紹介してくれる後輩ミュージシャンがいる。会場にはファンがたくさん集まっている。見つけてくれた人が少なからずいることを実感しているからこその笑顔なのかもしれない。

 

そこから流れるように『八月、落雷のストーリー』が続く。今度は観客の方が笑顔になったかもしれない。この日は8月後半で開演前には強い雨が降り出していた。この楽曲のシチュエーションにベストマッチした日に演奏されたからだ。

 

クボは途中でアコギを弾きながら前方に出てきて、煽りつつも観客の表情を確認していた。その様子にほっこりしたりもする。

 

そんな多幸感に満ちた空気を『Ladybird』でさらに大きくした。やはりこの曲も演奏は力強いけれど、メロディは美しいしどことなく温かさがある。

 

この曲には〈君の良いとこさ こんな時に限って目につく〉という歌詞がある。これも川谷絵音が言う「プラスの言葉を悲しさを表現するために使われている」一例だろう。

 

このまま次の曲へ続くと思いきや「ちょっと疲れちゃった///」と言って喋り始めるクボ。久々のライブなので体力的にキツいのだろう。

 

タケシタ「もうちょっと定期的にライブやって身体を作らないとね」

クボ「僕が思うよりも身体が老いたんだと思う。運動した方がいい?走ったりもしたけど、走って膝を壊したし(笑)水泳とかした方がいい?」

タケシタ「いいんだけど、水泳してる姿を想像したくない」

クボ「お前は昔からすぐにそういうことを言うよな!」

タケシタ「こんなに長くなさやってるんだから、今更変わらないよ」

 

バンドが結成されてから20年弱。メンバーの脱退やメジャーレーベルから離脱したりと様々なピンチはあった。しあし活動も活発でないものの、この2人の変わらない関係があるからこそ、今もバンドは続いているのだろう。

 

クボの体力は回復したようだ。「夏は終わらないんで!」と言ってから、休憩前よりもさらに勢いある演奏で『午後の海』を披露した。

 

今回のライブのハイライトは、間違いなくこの曲だと思う。演奏が始まった瞬間に、空気がいっきに華やかになったからだ。きっとこの場にいた誰もがそれを感じたと思う。

 

ハンドマイクで煽りながら歌うクボと、それを支える力強い演奏が最高だ。演出も良い。カラフルな照明は美しいし、フロアの下手後方ではミラーボールも回って会場を光で彩っていた。

 

「メレンゲのライブってこんなに盛り上がるっけ?」と思うほどに腕が上がっていたし、楽しすぎて笑顔も涙も両方溢れる程に素晴らしかった。

 

そんな余韻を優しく包み込むように『ムーンライト』が続き、「凄い勢いで駆け抜けましたが、次が最後の曲です!」と言ってから『クラシック』を最後に演奏した。

 

クボとタケシタが前方に出て手拍子を煽ると、観客から手拍子の大きな音が鳴り響く。その多幸感に満ちた空間がたまらない。この場はステージもフロアもみんな、精一杯笑っていたと思う。

 

クボが「活動再開しました!」と言ってから、ステージを去っていくメンバー。観客は活動再開を祝うような拍手を贈る。その拍手はすぐにアンコールを求める拍手へと変化していった。

 

そんなファンの想いに応えて再登場するメンバー。しかし体力を激しく消耗したのだろう。タケシタだけが先に出てきた。「みんなすぐに出てくるって言ってたんだけどな...」と少し不満気である。

 

お客さんが来なくなったらバンドを辞める時だと思います。でも来てくれるから、この先もバンドは辞めずに続けます。

 

しかしファンに対しては不満は無いようだ。ファンにとって嬉しい言葉を伝えてくれた。そういえば盟友とも言えるフジファブリックも「フジファブリックは解散しないバンドです」とライブで話していた。

 

このように続けることを約束してくれる言葉は、頼もしいし嬉しい。バンドにとっては続けることが何よりも難しいし、ファンにとっては続けてくれることが何よりも嬉しいのだから。

 

クボ「限界突破しております」

タケシタ「限界を突破できたなら良かったよ」

 

やり切った表情で再登場したクボは体力の限界を訴える。しかしタケシタの見事な返しによりぶった切られた。やはりこの2人の関係性が良い。

 

限界突破したからか、アンコールではさらに衝動的な演奏をする。手拍子を煽ってから始まったのは『ラララ』。キャッチーなメロディと歌詞が印象的な疾走感あるナンバーだ。カラフルな照明も楽曲の魅力を引き出している。

 

最後に演奏されたのは「メレンゲのライブでやらないわけにはいかない」と思えるほどの定番ソングで名曲の『夕凪』。

 

限界突破したクボの歌声はライブ前半を超えるほどに感情が込められていた。演奏もそれに引っ張られてか、この日一番と言えるほどに激しい。クボとタケシタは前方に出て客席を煽っている。

 

それに呼応した観客の盛り上がりも、この日一番だった。みんながメレンゲのロックサウンドに興奮し腕を上げて楽しんでいる。ロックバンドの演奏に痺れつつも、メレンゲが作る多幸感に浸っている。

 

1年半ぶりのライブは、開催したことはもちろん、内容も含めて「復活」と呼ぶに相応しい内容だった。むしろ1年半は充電期間で、今回は進化した姿を見せていたとも言える。

 

正直なところ活動が止まっていた期間は、このままバンド活動が自然とフェードアウトしないかと心配だった。

 

アルバムも約8年出していない。ライブ本数も多い訳ではない。根気強くバンドを追って情報を集めていなければ、かつてのファンでも存在を忘れてしまうような活動ペースだ。それを考えたらいつ終わってもおかしくないバンドなのかもしれない。

 

しかしタケシタは「ライブに人が来てくれる限りは続ける」と言ってくれた。クボは次のライブでは新曲をやると言っていた。バンドは続く。この日のライブで感じた多幸感を、また必ず体感することができる。

 

メレンゲはこれからも続くはずだ。ファンに最高の音楽を届けることで、きらめく世界をこの先も見せてくれることだろう。

 

メレンゲ ワンマンライブ at 新宿LOFT 2022年8月24日(水) セットリスト

1.輝く蛍の輪
2.君に春を思う
3.きらめく世界
4.ソト
5.アルカディア
6.CAMPFIRE
7.願い事
8.声
9.彼女に似合う服
10.八月、落雷のストーリー
11.Ladybird
12.午後の海
13.ムーンライト
14.クラシック 

 

EN1.ラララ
EN2.夕凪

 

CAMPFIRE

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  • アーティスト:メレンゲ
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