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【ライブレポ・セットリスト】カネコアヤノは日本武道館でも通常営業だった、

暖色の光で照らされるステージにゆっくりと登場し、ゆっくりと演奏の準備をする、カネコアヤノとバンドメンバー。

 

まるで自身が立っている場所が日本武道館だということを、全く意識していないような表情と佇まいだ。それはライブハウスで演奏をする時と変わらない姿である。

 

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『カネコアヤノ日本武道館ワンマンショー2021』。と名付けられた、日本武道館で行われた、彼女にとって過去最大規模のワンマンライブ。だからといって演出も演奏も特別なものはなかった。規模が大きいだけで、やっていることは何もかもがいつも通りだ。

 

武道館に対する高揚感や緊張はあったのかもしれないが、いつも通りに目の前の聴き手に対して、魂を込めた歌と演奏で心を震わせることだけを考えているように見える。

 

「よろしくねー。ありがとう!」とゆるく“ごあいさつ”してから演奏した1曲目の『グレープフルーツ』の時点で、既にいつも通りに落ち着いた様子で演奏していた。

 

ミドルテンポの演奏と真っ直ぐ伸びる歌声で、じわりとオーディエンスを音楽に引き込む。

 

『孤独と祈り』『栄えた街の』を続けて演奏した時には、完全にカネコアヤノのライブの空気が形成されていた。普段のライブハウスやホールと変わらない、音楽で心の距離を縮めるような空間になっている。

 

演出も最小限。照明は暖色のものが1色だけで、派手な色はない。幾つもステージ上から吊るされた豆電球が星のように輝く以外は、ステージを装飾するものはない。

 

しかし会場に集まった7000人のファンも、いつも通りのカネコアヤノを求めているはずだ。いつも通りにやるから最高だと信じているはずだ。

 

1曲終わる事に長くて大きな拍手が鳴る都度に、そんな気持ちが客席から伝わってくる。

 

淡々と歌と演奏を続けていくライブではある。しかしステージに立つ4人の集中力と熱量が凄まじい。だから全ての曲に全力で魂を込めているのだと実感する。

 

深呼吸をしてから歌い始めた『セゾン』から、熱量が倍増したと感じる。カネコアヤノの熱量に比例して、バンドの演奏も激しくなっていく。

 

『ごあいさつ』ではだんだんと叫ぶような歌声へとと変化し、バンドの演奏は力強さが増す。音源では感じられない生々しさと爆発力だ。

 

カネコアヤノの感情の向かう方向によって、音の聴こえ方も感じ方も変化するのだ。だから『手紙』では音源以上に繊細な表現で披露されたりもする。感情の揺れ動きにより音も揺れ動くことが、彼女のライブの魅力の1つだ。

 

そんなライブだからこそ、音源とは違うライブだけのアレンジになることもある。

 

『朝になって夢からさめて』はBPMが音源よりも遅くなり、じわりと心に浸透していくアレンジになっていた。対して『序章』ではバンドによう轟音が加えられていたりと、感情の移り変わりを演奏で表現する。

 

音源では弾き語りの『祝日』は、バンドによる演奏で届けられた。これもライブだけのアレンジである。

 

カネコアヤノはソロのシンガーソングライターではあるが、彼女を支えるバンドメンバーは2018年以降変わっていない。活動初期から支えているメンバーもいる。

 

武道館アーティストになったのは、彼女1人の力だけではなく、このバンドメンバーの演奏や支えも重要だったのだろう。

 

カネコアヤノとギターの林宏敏が向き合って演奏をする姿や、ベースの本村拓磨とドラムのBobが目を合わせてリズムをキープする姿を観ていたら、そんなことを思ってしまう。

 

名義こそカネコアヤノのソロではあるが、サポートで演奏ひているのはなく、運命共同体のバンドに感じる。

 

自分が特に印象的に感じたのは『退屈な日々にさようならを』だ。

 

この曲は活動初期から存在している楽曲で、まだ小さなライブハウスすら埋めることができなかった頃から、よく演奏されていた。

 

バンドで披露したのは、かなり久々なはずだ。自分がライブでこの曲を聴いたのは、2016年にタワーレコード新宿店で行われたEP『さよーならあなた』のリリースイベント以来である。

 

しかし今のカネコアヤノが歌うと、武道館の規模が似合う壮大なロックバラードに感じる。音源とは違うフレーズで長尺になった、林の弾くギターソロも素晴らしかった。

 

小さなライブハウスや、タワレコのイベントスペースでは収まらないほどの迫力ある音だ。新曲を作るだけでなく、過去の曲も進化させている。

 

楽曲の魅力を引き立てるために、演出も少しずつ変化していく。

 

例えば『車窓より』では夜汽車が走っている様子をイメージさせるような、窓の形をした照明が会場をくるりと回り続け、楽曲の世界観を表現していた。

 

特に演出にグッときたのは『抱擁』だ。

 

ステージ上の豆電球が星のように美しく光り、武道館の天井に星のような灯りが無数に散らばっていた。

 

 

〈星が降りてくる夜の話〉という歌詞から始まる楽曲の世界観を、最小限の演出によって最大限に魅力を引き出していた。これは天井が高く広い武道館だからこそ、美しく見える演出だ。

 

穏やかな余韻が残る楽曲が続いたが、ここから先はそんな空気を、ロックンロールな演奏でぶち壊していく。

 

カネコアヤノが歪んだエレキギターを掻き鳴らしてから、『カウボーイ』を歌い始めると、明らかに会場の空気が変わった。

 

音を使って殴りかかっきたと感じるほどに、歌と演奏が荒々しく激しくなったからだ。

 

しかし拳で殴られるのとは違い、その衝撃は痛みではなく興奮を与えてくれる。演奏後の拍手が他の曲よりも大きかったことからも、客席の熱気が急上昇したことがわかる。

 

その熱気を保ったまま演奏された『さよーならあなた』も、素晴らしかった。

 

特にアウトロのセッションが印象深い。林がステージ前方まで出てきて、ギターソロを弾き倒す。他の3人は円を作るように向かい合って、息を合わせるように強靭なグルーヴを生み出す。

 

やはりこの4人は、唯一無二のバンドなのだ。「カネコアヤノ」という名前のバンドだと思うほどに、唯一無二の組み合わせなのだ。

 

この曲がハイライトかと思うほどの熱量だったが、そこから曲間なしで『爛漫』『愛のままを』と続け、熱量を維持したまま最後まで駆け抜ける。

 

最初の挨拶以外はMCなし。ひたすらに演奏を続けたライブ本編。言葉ではなく音楽で伝える内容は、いつも通りすぎるぐらいに、いつもと変わらないカネコアヤノのライブだった。武道館でもカネコアヤノの音楽はブレなかった。

 

大きな舞台に立つために変わろうとせず、自らの表現を信じて磨き続けた。だからこそ着実にレベルアップし、多くの人を魅了し武道館アーティストになれたのだろう。

 

アンコールで唯一行われたMCも、やはりブレない。

 

どれだけキレッキレなライブをやっても、いつでもどこでも喋り方はヘニョヘニョしている。それは武道館でも変わらなかった。

 

うひひwww 来てくださって嬉しいwww ありがとうございますwwwうひっw

 

今日のライブを作品として残そうと思っています。そのチラシを渡すのでもらってくださいw

 

マネージャーが昨日頑張って、7000枚刷ったからwww もらってください。ひひw

 

緊張しているのか照れているのか、なぜか笑いながら話すカネコアヤノ。やはりいつも通りにヘニョヘニョしている。

 

今後の予定ではなく、マネージャーがチラシを刷ったから受け取るようにと、ファンに真っ先にアナウンスしていた。マネージャーも彼女にとって、ここまで一緒に歩んできた仲間なのだろう。

 

うひっwww いや、ちゃんと話そう!

 

昨日武道館でライブをやる夢を見たんです。私が2人いて、そのうちの1人がステージでライブをやっていて、もう1人の私はライブを見ながら他の仕事をしていたの。

 

他の仕事をしている私の方に自分の意思があって、もう1人の方の私を見ていたら、そいつが本編を全部歌っちゃって、意思がある方の私がアンコールだけ歌うっていう夢をみました。

 

でも今日は楽しかったwww

 

やべ、これってテレビに映ってるんだよね?

 

シュールな夢の話をして、ファンを混乱させシュールな雰囲気にしたカネコアヤノ。音楽だけでなくMCでも自分の空気にしてしまう。

 

今日までハッピーなことだけでなく、良くないこともあったと思います。でも今日こうしてライブに来て、明日もこうして生きていくことが、正しいと思います。みんなは正しいです!

 

だから、美味しいご飯を食べて、暖かい格好をして、ぐっすり寝て、また会いましょう。みんなは正しいんですから。

 

ヘニョヘニョしていても、伝えたい想いはしっかりと伝える。それもいつも通りのカネコアヤノである。

 

アンコール1曲目は『光の方へ』。

 

キレのあるパフォーマンスを続けた本編とは違い、穏やかな表情で歌っているように見えた。バンドメンバーも同様だ。リラックスした様子で、優しく温かな演奏をしている。

 

〈だから光の方 光の方へ できるだけ 光の方へ〉と、大きな音を鳴らしながら、大きな声で歌っている。その姿に希望を感じる。音楽が心を救ってくれるのだと実感する。

 

ラストは『アーケード』。

 

bobのカウントから演が始まると同時に、全ての客席の電気が点灯した。示し合わせたわけでもないのに、それを合図に観客全員が立ち上がる。

 

腕を上げたり手拍子したりと、全員が自由に自身が思うように楽しんでいる。統一感のない一体感が、武道館の客席に生まれる。

 

それをいつもと変わらない大きな声で歌い、客席を見渡すカネコアヤノ。最後までカネコアヤノはいつも通りだった。

 

ありがとーー!うひゃっwww また会いましょう!ひひwww ありがとう!大好きー!

 

最後の“ごあいさつ”も、やはりヘニョヘニョしていた。いつも通りだ。

 

カネコアヤノは武道館に集まったファンに対して、「みんなは正しいです」と伝えていた。

 

それと同じように、いつも通りに変わらないライブ武道館で行ったカネコアヤノとバンドメンバーも、正しかった。

 

正しいから武道館に集まった7000人を感動させたし、来ることができなかったファンも音楽で日々救っているのだ。

 

ライブ中に多くを言葉で語らないアーティストではある。しかし少ない言葉と沢山の音楽で、聴き手を肯定し救ってくれる。

 

これからもカネコアヤノは正しくあり続けるだろうし、できるだけ光の方へ連れて行ってくれるだろう。

 

2021年11月29日(月) カネコアヤノ 日本武道館ワンマンショー 2021 セットリスト

01.グレープフルーツ

02.孤独と祈り

03.栄えた街の

04.セゾン

05.ごあいさつ

06.手紙

07.朝になって夢からさめて

08.序章

09.花ひらくまで

10.明け方

11.祝日

12.閃は彼方

13.燦々

14.退屈な日々にさようならを

15.車窓より

16.僕ら花束みたいに寄り添って

17.抱擁

18.カウボーイ

19.さよーならあなた

20.爛漫

21.愛のままを

 

EN1.光の方へ

EN2.アーケード

 

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