2022-01-30 【ライブレポ・セットリスト】カネコアヤノ × eastern youth『THE FINAL DAYS OF STUDIO COAST』 at 新木場STUDIO COAST 2022.1.17(月) カネコアヤノ eastern youth ライブのレポート 2021年1月17日。この日は自分にとって、忘れられない特別な日になった。 新木場STUDIO COASTへ行く、最後の日だったからだ。 この会場は1月末に閉鎖されてしまう。最後の1ヶ月はそれをカウントダウンするような、特別なライブイベントが連日行われていた。 その中の1つとして行われたのが、自分が参加したeastern youthとカネコアヤノの対バンライブである。 どちらも好きなアーティストだ。特にカネコアヤノは、何度もワンマンライブへ行っている。そんな2組の対バンを観れることは光栄だ。 この場所と悔いなくお別れできるような、最高のライブをeastern youthとカネコアヤノがやってくれるだろう。 そんな期待しながら、会場へ足を運んだ。新木場駅で降りることも、会場へ向かうための橋を歩くことも、これで最後かもしれないと思いながら、会場へと足を進めた。 eastern youth カネコアヤノ eastern youth 先攻はeastern youth。 登場するとすぐに、ギターボーカルの吉野寿がベースの森岡ゆかと向き合いながら、美しい音色でギターをアルペジオで弾き始めた。ゆっくりと丁寧にフロアの空気を確かめるようだ。 フロアはカネコアヤノのファンが多かったと思う。eastern youthを知らないお客さんも少なくはないような空気だった。それでも少しずつフロアを自分たちの引き込めているのがわかる空気でもある。 吉野が「あ゛ーー!」と叫び、3人の音が合わさる。その瞬間、耳を劈くような轟音が会場に響き『夜明けの歌』が始まった。 その音は耳を塞ぎたくなるほどの爆音だが、なぜか心地よい。歌と演奏に魂が込められているからだろうか。〈涙よ止まれよ 今直ぐもう朝だから〉と叫ぶ姿には、身体だけでなく心も震えてしまう。これがeastern youthの魅力なのだろう。 イントロのベースに合わせて吉野がタコのような動きをしていた『街の底』でも、歌い始めれば〈闘いは続いていく〉と叫ぶ姿に心を掴まれてしまう。変なおじさんではなく、ロックなおじさんだとわかる。 優しいギターのアルペジオから爆音へと繋がる『今日も続いてゆく』も、痺れるほどにカッコいい。 30年以上キャリアがあるロックバンドの生き様を見せつけるような演奏だ。 フロアにはそんな姿を傍観して見ている人が多かったが、それは伝わっていないのではなく、圧倒的すぎて衝撃を受けているのだろう。だからか演奏後の拍手は、めちゃくちゃ大きいし長い。 新木場STUDIO COASTは大きな会場すぎて、我々とはあまりご縁がない会場でした。それでも何度か立たせてもらえました。今日も呼んでもらえて嬉しいです。カネコアヤノさん、ありがとうございます。 本当は我々は、こんな大きなところに立たせてもらえる身分じゃないんですよね......。 なーんつって(笑) どこでやっても、同じ(笑) このMCに痺れた。 ただ感謝を伝えるのではなく、ロックバンドとして捻くれつつも、ロックバンドとしての信念を曲げずに想いを伝えている。このMCでアウェイの空気を一瞬で塗り替え、ホームにしたと感じる。 繊細な口笛の後に爆音が重なり『夏の日の午後』が始まった時、明らかに前半と空気が変わった。 腕をあげるお客さんや身体を揺らすお客さんが増えた。ステージとフロアの心の距離が近づいた。ミドルテンポのロックナンバーである『青すぎる空』を真剣に聴くフロアも、それを証明しているように感じた。 演奏の余韻に浸るフロアなど気にせずに、ニヤニヤと笑いながらアンプの上に置いてあった手の模型の指を動かし、模型の中指を立てさせた吉野。 そして再び爆音を鳴らし『浮雲』を衝動的に演奏。パフォーマンスも音色も尖っていて最高だ。 そこからの森田童子のカバーである『たとえば僕が死んだら』を続けるセットリストも良い。初めて聞いた人はカバーだとは気づかないほどに、eastern youthの強い個性を感じる。バンドの様々な一面を、対バンの短い曲数で伝えている。 人生は一回しかない。人生は選べない。自分以外の人生を生きることはできない。 色々な人が好き勝手に色々と言ってきますよ。でも何を言われようと遠慮なんてする必要ねえんだよ。自分しか責任をとれないんだから。 だらしないのだって自分のせいだよ。人のせいにするな。だから俺は好きにやりますよ。 俺なんて50歳すぎて、こんなんだよ(笑) そう言って笑う吉野。しかしフロアは笑わずに真剣に話を聞き、拍手を贈る。このMCで伝えたい意図を、しっかりと汲み取れている。 最後に演奏されたのは『ソンゲントジユウ』。 最後のMCで話した想いやメッセージが、音楽として詰め込まれたような楽曲に思う。eastern youthは”音楽”として最高のロックを鳴らすだけではなく、”メッセージ”としても最高のロックを奏でている。 きっと初めてeastern youthを観たカネコアヤノのファンにも衝撃を与えたはずだろう。終演後の物販にはカネコアヤノのブース以上に、eastern youthのブースにお客さんが集まっていた。それは音楽が伝わった証拠だ。 自分も久々にeastern youthを観て、衝撃を受けて鳥肌が立った。次はワンマンライブを観たい。ロックバンドとして完璧な、衝動と衝撃を何度も感じる名演だった。 ■セットリスト 1.夜明けの歌2.街の底3.今日も続いてゆく4.夏の日の午後5.青すぎる空6.浮き雲7.たとえば僕が死んだら8.ソンゲントジユウ カネコアヤノ この日のカネコアヤノ、バンドメンバーも含めて、ワンマンライブとは空気が違う。先日の日本武道館公演とも、違うオーラを4人がまとっている。 ここ最近は落ち着いた様子で、ゆったりと演奏を初めて少しずつ熱量を増やしていくステージングが多かった。しかしこの日は最初からフルスロットルで、感情を爆発させている。 ドラムのBobがカウントをして爆音の演奏が鳴らされると、ベースの木村拓摩が「ぎゃやあああ¢£%#g♪♡:@」と叫んだ。こんなハイテンションなバンドメンバーを最初から観るのは久々だ。 1曲目は『アーケード』。カネコアヤノも序盤からシャウトして、かなり飛ばしている。目つきは睨みつけるようで鋭い。かなり感情的なパフォーマンスになっている。 新木場STUDIO COASTで最後のライブだから全力なのか、それともeastern youthが凄まじい演奏をしたから気合いが入ったのか。とにかく、この日のカネコアヤノバンドはとんでもない熱量である。 続く『カウボーイ』でも、衝動的に演奏するバンドと叫ぶように歌うカネコアヤノ。 しかし気合いが入りすぎたのだろうか。激しく動いたカネコアヤノが、ギターのシールドに足を引っ掛けてズッコケた。 尻もちをついて爆笑するカネコアヤノ。物凄い熱量だったので緊張で張り詰めた空気になっていたが、ズッコケたことで空気が和らいだ。ステージとフロアの心が近づいた気がした。 だからか『ごあいさつ』と『セゾン』では、序盤と違う空気感になっていた。 圧倒させる熱量というよりも、感動させる熱量に感じた。衝撃で心が震えるのではなく、音楽の魅力が心に沁みるような演奏である。 感情をぶつけるような序盤だったが、中盤では繊細に感情を表現する楽曲が続いた。 林宏敏がリバーブのかかったギターの音を、ゆっくりとアルペジオで奏でると、フロアはその音色に吸い込まれるように集中した。 そして温かくて優しい声色でカネコアヤノが『抱擁』を歌う。序盤は火傷するほどの熱さだった演奏なのに、この曲では心地よくて温かい演奏へと変化した。 〈わかってたまるか〉というサビの歌詞が印象的な『爛漫』もそうだ。力強さの中に優しさが込められている。 力強いからこそ優しさが沁みる。彼女はそんな音楽をやっている。これが自分が思うカネコアヤノの大きな魅力の1つだ。 『閃は彼方』では木村がウッドベースとハーモニカを演奏していた。その演奏は、やはり心地よくて温かい。 気づけば怖いくらい強くなったね今は意味がない会って話したい 君と カネコアヤノ / 閃は彼方 しかしこの曲も込められたメッセージは力強い。そんなメッセージを優しく届ける。優しいのに頼もしい。だから彼女の音楽に救われる。これがカネコアヤノに多くの人が惹かれる理由の1つだろう。 そんな優しくて頼もしい音楽は、まだまだ続く。 カネコアヤノと林が向き合って、息を合わせるように一緒にギターを奏でてから始まった『祝日』も、そのような音楽だ。 音源では弾き語りで録音されている楽曲だが、今回披露されたのはライブ限定のバンドアレンジ。4人の繊細な演奏が胸に沁みる。 そんな余韻に浸り、長く大きな拍手を贈るフロア。会場を見渡し確認するカネコアヤノ。そして『光の方へ』を穏やかな表情で歌い始めた。演奏も歌も前半と同じ熱量で披露している。しかし目つきは序盤と違い優しい。 コロナ禍になってから〈だから光の方 光の方へ〉という歌詞が、さらに特別な意味を持ってしまった気がする。それによってさらに多くの人を救う歌になった気がする。 それをカネコアヤノもバンドも理解しているのだろう。この曲が最近のライブで、ほぼ毎回演奏されているのは、今の時代に特に必要な楽曲だと思っているからかもしれない。 ラストは『愛のままに』。 林の歪んだギターの演奏を合図に4人の音が重なり、オルタナティブな演奏が繰り広げられる。アウトロでシャウトするカネコアヤノの姿にも痺れる。 4人が演奏する姿を見ていると、シンガーソングライターとサポートメンバーの関係性ではなく、実際はこの4人で「バンド」なのだと感じる。それぐらいの一体感と唯一無二の存在感がある演奏だった。 MCを一切せずにライブ本編を終えた4人。挨拶すら行わなかった。音楽だけを奏でて、音楽だけで伝えるライブだった。 ありがとうございます!すみません!すみません!じゃあ、やっちゃいます!すみません! しかしアンコールでは少しだけMCをしたカネコアヤノ。なぜか何度も謝罪をしていた。笑いながら腰を曲げて謝っていた。何か悪いことをしたのだろうか。なんかよくわからないけど、反省して欲しい。 アンコールは『さよーならあなた』。 この場に集まったお客さんと、閉鎖される新木場STUDIO COASTに、音楽でお別れを告げるような選曲だ。 アウトロでは音源よりもずっと長いセッションがあった。ずっと続いて欲しいと思うほどに、素晴らしい演奏だった。ライブを終えることを惜しんでいるようにも聴こえた。 ありがとうございまっした~ 最高のライブをやり切ると、笑顔でゆるい挨拶をして去ったカネコアヤノ。新木場STUDIO COASTの閉鎖についても、対バン相手のeastern youthについても、一切言及しなかった。 しかしそれは会場や対バン相手への敬意があるからこそだろう。いつもと変わらない最高のライブをやることこそ、彼女なりのリスペクトの表現方法なのだう。 STUDIO COASTのステージに立てたこと、ただただ誇りに思います。ありがとうございました。この場所のこと、空気感、ずっと忘れられないです。 さよならスタジオコースト ありがとうスタジオコースト - 音楽ナタリー 音楽ナタリーの記事に、カネコアヤノは新木場STUDIO COASTへの想いを綴っていた。やはり彼女にとって、大切な会場なのだ。あえてステージ上では言及しなかったのだろう。 「どこでやっても、同じ」と言い放って、自らのロックを掻き鳴らしたeastern youth。閉鎖について一切言及せずに、音楽だけを奏で続けたカネコアヤノ。 これは両者にとって、新木場STUDIO COASTへの最大限の感謝を伝えるための、ミュージシャンだからこその表現方法だったと思う。 ステージ上では最高の音楽だけを鳴らすことに徹することこそ、ライブハウスへの敬意の表し方なのだ。 自分が新木場STUDIO COASTで初めて観たライブは、SUPERCARの解散ライブだった。それは切なくて悲しい思い出になっている。 しかし最後に観たライブでは、自身の表現を突き詰めた最高の2組のらいだった。きっと最後の思い出は、最高の思い出として残るだろう。 この場所で最後に観るライブが、この2組の対バンで、心の底から良かったと思う。 ■セットリスト 01.アーケード02.カーボウイ03.ごあいさつ04.セゾン05.抱擁06.爛漫07.エメラルド08.閃きは彼方09.祝日10.光の方へ11.愛のままをEN1.さよーならあなた