2022-05-15 【ライブレポ・セットリスト】カネコアヤノ 単独演奏会 2022春 at 中野サンプラザ 2022年5月13日(金) カネコアヤノ ライブのレポート ステージの真ん中にはアコースティックギターとエレキギター、譜面台が椅子を囲むように置かれている。後方には鮮やかな色の美しいカーテンがなびいているが、それ以外に特別なステージセットはない。 中野サンプラザで行われた『カネコアヤノ 単独演奏会 2022春ツアー』の千秋楽。 今回は弾き語りということもあり、ステージセットはバンドセット以上にシンプルに見える。約2000人が相手だとしても、たった1人だけで鳴らす音楽で魅了できるという自信からだろうか。 開演時間を10分ほどすぎて、白いワンピースの衣装をまとって登場したカネコアヤノ。客席をチラッと見てから椅子に座り真剣な表情でチューニングを始めた。その様子は自身の音楽に入り込み集中するための儀式に見えてくる。 深呼吸をしてから演奏された1曲目は『どこかちょっと』。弾き語りアルバム『群れたち』に収録されていたナンバーだ。弾き語りライブだからこその披露かもしれない。 丁寧なアルペジオでアコースティックギターを弾き、囁くような繊細な歌を響かせる。そのため会場に響く音量は小さい。観客は聴き逃すまいと自然に演奏に集中する。観客はカネコアヤノの音楽の世界に引き込まれていく。 シンプルなステージセットだと思ってはいたが、質素なステージセットではないと、この曲の演出を観て理解した。徹底的にこだわり抜かれ、楽曲の魅力を最大限に引き出す演出が、最初から最後までなされていた。 この曲はステージ後ろのカーテンの向こうに窓の影が現れ、オレンジの光が窓とカネコアヤノを照らす演出だった。それは西日が差した部屋のように見える。 この演出によって、まるでカネコアヤノの部屋で彼女の弾き語りを聴いているような気持ちになる。大きな会場なのに、彼女の存在も音楽も半径2メートル以内の近いものに感じる。だからダイレクトに胸に刺さるのだ。 そんな繊細な演奏と演出を序盤は続けるのかと思いきや、2曲目の『わたしたちへ』で早くも演奏スタイルが変わる。激しくギターを掻き鳴らし、叫ぶように歌い始めた。その熱量の凄さにも心を掴まれてしまう。 かと思えば優しい音色の演奏から少しずつ激しくなる演奏展開で『週明け』を披露したり、音源とは少し違うギターのカッティングで『明け方』を演奏したり、優しいアルペジオに合わせて『エメラルド』を歌ったりする。 シンプルな弾き語りといえども、様々なスタイルで演奏している。だから彼女の弾き語りは心地良さだけでなく、刺激も感じるのだ。 演奏だけでなく演出も胸を打つものばかりだ。 『窓辺』では床に置かれた縦型の照明がグルグルと回り、ブラインドに太陽光が当たった時と同じような影をステージ全体に作り出していた。〈ブラインドの前でただ座るだけ〉という歌詞に合わせたのだろう。粋な演出もである。 『愛のままを』と『抱擁』の演出は美しかった。カネコアヤノを囲むように設置されたいくつもの豆電球が点灯している。その中心で光に包まれながら歌い演奏する姿は、オーラをまとっているかのようで幻想的だ。 それとは真逆といえる演出だった『閃は彼方』も印象的だった。ステージの照明は落とされ、譜面台とギターを弾く手元の豆電球だけが付く中で演奏していた。当然ながらカネコアヤノの顔は客席から一切見えない。顔どころか身体も見えづらいほどだ。 ライブは視覚の情報も重要である。音楽を聴くことが目的だが、五感を使って楽しめることがライブの醍醐味だ。音楽を〝聴く〟というよりも〝体感する〟ことこそがライブかもしれない。 だから視覚が奪われた状態のライブは普通なら有り得ない。ライブだからこその楽しさを奪う可能性もある。しかしカネコアヤノの生の歌と演奏を真っ暗な空間で聴くと、不思議と通常のライブよりも彼女の存在を近く感じる。 いつも以上に音を集中して聴けるからだろうか。音楽の魅力をダイレクトに感じるから、より引き込まれてしまうの。今回のライブで個人的に最も感動したのは、この曲の演奏と演出だった。 ここでアコースティックギターからエレキギターへと持ち替えるカネコアヤノ。そしてエレキギターを指弾きの優しいアルペジオで演奏し、『ゆくえ』『追憶』を歌った。 アコースティックギターとエレキギターは、反響音が違う。エレキの方が長く残響が残る。その音がカネコアヤノの楽曲で鳴らされると、切なくて胸を締め付けるような余韻を残す。特にこの2曲は切なさを感じるメロディや歌詞なので、この反響音が楽曲の魅力を最大限に引き出していた。 エレキギターにはもう1つ特徴がある。それは耳に刺さるような刺激的な音を出せることだ。弾き方やアレンジを変えることで、アコースティックギターにはない尖った音を出せる。 サプライズ的に突如披露された未発表の新曲では、エレキギターを掻き鳴らしながら歌っていた。〈良いんだよ わからないまま 曖昧な愛〉〈怖い夢などわすれて 鈴の鳴る方へ〉というフレーズがある楽曲で、その歌詞は力強くて背中を押してくれているように感じる。 この歌詞をエレキギターに合わせて歌われると、力強さが引き立つ。カネコアヤノは前向きな歌を簡単には歌わない。その代わり寄り添うような言葉で背中を押してくれる。それを新曲でも実感した。 再びアコースティックギターに持ち変えて深呼吸してから、アコギを掻き鳴らすように演奏し『爛漫』を歌った。アコギは掻き鳴らしたとしたも、どことなく音色に温かみがある。 それがアコギの特徴であり、力強さの中に温かさがある彼女の音楽の特徴でもある。演奏中には木漏れ日をイメーシしたような白い光がステージ全体を照らしていた。この照明演出も美しくて最高だ。 歌声はどんどん熱気を帯びていく。『朝になって夢からさめて』は繊細な演奏ながらも歌声は力強かったし、『ごあいさつ』『ジェットコースター』『栄えた街の』は時折叫ぶように歌っていた。 熱量は物凄いことになったとしても、演奏が雑になることはない。集中して演奏する姿は魂を込めているように見えたし、丁寧さの中にどれほどの熱を込められるかを意識しているように見えた。 『グレープフルーツ』は、まさにそのような歌と演奏だった。繊細な表現ではあるが、ギターの音は大きく、振り絞った叫びのような歌声を出している。この日の楽曲の中で最も熱量を込めているように感じた。 後半の照明演出は、前半や中盤とは明らかに違う。それまではオレンジの照明や薄暗い照明が中心だったが、光の色は白が増えてステージを明るく照らすようになった。まるで楽曲を明るく彩って、観客の心まで明るく照らそうとしているようだ。 最後に『燦々』が演奏された時は、特に明るい光がステージを照らしていた。その光は客席前方までも届いていた。 そんな光に包まれながら力強く歌っている姿に圧倒されてしまう。〈しっかりとした気持ちでいたい〉というサビの言葉が真っ直ぐ胸に突き刺さった。観客が集中して聴いてることや感動していることが、空気感から伝わってくる。 演奏を終えたカネコアヤノは、緊張の糸が切れたかのように笑顔を見せた。この日ずっと真剣な表情をしていた。最後にだけ見せた表情だ。 笑そして「ありがとうございました!すごく、とっても、本当に、めちゃめちゃくちゃ、良いツアーでした!」と笑顔で話しながら、手を合わせて客席を拝んでいた。観客を神仏だと思っているのだろうか。 そんなカネコアヤノに対し、神仏のように穏やかな表情を浮かべ賞賛の拍手を贈る観客。会場が温かな空気で包まれていた。 今回のライブは、日が暮れて夜になり、そこから夜明けを迎え朝になる様子を照明演出で表現しているようだった。 それをカネコアヤノの部屋で一緒に同じ時間を共有し、彼女が自由に音楽を奏でる様子を見守っているよう気持ちにさせる構成に感じた。 だからカネコアヤノの存在や音楽を身近に感じた。弾き語りという素朴な演奏も相まって、より歌がダイレクトに心に響いた。 今回は「カネコアヤノの弾き語りをどうすれば最も魅力的に聴かせられるか?」ということを、徹底的にこだわったツアーだったのだろう。スタッフも含めてしっかりとした気持ちでいたからこそ、最高のライブを作れたのかもしれない。 ■カネコアヤノ 単独演奏会 2022春 at 中野サンプラザ 2022年5月13日(金) セットリスト 1.どこかちょっと 2.わたしたちへ 3.週明け 4.明け方 5.エメラルド 6.窓辺 7.愛のままを 8.抱擁 9.閃は彼方 10.ゆくえ 11.追憶 12.新曲 13.爛漫 14.朝になって夢からさめて 15.ごあいさつ 16.ジェットコースター 17.栄えた街の 18.グレープフルーツ 19.燦々