2022-05-16 乃木坂46のライブでルールを破りコールをしたり歓声をあげた観客がいたことについて 乃木坂46 コラム・エッセイ 一生忘れることができないであろう、物凄いライブを観た。日産スタジアムで二日間開催された『乃木坂46 10th YEAR BIRTHDAY LIVE』である。 グループのデビュー10周年を記念したライブで、乃木坂46の歴史を振り返るような内容で、自分はその2日目に参加した。 約4時間で41曲が披露されたボリューミーなライブで、代表曲や人気曲やグループにとって重要な楽曲は全てセットリストに含まれているような集大成的内容である。 しかも西野七瀬に白石麻衣、生田絵梨花と卒業した歴代の人気メンバーが本編で1曲ずつゲスト出演した。さらにアンコールでは3人に加えて高山一実と松村沙友理までも出てきて現役メンバーとパフォーマンスしたりと、過去最高といえるほど豪華な演出まであった。 素晴らしいライブだったのだが、苦言を言いたい部分がいくつかある。それはメンバーやライブ内容についてではない。観客に対してだ。 コロナ禍の現在はライブを開催するにあたって、都道府県や国が定めた感染症対策に基づく厳しいガイドラインがある。つまり「自治体が定めたルールを守ること」を条件に許可を得てライブ開催が実現している状態だ。ルールを破ることは、嘘をついて約束を破ることと同じだ。約束を破れば信頼を失う。 ルールの中には観客の協力がなければ不可能なものが多い。これまでの多くのライブで、観客も協力してルールを守ってきた。ライブエンタメをアーティストや関係者と一緒に守ってきた。だからこそ少しずつ信頼を得て、今はライブが当然のように全国で行われるようになったのだろう。ルールを守ってきた過去がなければ、コロナ禍に7万人以上集客してライブを行うなんて不可能だった。 しかし「当たり前にライブが行われる状況」に観客は慣れてしまったのかもしれない。様々なライブで、ルールを破る観客が目立ち始めてきた。曲中に歓声をあげる人がいたり、規制退場を守らなかったり、などなど。 約7万人という物凄い人数が集まれば、ルールを守れない人や守らない人、自分勝手で他人のことを考えない人が、どうしても一定数出てしまう。全体の1%がヤバい客だったとしても、7万人も集客すれば700人はヤバい輩が来ていたことになる。これは乃木坂46以外のライブでも同様だろう。 その1%は悪目立ちする。大多数がルールを守る中で真逆の行動をするのだから、目立つのは当然だ。だからルールを守っていた人でも「ルールを破っても大丈夫じゃん」とヤバい輩を見て思い、自身に対する甘い考えを抑えられずにルールを破る人は増えてしまうのだろう。 自分の体感ではあるが最初は1%しかルールを破る人はいなかったものの、最終的に全体の5%以上はルールを破っていたように見えた。それだけ多くの人が自身に対する甘さを抑えられなかったのだろう。 会場に行くまでの道中でもルールを破る人はいた。警備員の「赤だから渡らないでください」とう注意を振り切ってまでも信号無視して交差点を渡る人がいた。これは交通違反だ。ライブのルールというよりも、社会のルールから逸脱している。 終演後の規制退場もそうだ。自分の座席ブロックが呼ばれるまで着席して待つようにアナウンスがされている中でも、無視して出口に向かう輩がたくさんいた。そのせいで出口が詰まってしまい、ルールを守って規制退場の順番通りに出ようとした人が退場するまで、必要以上に時間がかかっていた。身勝手な違反者のせいで、結果的に全体の退場時間が遅くなってしまう。真面目な人が損をする状況を許すべきではない。 様々なルール違反が目立っていたが、その中でも特にSNSを中心に問題視されているのは「ライブ中の声出しの有無」についてだろう。この日のライブは何度か大歓声と言えるほどの大声が客席から聴こえたし、コロナ禍以前と同じように大声でコールをしたりメンバーの名前を呼ぶ輩もいた。 もちろんその違反は一部の客だ。全体の5%程度しかルール違反はしていなかったと思う。しかし7万人集客した会場で700人が大声を出したとしたら、それは大歓声になってしまう。 それに対してSNSでは「メンバーが煽ったから」「演出やセトリが盛り上げようとしていた」などと言い訳している輩がいた。他人のせいにするとは最低だ。しかもアイドルのせいにするなんて、ファンの風上にも置けない。本当に好きなアイドルのライブに来たファンなのかと疑ってしまう。それはアイドルを応援しているのではなく、アイドルを利用して自分が騒ぐ理由を作っているだけだ。 そもそも「声を出せ!」と煽ったメンバーはいなかったし、齋藤飛鳥のように「声をだすんじゃない!腕を上げろ!」などと注意しつつ盛り上げたメンバーもいる。自分の都合いいように解釈して他人のせいにして言い訳するな。せめて自己責任の言い訳をしろ。 運営のせいにしている人もいた。「演出内容によっては思わず歓声をあげてしまうかもしれないので、マスクの着用を徹底してください」と開演前にアナウンスされていたからだ。それを「声を出して良い」と勘違いした、もしくは自分の都合がいいように解釈した輩がいるのだろう。しかし「思わず出た声以外の歓声とコールは禁止です」ともアナウンスしていた。 このアナウンスは観客への配慮の気持ちからの言葉に思う。真面目にルールを守っている観客が興奮してうっかり声を出してしまった時に、「ルールを破ってしまった」と罪悪感を持たせないための配慮なのだろう。制限がある中でもできる限り楽しんでもらいたいし、心の底からの感動を抑えないで欲しいと、運営は思っているのだろう。 正直なところ、自分も卒業生と現役メンバーのパフォーマンスには「おお!」と声が漏れてしまった。与田祐希がトロッコですぐ前を通った時に、たぶんきっと確実に絶対的に自分に向けて手を振ってレスをしてくれたときは「与田ちゃあああああんぐふぉおうおうhuwhjdb」と声を出してしまった。その都度に「やばい、声が出ちゃったよ、与田ちゃん....」と思い反省した。 しかしルールを守ろうと思いつつもうっかり破ってしまい反省することと、自ら破っても気にしないこととは、結果は同じでも内容は全く違う。「この曲のここでコールをするぞ」「推しメンが来たら名前を呼ぶぞ」とあらかじめ考えながら声を出すことと、うっかり漏れてしまう声は全く違う。 一部の輩のせいで運営の考慮やファンへの想いを、感謝ではなく仇で返してしまった。結果的にこのアナウンスの内容は参加者以外にも切り取られた形で伝わり、一部で批判されているようだ。 とはいえ「いつまでこのルールを設け続けるのか」という問題はある。 マスクをしつつも仕事やプライベートで普通に他者と会う世の中に戻ってきた。飲食店ではマスクを着用した上で会話をしている人がたくさんいる。今は旅行を咎められることも少ない。屋外で2メートル以上の距離を保てるならマスクを外すことを推奨すると、松野官房長官は会見で伝えていた。 そう考えるとライブ会場でマスクを着用しても声を出してはならないというルールは、今では古い情報に基づいたルールかもしれない。ルール変更について議論する余地は十分にある。 ライブは客同士が向き合うことはないのだから、飲食店での会食や対面での会議より安全かもしれない。ましてや日産スタジアムのような野外会場なら、換気を気にする必要もない。 しかしそれがルールを破っていい理由になるはずがない。定められたルールを個人の価値観で破ることは身勝手すぎる。 コロナ禍になったばかりの頃、ライブ会場でクラスタが発生した。連日ワイドショーで報道され、ライブ会場は悪者になり、ライブを開催することは悪とされた。世間がライブに対して持つイメージは、その頃から変わっていないのだ。ライブの規模も演者の方向性も客層も関係なく、ライブならば同じなのだ。だからかライブなどのエンタメ興行に対する感染症対策のルールは、他よりも厳しく定められているのかもしれない。 しかし感染症対策を徹底したライブエンタメ業界と、ルールを遵守し続けた観客の力によって、少しずつ信頼を取り戻し、少しずつライブ開催におけるルールも緩くなってきた。 キャパの50%以下の集客数までしか許されていなかったが、今ではフルキャパの開催ができるようになった。少しずつ前に進んでいる。あともう少し耐えて、もう少しだけ信用を積み重ねれば、フルキャパで観客も声を出して盛り上がれる未来があるはずだ。そんな重要な局面にルールを破ってしまっては、またコロナ禍直後の状況に戻ってしまう可能性がある。 しかし乃木坂運営に落ち度が全くなかったかというと、そういうわけではない。「演出内容によっては思わず歓声をあげてしまうかもしれないので、マスクの着用を徹底してください」とアナウンスした運営も、自治体が定めたルールを破っているのだ。 日産スタジアムがある神奈川県では、イベント開催について下画像のガイドラインを定めている。(引用:イベントに係る感染防止対策について ) つまり大声と歓声がない場合のみ100%の収容で開催することが認められているのだ。「思わず漏れてしまったもの」だとしても、それが結果的に大声や歓声になってしまうならば、本来はキャパの50%までしか集客してはならない。 乃木坂46はフルキャパで開催していた。開演前のアナウンスは客がルール違反することを許す発言とも受け取れるものになっていた。 それがファンへの配慮や愛が込められた発言だったとしても、ルールは守らなければならないし例外は存在しない。どんな理由があろうとも、ルール内容に疑問があったとしても、確実に守らなければならないのだ。 運営は結果報告資料に感染症対策に不備があった理由を記載し、県に提出するのだろう。もしかしたら罰則を受けるかもしれない。 ライブエンタメ業界は観客も含めて、まだ世の中への信頼を回復している最中なのだ。それを音楽やライブを愛する人たちは自覚するべきだ。 1回ルールを破ったことがきっかけで万が一の事態になり全てが振り出しに戻るよりも、ルールを守って信頼を積み重ねていった方が、結果的にコロナ禍以前と同じ楽しみ方ができる未来は近づくはずだ。「これだけ徹底して対策しているなら大丈夫かもしれない」と自治体や世間に思わせなければならないのだ。 SNSではライブの楽しかった感想だけでなく、ルール違反者がいたことや運営の対応についての議論も多く流れてくる。楽しかった思い出についてだけ語りたい。めちゃくちゃ素晴らしいライブだったのだから。 本当は自分もルール違反について議論などしたくない。与田ちゃんにレスをもらったことを自慢して思い出に浸りたい。 自らルールを破った輩には見せなかったであろう素敵な笑顔で与田ちゃんが手を振ってくれたことを自慢したい。ルールを破った輩、素敵な笑顔を見れなくて残念だったな。ざまあみろ。 アイドルを応援する者ならば、ルール違反するファンを見て悲しそうな顔をするメンバーよりも、ルールを守って楽しんでいるファンを見て笑顔になるメンバーを、やはり見ていたいじゃないか。 ↓乃木坂46の他の記事はこちら↓