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【ライブレポ・セットリスト】乃木坂46『11th YEAR BIRTHDAY LIVE』DAY 1  at 横浜アリーナ 2023年2月22日(水)

1曲目で早くも意表を突かれた。『乃木坂の詩』からライブがスタートしたからだ。

 

この楽曲はグループのテーマソング的なポジションの楽曲であり、ライブの最後に披露されることが多い。1曲目に披露されたことは初めてかもしれない。

 

しかもメンバーは客席の入場口から登場した。メインステージから登場しないことも珍しい。入場口が白い光で照らされて、そこからファンと同じようにペンライトを持ってメンバーが出てきた瞬間、興奮と驚きに満ちた歓声が湧き上がったことが印象的だ。

 

サプライズ的な選曲と演出によって、会場は始まった瞬間からピークに感じるほどの盛り上がりになっている。

 

11回目のバースデイライブを開催できたのも、コロナ禍で一緒に新しいライブの形を作ってくれた、会場のみなさんと配信で見てくれている皆さんのおかげです!でも今回は皆さんの声を久々に聞くことができます!

 

キャプテンの秋元真夏が間奏でファンに向けて笑顔で語りかけると、ステージの照明が落とされた。ステージではメンバーが手に持つペンライトだけが光る。そしてメンバーと観客が一緒に歌う声が会場に響く。

 

ステージの照明が再び点灯すると「皆さんが歌ってください!」という秋元の煽りによって、観客だけの大きな歌声が響く。それをマイクを客席に向けたメンバーが笑顔で聞いている。中には目に涙を浮かばせている子もいる。

 

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乃木坂46で声出しが解禁されたライブは、コロナ禍になってから初めてである。去年の日産スタジアムの時は声出し禁止のルールがあったものの、興奮したファンがルールを破ってコールをしてしまう場面もあった。その時は悲しそうな表情をするメンバーもいたが、今回はみんな笑顔でファンの声に喜んでいる。

 

パフォーマンスを終えて「皆さんの声が聞けて嬉しいです!皆さんに感謝の気持ちを伝えるために、皆さんに事前にアンケートで取った「聴きたい曲」の人気上位20曲を披露していきます!」と話す秋元。今回はファンの多数が好きな楽曲が披露する、特別なコンセプトのようだ。

 

メンバーがステージを一旦さると、いつも通りに『overture』が流れ、ここから人気上位曲が続々と披露されていく。

 

火花の爆発音が鳴り始まったのは『夜明けまで強がらなくていい』。この楽曲が人気ランキング20位だ。センターの遠藤さくらを中心に、メンバーがクールに舞い踊る。ステージの床や天井から火花が吹き出たりと、演出もド派手で大迫力だ。久々にコールが客席から響く。クールな楽曲なので「俺のさくちゃん!」などのコールは楽曲とミスマッチではあるが、そう思うことも懐かしく感じて許せてしまう。

 

ランキング19位は3期生曲の『思い出ファースト』。カラフルな模様がスクリーンに映り、そこにメンバーの影だけか映る演出から曲が始まった。岩本蓮加センターに立ち、ポップで明るい曲調とパフォーマンスで盛り上げていく。

 

しかし続く楽曲は『日常』。クールで尖った歌詞が印象的な楽曲だ。全く違うタイプの楽曲だが、そのような楽曲が続くこともランキング順に披露するからだろう。今回は鈴木絢音がセンターに立っていた。普段は笑顔が可愛らしいメンバーではあるが、パフォーマンス中は鋭い眼差しで、そのギャップにも惹きつけられる。

 

かと思えば次に披露されたのはライブ定番曲で盛り上がることが必須の『裸足でSummer』。梅澤美波の「今日は乃木坂46の11歳の誕生日!最後まで盛り上がって行くぞ!」という煽りを合図に、メンバーが客席を360°囲むように伸びた通路を駆け出した。そしてファンの近くまで行ってパフォーマンスをする。スタンド席後方にはトロッコに乗ったメンバーが行ったりと、メインステージから離れた座席のファンにも嬉しい演出があった。

 

当然ながら最高の盛り上がりが生まれる。久々に思う存分サビで声を出してタオルをかかげる観客も、それを眺めながらパフォーマンスするメンバーも、みんな心の底から楽しそうにしている。偶然だとは思うが、山下美月が通路でパフォーマンスしている時、その側の席には山下の推しメンタオルを持ったファンが大量しいた。強運を持った山下推しは狂喜乱舞したことだろう。

 

今回のライブはステージを囲む通路だけでなく、アリーナ最後方にバックステージが設置されている。メインステージから離れた座席だとしても、メンバーを近くで観れる機会があるのだ。そんなバックステージで最初に披露されたのは『ごめんねFingers crossed』。遠藤さくらのセンター曲だ。楽曲に入り込んでいるのか、何かが憑依したかのような表情とダンスパフォーマンスに圧倒されてしまう。この楽曲は遠藤さくらが立つからこそ、魅力が増大するのではないだろうか。

 

立て続けに5曲連続で披露したが、ここで遠藤さくらのインタビュー映像のVTRが流れた。その内容はファン投票のランキング結果と、この後に披露されている楽曲への想いである。

 

『夜明けまで強がらなくていい』は私の初センターだったけど、両サイドに同じ四期生がいて、みんな入ったばかりなのに1列目に立ったので、3人で助け合って立っている感覚でした。二人の頑張りに引っ張られて私もがんばれた感じです。

 

『ごめんねFingers crossed』でセンターに立った時は両隣が大先輩で心強かったので、それにもまた引っ張られて頑張れました。引っ張られる部分は変わらなきゃいけないことかもしれないけれど、なかなか変わらないな。

 

次にやる曲は1期生と4期生だけで披露したことがある曲なんです。だから思い出深いです。

 

そんなVTRの後に披露されたのは『ひと夏の長さより』。〈ひと夏の長さより 思い出だけ多すぎて〉というサビの歌詞が印象的な夏の名曲だ。

 

秋元真夏がセンターに立ち、そこに順番に後輩メンバーが寄り添って一緒に歌うというパフォーマンスだった。スクリーンの映像はオフショットと思われる過去の思い出写真が映し出されいる。まるで秋元真夏との思い出を全員で振り返っているかのような演出だ。

 

そんな感動的な余韻が残る中、与田祐希と岩本蓮加のダブルセンターで『逃げ水』が披露された。今度は幻想的な空気感で、ひたすらに見惚れてしまうようなパフォーマンスである。ランキング順なので普段のライブの流れから考えると唐突な流れかもしれない。しかし先輩を見送るような演出の後に後輩がセンターを張る曲を堂々と披露している姿からは、これから乃木坂を引っ張っていくという意志を感じてしまう。

 

シングル曲やグループにとって重要な楽曲が中心だった。そのためユニット曲の『言霊砲』がランクインしていたことは驚いた。大園桃子と久保史緒里、山下美月、与田祐希のユニット曲だが、今回は卒業生の大園を除く3人で披露され、大園パートは与田が担当していた。3人が通路を走り回り元気よく明るく歌い踊る。ファン投票だからこそ聴けたレア曲だ。

 

『Sing out』も印象的だった。メンバーが通路やバックステージ、メインステージに散らばり、手拍子を煽りながら歌い踊る。声出しが解禁されたライブではあるが、この曲では声ではなく盛大な手拍子が会場に響き渡る。その空気感が暖かくて優しくて最高だ。声を出せるライブは一体感が生まれるが、そうでない方法でも一体感を生み出すことができる。それを証明するようなパフォーマンスだ。

 

ここで再びVTRが流れた。今度は久保史緒里と梅澤美波のインタビュー映像だ。

 

久保は「結成された時は小学生だったけれど、今では自分がメンバーになっていました。先輩がいたからこその10年。バトンを渡して繋いできた10年だと、バトンを受け取る側だった自分は思っています」と語り、梅澤は先輩メンバーが卒業していったことについて触れ、「今まで通りではいかないと思う。新しいアイドル戦国時代かもしれない。ここから新しい10年が始まる」と力強く語っていた。

 

VTRが終わり披露されたのは『他人のそら似』。グループの10周年を記念して制作された楽曲だ。グループにとって特別な曲だからこそ、ファンも特別に思っているのだろう。だからランクインしたはずだ。梅澤が今後の10年について語った後に披露されると、今後の10年をしっかりと歩むための決意の歌にも聞こえてくる。

 

そんな特別な曲を披露してからメンバー全員でのMCが始まった。秋元は感慨深そうに「久々にみなさんの声を聞いて、ここでメンバーの名前を呼んでくれていたなと思い出して、嬉しさを噛み締めています」と話していた。

 

そしてグループの11周年を祝うためにバースデイケーキが運ばれてきて、メンバーとファンとで一緒に『Happy Birthday To You』を歌った。アイドルグループが10年以上続くことは凄いことだ。かつてコショージメグミというアイドルが「アイドルは犬年齢。アイドルの2年はバンドの10年ぐらいの感覚」と語っていた。まさにその通りだと思うし、ここまで乃木坂46が続いたことは奇跡かもしれない。

 

鈴木絢音「先輩に憧れて入ってきた自分にとって、ライブはかけがえのない場所です。先輩がかっこいい姿で背中で歴史を語っていたように、語るようなかっこいい姿を見せてくれていたので、今日はわたしが後輩たちに背中を見せていきます!楽しんでいきましょう!」

 

梅澤美波「今回が三期生にとって、先輩と一緒にステージに立てる最後のバースデイライブです。これがわたしたちにとってひとつのターニングポイントになると思います。」

 

鈴木と梅澤が改めて10周年を迎えたことについて語っていた。2022年は10周年を迎えたことに対するお祭りのような1年だったが、それを超えてこれからの未来への決意や覚悟を、今は感じているのかもしれない。

 

MCを終えると2022年の一年間を振り返るVTRが流れた。結成10周年を迎えて過去最大規模のスタジアムライブを行ったことや、グループを引っ張ってきたメンバーの卒業など、重要な出来事がダイジェスト的にまとめられた映像だ。どうやらここから数曲はランキングからは離れて、10周年の2022年を映像と楽曲によって振り返るようだ。

 

2022年の出来事で最も重要な出来事は、新メンバーとして五期生が加入したことだ。映像でも五期生の加入は特に大きな出来事として紹介されていた。

 

だからこそ映像の後に五期生だけがステージに登場したことには、グループにとって特別な意味を感じる。彼女たちが11年目以降の新しい乃木坂46を作っていくということを示しているようだ。五期生だけで披露された『絶秒の1秒前』は、今までで一番と言えるほどに堂々としたパフォーマンスで、宇宙をイメージしたような壮大な映像をバックに踊る姿は圧巻だった。

 

そして中西アルノだけがステージに残り、加入後してから1年間の活動について、涙を堪えながらゆっくりとファンに伝えた。

 

1年前の今日、29枚目のシングルのセンターとして紹介されました。

 

今日までの1年間、ずっとこの歌をわたしが歌う権利はないと思っていなかったし、今でも払拭できたとは思っていないです。

 

でもこの曲が好きです。この曲で出会えた人が好きです。

 

想いをまっすぐに伝えてから披露されたのは『Actually...』。MCでは不安げで涙を目に浮かべていたが、パフォーマンスは完全に仕上がっている。表情もダンスも惹きつけられるものがあるし、中盤の声量あるシャウトも凄まじい。加入後すぐにセンターに抜擢されたことを納得してしまうような実力だ。そこからライブ経験が豊富なアンダーメンバーによる『届かなくたって...』が続き、さらに会場を盛り上げていく。

 

そんな3曲を続けてから再びVTRが流れる。今度は10周年記念として行われた日産スタジアム公演を振り返る内容だった。映像は「過去最大規模のライブはこの曲で始まった」というナレーションで終わり、そのまま『ぐるぐるカーテン』のパフォーマンスが始まる。過去最大規模の公演で最初に披露された楽曲かつ、ちょうど11年前の2月22日にリリースされた乃木坂46のデビューシングルだ。

 

可愛らしく歌い踊る中、間奏で秋元が話した「メンバーの入れ替わりもあったけど、バトンを繋いで続けてきました。ここまで支えてくださったみなさん。本当にありがとうございます」という言葉から、歴史と重みを感じる。

 

まだまだ10周年の振り返りは続く。2022年は特にグループを引っ張ってきた賀喜遥香の「毎公演すべてがプレッシャーでした。でも、乃木坂46をもっともっと好きになりました!」という言葉から『好きというのはロックだぜ』が始まると会場の熱気は一気に上昇した。「タオル回す準備はできてるか!?声出していけ!!!」というサンボマスター山口隆かと錯覚するような賀喜の激しい煽りも最高だ。メンバーはタオルを回しながら通路やバックステージなど四方八方に散らばり、会場全体を盛り上げる。

 

一転して『好きになってみた』ではアイドルらしい明るくも可愛いパフォーマンスで魅せる。山下美月の「乃木坂のことは好きですか?もっと好きになってくれませんか///わたしもみんなのことが大好きです///」という言葉に観客の全員が落ちた。

 

『パッションフルーツの食べ方』『Under's love』とクールな楽曲を続ける振り幅の大きさも良い。乃木坂46には様々なタイプの楽曲がある。カッコよさに振り切ったこの2曲は、世間がグループに持つイメージとは違う、ファンだけが知っている隠れた魅力が伝わる楽曲かもしれない。

 

2022年に発表されたユニット曲は、一つのブロックとしてまとめて披露された。梅澤美波・与田祐希・山下美月・田村真佑・金川紗耶による『銭湯ラプソディー』では5人がタオルを持ってバックステージや通路で楽しそうに歌い踊る。久保史緒里・伊藤理々杏・中村麗乃・柴田柚奈・林瑠奈による『甘いエビデンス』では歌唱力の高さを実感させるパフォーマンスで魅了する。ユニット曲だと参加人数が少ない分、参加メンバーの個性が際立つし、組み合わせによって新しい魅力も引き出されるのだ。

 

2022年12月31日。乃木坂46の時間が止まりました。その存在はグループにとって、とても大きかったです。

 

悲しい気持ちも、辛い気持ちも、不安な気持ちも乗り越えたいです。私たちは前を向くため、時を動かします。

 

遠藤さくらがステージにひとりで現れ、涙を浮かべながら想いを伝えてから披露されたのは『ここにはないもの』。2022年末に卒業した齋藤飛鳥のラストシングルだ。今回は遠藤が齋藤のポジションであるセンターに立った。グループの中でも特に齋藤飛鳥と中が良かった遠藤さくら。

 

グループの絶対的エースで存在感が強い先輩の、大切な曲の大切なポジションを引き継ぐことはプレッシャーが大きかったとは思う。しかし彼女は見事に務めていたし、遠藤さくらとしてのパフォーマンスで楽曲に新しい魅力を加えていた。

 

この楽曲はMVやテレビ披露時にパフォーマンスしている齋藤飛鳥の映像とコラボレーションする形で披露された。それは偉大な先輩の背中を追いかけつつも、さらにグループを前進させていくための決意を感じる演出だ。曲の最後に遠藤さくらが背を向け振り向くパフォーマンス箇所で、映像の齋藤飛鳥も同じように振り向いていた。二人の姿がシンクロするように重なる。それは齋藤飛鳥の魂や想いが遠藤さくらに引き継がれていることを、言葉でなく演出で伝えるものに思う。

 

そんな感動的なパフォーマンスを終え、再びMCが行われた。2022年に感じたことや今後への想いを、秋元がメンバーに聞いていく。

 

岩本蓮加「日産スタジアムがとにかく楽しかったです。リハーサルは雨だったけど、そんなことがどうでもよくなるぐらいに最高の景色が見れました」

 

秋元真夏「卒業を意識して活動する1年は今までと違う感覚だった。みんなに教えられることはないか、できることはないかなと考えていた一年でした」

 

梅澤美波「私は真夏さんからもらったものがたくさんあるから、それを絶対に忘れない」

 

田村真佑「初めてユニット曲をもらえたことが嬉しかったです。ユニットメンバーとさらに仲良くなれました。与田さんのことを祐希ちゃんと呼ぶことが目標になったけれど、まだ呼べてないので、呼べるようになりたいです」

 

田村の言葉に与田は照れて顔を隠していた。

 

MCを終えると再びランキング上位曲の発表と披露に移る。残るはトップ10だ。

 

第10位にランクインしたのは『僕は僕を好きになる』。山下美月がセンターの楽曲だ。美しく魅せるパフォーマンスが印象的である。続く『サヨナラの意味』は、今回の披露曲の中でも特に胸を打つものがあった。この楽曲は橋本奈々未の卒業シングルだった。それもあってか客席は橋本のサイリウムカラーの緑に、客席全体が染まっている。卒業したメンバーも含めて乃木坂46の歴史は作られてきたし、卒業してもグループに影響や爪痕は残っている。それを実感する一面だ。秋元がセンターに立ちパフォーマンスしていたが、この楽曲は「卒業ソング」としても受け継がれているのかもしれない。

 

8位と7位にランクインしたのは意外にもカップリング曲だった。

 

8位の『価値あるもの』は2001年生まれのメンバーによるユニット・新華の2001年組の楽曲。美しいメロディが魅力的な楽曲だ。。7位の『全部夢のまま』もダンサンブルな楽曲ではあるもののメロディが美しい。乃木坂46のファンは美しいメロディの楽曲を求めている人が多いのかもしれない。それは盛り上がる曲や明るい曲が人気な場合が多い他のアイドルとは違う部分だろう。

 

『やさしさとは』はランクインだけでなく歌唱メンバーにも驚いた。五期生だけによるパフォーマンスだったからだ。原曲の歌唱メンバーは全員が卒業している。そのため再現することは難しい。そのため五期生が楽曲を受け継いだのだろう。原曲のは声に特徴があるメンバーが参加していた。そのためスキルが高いメンバーや声質の違うメンバーが揃っている五期生が歌うことで、原曲の魅力を損なうことなく披露することができていた。歴史がある上で新しいものを作り出している。

 

三期生楽曲『僕が手を叩く方へ』が上位にランクインしたのは、観客が声を出せないコロナ禍になってからのライブにおいて、観客の心を掴む重要な役割を担う楽曲だからかもしれない。この楽曲の魅力をライブで最大限引き出すためには、観客の手拍子が重要になる仕組みとなっている。落ちサビでメンバーの声だけになり、それに合わせ観客が手拍子を鳴らし、大きな会場に歌声と手拍子だけが響いた瞬間。その時は声を出せなくとも最高の一体感が生まれることを示していた。それはこの日のライブも同様だ。バックステージに立ち客席に囲まれながら手拍子を浴びながら歌うメンバーの姿は忘れられないほどに印象的だったし、忘れられないほどの一体感があった。

 

そんな一体感が生まれた後の四期生楽曲『I see...』では意表をつかれた。ゴスペルの影響を感じるアレンジから始まったからだ。明るく楽しい楽曲だが、メンバーの美しいハーモニーが重なる始まり方は新鮮だったし感動的だ。この楽曲にこのような表現方法があるのかと驚いた。

 

かと思えば聴き慣れた原曲通りのアレンジのイントロが流れて、いっきに盛り上げる。「横アリ!いくぞおおおおおお!!!ラストスパートだぞ!全部だしきれええええええ!」 と煽る賀喜遥香。サンボマスター山口隆が乗り移っているのかもしれない。さらに「こんなもんじゃねえだろおおお!もっといけんだろうがああああ!さわげえええええええ!」と煽る賀喜遥香。やはりサンボマスター山口隆が彼女に乗り移っている。

 

サンボマスターのように熱いパフォーマンスの熱気が残る中、再びVTRが流れる。今回は賀喜遥香のインタビューだった。インタビューでの受け答えはかわいらしく、山口隆の匂いは感じなかった。煽る時だけ山口が乗り移るようだ。

 

同じ気持ちを共有できる空間だからライブが好き。明るい曲は元気をだすための曲だと思ってやっているけれど、落ち着いた綺麗な曲は寄り添ってくれる曲だと思っています。

 

この曲は初めて先輩とステージで踊った曲。その時の先輩の背中は忘れられないし、乃木坂といえばという曲のひとつだと思う。

 

そんな言葉がVTRで流れた後に披露されたのは『帰り道は遠回りしたくなる』。西野七瀬がセンターを務めた、彼女の卒業シングルだ。今回この曲のセンターに立ったのは遠藤さくら。初めて四期生が先輩と一緒に踊った曲を、今度は四期生が中心になり堂々と披露している。今では先輩として後輩に背中を見せる立場になったのだ。

 

ランキングも残すは2位と1位のみ。2位にランクインした楽曲は『ありがちな恋愛』だった。4thアルバムのリード曲で、隠れた名曲として人気のある楽曲だ。原曲では白石麻衣と齋藤飛鳥によるダブルセンターだったが、二人とも今では卒業生である。その代わりとして山下と賀喜がダブルセンターとしてステージに立った。この二人が今の乃木坂のエースということをフォーメーションで示しているのだろう。

 

1位のみを残す中、じらすようにVTRが流れる。メンバーが1位の楽曲について語る映像だ。メンバーも思い入れが強い楽曲のようだ。与田の「初心に帰る曲というか、乃木坂に入る前のことをふと思い出す曲」という言葉は、特に印象的に思う。

 

映像が終わりステージが暗転したままイントロが流れると、観客から感嘆したような声が漏れ、そして納得とでも言いたげな温かい拍手が会場に響いた。

 

1位の楽曲は『きっかけ』だ。過去のアルバム曲でありながら2021年の紅白歌合戦で歌われるほど評価されており、Mr.Childrenの桜井和寿がライブで「すげえいい曲だぞ!びっくりするぞ!」と言ってカバーするほどの名曲だ。グループの節目ではメンバーの背中を力強く押す楽曲として披露されていたとも思う。

 

メンバーは過去の乃木坂46の制服をそれぞれ着ていた。全員が違う制服を着ていて、そこからもグループの歴史を感じる。ステージ後方のスクリーンには過去のシングル曲のタイトルが街のネオンをイメージした文字で浮かび上がる。そんな演出もグループの歴史の長さや深さを伝えているようだ。

 

全ての楽曲を披露しやりきった表情のメンバー。秋元は『きっかけ』について「メンバーも好きだという人が多い曲。1位になったことで、みなさんと心が通じ合えたような気がしました。今後も歌い継いでほしいです」と感慨深そうに話していた。

 

しかしライブはまだ終わらない。山下の「お前ら!騒げえええええええ!」という煽りから『ガールズルール』が始まりアンコールがスタート。山下の中にもサンボマスター山口隆がいると思ってしまう激しい煽りだ。

 

ツアーTシャツに着替えたメンバーが通路やメインステージ、バックステージやトロッコなど、様々な場所で歌い踊り観客を盛り上げる。観客のコールや歓声もどんどん大きくなっていく。メンバーもファンも最後に全てを出し切るようなお祭り騒ぎだ。さらに『ダンケシェーン』とライブ定番曲かつ盛り上がり確実の鉄板曲を続け、盛り上がりを最高調子にした。このベスト20にはランクインしていなかったようだが、乃木坂46のライブには必要な楽曲だ。

 

MCで改めてライブの感想を話していくメンバー。賀喜は「声出しありのライブは四期生にとっても加入したての頃以来。煽ってみたもののみなさんの圧に負けそうになった」と話す。そういえば四期生の活動期間は「ライブで声を出せない期間」の方が長いのだ。それほどコロナ禍はグループの活動に影響を与えたのである。

 

五期生の井上和は「五期生は声出しライブが初めて。お祭りみたいに思えて楽しかった」と感慨深そうに話す。五期生にとっては特に今回のライブは忘れられないライブになったのかもしれない。

 

山下は「今回は一期生と二期生がいるのは最後」と改めて話す。秋元は卒業するし鈴木絢音も3月に卒業が決まっている。これからは三期生がグループを引っ張っていく一番上の先輩になるのだ。新しいポジションを覚える都度、受け継がれていることを感じます。しっかり乃木坂を背負って行けることを示して、真夏さんと絢音さんが旅立っていけるようにしたい」と話す姿も印象的だった。

 

グループを引っ張っていくことが向いていないと思いつつやってきました。楽しくグループを引っ張ってこれたのは、支えてくれたメンバーやスタッフの方々、ファンの方々の優しい声でした。

 

私のキャプテンとしての仕事は今日で終わります。だからこのバトンを後輩に渡そうとしています。

 

これからの乃木坂を引っ張ってくれる素敵な新しいキャプテンを発表します

 

今回が最後のBIRTHDAY LIVEとなったキャプテンの秋元が、自身の活動について振り返りつつ語る。

 

そして、新しいキャプテンを発表した。新キャプテンに任命されたのは副キャプテンとしてグループを支えてきた梅澤美波だ。

 

グループのことを副キャプテンになる前からまとめてくれて、副キャプテンになってからは私のことをずっと考えて支えてくれていました。

 

梅にやってもらえることが本当に嬉しいですし、心配はないです。安心しています

 

梅澤について秋元は、このように想いを語っていた。

 

そして梅澤は新キャプテンになったことへの想いを、涙を浮かべながらこのように語っていた。

 

加入してからずっと、玲香さんと真夏さんの姿を近くで見てきて、副キャプテンに就任してからは、もしかしたらこの役割を自分が担う日が来るかもしれないと気持ちを強く固めていました。

 

でも、キャプテンだと言われたときにすごく動揺している自分がいました。この立場になって初めて真夏さんが背負っていたものの大きさに気付きました。すごく重みのあるバトンを受け取ったと思います。

 

でもこれからの乃木坂46を引っ張っていくには、この重みや怖さを吹き飛ばす力が今の自分には必要なんだと思います。後輩たちが不安な気持ちなく活動できるグループを目指して、ファンの皆さんが楽しんで追いかけられるグループにできるように、私なりに少しずつがんばっていけたらいいなと思います

 

約40人以上のメンバーをまとめることは簡単ではない。それに加えて自身もアイドルとして活動する。そうとうな苦労があるだろう。それでもまっすぐな目で想いを語る姿を見ていると、彼女が適任だし任せるなら梅澤しかいないと思わせるだけの説得力がある。

 

キャプテンというポジションは、みなさんが思っているよりも、大変なことがあると思っています。大変な姿を見せている時があったら、温かい言葉を伝えてくれたら嬉しいです。

 

梅澤美波の応援をお願いします。

 

改めて挨拶をする秋元。通常のライブとしては自身にとって最後なのに、後輩のことばかり話している。

 

最後に披露されたのは『君の名は希望』。ランクインしなかったものの、グループにとって大切で重要な楽曲だ。初めて乃木坂46が紅白歌合戦に出場した時に歌った楽曲だし、この楽曲が乃木坂46の評価を上げたきっかけとなる楽曲だったと思う。メンバーが一列になって歌う姿は圧巻だし、歌に集中してしっかりと届けようとしているのは、それだけこの楽曲のメッセージが、乃木坂46にとって重要だからかもしれない。

 

以上で全ての曲を披露し終えました。私と絢音にとって、最後のバースデイライブでした。一期生から5期生までが揃うライブも、今日が最後でした。これからの未来を梅に託したのでホッとしている気持ちもあります。

 

みなさんが私のことを支えてくれたように、梅のことを支えてくれたら嬉しいです。11年目の乃木坂46も、よろしくお願いします。

 

秋元の最後の挨拶も、自身についてではなく、後輩やグループについてのものだった。

 

秋元が卒業したことで、乃木坂46の初期メンバーは全員いなくなってしまった。グループの黎明期を当事者として体験したメンバーもいなくなった。ここから新しい乃木坂46が始まるということだろう。

 

しかし過去の歴史が消えるわけではない。過去の歴史がある上でのこれからなのだ。それは今回のライブの演出や歌割り、卒業メンバーのいる楽曲の参加メンバーを見ればわかる。歴史を大切にした上で乃木坂46は前に進み進化していくのだ。

 

きっと今回のライブは、結成10周年の節目を終えて新しいスタートが最高のものになるための「きっかけ」となるだろう。

 

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■乃木坂46『11th YEAR BIRTHDAY LIVE』DAY 1  at 横浜アリーナ 2023年2月22日(水) セットリスト

1.乃木坂の詩
2.overture
3.夜明けまで強がらなくていい(20位)
4.思い出ファースト(19位)
5.日常(18位)
6.裸足でSummer(17位)
7.ごめんねfingers crossed(16位)
8.ひと夏の長さより(15位)
9.逃げ水(14位)
10.言霊砲(13位)
11.Sing out(12位)
12.他人のそら似(11位)
13.絶秒の1秒前
14.Actually... 
15.届かなくたって
16.ぐるぐるカーテン
17.好きというのはロックだぜ
18.好きになってみた
19.パッションフルーツの食べ方
20.Under's love
21.銭湯ラプソディ
22.甘いエビデンス
23.悪い成分
24.ここにはないもの
25. 僕は僕を好きになる(10位)
26.サヨナラの意味(9位)
27.価値あるもの(8位)
28.全部夢のまま(7位)
29.やさしさとは(6位)
30.僕が手を叩く方へ(5位)
31.I see...(4位)
32. 帰り道は遠回りしたくなる(3位)
33.ありがちな恋愛(2位)
34.きっかけ(1位)

 

En1. ガールズルール
En2. ダンケシェーン
En3. 君の名は希望