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藤原基央のために裏拍の手拍子を練習をしよう

日本のライブにおける観客の手拍子は、表拍で叩かれることが多い。

 

演歌や民謡や童謡など日本の文化が色濃く出た音楽は、表拍でリズムを取った方が自然である。そんな文化やしきたりが日本人には染み付いているのかもしれない。それは悪いことでもないし日本人の特色のひとつだが、現在の日本で幅広く聴かれているポップスは、海外からの影響が強い音楽だ。だからか表拍の手拍子は似合わない楽曲も多い。

 

それはステージに立つミュージシャンも感じているようだ。先日BUMP OF CHICKENのライブへ行った人のツイートを見かけて、それを実感した。

 

 

藤原基央は「手拍子が嫌い」ということが、ファンの間では有名である。かつては「ピアノの発表会じゃねんだよ」と言って表拍で手拍子をするファンに手拍子を止めさせていた。

 

しかし実際は嫌いなのではなく、歌に支障が出るので裏拍にして欲しかったらしい。リスナーの自分としては、その理由は盲点だった。

 

彼の想いを知って「裏拍で手拍子をしよう!」と思うファンはたくさんいると思う。しかし裏拍での手拍子がわからない人や、表拍の手拍子が身体に染みついているから裏拍の手拍子ができない人もいるだろう。

 

ではそのような人が裏拍で手拍子するには、どうすればいいのか。自分はその解決方法をみつけた。

 

結論から話そう。それは「自身を平沢唯だと思い込みなごら、チャットモンチー『シャングリラ』に合わせて手拍子をする」だ。

 

まずは平沢唯について説明しよう。平沢唯とは『けいおん!』という4コマ漫画作品およびそれを原作として制作されたアニメの主人公の名前だ。とても可愛らしい女の子で、一部のファンの間ではあずにゃんの代わりにペロペロされることもある。

 

アニメの第一話(11分30秒ごろと12分15秒ごろ)で平沢唯が「うんたん♪うんたん♪」と言いながらカスタネットを叩く場面があった。彼女が軽音楽部に入部するきっかけのエピソードで、ごくごく一部の人からアニメ史に残る名場面として評価されているシーンだ。

 

裏拍を覚えたい人はこの「うんたん♪」に注目してみよう。

 

「うん♪」の部分が表で「たん♪」の部分が裏だと思って欲しい。平沢は「たん♪」の部分でカスタネットを叩き「うん♪」の部分では叩いていない。これは彼女が裏拍でカスタネットを叩こうとしているからだ。つまり表拍と裏拍がわからない人は、曲を聴きながら平沢のように「うんたん♪うんたん♪」と頭の中で唱えながら「たん♪」の部分で手拍子をすればいいのだ。

 

これができたならば、裏拍で手拍子ができているようなものである。難しいことではない。後藤ひとりになることは難しいが、平沢唯には誰でもなれるのだ。

 

とはいえ注意点がある。第一話の平沢唯はリズム感がない。「うんたん♪」と言いながらリズムをとって裏でカスタネットを叩こうとしているが、リズムの取り方が遅すぎて「うん♪」も「たん♪」も表拍になっているのだ。そのまま平沢の「うんたん♪」を参考にしては「裏で手拍子しようとして失敗して表で叩いているかわいそうな人」になってしまう。

 

それはなんとしてでも防がなければならない。藤原基央がライブ中に悲しんでしまう。藤原基央のために「進化した平沢唯」にならなければならない。

 

ではどうすればいいのか。ここで重要になってくるのが、チャットモンチー『シャングリラ』である。

 

 

この楽曲はドラムソロから始まるのだが、それが「裏拍とは何か」が誰でもわかる演奏をしてくれている。

 

楽曲が始まって4秒ほどの部分に注目して欲しい。ちょうどバスドラムの後にハイハットの音がが入ってくる部分だ。このハイハットの音は裏拍のタイミングで鳴っている。つまりハイハットの音に合わせて手を叩けば、簡単に裏で手拍子をすることができるのだ。

 

『シャングリラ』は途中で変拍子が入ってくる複雑なリズムの曲だが、頭の中で最初のリズムを鳴らしながら手拍子すれば、裏で手拍子することも可能ではある。

 

しかし頭の中で『シャングリラ』の最初のリズムを鳴らし続けることは難しい。そこで最初のリズムを頭の中で鳴らしつつ、そのリズムに合わせて頭の中で「うんたん♪うんたん♪」とい歌ってほしい。擬音をつけた方がリズムはとりやすいからだ。これを実践すれば「たん♪」の部分が裏のリズムとなる。この感覚を忘れずに「うんたん♪うんたん♪」と歌いながら手を叩けば、誰もが裏で手拍子を叩くことができるはずだ。

 

これはどの曲でも使えるテクニックである。チャットモンチーの曲でも放課後ティータイムの曲でも、もちろんバンプの曲でも。常に『シャングリラ』のハイハットの音を思い浮かべて、流れている曲のテンポに合わせて「うんたん♪うんたん♪」と歌いながら手を叩けば、それは裏の手拍子である。藤原基央も大喜びだ。

 

しかしふと思う。「そこまでして裏で手拍子したいのか?」と。

 

音楽の楽しみ方は、他者に迷惑を書けない限りは自由だ。バンプのように「歌いにくいから」という理由で裏での手拍子を求められたならば、従った方がいいかもしれない。しかし「表で手拍子するのが楽しい!」と思っている人は、無理に裏で手拍子することで、それが違和感になり楽しめなくなるかもしれない。「決められたノリ方」に縛られてしまい、楽しむことよりも間違えないことに必死になってしまうだろう。それが音楽との正しい向き合い方だとは、自分は思えない。

 

そもそもJ-POPや邦ロックは、表拍の手拍子でも違和感がない仕組みになっている楽曲も多い。例えば2010年台中盤から邦ロック界隈で流行った「四つ打ちロック」は表で手拍子しても違和感はない。Bメロなどでバスドラムの音が先導し、表での手拍子を煽るアレンジをするバンドも少なくはない。

 

サビで観客が拳を前に突き出すタイミングも表拍であることが多いが、それも違和感なくライブの盛り上がりに貢献しているように感じる。メロコアのようなテンポの速い曲だと、表も裏も意識せずに盛り上がれるかもしれない。

 

逆に藤井風や『YELLOW DANCER』以降の星野源のライブでは、自然と観客は裏での手拍子をしている。これは表拍で手拍子すると違和感を覚えるような仕組みの楽曲だからだろう。

 

「演者側がどのようなリズムで楽しませたいか」という部分は、ほとんどの場合は自然と聴き手に伝わっていて、聴き手は演者によってノリ方をコントロールされているのかもしれない。だから「裏での手拍子」が絶対的な正解というわけではない。アーティストごとに正解は違うし、聴き手が気持ち良いと思えるならば、それが正解だとも言える。

 

ではバンプの場合はなぜバンド側が求める「裏の手拍子」ではなく「表の手拍子」になってしまうのだろうか。

 

それはバンプの音楽が表拍でも裏拍でも、どちらで拍子をとっても楽しめる音楽だからかもしれない。

 

例えば『ガラスのブルース』を表で手拍子してみるのと裏で手拍子するのとで、比べてみてほしい。「うんたん♪」の「うん♪」が表で「たん♪」が裏であることを忘れずに叩いてくれ。

 

楽曲の印象は変わるかもしれないが、おそらくどちらの場合でも違和感なくリズムをとれるはずだ。そのような仕組みの楽曲となっているから「うん♪」で手拍子する人もいるし「たん♪」で手拍子する人もいるのだろう。しかも今のBUMPはドームやスタジアムを埋めるほどの人気だ。様々な価値観を持つファンがいる。それの統率を取ることは難しい。

 

ガラスのブルース

ガラスのブルース

  • BUMP OF CHICKEN
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

逆に星野源『SUN』を聴きながら表で手拍子してみてほしい。おそらく違和感を覚えるはずだ。この楽曲は裏で手拍子しなければ成立しない。そういう仕組みになっている。「うんたん♪」の「たん♪」で手拍子しなければ気持ち良くないから、聴き手も自然と「たん♪」で手拍子してしまうのだ。

 

SUN

SUN

  • 星野源
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ではなぜ藤原基央が「裏で手拍子してほしい」と言ったのだろう。これは自分の想像ではあるが、彼は「うんたん♪」の「たん♪」に合わせて歌をうたうタイプだからに思う。

 

バンプの楽曲は「うん♪」でも「たん♪」でもどちらでもリズムが取れる。しかし彼は「たん♪」で歌うことを得意としているのかもしれない。だから観客から「うん♪」で大きな手拍子が鳴らされたら、歌に支障が出てしまう。

 

ライブでは観客の手拍子も演奏の一部だ。「最高の形で歌を届けるため」には、観客の「たん♪」が重要である。つまり「裏で手拍子してほしい」というお願いは「一緒に最高の演奏をしようぜ!」というファンへのメッセージであり、バンドとファンの関係性を超えた仲間であることを伝える言葉だったのかもしれない。これはバンプからファンに向けた、ベイビーアイラブユーだぜ。

 

しかし一番大切にするべきことは「自分がどうすれば気持ち良く音楽を聴けるか」だ。

 

もちろん周囲に迷惑をかけることはよくないし、できる限り演者の希望に合わせた方がライブは良い空気感になるとは思うが、無理して合わせることはない。「裏で手拍子を取ることが苦手」「裏で手拍子を取っても気持ち良くない」と思うならば、無理して手拍子をする必要だってない。周囲や演者に気を遣いつつ、できる限り自由に楽しめば良いのだ。

 

とはいえ裏で手拍子ができるようになれば、音楽の楽しみ方は広がるかもしれない。音楽は知識がなくても楽しめるが、知識によってより楽しめる場合もある。その一歩として「うんたん♪」を練習してみてほしい。

 

リズム感がなくて「うんたん♪」も言いつつもまともに裏拍が取れなかった平沢唯だって、音楽の知識を得てからの方が、音楽を楽しめているようだから。

 

その詳細は『けいおん!』を観て確認してほしい。