オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】カネコアヤノ ワンマンショー 2022冬 at Zepp Divercity Tokyo 2022.3.23(水)

今のカネコアヤノにとって、数千人規模の会場でライブを行うことは珍しくない。むしろ日常的な活動かもしれない。むしろもっと大きな会場が似合うとすら思う。

 

Zepp Divercity Tokyoで行われたカネコアヤノのワンマンツアーの東京公演を観て、そんなことを思った。

 

f:id:houroukamome121:20220325180906j:image

 

同会場では2日間ライブが行われたが、両日共にチケットは即完。

 

日本武道館公演を成功させた今では、Zepp Divercity Tokyoは小さすぎる。この規模ではプレミアチケットになってしまう。

 

 

メディア出演が少ないインディーズの活動で、これほどの集客力があるアーティストは滅多にいない。

 

鳴っている音のスケールや醸し出すオーラに物凄い求心力があるので、この人気も必然だ。

 

そのことはサポートメンバーを含め、全員がそれを理解しているのだろう。ステージに出てきた4人はマイペースに落ち着いて準備をしている。むしろ客席の方が舞い上がっているぐらいだ。

 

会場の空気を確かめるように、『抱擁』からライブをスタートさせる4人。カネコはサビをいつもよりも溜めて歌っているようだ。ゆっくりと聴き手を引き付けて、歌声で抱擁しようとしているのだろうか。

 

演出はシンプルながらも、楽曲のことを理解しているからこその素敵な景色を見せてくれた。

 

〈星が降りてくる夜の話〉という歌詞に合わせてオレンジの豆電球が点灯し、星空のような照明を作り出す。演者と支えるスタッフの連携が出来ているからこその素敵な演出だ。

 

たった1曲で会場の空気感を把握できたのだろう。ここから演奏の熱量がどんどん上がっていく。

 

 

 

 

2曲目の『かみつきたい』は、本村 拓磨(Ba)のベースソロをきっかけにメンバーの演奏が重なる。そしてBob (Dr)のカウントから歌へと繋がった。

 

ポップなメロディと跳ねるようなリズムが心地よい。そのまま曲間なしで『明け方』を続ける流れも良い。先程は優しく抱擁するような歌声だったが、どんどん力強さが増していく。

 

個人的に特に聴けて嬉しかったのは『祝日』だ。

 

音源では弾き語りだが、ライブではバンドアレンジで披露してくれる。自分はこのライブアレンジが大好きなのだ。

 

カネコと林宏敏(Gt)が向き合って、息を合わせながら丁寧にイントロのギターを弾く。そこからゆっくりとベースとドラムが入っていき、少しずつ盛り上がっていく。それを息を飲むように客席は見守る。そん演奏の展開と客席な空気が最高なのだ。叫ぶような歌声も痺れるほどカッコいい。

 

最近のライブではセットリストから漏れることが多い『サマーバケーション』されたのも嬉しかった。

 

この曲はライブ映えする。〈全部が良くなる〉というフレーズが何度も出てくる歌詞は、暗い出来事が多い今の世の中だからこそ、希望を貰える言葉に思う。

 

この楽器は本村と林がシューゲイザーバンドのようなノイズを出してから始まった。そこからスローテンポで4人の演奏が重なり、サビになるとBPMは速くなり演奏が激しくなる。

 

やはりカネコは叫ぶように歌う。名義こそカネコアヤノのソロで、他の3人はサポートメンバーではあるが、この4人でロックバンドをやっているのだ。それを実感する名演である。

 

前半のハイライトは『爛漫』に感じる。

 

ステージから白い光が客席まで伸びて、その光が天井を照らす。それが星のように散らばり美しい景色を作り出す。ほんな演出に心を打たれる。

 

そんな空間で高い熱量の演奏をする4人。アウトロはシューゲイザーを彷彿させる爆音で、4人が歪んだ音を響かせた。

 

この楽曲はライブでアウトロでジャムセッションになることが多い。しかしここまで暴力的な音で披露されたのは、今回のツアーが初めてだ。

 

ライブは中盤に入ったが、勢いが留まることはない。カネコの弾き語りから始まった『セゾン』と、本村のベースソロから始まる『栄えた街の』の優しいメロディと演奏で会場を温かさで包み込む。

 

とはいえ音楽によって様々な情景を見せて、感情を揺さぶるのがカネコアヤノのライブである。

 

3月の夜に聴くとシチュエーションも相待ってより胸に響く『春の夜へ』や、本村がウッドベースに持ち替えアコースティックなサウンドで届けた『朝になって夢からさめて』は、聴いていて心が穏やかになる。

 

叫ぶように歌うカネコも、この2曲では優しい歌声を最初から最後まで響かせていた。

 

しかしライブだからこその熱量は、やはり隠しきれない。

 

『エメラルド』『ごあいさつ』とミドルテンポの優しい楽曲がさらに続いたが、演奏も歌声もだんだんと力強くなっていく。カネコも結局のところ『ごあいさつ』では叫ぶように歌っていた。

 

その力強さによって、むしろ優しさを感じる時もある。歌声と演奏で背中を押してもらっている気持ちになるからだ。

 

 

 

 

『グレープフルーツ』は、まさにそのような演奏だった。

 

カネコの弾き語りから曲が始まるミドルテンポのロックバラード。しかしギターの音も歌声も力強い。そこからバンドの演奏が重なるが、その音もやはり力強く激しい。

 

後半にはシューゲイザーのようなノイズも加えられていた。その爆音に負けない声量の歌声に鳥肌が立つ。

 

今回は激しいライブアレンジの楽曲が多かった。特にシューゲイザーの影響を感じる轟音が目立っている。

 

新しい音楽を取り入れようとしているのだろうか。今後の音源は驚くような意外な楽曲が発表されるかもしれない。

 

ライブも後半戦。ここからラストスパートをかけるように、さらに演奏は激しくなっていく。

 

カネコがギターをかき鳴らしてから始まった『光の方へ』で、会場を光で照らすように雰囲気を明るくした。

 

ここまで鋭い目線で歌ってきたが、この曲では時折笑顔を見せたりギターを掲げたりと、わかりやすく客席と心の距離を縮めようとしている。

 

『カウボーイ』ではテンションが上がりすぎたのか、演奏しながらトランポリンが下手な人みたいな特殊なポーズでジャンプするカネコアヤノ。その場を1周回ったりと謎の動きもしていた。

 

叫ぶような歌声はさらにエモーショナルになる。その歌唱からは、パンクバンドのボーカルのような衝動を感じる。

 

本村もテンションがおかしくなったようだ。

 

「あ゛あ゛あ゛ー!!!」と曲中に何度も叫んでいた。後半にはベースから両手を離して、ダブルピースをしながら腕を高く掲げて客席にアピールしていた。

 

不穏な動きでテンションの上昇を表現するカネコと本村だが、林とbobは動きではなく音でテンションの上昇を表現する。

 

特に『愛のままを』ではそれを感じた。

 

カネコと本村は時折変な動きをしていたが、林とbobは演奏だけで熱量を表現していた。林はギターソロで前にまで出てきたりと、カッコいい動きで魅了する。変な動きは皆無だ。

 

ラストは『アーケード』。

 

以前は『はっぴいえんどを聴かせておくれよ(仮)』が最後に演奏されることが多かったが、この楽曲がリリースされて以降は、代わりに『アーケード』が締めに歌われることが増えた。確実に盛り上がるキラーチューンということだろう。

 

メンバーのジャムセッションを挟み、カネコのデカい声のカウントから演奏が始まった楽曲。客席は盛り上がっているし、メンバーも楽しそうだ。

 

だからかカネコと本村のテンションは、さらにおかしくなってしまう。

 

相変わらずカネコは変なジャンプをしながら歌っていたし、本村も「あ゛あ゛あ゛ー!!!」と叫んでいた。

 

そして、テンションが上がりすぎた本村が、転けた。

 

 

 

 

ツルッと滑って、ステージに寝そべるように転けた。それを観て爆笑するカネコ。

 

本村は誤魔化すようにあぐらで座って「これはパフォーマンスですよ?」という雰囲気を醸し出しながら演奏をしている。それを見てさらに爆笑するカネコ。

 

立ち上がると本村は誤魔化すように「パフォーマンスでしたよ?」という雰囲気を醸し出しながら、ステップを踏んで演奏していた。

 

それでも気持ちが舞い上がって仕方がないのだろう。本村はアウトロで「あ゛り゛がどう゛ごじゃい゛まじだー!」と、麦わら海賊団に入る前の登場人物がお世話になった人に感謝を告げる時と同じテンションで叫んでいた。

 

MCなしで19曲を立て続けに演奏した4人。カネコがクールに一言だけ「ありがと!」と告げてステージを去っていった。

 

すぐにアンコールに応えて再登場すると、本日最初で最後のMCを、最初から爆笑しながら喋りまくる。

 

カネコ「本村くんwwwさっきwww転けたwwwマジでwwwウケるwwwふひゃぁwww」

本村「転んでないアピールをするために胡座をかきました」

カネコ「マジでwwwウケるwww でも私も今年のどっかのライブでダサい転び方したんだよねwでも歌い始めるタイミングで立ち上がって歌えたw」

本村「あれは見事な身のこなしでしたね」

カネコ「綺麗に歌に入れたよねwふひw」

 

カネコが転けたのは新木場STUDIO COASTで行われたeastern youthの対バンライブである。

 

 

『カウボーイ』のイントロで転けたカネコは爆笑しながら立ち上がり、「これはパフォーマンスですよ?」みたいな雰囲気を醸し出しながら、何事もなかったかのように歌っていた。

 

今日は最近のライブで1番笑ったwww皆さんとこの面白さを共有できて良かったですwwwうひひwwwマジでウケるwww

 

でも、これがライブですよねw

 

Zeppはもっと前にやる予定だったけど、コロナで何度も延期になっちゃっいました。それで今回ようやく開催できたし、全国をツアーで回れました。ライブがやれることは嬉しいです。この場の空気や体温を一緒に共有してくださり、ありがとうございました。

 

またやる時は来てください!

 

きちんと伝えるべき部分は笑いを堪えて丁寧に話すカネコアヤノ。

 

そして「アンコールやります!」と言って『わたしたちへ』が披露された。カネボウ化粧品『ALLIE』のCMソングとして使われている新曲である。

 

この楽曲は、カネコアヤノの新境地に思った。

 

メロディ歌詞に使われる言葉からは今までと変わりない彼女の個性を感じる。

 

しかし、この楽曲、シューゲイザーとインディロックとJPOPが組み合わさったような楽曲なのだ。

 

My Bloody Valentine『You Made Me Realise』のアウトロのノイズを彷彿させる轟音から曲が始まった。その音は耳を塞ぎたくなるほどの音圧ではある。しかし聴いていて心地良さも感じる不思議な感覚もある。

 

そこから一瞬で「カネコアヤノの曲だ」とわかるような個性が詰まった演奏とメロディと歌声が続く。

 

〈わたしでいるために〉と力強く歌う声や、〈変わりたい 変われない わたしたち〉という歌詞は、少しひねくれてはいるものの、背中を押してくれる希望に満ちた歌にも感じる。

 

そしてラストは長尺のジャムセッションとなり、再び轟音のシューゲイザーへと演奏が変化していく。その半端ない演奏に圧倒されてしまった。この余韻は他のカネコアヤノ楽曲とは違うものだ。

 

「物凄いものを観た」と思った。凄すぎて呆気に取られてしまった。

 

そんな客の気持ちを知ってか知らずか、「ありがとっ!またね~」と緩い挨拶をして去っていくカネコアヤノ。

 

いつも通りに素晴らしいライブだった。それでいていつもとは違う凄みも感じるライブだった。

 

他の楽曲でもシューゲイザーの要素を感じるアレンジはあった。

 

もしかしたらカネコアヤノ、これからファンを驚かせるような、予想外の変化と予想を超えた進化を見せつけてくるのかもしれない。

 

f:id:houroukamome121:20220325180926j:image

 

カネコアヤノ ワンマンショー 2022冬  at Zepp Divercity Tokyo 2022.3.23(水) セットリスト

01.抱擁

02.かみつきたい ベースソロから

03.明け方

04.手紙

05.祝日

06.窓辺

07.サマーバケーション

08.爛漫

09.セゾン

10.栄えた街の

11.春の夜へ

12.朝になって夢からさめて

13.エメラルド

14.ごあいさつ

15.グレープフルーツ

16.光の方へ

17.カウボーイ 

18.愛のままを

19.アーケード

 

EN1.わたしたちへ(新曲)

 

↓関連記事↓