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【ライブレポ・セットリスト】ずっと真夜中でいいのに。『CLEANING LABO「温れ落ち度」』at.幕張メッセイベントホール 2021.5.16(日)

CLEANING LABO「温れ落ち度」

 

開演前からライブが始まっているのではと、錯覚してしまった。

 

開演前なので当然メンバーは出てきていない。演奏だって始まっていない。それでも客席に入った瞬間にそう感じてしまうような、ライブ中と同じ雰囲気で会場が包まれていた。

 

開演前なのに幕張メッセの照明は薄暗い。ステージには壮大な規模のステージセットが組まれている。洗濯機があったりTシャツが吊るされていたりと、独特なステージセットだ。

 

ステージの両サイドにはスクリーンが設置されている。そこにはドラム式洗濯機が洗濯している映像が流れていた。ステージ上に設置された洗濯機が回る様子をリアルタイムで映しているのだ。

 

開演前から「ずっと真夜中でいいのに。の世界」が純度100%で構築されている。だから開演前からライブが始まっていると錯覚するほどに、バンドの世界観を感じてしまうのだ。

 

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幕張メッセイベントホールで行われたずっと真夜中でいいのに。のライブ。合計4公演行われたうちの4回目。

 

開演前から最高の空間が出来上がっていることを感じて、始まる前から最高のライブになると確信した。

 

前半

 

メンバーの登場時も世界観は保たれていた。

 

SEもない静脈の中に現れたバンドメンバー。照明はまだ薄暗いままである。客席は緊張感で空気は張り詰めていた。そんな空気の中で佐々木"コジロー"貴之(Gt.)が、ステージに設置された洗濯機の停止ボタンを押す。

 

洗濯機が止まったことがライブ開始の合図だった。

 

吉田宇宙ストリングスによる美しいバイオリンの旋律が流れ、ステージセット上段のシャッターが開きボーカルのACAねが登場する。そこで緊張の糸がほぐれ、大きな拍手が鳴り響く。

 

1曲目は『胸の煙』。ストリングスと美しいピアノの旋律に合わせ、繊細な表現で歌うACAね。とんでもなく凄いボーカリストだと改めて思う。それを支えるバンドの演奏は高い技術を持っていて最高だ。

 

そんな歌と演奏に圧倒させられていると、休む暇なく『お勉強しといてよ』で客席のテンションを爆発させる。

 

お勉強しといてよ

お勉強しといてよ

  • ずっと真夜中でいいのに。
  • ロック
  • ¥255
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両サイドのスクリーンにはアナログテレビの中で演奏するメンバーの映像が流れる。ずとまよのワンマンライブでスクリーンにメンバーが映り、映像演出がされたことは初めてだ。ライブの演出も回を重ねるごとに進化させている。

 

さらにテンポの早い『勘冴えて悔しいわ』を叫ぶように歌うACAね。演奏もさらに激しくなる。ロックの衝動を感じる演奏。

 

そして「ずっと真夜中でいいのに。です」と挨拶してから『ヒューマノイド』をなだれ込むように演奏した。

 

ヒューマノイド

ヒューマノイド

  • ずっと真夜中でいいのに。
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エレキギターもかき鳴らすACAね。1曲目はスローテンポの曲だったこともあり、じわじわと盛り上げるかと思いきや、序盤からフルスロットルでハイテンションなステージを繰り広げる。

 

レーザー照明がステージから客席へと無数に飛び交う景色は圧巻だ。演出も最高である。

 

曲が終わると「Have a」という文字がスクリーンに映り、曲間なしで『はゔぁ』が始まる。ファンのテンションを限界突破させるつもりだろうか。それぐらいに畳がけるように演奏が続く。

 

このような状況の中、来てくださりありがとうございます。これが4回ある公演のうちのラストです。お互いに楽しい時間にできたらと思います。なにとぞです。

 

 短いMCを挟んでから披露されたのは『繰り返す収穫』。

 

心地よいミドルテンポの演奏と繊細な歌声。先程のハイテンションで胸を躍らせる演奏とは真逆で、胸に沁み入るような落ち着いた演奏だ。

 

心地よい余韻が残る中、次は実験的な楽曲『機械油』が披露される。この曲では小山豊による津軽三味線の演奏も加わった。

 

機械油

機械油

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ACAねは小山の近くに行って、三味線の音に合わせるように歌う。

 

しかし楽曲はブラックミュージックの影響を感じるリズム。ライブでの演奏はロックのように力強い。和楽器の三味線とは異色の組み合わせなのだ。それが新鮮で刺激的である。

 

バンドとスタッフの力だけでは良いライブは創られない。観客の力もあって最高のライブが完成する。

 

そんなことを『彷徨い酔い温度』を聴いて改めて感じる。

 

彷徨い酔い温度

彷徨い酔い温度

  • ずっと真夜中でいいのに。
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この曲ではほとんどのバンドメンバーが自身の楽器を演奏しない。

 

吉田宇宙ストリングスは新聞紙を丸めたり破るする音で演奏に参加し、他のメンバーはシャモジをパーカッションのように叩いている。布団を叩いているメンバーもいた。ACAねは電子レンジを棒で叩いてパーカッション代わりにする。身近にあるものを全て楽器にしてしまう。

 

そんな演奏に彩りを与えるのはファンの手拍子だ。その音が響くことで『彷徨い酔い温度』は完成するのだ。

 

スクリーンに客席が映る。手拍子をしたり腕を降っているファンの姿が映る。まるでファンも演奏に参加しているように見える。

 

客席がスクリーンに映ったのはこの曲だけだった。やはりこの曲は特にファンと一緒に作り上げる楽曲なのだろう。

 

 

後半

 

ACAねが「一度、座って」と言って客席全員を座らせると、ロウソクの火を消すように息を吐いた。

 

そして会場の電気が全て消える。光が無くなった空間で、ピアノとストリングスの音に合わせ、ゆっくりと歌い始めた。

 

曲は『過眠』。スローテンポのバラードだ。

 

過眠

過眠

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光のない空間だからステージは見えない。何も見えない環境で、音楽にだけ集中することになる。より歌や演奏の凄みを実感する。

 

じわじわと胸に沁みていく繊細な歌声。それに聴き入っていると少しずつ照明の光が点いていく。オーロラのような照明がステージから客席へと伸びていく。

 

音楽の素晴らしさだけでなく演出の美しさにも感動した。

 

メンバーは技術も才能もあるミュージシャンばかり。演奏だけで勝負できる実力者ばかり。そこにあえて拘り抜いた演出が重なることで、よりライブが魅力的になっていく。鬼に金棒である。

 

次に披露された『ろんりねす』もそうだ。

 

ジャジーな演奏と椎名林檎の影響を感じるメロディが心地よい。目を閉じて聴いても感動できるようなクオリティだ。

 

しかしACAねは歌いながら小道具を使う。まるで演劇の舞台のように。やはり音楽だけで勝負できるのに、演出でも引き込んで惹きつける。弁慶に薙刀である。

 

そんな演奏や演習は『眩しいDNAだけ』で再び変わる。熱気を帯びたパフォーマンスを畳みかける展開になった。

 

眩しいDNAだけ

眩しいDNAだけ

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興奮し椅子から立ち上がり、手拍子したり腕を上げて盛り上がる客席。全身で歌っているかと思うほどに、物凄い熱量と声量とで叫ぶACAね。最後のサビ前には、音源よりも長い時間シャウトをした。

 

そしてMVと同じアニメ映像をバックに『暗く黒く』を演奏。

 

暗く黒く

暗く黒く

  • ずっと真夜中でいいのに。
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プログレッシブロックのように複雑で展開が目まぐるしく変わる楽曲。ライブではアレンジも進化し、音源を超えるハイレベルなセッションが繰り広げられる。そんな圧倒され鳥肌が立つ。

 

さらに畳がけるように代表曲の1つである『秒針を噛む』のイントロが流れる。それを聴いたファンの手拍子が自然と大きくなる。ACAねは再びギターをかき鳴らしながら歌う。盛り上がりは最高潮だ。

 

秒針を噛む

秒針を噛む

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この曲はかつてはコールアンドレスポンスがあった。しかし今のご時世では行うことができない。

 

その代わり最後のサビ前には〈このまま奪って 隠して 忘れたい〉というサビのフレーズに合わせ、ファンに手拍子を求めた。声ではなく手拍子によるコールアンドレスポンスだ。

 

コールアンドレスポンスをやる都度に「もっと!」「もっと!もっと!」と珍しくテンション高く喋るACAね。それに比例して手拍子も大きくなっていく。

 

これが会場にいる全員のテンションが最高潮になった瞬間だ。ACAねの魂を振り絞るように叫ぶ歌声は、この日一番大きな声に感じた。ファンの手拍子も1番大きく聴こえた。

 

そのテンションは『秒針を噛む』が終わっても続く。次の『マイノリテ脈絡』でも全身で歌うように、全てを振り絞るように歌う。演奏もどんどん激しくなっていく。

 

代表曲を終えたからと、盛り上がりのピークが終わるわけではない。

 

このバンドは素晴らしい楽曲ばかりで、どんな楽曲も最高の歌と演奏で届けてくれる。だから『秒針を噛む』以降に披露された楽曲でも客席の盛り上がりは維持されているのだ。

 

ACAねが指揮者の真似をして、それに合わせて村山☆潤が調子外れなピアニカを吹いてから始まった『正義』も素晴らしかった。

 

正義

正義

  • ずっと真夜中でいいのに。
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サビではレーザー照明が飛び交い、派手な照明がステージを照らす。ACAねは飛び跳ねたり、ステージの上手から下手まで動き回たりと、楽しそうに歌う。

 

ライブも後半。それもあってかメンバーはみんな楽しそうに演奏し歌っている。この曲の時だけは独特な緊張感も不思議な世界観もあまり感じなくなり、音楽の楽しさだけを自然と感じる時間になった。そんな雰囲気も悪くない。

 

本当にきてくれてありがとうございます。

 

自分にはこれが正義だと言い切れることはないです。何かを貶して自分を正当化したりもしたくないです。言い切った正義は嫌いです。それについてこれからも研究していきたいです

 

ACAねが言葉を選びながらゆっくりと話し『正しくなれない』が演奏された。これが最後の曲だ。

 

正しくなれない

正しくなれない

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彼女自身にとって思い入れが強く、特に伝えたいメッセージがある曲なのだろう。叫ぶような曲でもないし、アップテンポの曲でもない。それでも感情的で胸に刺さるような声で歌唱している。

 

ずとまよは複雑な構成の楽曲と、ACAねの歌唱力の高さが特に魅力的で個性的に思う。

 

しかし魅力はそれだけではない。音楽を通して力強くも優しいメッセージを届けようとしていることも魅力の一つであり、ずとまよの音楽に惹かれてしまう理由だ。

 

すぐにアンコールを求める拍手が巻き起こり、再びステージに戻ってきたずっと真夜中でいいのに。ライブ本編とは違いリラックスした雰囲気だ。

 

『奥底に眠るルーツ』をオレンジの照明に照らされながら、優しく包み込むような歌と演奏で披露する。客席のファンも同じように、温かくて優しい手拍子を鳴らす。

 

奥底に眠るルーツ

奥底に眠るルーツ

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さまざまな事情で来れなかった人がいることも知っています。そんな人とも直接会えるように、ライブは続けていきたいです。今日来てくれた人とも、また会いたいです。本当にありがとう。

 

今日の感謝とライブへの想い、そして来れなかった人も含めたファンへの想いを語ってから、新曲を披露した。

 

メロディはずとまよの個性が詰まっている。ミドルテンポだが演奏は複雑。韻を踏み続けるサビの歌詞が心地よい。新しい名曲が、また一つ生まれた。

 

これが本当に最後の曲です!ここが私のラボ!ありがとう!

 

ACAねが感情をぶつけるように叫んでから、最後の曲が始まる。

 

ラストは『MILABO』。ステージ上のミラーボールが回り、ステージが煌びやかに彩られる。その光は客席にも届いて、腕をあげたり手やシャモジを叩くファンも明るく照らされている。

 

MILABO

MILABO

  • ずっと真夜中でいいのに。
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ACAねは飛び跳ねたりステージを動き回たりと楽しそう。バンドもメンバー同士でじゃれあったりと楽しそう。もちろんファンも楽しんでいる。マスクで隠れていても、きっとみんな笑顔だった。

 

後半にはバンドメンバーのソロパートがあった。そこではスクリーンにメンバーの名前が次々と紹介されていく。

 

メンバー紹介の最後には「EVERYONE SHAMOJI」という文字が浮かび、客席がスクリーンに映された。その瞬間に客席の手拍子やシャモジを叩く音が大きくなる。

 

ファンも音楽をライブで鳴らしている。やはり最高のライブは最高のファンがいなければ成立しない。それを証明するような演出とファンの熱量だ。

 

演奏を終えてステージを後にするメンバー。ACAねは「また会おうね」と言ってから去っていった。

 

簡単にはライブは行えなくなってしまった世の中。様々な事情で簡単にライブが中止されてしまう世の中。だからこの言葉が、とても優しく聴こえた。希望の言葉に感じた。

 

終演後のスクリーンには「ありがとう。健康でいて。また会わせてください」とACAねの書いた文字が映されていた。

 

また会うためには感染症対策を徹底して守り生活する必要がある。またライブが行われ続ける世界を守るために、健康に気をつけなければならない。

 

「正しくなれない」と思ってしまうことが多い世の中。 「正義」が何か見失ってしまうような世の中。

 

だとしても、またずとまよに会うためには、何が正しい行動か自ずとわかるはずだし、何が正義かも見えてくるはずだ。

 

ずっと真夜中でいいのに。『CLEANING LABO「温れ落ち度」』at.幕張メッセイベントホール 2021.5.16(日)
■セットリスト

1.胸の煙
2.お勉強しといてよ
3.勘冴えて悔しいわ
4.ヒューマノイド
5.はゔぁ
6.繰り返す収穫
7.機械油
8.彷徨い酔い温度
9.勘ぐれい
10.過眠
11.ろんりねす
12.眩しいDNAだけ
13.暗く黒く
14.秒針を噛む
15.マイノリティ脈絡 
16.正義
17.正しくなれない

 

EN1.奥底に眠るルーツ
EN2.新曲
EN3.MILABO

 

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