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【ライブレポ・セットリスト】ずっと真夜中でいいのに。羅火羅武〜TOUR (カラカラブ〜ツアー)』 at 静岡市民文化会館 大ホール 2021.1.30(日)

ずっと真夜中でいいのに。は毎度の事ながら、シュールなライブをする。

 

過去にはバンドメンバーがヤンキーのコスプレをしたり、ステージ上で洗濯機を回したりしていた。カオスである。そんなシュールさに引きつつも、なぜか惹かれてしまう。それがずとまよの凄い部分かもしれない。

 

初のホールツアーであり今までで最も公演数の多い全国ツアーである『果羅火羅武〜TOUR (カラカラブ〜ツアー)』。その静岡公演も、やはりシュールでカオスだった。

 

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スラム街のような雰囲気の大規模なセットが建てられたステージ。ホールライブとしては壮大で迫力がある豪華なステージセットだ。

 

なかなかにかっこいいセットだが、よくよく見ると少し変である。

 

2階建ての怪しげな飲食店。ブラウン管のテレビゲーム。大きな小籠包の蒸し器。感じで書かれた不思議な名前の看板。置かれているセットの全てが独特だ。始まる前からシュールでカオスな空気を作り出している。

 

開演時間を過ぎると風の音のSEが流れ、バンドメンバーが90年代ビジュアル系のようなファッションで登場。謎のダンスを踊っているメンバーもいる。始まった瞬間からシュールでカオスな空気を増大させている。

 

登場したのは4名。ギターとキーボードとベースとドラム。今回のバックバンドは少人数かと思いきや、飲食店をイメージしたセットの2階部分の窓が空いた。

 

するとそこからラッパ担当のメンバーとトロンボーン担当のメンバーが登場し、ファンファーレを鳴らす。祝典でも始まるのだろうか。他のバンドメンバーも音を重ね、重低音響くロックサウンドを作り出す。最高なのに、シュールでカオスだ。

 

ファンファーを鳴らし終わると、そのまま『こんなこと騒動』のイントロへと雪崩込む。

 

それなのに、肝心のACAねが居ない。

 

どこから出てくるのかと思ったら、ステージ中央の階段上に置かれた蒸し器の中から出てきた。サザエさんのタマと同じ登場方法だった。やはりシュールでカオスだ。

 

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しかしACAねが「ずっと真夜中でいいのに。です...」と囁くように挨拶し歌い始めれば、空気は一転する。

 

1曲目から物凄い声量で歌うACAね。何度観ても衝撃的だ。この場に居る全員が、その歌声に感動している。そこから『低血ボルト』『勘冴えて悔しいわ』を、曲間なしのメドレーで畳がけるように続けた。

 

 

 

3曲を終えた頃には、最高の音楽による熱気に満ちた空気になっていた。シュールさもカオスさも気にならなくなっていた。

 

さらに『お勉強しといてよ』を続けるので、既にクライマックスかと思う盛り上がりになっている。エレキギターを掻き鳴らして歌うACAねもクールだ。

 

初めて静岡に来ました。静岡は東京から近いんですね。今日は静岡は東京と近い場所だと学びました。

 

ステージセットの看板とかも、すごく気に入ってます。静岡にも果羅火羅武の国を設立しました。異国に来た気分を感じてもらえたらと思います。

 

今日はあみ焼き弁当を食べました。めっちゃ美味しかったです。

 

しかしMCは支離滅裂でシュール。このギャップも魅力だ。

 

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ちなみに『あみ焼き弁当』は静岡の有名な弁当屋の看板メニューである。

 

多くのアーティストが静岡で食べたものとして『さわやか』のハンバーグを選ぶのに、あえて『あみ焼き弁当』に言及するのもポイントが高い。あみ焼き弁当を用意したスタッフも素晴らしい。あみ焼き弁当によって客席と心の距離を近づいた。

 

アップテンポの曲を続けて盛り上げた序盤だったが、ここからは様々なタイプの楽曲を披露していく。

 

「昔に作った曲です」と言ってから『居眠り遠征隊』をしっとりと歌う。客席は身体を揺らしたり、グッズのしゃもじを叩いたりと自由に楽しんでいた。

 

最近はライブの後半で披露されることが多い『MILABO』は前半で早くも披露。小籠包の蒸し器の上にミラーボールが置かれ、そこに照明があたることで、会場全体が光で包まれる。美しいのにシュールだ。

 

ACAねがしゃもじを横に振る動きに合わせ、会場全体がしゃもじを同じように振る。あみ焼き弁当で近づいた心が、音楽によってさらに近づいていく。

 

三味線を弾くメンバーも加わった『機械油』を心地よいリズムで演奏するバンド。ACAねが電子レンジをハンマーで叩くと、ドーナツ型の煙がステージセットから飛び出る。

 

この曲をやる時は定番の演出ではあるが、今回は初の静岡公演。そのシュールでカオスな演出に驚いている人もいるようだ。

 

ACAねが「しゃもじ」とつぶやいてしゃもじを掲げた『雲丹と栗』では、この日1番大きな音のしゃもじを叩く音が客席から響く。ACAねはしゃもじで自分の頭を叩いていた。

 

小籠包の蒸し器の上に置かれた鉄琴を弾くACAねの姿もシュールだが、演奏は心地よい。

 

今日は猫をイメージして、猫の缶バッジをつけたり、髪型を猫耳にしてみました。猫の魂が今日のわたしには宿っています。猫です。

 

 

今日のACAねは、人間ではなく猫らしい。そして猫の魂を込めながら『 猫リセット』を歌った。

 

自分が前半の楽曲で最も鳥肌が立ったのは『眩しいDNAだけ』だ。

 

最後のサビ前に演奏が止まり、アカペラで〈満たされていたくないだけ〉と感情的にシャウトした声を聴いて、鳥肌が立った。感情が爆発した時のACAねは、物凄い迫力を発する。

 

 

 

キレッキレなパフォーマンスとシュールなMCで魅せた前半。しかし中盤ではACAねが「座ってください 」と言って全員を座らせて、自身も椅子に座ってしっとりとした曲を続けた。

 

「ばかであれという意味もある」と語ってからアコースティックアレンジで『ばかじゃないのに』を披露。新曲なのに新しい楽曲の一面を見せたことに驚いた。そこからACAねが立ち上がり『正しくなれない』を迫力あるボーカルで歌い圧倒させる。この曲順も良い。

 

『マリンブルーの庭園』では扇風機形の楽器“エレクトリックファン”を披露したりと、音だけだなく演奏姿でも楽しませていく。聴覚にも視覚にも刺激をあたえるのが、ずとまよのライブなのだ。

 

この3曲はACAねの指示通りに座って聴いていたファン。しかし『マイノリティ脈絡』のイントロが流れた瞬間に、みんな立ち上がった。この曲はみんな踊りたいのだろう。疾走感あるサビでは、全身を揺らしながらACAねは歌っていたし、客席はしゃもじを振って踊っていた。

 

ライブも終盤。鈴がついた指揮棒でACAねがメンバーの演奏を指揮してから始まった『正義』で、盛り上がりが加速する。

 

演出も派手になってきた。小籠包の蒸し器の上には再びミラーボールが置かれ、会場を光で照らしていた。シュールである。

 

ACAねは最後のサビ前に「あみあみ!あみ焼きーーー!!!」と叫び、感情を爆発させていた。あみ焼き弁当がそうとう美味しかったのだろうか。

 

この曲では激しく動きすぎたのか、猫耳の形の髪型が崩れてしまった。歌い終えてからスタッフに丁寧に直してもらい、猫耳を復活させてから演奏が再開した。彼女にとって猫耳はライブを中断せざるを得ないほどに必要不可欠なのだろう。

 

猫耳が綺麗に整ったのを確認して、最後のMCをするACAね。

 

大変な状況なのに、来てくれて嬉しいです。

 

ツアーがなければ作業ばかりで家にこもっていたと思います。こうして人と会えて良かったです。

 

最後、声は出せないけど、踊ろう。

 

そう言ってから始まったのは『あいつら全員同窓会』。イントロからファンのしゃもじを叩く音が大きく会場に響く。

 

サビではACAねと同じように、しゃもじを使って一緒に踊り一緒に飛び跳ねる。会場が揺れるような盛り上がりだ。この曲を聴きたくてライブへ来た人も多いのだろう。

 

曲の終わりにはフリースタイルで叫ぶように即興の歌詞を歌っていたACAね。その終わりに「仲間のドクロの証です」と言っていたのが印象的だった。ファンに向けての信頼と感謝を込めた言葉に思う。

 

 

 

演奏を終えてステージを去っていくACAねとバンドメンバー。すぐにアンコールの拍手が響き、それに応えて再登場すると、挨拶もせずに『秒針を噛む』からアンコールがスタート。

 

イントロが鳴った瞬間から、大きな拍手が巻き起こっていた。関東のライブではあまり見ることがない光景である。

 

この曲はずとまよの人気と知名度を急上昇させた、代表曲でライブ定番曲。しかし静岡に住むファンは、ライブへ初めて来た人が多いのかもしれない。だからこそ聴きたい曲には素直に喜び、ライブを観れる特別さに感動するのだろう。

 

最後のサビではメロディのリズムに合わせ、ファンに手拍子を求めていた。これはライブでは定番の演出である。

 

初めてライブへ来たファンも映像で知っていたのだろう。最初からバッチリと一体感ある手拍子を鳴らしていた。

 

「大きく」「小さく」「最初は小さく、だんだん大きく」「もっともっともっと大きく!」というACAねの要望にも、静岡のファンは東京のファンに負けないぐらいに見事に応えていた。

 

そんな客席を見渡して「ふふ/////さいっこうです/////」と言って照れ笑いするACAね。ファンだけでなく、メンバーもライブを心から楽しんでいるようだ。

 

アンコール1曲目で物凄い盛り上がりを作っていたが、まだまだ足りないのだろうか。「踊れる曲を」と言ってから『サターン』を演奏し、さらに熱気を上げていく。

 

サビはバンドメンバーがステップを踏みながら演奏していた。ファンも同じようにステップを踏みながら聴いている。静岡市民会館がダンスホールのような雰囲気になっている。

 

アウトロは音源よりも長いアレンジで打ち込みとACAねのギターだけになり、バンドメンバーは楽器を置いて奇妙な動きで踊っていた。客席も同じように奇妙な動きで踊る。ずとまよのライブは、やはりシュールでカオスだった。

 

今日は楽しくてずっとニヤニヤしてました。また会いにきて欲しいし、わたしも静岡に会いに行きます。

 

絶対にまた会いましょう。次が最後の曲です。

 

ラストは『脳裏上のクラッカー』。

 

中盤にはバンドメンバーのソロ回しがあったりと、言葉ではなく演奏でバンドメンバーの重要さを伝える。ACAねがアウトロの最後に全てを出し切るように叫んで、演奏が終わった。

 

この日一番長くて大きな拍手が鳴り響く中、ステージを去っていくメンバー。ACAねは小籠包の蒸し器の中に入って消えていった。やはりシュールでカオスである。しかし最高なライブの締めくくりでもあった。

 

今の自分は首都圏に住んでいる。チケットさえ手に入れば、好きなアーティストのライブへ行くことは容易い。

 

しかし自分が地方に住んでいた学生時代はどうだっただろうか。

 

簡単にはライブには行けなかったし、好きなアーティストが地元へ来てくれることは大きなイベントだった。チケットが手に入らなくても、来てくれるだけでも嬉しかった。ライブに行けた時は、それだけでものすごく感動した。

 

ずとまよの静岡公演にも、そのようなファンがたくさんいたと思う。首都圏のファンとは違う喜びを感じているファンも少なくなかっただろう。特に今回はずとまよにとって初の静岡公演。そんな喜びが溢れた空気が客席には流れていた。

 

ちなみに自分の実家は静岡だ。好きなアーティストが自分の生まれ育った土地に来てくれることは、大人になっても嬉しい。

 

コロナ禍でのライブ開催は簡単なことではない。様々なリスクを覚悟した上で開催されるし、ファンもそれを背負って参加する。特に全国ツアーは安全面でも利益の面でも難しくなった。

 

しかしアーティストが地方に来てライブを行うことは、それだけで希望になる。多くの人を喜ばせて救う行動だ。忘れられない一生の思い出を作ることにもなる。

 

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帰りにツアートラックを観て「このトラックで全国に運ばれたものは、機材や楽器だけではないんだよな。希望と感動なんだよな」と、ふと思った。

 

■ずっと真夜中でいいのに。羅火羅武〜TOUR 』 at 静岡市民文化会館 大ホール 2021.1.30(日) セットリスト

01.こんなこと騒動
02.低血ボルト
03.勘冴えて悔しいわ
04.お勉強しといてよ
05.居眠り遠征隊
06.MILABO
07.機械油
08.雲丹と栗
09.猫リセット
10.眩しいDNAだけ
11.ばかじゃないのに
12.正しくなれない
13.マリンブルーの庭園
14.マイノリティ脈絡
15.正義
16.あいつら全員同窓会

 

EN1.秒針を噛む
EN2.サターン
EN3.脳裏上のクラッカー

 

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