2022-02-02 【レビュー・感想】つじあやの『HELLO WOMAN』でオルタナティブロックをやり始めた件 つじあやの レビュー HELLO WOMAN(初回限定盤:CD+DVD) アーティスト:つじあやの ビクターエンタテインメント Amazon つじあやのの音楽は優しい。声質は柔らかいし、メロディはキャッチーで美しい。それはデビュー当初から、ずっと変わらない。 最新アルバム『HELLO WOMAN』でも、やはり彼女の音楽の魅力と個性は全くブレていなかった。それどころか原点回帰に感じる部分が、最新作にはある。 つじあやのはアマチュア時代に、鴨川の河川敷で弾き語りをしていたという。これが彼女の音楽活動の原点だ。 今作ではQUEEN『Killer Queen』をウクレレの弾き語りでカバーしているが、これは音楽への向き合い方は活動当初からずっと変わっていないことを示して切るのかもしれない。 『泣き虫レディバード』や『シンデレラ』はウクレレの音色が要となっている。これもつじあやのの個性と強みが活かされていて、原点を感じる楽曲だ。 つまり『HELLO WOMAN』は全体的に、つじあやのの変わらない個性と魅力を感じる作品になっているのである。、 しかしだ。『朝が来るまで』という楽曲だけ、おかしい。明らかに浮いている。そのせいで、狂気を感じる。 朝が来るまでつじあやのJ-Pop¥255provided courtesy of iTunes この曲だけ、オルタナティブロック、もしくはポストロックなのだ。つじあやののイメージと、大きくかけ離れているのだ。 陽の当たる坂道を自転車で駆けのぼるのが通常のつじあやのならば、『朝が来るまで』のつじあやのは台風の坂道をトラックで駆け下りている。危ない。 ゴリゴリのベースと重厚な音色のドラムが支える演奏。そこに歪んだエレキギターのカッティングが音に厚みを加えている。 さらに複雑なフレーズを弾くエレキギターとシンセサイザーが絡み合い、個性と魅力を作り出す。 マニアックかつこった編曲のオルタナティブロックになっている。音だけを聴いたら、誰もつじあやのの曲だとは思わないだろう。 そんなサウンドに乗っかるのは、いつもと変わらない優しい歌声。メロディもいつも通りに可愛らしくてキャッチー。 イメージと真逆な音楽に、イメージ通りの歌声が重なる。そのギャップかクセになる。意外にも相性が良い組み合わせで中毒性がある。 以前もGRAPEVINEが演奏に参加した『Shiny Day』やBEAT CRUSADERSとコラボした『ありえない奇跡』など、真逆の立ち位置と言えるアーティストとコラボレーションし作品は作っていた。 定期的に新しい挑戦をして、その都度に新しい魅力を引き出してきたのだ。『朝が来るまで』も、新しい挑戦の1つかもしれない。 ちなみに『朝が来るまで』の編曲はクラムボンのミトらしい。たしかにクラムボンの曲でありそうな編曲だ。これは「つじあやの × クラムボンのコラボレーション」ではないか。 もちろん他の収録曲も良いのだが、自分は『朝が来るまで』にインパクトを感じたし、この曲があるからこそアルバムに深みが増していると感じる。 つじあやのは爆発的に売れたミュージシャンではない。しかし20年以上メジャーレーベルで音楽活動を続けている。これは簡単なことではないし、物凄いことだ。 きっと変わらないブレない個性を持ちつつも刺激的な挑戦を続けているからこそ、つじあやのの音楽は長く愛され続けているのだろう。