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ジャニー喜多川の性加害問題とそれを取り巻く事務所の対応や世間の反応に嫌悪感を覚えることについて

※この記事は2023年9月11日に書いたもので、当時の情報を元に、当時感じたことを書いています。

 

ジャニーズ事務所所属タレントが企業CMに使われなくなることは、当然のことだとは思う。

 

「タレントに罪は無い」ことは間違いないが、タレント自身と企業とで取引をしているわけではない。企業と企業の間での取引であり(人間を物扱いしたくはないが)タレントは商品もしくはサービスとして扱われる。商品やサービスが魅力的でも売る企業に倫理的な問題があるならば、取引を避けることは当然だろう。

 

それは一般消費者でも近い感覚は持っていると思う。例えば自分は味やサービスを悪いと思っていないがくら寿司には行かないし、便利だとしてもUberEATSは使わないし、流行っていてもnoteで文章は書かない。それは企業の文化や体質、方針を全く支持できないし、したくないからだ。

 

だからアフラックのようにジャニーズ所属タレントに魅力や必要性を感じている企業は「事務所を介さずにタレントと直接契約できるようジャニーズ事務所に求める」という回答をしたのだろう。

 

モスバーガーはジャニーズのタレントを広告に継続して使うことを発表した。所属タレントに罪は無いし魅力があるので、どうしても使いたいと思ったのだろう。それに対して「ジャニーズのタレントを使うことは性加害を肯定している」という批判もある。

 

しかしジャニーズのタレントを使ったからと「性加害を肯定している」という意見は極論にも思う。それならば浜田雅功や草彅剛をCMに起用するが現役のジャニーズのタレントを使用しないアサヒホールディングスは「性加害は許さないが、不倫と公然わいせつは肯定する会社」になってしまう。そんなシンプルに考えられる問題ではないはずだ。

 

だが未成年への性加害はそれと比べてもセンセーショナルでデリケートな問題である。加害内容も重い。だから元社長の行動が理由だとしても所属タレントが出演すれば間接的に加害者が作った企業に金銭が渡る。それを理由に「性加害を肯定している」と判断されても仕方がないかもしれない。タレント本人に一切非がないとしても。

 

だからジャニーズのタレントがメディアや広告に出ることが難しくなることは納得できる。むしろ問題が解決がされていないならば当然の対応だ。

 

それでも自分はモヤモヤしている。ジャニーズのタレントがCMに出れないことに対してだけではなく、今回の事件にまつわる様々なことにモヤモヤしている。

 

世の中にはジャニーズのタレントが好きな人がたくさんいる。タレントだけでなく事務所自体を好きな人も少なくはない。逆にジャニーズのタレントや事務所に対し、憎しみを覚えるレベルで嫌っているアンチもいる。

 

その人達がジャニー喜多川の問題に言及すると「好き」「嫌い」という理屈では無い感情が関わってしまうので、どうしても偏った意見になってしまう。 もちろん冷静な人もいるのだが、感情が爆発して過激な意見をSNSに投稿する人もたくさんいる。何があってもジャニーズを擁護する人だったり、どんな対応をしてもジャニーズを批判する人だったりと。

 

自分が観測した範囲内の話ではあるが、始まりはジャニー喜多川の性加害問題だったはずが、批判の対象が少しずつズレていく人を多数見かけた。

 

ジャニーズのタレントの仕事が奪われることを喜び楽しんでいたり、タレントのSNSやブログやメディアでの発言をこじつけや揚げ足取りで叩くアンチもいる。「性加害」という言葉を利用し、自身の思想や政治的信条を拡めようとしているインフルエンサーや活動家も見かけた。被害者に取り入ってサポートしている関係者には事件を利用し自らの利益にしようとする胡散臭い人がいるようにも見える。

 

ジャニー喜多川よりもGACKTや山下達郎を叩くことに熱心な人や、逆に松尾潔を批判する人もいるようだ。ジャニーズを広告に起用した企業の不買運動を広めようとする人や、ジャニーズのタレントとの広告契約を解除した企業の不買運動をするファンも出てきた。今回の件とは全く関係ないのに、所属タレントのパフォーマンスや演技、発表した楽曲などの作品を無理筋に批判する人もいる。

 

「日本トップクラスの芸能事務所のスキャンダル」を面白がっている、ファンでもアンチでもない世間の野次馬も多い。ジャニーズ事務所の会見で質問きている記者やジャーナリストも、自らの手柄を得るために目立とうとしたり、性加害スキャンダルをエンタメにするための質問をする者が多数いた。彼らも「性加害」を面白がっている人間のひとりだ。

 

ワイドショーは潮目が変わったことを感じ取り「日本屈指の芸能事務所の衰退」を過剰な煽り文句を使い報じ、テレビのコメンテーターは薄いジャニーズ批判を意気揚々と喋る仕事をしている。掌返ししたメディアやマスコミが、人々の好奇心を煽り事件をエンタメへと昇華し消化している。

 

ジャニーズ事務所はジャニー喜多川が性加害を行っていたことを認めた。それでも被害者が救済されたわけではない。SNSで検索すれば過激なジャニーズファンが被害者を叩いてセカンドレイプをしている。新たな被害が生まれているのだ。

 

所属タレントは仕事が奪われてしまった。何かを発言すれば賛否が分かれ批判され、黙っていてもそれはそれで叩かれる。誹謗中傷だってされている。とある週刊誌の記者は「所属タレントからも性被害の訴えが出ないことがおかしい。それが残念だ」という意味不明なことを書いていた。

 

さらには「事務所のせいで仕事が無くなるなら辞めればいい」という無責任な意見も後を堪えない。それを今のジャニーズタレントに言える人は、被害者にも「性被害が嫌なら拒否して事務所を辞めればよかった」と言えるのだろうか。それぞれの事情や気持ちに思いを馳せれば、単純な問題ではないと分かるのではないだろうか。簡単に辞めることができるのは、強い人だけだ。

 

世間の野次馬は無責任に好き勝手言って面白がり、アンチは思う存分ジャニーズを叩くことができて喜んでいる。過激なファンは半ば無理やりにジャニーズ事務所やジャニー喜多川を擁護し、そのせいで事務所やタレントの印象がさらに悪化している。

 

これでは被害者もジャニーズのタレントも、さらに不幸になってしまう。得をしているのは面白がっている部外者や、取り入ろうとしている胡散臭い奴らだけだ。

 

それらの事柄によって被害者とタレントだけが不幸になっていることにモヤモヤするのだ。男性への性加害を軽く見ている一部のファンや、性加害問題を利用して嫌いなジャニーズを叩きたいだけのアンチや、性加害をゲスなゴシップネタ扱いして楽しむ野次馬がいることに、げんなりするのだ。

 

最も責任を追求されるべき加害者本人はこの世にいないし、マスコミやメディアは掌返しして逃げたし、ジャニーズ事務所は変革するつもりがあるのかないのか分からない曖昧な方針に舵を切った。どう転んでもも所属タレントや被害にあった元所属タレントが損をする流れになっている。

 

自分は好きなジャニーズのタレントが沢山いる。今後も応援したいと思っている。嵐や関ジャニ∞やSexyZoneはライブを観たことがあるが、内容は世界でも通用するであろうクオリティのエンターテインメントなステージで感動した。

 

だが今のジャニーズ事務所自体を支持したいとは一切思わない。なんなら今の方向性で突き進むならば、所属タレントのために事務所を解散した方が良いとすら思っている。可能ならば自分が好きなタレントには、信頼できるスタッフと一緒に辞めて新しく事務所を立ち上げてほしいとすら思う。

 

社長や幹部に所属タレントを抜擢することにも違和感を覚える。本来はタレントを守り管理する役割を担うのが事務所だ。なぜ事務所にいながら自分の身を自分で守らなければならないのか。これはタレント事務所としての仕事を蔑ろにしているとすら思う。

 

確かに東山紀之や井ノ原快彦はタレント以外の才能もあるだろうし、社長や幹部を任せられる器だと思う。だが本業はタレントだ。

 

他に社長や幹部を任せられる裏方の社員はジャニーズ事務所にいなかったのだろうか。もしくは社員の中から選べない事情があるのだろうか。その時点で事務所の運営が杜撰すぎるし、ジャニー喜多川の業界内での権力や、タレントの才能や協力してくれるクリエイターの技術に事務所は頼りきっていて、それに胡座を書いていたのではと思ってしまう。なぜいつも守るべきタレントを矢面に立たせるのか。事務所がしっかり守れよと。

 

会社名を変更しないことにも驚いた。会社名を変更することのデメリットもあることは理解できるし、所属タレントや関係者やファンも「ジャニーズ」という名称に思い入れがある人も少なくはないのだと思う。

 

だとしても事務所が「性加害はあった」と認定した元社長の名前を、今後も社名に残すべきではない。ジャニー喜多川が行ってきた仕事が偉大で事務所の繁栄に大きく貢献したとしても、それとは別問題だし、過去の偉業すら霞む重い罪である。ジャニー喜多川の影響を残すべきでは無いし、ジャニー喜多川の影響下から決別すべきだ。

 

そのために会社名を変更し、社長及び幹部を一新し、可能なら社長を外部から呼ぶ必要があったと思う。そこまでしなければ世間から信用も信頼もされないはずだ。ジャニーズ所属タレントを広告に使用していた企業も、会見での発表を待って対応を決めようとしていたと思う。世間から信頼や信用をされる対応や改善や変更を発表していれば、企業は変わらずに広告にジャニーズ所属タレントを使っていたはずだ。

 

ジャニーズ事務所の決断を100%支持しているのは「好きな所属タレント」を人質に取られているから無理してでも信じようとしている既存のファンと、全てを肯定してしまう盲目的なファンだけではないだろうか。多くのファンはモヤモヤした気持ちを抱えているだろう。ジャニーズ事務所は支え続けてきたファンまでも不幸にする対応をしたとしか、自分は思えない。

 

その上で憶測や噂レベルの話もあるので、被害者全員の告発全てを無条件に受け入れるのではなく、実際の被害について改めて調査するべきだろう。そこもしっかりと検証し、法の範囲を越えず法の範囲内で救済すべきに思う。

 

これは決して被害者が嘘を付いていると疑っている訳では無い。過去の出来事なので記憶間違いもあるし、現時点で被害者の告発に矛盾点があることが指摘もされているので、それを放置したまま救済することに問題があるという意味だ。これでは被害者が「金目当て」と誹謗中傷されて別の被害が生まれてしまう。被害者のためにもはっきりさせる必要があるのではないだろうか。

 

おそらくジャニーズ事務所で性加害が再発することはないだろう。直接的な加害は大きな権力を持ったジャニー喜多川によるものだけなのだから。

 

それでも加害者の名前か使われた「ジャニーズ事務所」という会社名を残すのならば、その影響は悪い意味で残り続けるはずだ。広告関係を中心に仕事は減るだろう。活動しているだけでタレント自身がバッシングを受ける事例も出てくるかもしれない。ジャニー喜多川の影がチラつくせいで、タレントを偏見の目で見る人もきっといる。ジャニーズ事務所が変わらなければ、何も悪くない今の所属タレント達の未来を潰す結果になってしまう。

 

会見に出席した3人の言葉や態度は、全てとは言わないが信用できるものがあったと思う。会見の全てを観れてはいないし「それはどうなんだ?」と懐疑的に思う発言や態度や方針の説明も少なくはなかったが、真摯に対応し変えていこうという意志は感じた。特に井ノ原の言葉は信じたいと思う。今の方針のままでは厳しい未来が待っているかもしれないが、そこに微かな希望をかけて見守りたい。まずは早急に被害者が救済されることと、タレントが安心して活動できる環境を整えることを最優先に活動してほしい。

 

どうか事務所も含めて応援したいと、再び思わせてくれる行動をしてほしいと思う。

 

そして批判すべきはジャニー喜多川の性加害であり、問題視し考えなければならないのはジャニーズ事務所の対応と今後についてであることを、忘れてはならない。そこからブレてはならない。