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【ライブレポ・セットリスト】syrup16g × 凛として時雨『SYNCHRONICITY'24 Wonder Vision supported by ライブナタリー』at LINE CUBE SHIBUYA 2024年4月7日(日) 

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この日のライブチケットはLINECUBESHIBUYAという二千人以上収容できる会場だったというのに、即完だったらしい。syrup16gと凛として時雨という組み合わせの対バンライブを、どうしても観たい人がそれほどたくさんいたようだ。

 

どちらもスリーピースロックバンドではあるものの音楽性は違う。だが何かしらの共鳴するものがある気がする。その共鳴するものを言葉にしようとしても不可能だ。ただ実際に二組を続けてみれば、言葉にできずともその理由を感じることはできるのかもしれない。それを確かめたいファンが多いのだと思う。

 

そんな二組の対バンライブは当然ながら素晴らしかったが、両者共に対バン相手について深くは言及はしなかった。だがこの組み合わせが特別であることを音で伝えるようなライブではあった。

 

凛として時雨

 

ライブの開演は16時30分。会場の外はまだ明るい時間だったし、この日は雲ひとつない快晴だった。とても爽やかな一日である。だがLINECUBESHIBUYAは、それとは真逆のどんよりとした空気に包まれていた。なぜなら凛として時雨のライブが始まったからだ。

 

薄暗い照明の中、怪しげなオーラを放ちながら登場した凛として時雨の三人。観客もそんな空気に呑まれたかのようにステージを傍観している。だがメンバーのライブへの意気込みや観客の期待は隠しきれていないからか、会場は熱気に包まれている。

 

そんな熱気をさらに高めるかのように『I was music』からライブが開始された。初っ端から飛びっきりに激しい楽曲だ。もちろん演奏もそれに見合うキレッキレなプレイだし、観客も溜まっていた熱量を放出するかのように盛り上がっている。

 

とはいえ今回は座席のあるホールかつ対バンライブ。ライブハウスほど激しくは楽しむことはできないし、凛として時雨をあまり知らない観客もいる。ライブハウスでのワンマンと比べると観客のノリは少し大人しく、様子を見ながら楽しんでいる人もいるような空気ではあった。

 

だがそんな空気は『DISCO FLIGHT』が始まれば崩れてしまう。345のベースから始まった瞬間に歓声があがったことも印象的だ。このバンドはどんな場所でもブレずにロックを鳴らすのである。

 

「凛として時雨です。今日はお客さんとしても楽しみにしながら家を出ました。エントリーナンバー1番。爆裂な音を鳴らしに来ました」と謎の冗談を言うTK。大先輩へのリスペクトと宣戦布告の両方を感じる冗談だ。

 

次に演奏されたのは『abnormalize』。アニメタイアップ曲だったので、ファン以外も知っている人が多い楽曲だ。そんな楽曲でsyrup16gのファンの心を掴んでいく。さらに激しい演奏で『Marvelous Persona』を続けたりと、ひたすらに迫力と勢いで観客を圧倒させていた。

 

だが凛として時雨は勢いだけのバンドではない。それを証明するかのように『illusion is mine』が演奏されると、会場は幻想的な雰囲気へと変わっていく。345のボーカルが映える楽曲で”心地よい轟音”という、他にはないであろう音色と演奏で観客を魅了する。『a symmetry』もスリーピースとは思えない音の厚みがあって最高だ。このように繊細な演奏や迫力のある演奏でも観客を魅了できるバンドなのだ。

 

ここでピエール中野が立ち上がり「ピエール中野と申します」と丁寧に挨拶し、TKと345とメンバーを改めて紹介していた。syrup16gのファンへの配慮なのだろう。だがバンド全体の説明について「突然ドラムが喋り出すバンドです」と話していたことには抗議したい。もっと他に良い紹介文があった気がする。

 

「代々木公園ではわんわんカーニバルがやっているます。わんわんカーニバルの裏でやるライブなので、犬に負けないぐらい癒し系な演奏をします!」と犬への対抗心を燃やすほのぼのとした意気込みを語るピエール中野。

 

だが次に演奏されたのは『アレキシサイミアスペア』。演奏は衝動的でサウンドは轟音だしで、癒されてるどころか興奮で心拍数が上がってしまう。代々木公園の犬もビビってしまう激しさだ。TKと345の掛け合いのようなボーカルが特に印象に残る楽曲である。

 

さらにわんわんカーニバルの犬がビビるであろうキラーチューン『Telecastic fake show』が演奏された。イントロの時点で犬の鳴き声よりも大きな音がなっているし、テクニカルな演奏は凄すぎて圧倒されてしまう。だが時折Xポーズをするピエール中野はかわいかったので、それには癒された。

 

会場はものすごい熱気で満ちているが、ここで長い間が空く。観客の熱気も少しずつ冷めていき、集中してステージを見るモードへと変化していく。空気が完全に変わったところで『傍観』が演奏された。

 

真紅の照明に包まれながら、ミニマムでゆったりとしたリズムで演奏するバンド。だがステージは緊張で張り詰めていて、見ていてヒリヒリするのに目を離すことができないという、不思議な感情が渦巻いてくる。だからかさきほどまで身体を揺らしたり腕を上げて盛り上がっていた観客も、傍観してステージを集中して観ていた。それは後半にTKが絶叫しても変わらない。観客は叫んだり腕を上げたりもせず、耳をつん裂くほどの轟音を微動出せずに聴いて、叫ぶTKの姿をただただ傍観している。

 

ノイズが残る中、音を消さずにステージを去るメンバー。ただただ圧倒され続ける約1時間だった。この日のライブは「つまらない記憶」ではないけれど、衝撃が強すぎたからきっとこれからも記憶が頭に蘇るし頭を支配すると思う。

 

■セットリスト

1. I was music
2. DISCO FLIGHT
3. abnormalize
4. Marvelous Persona
5. illusion is mine
6. a symmetry
7. アレキシサイミアスペア
8. Telecastic fake show
9. 傍観

 

Syrup16g

 

凛として時雨の余韻が残る中、SEもなく静かに登場したSyrup16g。観客は拍手で迎え入れたものの、演奏準備を集中して進めるメンバーを静かに見守っている。温かくさと緊張が入り混じった独特な空気だ。

 

そんな空気の中で演奏された1曲目は新曲だった。おそらく初披露の楽曲だと思う。ミドルテンポの演奏とメロディアスな歌が印象的だ。誰も知らない楽曲なので、観客は静かに聴き入っている。

 

2曲目も新曲だった。こちらはART-SCHOOL木下理樹の生誕祭に出演した際にも演奏していて、〈つまらない君が好きだった〉という歌詞がキャッチーで、一度聴いたら忘れられない楽曲だ。だからか過去にシロップのライブに参加したことがある観客は「タイトルは知らないけど聴いたことはある!」と思ったのだろう。少しだけ緊張がほぐれ、身体を揺らしたりと楽しむ観客も出てきた。

 

 

続けて演奏されたのも、またもや新曲。オルタナティブなサウンドのイントロから始まるロックだが、ミドルテンポでメロディアスな楽曲だった。一昨年リリースされた現時点での最新アルバムも落ち着いたテンポのメロディな楽曲が多かったが、今のバンドはそのような楽曲をやりたいモードなのだろう。

 

新曲はどれも良いし五十嵐隆は機嫌な様子なのだが、流石に新曲が初っ端から3曲も続いたら異様な空気にはなってしまう。

 

だから『SonicDisorder』のイントロが鳴らされた時、安堵によって漏れたような歓声が客席に響いた。長いイントロから歌が始まると、会場の緊張はほどけ異様な空気は熱狂へと変わっていく。

 

演奏を終えて「チューニングを、直します...!待ちくたびれて、力の加減が、分からなくなってしまった...!」と言って興奮した様子でチューニングする五十嵐。チューニングを終えると風呂上がりの如く顔を激しくゴシゴシと擦るように拭く五十嵐。感情が昂りまくっているのだろう。

 

リバーブのかかったギターの音を確かめるように五十嵐が弾いてから、その感情の昂りをぶつけるかのように『生活』が始まった。その瞬間、会場の空気が大きく変わった。

 

バンドは先程までとは違い激しく衝動的な音を掻き鳴らし、五十嵐も叫ぶように歌う。それに比例して、観客のボルテージは一気に最高潮に。まるでライブハウスのような熱気で会場が包まれる。その勢いは凛として時雨にも負けていない。

 

ここで中畑大樹がしどろもどろになりながら話し始めた。「今日はドラムが喋る日なんですよね」と言っていたので、ピエール中野のせいでMCはドラムが担当するのだと勘違いしているのだろうか。

 

見ての通り、若くは無いです...

 

なかなか人に誘って貰えないバンドなので、対バンは少ないんです。でも今日は誘って貰えたので出ました...。嬉しいです///

 

中野くんがアクリルのドラムセットで来るかと思ったので、お揃いにしたくて今日は自分もアクリルのドラムセットにしました。でも、今日の中野くんは普通のドラムセットでした......。

 

これ以上喋ると曲をやりにくくなるんで、曲をやります...。

 

照れたり喜んだりショックを受けたりと、感情の起伏が激しい中畑。

 

バンドの演奏も感情の起伏が激しい。続く曲は『センチメンタル』。『生活』ではアップテンポの衝動的な演奏で観客を高揚させていたが、今度はミドルテンポで轟音をならし観客を音で包み込み圧倒させる。次に演奏された『負け犬』もそうだ。音の迫力で観客に衝撃を与えるような感じだ。

 

ここで再び新曲が演奏された。リバーブのかかったギターのアルペジオが印象的な、メロディアスな楽曲だ。やはり今のsyrup16gは落ち着いたメロディアスな曲を創るモードなだろう。

 

次に演奏されたのも新曲だった。こちらは歌だけでなく演奏もメロディアスだ。特にキタダマキのベース。リズム楽器として演奏を支えつつも、メロディを奏でるようなベースラインを弾いている。この新曲はキタダの演奏が要になっているのだろう。

 

「新曲をいっぱいやってしまって、ごめんなさい...」と謝罪する五十嵐。しかし謝る必要などない。観客は新曲にも感動しているのだから。この言葉の後に温かな拍手と笑い声が客席から盛れたことが、その証拠だ。

 

「普段あまり声を出すことが無いので、歌うことでコミュニケーションを取っています」とも話す。これに対しても温かな拍手が響く。音楽によってコミュニケーションが取れているからこそ、響いた拍手だ。

 

ライブも後半。ここからはさらに熱い”音楽によるコミュニケーション”がされていく。『coup d'État』を叫ぶように歌い、そのまま『空をなくす』へと傾れ込む。この2曲が収録されていたアルバムでも同じ流れだったので、昔からのファンは生演奏で再現されたことに歓喜しただろう。そんな歓喜を興奮に変えるような激しい演奏で圧倒させる。

 

ラストは『落堕』。中畑のドラムから始まった瞬間に、客席から歓声が響く。客席に叩きつけるかのような激しい演奏と荒々しくも熱量が凄まじい歌で、凛として時雨のファンも含めた観客全員を興奮させる。前半は新曲が多かったし中盤も落ち着いた楽曲が多かった。その時は音に浸っていた観客だが、最後は真逆の反応で最高の盛り上がりになっている。これだけ濃い演奏で感情がドロドロとしてしまうライブをやっていたのに、メンバーは颯爽と帰っていった。

 

アンコールに応えて再登場したメンバー。しかし五十嵐だけがステージに出てこない。動揺する中畑とキタダ。中畑が「いない!がっちゃーん!」と呼び込み、観客も「がっちゃーん!」と声援を送る。音楽性とは相反してほのぼのとした空気だ。そんな呼び込みに応え、よちよちと歩いてくる五十嵐。わんわんカーニバルの犬よりもかわいい歩き方だ。ほのぼのとしていてとても癒される。

 

だが五十嵐がギターを持ち演奏の準備にかかると、ほのぼのとした空気は変わった。挨拶すらせずに始まったのは『真空』。「パンクロックか?」と思ってしまうほどの荒々しく激しい演奏で、観客も呼応してライブハウスかのように盛り上がっている。間奏で大歓声が巻き起こったことも忘れられない。とにかく演奏も客席の空気も、なにもかもが熱くて最高だったのだ。

 

演奏を終えてステージを颯爽と去っていく中畑とキタダ。やりきった表情でよちよち歩きで変える五十嵐。そんな三人に盛大な拍手を贈る観客。挨拶すらせずにライブを終えたが、五十嵐は「歌うことでコミュニケーションを取っている」と言っていたのだから、言葉として挨拶をする必要などないのだろう。音楽によってきちんと観客に伝わったはずだから。

 

直接励まされるような歌をうたってはいないし、明るく元気な曲などsyrup16gには皆無だ。それでもロックバンドが演奏するだけで、ロックを愛するものは希望を感じるし勝手に力をもらっている。それを証明するようなライブだった。これで明日も、生活はできそう。

 

セットリスト

1.新曲
2.新曲
3.新曲
4.SonicDisorder
5.生活
6.センチメンタル
7.負け犬
8.新曲
9.新曲
10.coup d'État
11.空をなくす
12.落堕

 

アンコール

13.真空