2025-02-27 【ライブレポ・セットリスト】くるり『ホールツアー 2025 Quruli Voyage 〜くるりと弦楽四重奏〜』 at サンシティ越谷大ホール 2025年1月24日(金) くるり ライブのレポート ライブを観る前から今回のくるりのツアーは、いつも以上に特別な内容になるのだと予想していた。なぜならバンドに加えて弦楽四重奏を加えた編成での公演になるからだ。 くるりと弦楽は相性が良い。クラシック音楽の影響を大胆に取り入れたアルバム『ワルツを踊れ』だったり、NHKの番組の主題歌でありシングル曲の『Remember me』だったり、オーケストラや弦楽をフィーチャーした楽曲がたくさんあり、その全てが素晴らしいのだ。 過去にも弦楽やオーケストラを招いたライブは行っているが、弦楽とともにツアーを行うのは初めて。ツアーということで1回限りの特別なライブとは違った内容になるのかもしれない。 必ず素晴らしいライブになるという確信を持ちながら『くるり ホールツアー2025 Quruli Voyage 〜くるりと弦楽四重奏〜』のツアー初日が行われる、サンシティ越谷大ホールへ向かった。 特別な編成に合わせてか、ステージセットは美しい布のカーテンが貼られていて華やかだ。開演前のBGMはクラシック音楽が中心に使われていることもあり、客席には少しだけ厳かな空気で緊張感がある。 開演時間を過ぎて先にステージに現れたのは弦楽四重奏。まだステージや客席の照明が落とされないうちの登場だった。観客の温かく長い拍手の中、音を確認したりと演奏の準備を進めている。 遅れてくるりのメンバーとお馴染みのサポートメンバーが登場。そのタイミングで客席の照明が落とされると、岸田繁が弦楽四重奏を紹介するように手のひらで指し示し、弦楽四重奏が演奏を始める。 1曲目は『ハイゲンシュタッド』。弦楽をフィーチャーしたアルバム『ワルツを踊れ』のオープニングを飾るインスト曲で、弦楽の演奏だけで構成された楽曲だ。きっと今回のような特別編成でなければ披露されることがない曲だ。くるりのメンバーも観客と同じように弦楽の音に聴き入っている。 1曲目が終わり観客の盛大な拍手が鳴り響く中、岸田が「こんばんは。水先案内人のくるりです。今日はくるりの音楽とともに世界のご旅行に連れて行かせてもらいます」と挨拶をする。どうやら今回のライブは“旅行”がコンセプトのひとつらしい。 さらに鉄道オタクだからこその「ここは越谷なのでスカイツリーラインです。スカイツリーラインに乗って世界各国をご旅行してもらいます」という説明までしていた。観客は苦笑いしていた。 バンドの演奏が加わっての2曲目は『サンタルチア』。イタリアのナポリ地方で親しまれている民謡のカバーだ。 弦楽の美しい音色に寄り添うように、バンドはアコースティックな優しい演奏をしている。サポートドラムの石若駿が鉄琴を弾いていたことも印象的だ。岸田はオペラ歌手かのように歌い上げていたのも珍しい。曲も演奏も歌唱も、なかなかにレアである。 続く『BLUE LOVER BLUE』も超絶レア曲である。レゲエのリズムにクラシックの影響を感じる弦楽の演奏が組み合わさるサウンドが新鮮で面白い。ステージセットの無数の豆電球が星のように光る景色も美しかった。 心地よい演奏の曲続けた序盤だが『アナーキー・イン・ザ・ムジーク』て空気が変わる。バンドは激しいロックな演奏を掻き鳴らし、今度は弦楽がロックに寄り添うようなクールな音色を鳴らす。長尺のギターソロも最高だし、 佐藤征史のうねるようなベースもカッコいい。 今回のライブはロックバンドの演奏が弦楽に寄り添ったり、弦楽の演奏がロックバンドに寄り添ったりと、異文化がくるりの音楽によって混ざり合い交差するライブなのだろう。そんなことを演奏によって理解させてくれた。 岸田「改めましてこんばんは。水先案内人のくるりです。いきなりのRPGのダンジョンみたいな展開ですね」 佐藤「ダンジョンから脱落してもいいですか?」 MCでは独特な表現でシュールな会話を繰り広げるメンバー。さらにサポートメンバーと弦楽四重奏のメンバーをドラクエの職業かのように魔法使い、商人、王女、賢者、戦士、遊び人、などとイメージで職業をつけていく。ひたすらにシュールである。 1曲目は私が子どもの頃に音楽の授業で初めて日本語以外の言語で歌った曲の『サンタルチア』です。その後はウィーンで録音した曲を続けて演奏しました。 次はスコットランドで録音した曲をやろうと思います。 楽曲の紹介や説明をする時はシュールにならずに真面目に話す岸田。 続いて演奏された『さよなら春の日』は和を感じるメロディで、スコットランドで録音されたことが意外な楽曲である。この楽曲は壮大で弦楽と相性が良い。そのスケールの大きさや多幸感に満ちた華やかな音色に圧倒させられてしまう。 かと思えば『アマデウス』は薄暗い照明の中、ミニマムな演奏で披露した。サポートキーボード野崎泰弘の演奏と弦楽四重奏の演奏が全面に出た構成で、怪しげで音に吸い込まれるような感覚になってしまう。観客は演奏後に拍手すらできないほど曲に集中してしまったようだ。 岸田がテレキャスターをストロークして乾いた音を鳴らしてから始まった『GUILTY』も素晴らしかった。尖った歌詞を冷めたトーンで歌う岸田のボーカルとバンドと弦楽の壮大な演奏は真逆なようで意外にもマッチしている。 〈すぐに忘れるわ こんなこと〉という最後の歌詞を吐き捨てるように歌う姿は、くるりのロックな部分が顕著に現れた瞬間かもしれない。 岸田「世界各国をくるりの楽曲で旅をしていますけれど、どうですか“ふーん”って感じですか?」 観客「wwwwww」 佐藤「うちらはレコーディングした時のことを思い出して感慨深くなったりしてるんですけど、もしかしたらお客さんよりもうちらの方が感動してるですか(笑)」 いつも以上に感慨深そうに話す岸田と佐藤。近年の曲が少なめのセットリストだからか感傷的になってしまったのだろうか。 ツアーでは新作のリリース記念だったり、ライブで馴染みの曲を演奏することが多いですが、今回は普段はあまりやらない曲を中心にやっています。 今回のツアーは海外で作った曲だけを演奏します。くるりは海外に頻繁に行っていることを自慢するためです(笑) 2曲目はウィーンでレコーディングしたレゲエです。ウィーンでレゲエを撮るとか訳のわからないことをやっていました。ウィーンまで行って何をしてるんだという。 でも海外で買い物したら日本とは違う気分になって普段は買わない服やカバンを買ったりするでしょ?くるりはそんな感覚で海外で曲を作ってきた訳です。 だからウィーンでレゲエをレコーディングしちゃうんですね。 今回のコンセプトについて改めて説明する岸田。そのため必然的にレア曲を中心にバンドの歴史と軌跡を振り返るという特殊なライブになっているようだ。 MCでも普段はあまりやらない企画を取り入れていた。話すテーマについて書かれた紙が何枚か入った箱からくじ引きして、出てきたテーマについてエピソードトークをするコーナーが行われたのだ。 くじを引いたのは佐藤。テーマは『スコットランドで買ったバグパイプについて』。 20年以上前なんですがレコーディングでスコットランドに行ったら本場のバグパイプを欲しいと思ってしまって、本場の楽器店でバグパイプを買ったんです。セミオーダーまでして、色とかも好みの色に変えさせてもらったりして。 後日きちんと日本に届いてくれました。さっそくスタジオで組み立てて吹いてみたら、スコットランドと湿度が違うのか、リードが全部吹っ飛んでしまいました。使えませんでした。 佐藤のエピソードはややウケだった。佐藤も不安になったのか「こんな話で良いんですかね?」と微妙な表情で言っていた。 海外で作った曲を振り返ると、過去の様々なことを思い出して感慨深くなります。 今回のライブのセットリストもそうなんですが、作った時代が違ったりしても、曲に繋がりを感じることがあります。時間は繋がっているんですね。 くるりには時間をテーマにした曲がいくつかあります。それらの曲を演奏しようと思います。 岸田の言葉から続いたのは『Remember me』。音源に忠実な演奏で、それを生で表現することでアップデートされたような印象だ。演奏は音源以上に壮大に響いているのに、歌詞は音源以上に真っ直ぐと心に刺さってくるのが不思議だ。 個人的な話ではあるが、約2年前に子どもが産まれ親になってから、この曲の歌詞がより響くようになった。だからこそ弦楽四重奏を加えて原曲に近い形の演奏を生で聴けたことが嬉しい。 ピアノの軽快な演奏から始まった『京都の大学生』では岸田はハンドマイクになり、ステージを練り歩き歌う。 弦楽四重奏は昭和歌謡のような懐かしさを感じる演奏で楽曲を彩る。弦楽四重奏という言葉からクラシック音楽をイメージしがちではあるが、バンドと同じようにさまざまな音楽を奏でることができる。この楽曲では特にそれを感じた。スパンコールのギラギラしたカーテンがステージ裏に出てきたりと、演出でも楽しませてくれた。 「京都の大学生の2人は、その後、どうなったのでしょうか?その答えはこんな感じです」と粋な言葉を岸田が言ってから演奏されたのは『Time』。 バンドは優しい音色でゆっくりと丁寧に演奏し、弦楽はバンドに寄り添うような落ち着いた演奏で支え楽曲の雰囲気を引き立てる。 自分は『Time』が『京都の大学生』のアンサーソングということを知らなかった。だが歌詞を改めて聴くと繋がるワードがあったりと、違う時代の違う時に作られた曲でも繋がりはあって、時間の流れまでも音楽になっているのだとわかる。『京都の大学生』の2人のその後は、どうやらバッドエンドではなさそうだった。 岸田がアコースティックギターでリズムを取りながらカウントして始まったのは『スロウダンス』。 弦楽四重奏が音源とは違うアレンジのメロディを奏でていて新鮮だ。バンドはアコースティックな演奏で歌を引き立てている。弦楽四重奏はイントロでは華やかに演奏をしていたが、岸田が歌っている時は控えめな演奏をしていた。歌のメロディや歌詞が持つ切ない空気感が重要な楽曲なので、それを邪魔しないような演奏を全員が意識していたのかもしれない。 岸田「ライブをしていると終わる時間も意識しなければいけないじゃないですか」 佐藤「でも細かく意識しないといけないのは京都磔磔ぐらいですね。21時になった瞬間音が止められるんで」 岸田「腕時計はしてます?」 佐藤「普段はしてますけど、ライブ中はしてないです」 岸田「いくらぐらいの金額の時計ですか?」 佐藤「このベースと同じぐらいの金額ですね」 岸田「5万円ぐらい?」 観客「wwwwww」 佐藤「65万円」 観客「!!!!!!」 岸田「お、おう」 時計とベースの値段に驚く観客と少しだけ引く岸田。 佐藤がお金持ちであることが判明したタイミングで「次の曲はライブでやるのは2回目ぐらい」と言ってから『恋人の時計』が演奏された。2007年のツアーで演奏されていたので、岸田の発言は大嘘である。「ツアーでやるのは2回目」と言いたかったのだろうか。 原曲がクラシックをフィーチャーしたアルバムの収録曲だからか、弦楽の参加によって原曲に忠実に演奏された。しかしライブだと迫力が音源とは全く違う。個人的にはそれほど聴いていなくて収録アルバム『ワルツを踊れ』の中でも地味な曲という印象だったが、久々にライブで聴いて印象が変わった。 「懐かしい曲をやっていると、演奏しながら感慨深い気持ちになるというか......」と岸田がまたもや感傷に浸ろうとしていたところで松本がギターリフを鳴らしMCを強制中断させ『everybody feels the same』が始まる。岸田は「もうやるんですか?」と言いつつもしっかりと演奏に参加し激しくギターをかき鳴らす。 今回のライブはミドルテンポの落ち着いた楽曲が中心で、観客も座ってゆったりと楽しむ榕菴ライブだった。しかしこの楽曲では座りつつも身体を揺らしていたり腕をあげたりとノリノリでみんな楽しんでいる。 歌詞の地名をいくつも連ねるパートでは、しっかりと「越谷」と言っていた。もちろん客席からは歓声と盛大な拍手が鳴り響く。バンドの演奏はロックンロールで激しく、弦楽四重奏も同じように速いBPMでギターリフを弾くかのようなフレーズを弾いていた。弦楽だとしてもロックンロールをやることは可能なのだ。 それにしても弦楽四重奏が加わるとロックな楽曲でも華やかさと上品さが加わり、原曲とは違う不思議な音色になり新鮮だ。 『taurus』ではバンドは重厚なバンドサウンドを鳴らしていたが、弦楽四重奏は華やかな音色で演奏に寄り添い新しい魅力を付け加えていた。『飴色の部屋』もそうだ。複雑なフレーズが組み合わさったロックサウンドだが、弦楽は壮大で美しい音色を鳴らすことで楽曲に迫力を加えた。とにかくこのライブ、どの曲も新鮮に楽しむことができるのだ。 基本的にはバンドが軸にある演奏が多かったが、弦楽四重奏の演奏が特に全面に出ていた曲がある。『キャメル』だ。Daniele Sepeのアレンジバージョンのライブでの再現で、華やかながらも他では聴いたことがないような斬新なフレーズを弦楽が弾いていて、それに引き込まれた。 振り返ると色々な国に行きましたね。韓国にも行きました。 うちらのバンドはK-POP感ないですけれど、韓流がはやる前から韓国に行ってますから。韓国は電源が200Vで、日本よりギターの音がいいんですよね。だからレコーディングのために行ったんです。とても良いスタジオでした。 でもホテルの場所を間違えてレコーディングスタジオや都心からは遠い場所を取ってしましました。例えるならば越谷から霞ヶ関ぐらいの距離。まあまあの通勤時間が必要なぐらい離れていて大変でした。 またもや岸田から海外の思い出が話された。くるりにとって海外で音楽を作った経験はとても大切で思い出深い出来事だったのだろう。そんなエピソードを語ってから改めてメンバー紹介がされた。 ヴィオラの秀岡悠汰は岸田の自宅のすぐ近くに住んでいたらしく、学生時代のあだ名はヴィオラをやっていたということで「ヴィオラっち」と呼ばれていたそうだ。 岸田はそれを気に入ったらしく、ヴィオラっちと呼ぶようにしたという。佐藤は「今日はライブ前からずっとヴィオラっちとかよくわからないことを言ってると思ったらそういうことなんですね」と納得していた。 弦楽のスコアはいろいろな人が書いています。 ウィーンで出会ってライブも一緒にやった、私の師匠みたいな人のフィリップ・フリップだったり。彼に書き方を教わって自分が書いたり。『キャメル』もダニエレ・セーぺに新しくスコアを書いてもらって音源として出したり。 元々はお蔵入りにしていた曲で『心の中の悪魔』という曲があります。今回参加してくれているヴァイオリンの須原杏さんに新しいアレンジをしてもらって生まれ変わりました。お蔵入りだった曲も新しく生まれ変わりました。 岸田の説明の後に演奏されたのは『心の中の悪魔』。岸田のエレキギターによる弾き語りから始まり、そこにバンドが加わりロックサウンドになる。弦楽四重奏は意外にも控えめで、そんなバンドの演奏に少しの隠し味を加えるかのように美しいメロディをひっそりと奏でていた。 きっとくるりのバンドサウンドへのリスペクトがあって、それを大切にしながら須原はアレンジをしたのだろう。だがアウトロは弦楽四重奏がフィーチャーされた演奏になり、しっかりと弦楽の魅力を伝える演奏になっていたのは流石だ。 ドラムの力強いリズムから始まった『La Palummella』は、バンドと弦楽が戦うかのように両者の魅力がバチバチと伝わってくるアレンジだった。歪んだギターはロックとしか言いようがないし、弦楽の美強い音色も不思議と損なわれていない。キーボードの異国情緒を感じるフレーズも印象的だ。 何も説明がなく大きな謎の台がステージに登場し、当然のように楽器を持ってそこに座る松本。不穏な空気に耐えられなくなった客席からクスクスと笑い声が漏れる。 松本くんが持っているもんはトルコの楽器で私の所有している物なんですが、今日は松本くんに弾いてもらします。 この楽器はドレミファソラシドの半音をさらに半音にした音を鳴らせます。ピアノをイメージしたらわかりやすいんですが、黒鍵の音のさらに半音を鳴らせるんです。 最初はその音が変な音に聴こえていたんですが、だんだと癖になって魅力的に思うようになりました。そんな音を取り入れた曲をやります。 次の曲の説明をする岸田。松本が座る謎の台についてはやはり説明しなかった。 演奏されたのは『Liberty & Gravity』。たしかに不思議な音が聴こえる不思議な曲だ。そんなバンドの不思議な演奏に対して弦楽四重奏は美しいメロディを奏でて演奏に加わる。真逆の印象のものが組み合わさったら、新しい個性的な音楽になった。これは音源よりも良い意味で変態的だ。岸田は演奏中にギターを3回もチェンジしたりと忙しそうだったが、それだけ音にこだわりをもっているからなのだろう。 そこから続いたのは『ブレーメン』。弦楽四重奏が特に似合う楽曲で、個人的に最も今回のライブで聴きたかった曲だ。おそらく多くの観客がこの曲は演奏されることは予想していたと思う。それほどに弦楽がフィーチャーされている楽曲なのだ。原曲に近いアレンジで、原曲の魅力を損なわずにアップデートさせるような演奏を、バンドも弦楽四重奏もしていた。 『ブレーメン』という曲について、よく「ドイツのブレーメンについて歌っているんですか?」と聞かれるんですけれど、それは違うんです。 最初にこの曲のメロディができて、その時になんとなく「ブレーメン♪」って歌ってしまって、引き返せなくなったんです(笑) だからどうしようかと思って、ブレーメンというのは少年の名前ということにしたんです。だから地名のことや特定の土地について歌ったわけではないんです。つまり越谷くんみたいなもので、越谷くんという名前の人について歌ったような曲なんです。 先にメロディとブレーメンというワードができちゃったら、それに縛られてその後の歌詞がなかなか出てこなくなってしまいました。当時はウィーンでレコーディングをしていたんですが、スタジオの機材が壊れてプラハに行かなければならない時がありました。 その時にプラハ城を見て、急に歌詞が降りてきたんです。名が知れていない音楽家の少年が志半ば死んでしまったけれど、彼が亡くなった後も曲は残っていくという内容の歌詞が降ってきたんです。 だからこの歌の主人公は藤井風ではないです(笑)くるりよりももっと無名な音楽家が主人公です。 もしかしたら今回新しくスコアを書いてもらわなければ、くるりの曲でももう演奏されずに消えていく曲があったかもしれないです。でもこうしてスコアを書いてもらったことで曲が息を吹き返しました。曲が残ったんです。 歌詞を書く時はいつも悩みます。自分のことを書いても「鴨川を歩いてヘヘイヘイ!」みたいな内容しか書けないので(笑) ウィーンでレコーディングした時もそうです。良い曲ができたと思っても、歌詞がなかなか書けない。そんな時に助けてくれていたコーディネーターの人に「曲を聴いたらそこから浮かぶ言葉があるでしょ?」と言われて、ハッとしました。 その言葉がきっかけで、歌詞が書けた曲があります。その曲を最後に歌います。 丁寧に『ブレーメン』と次に演奏される曲について説明してから、最後に『ジュビリー』が演奏された。 音源と同じように弦楽とバンドの演奏は壮大だ。原曲に近いアレンジではあるが、岸田の歌声は他の楽曲以上にエモーショナルに聴こえたし、長いアウトロの演奏は生々しさと熱さも感じた。 盛大な拍手が長い時間続く。その拍手はだんだんとアンコールの拍手へと変化していく。今回のライブは椅子に座ってじっくりと音楽と向き合うような内容だったが、アンコールの拍手の揃い方からは、同じ音楽と感動を共有した仲間としての一体感があった。 アンコールに応えて再登場したが、出てきたのはくるりとサポートメンバーのバンドのみ。演奏されたのは『瀬戸の内』というタイトルの新曲だ。 ミニマムな演奏でピアノの美しい音色と岸田の優しい歌唱が心地よい。だがリズムが独特で不思議な気持ちになるのは、くるりの音楽が持つ特徴とも言える。もしかしたらくるりは次のアルバムに向けて制作を始めているのだろうか。 ワンマンのアンコールでは定番の物販紹介は観客の手拍子に合わせて佐藤が歌いながら説明していた。カオスである。さらにはバンドが物販紹介に合わせてアドリブでジャムセッションまで始めた。これはもう物販紹介のために生まれた新曲だ。 弦楽四重奏が再登場して披露されたアンコール2曲目は『ふたつの世界』。キャッチーなポップスだがコード進行やリズムが独特な曲である。弦楽が加わることで華やかになり、原曲の魅力を残しつつも少し違う印象を与えるサウンドになっていた。 ツアーを無事に始められて良かったです。無事にツアー初日を終えられそうです。 出会いは一期一会だと思います。ですがまた皆さんとどこかでお会いできたら嬉しいです。 今回のツアーは越谷から始まります。ここから全国を回る旅を始めます。そしてまたいつか越谷に戻って来れる日が来たらと思います。 ちょうど24年前の今日に発表した曲を最後にやってお別れです。 岸田がそう言って最後に演奏されたのは『ばらの花』。ライブが行われた日のちょうど24年前の2001年1月24日にリリースされた楽曲で、くるりの代表曲のひとつだ。 バンドの丁寧な演奏に弦楽四重奏がそっと花を添えるかのように美しい音色を重ねて、ほんの少しだけ楽曲を華やかに美しく彩る。 24年前に生まれた曲だが今でも色褪せずに名曲であり続けているし、それどころか新たなアレンジが加えられることでより魅力が増している。最後は弦楽四重奏だけで『BABY I LOVE YOU』のAメロのメロディを奏でて曲を終えるアレンジも良い。 バンドがベテランと言われるキャリアになったとしても、くるりはその立場に驕ることなく新たな挑戦をして進化をしている。今回のツアーを特殊な編成で行うことも挑戦の一環だと思う。 今回のツアーは「海外レコーディングをした曲」という縛りをつけた上でのセットリストでくるりの軌跡を辿り、そのうえで過去の楽曲を今のくるりの挑戦によって、さらに魅力的に生まれ変わらせることが目的のひとつなのかもしれない。 そんな挑戦に自分はドキドキして、その結果に感動して、ライブを観る都度に「すごいぞ、くるり」と思ってしまう。とにかく今回のツアーも最高の旅になりそうだ。 くるり『ホールツアー 2025 Quruli Voyage 〜くるりと弦楽四重奏〜』 at サンシティ越谷大ホール 2025年1月24日(金) セットリスト 1.ハイリゲンシュタッド2.サンタルチア3.BLUE LOVER BLUE4.アナーキー・イン・ザ・ムジーク5.さよなら春の日6.アマデウス7.GUILTY8.Remember me9.京都の大学生10.Time11.スロウダンス12.恋人の時計13.everybody feels the same14.taurus15.飴色の部屋16.キャメル17.心の中の悪魔18.La Palummella19.Liberty & Gravity20.ブレーメン21.ジュビリー アンコール22.瀬戸の内23.ふたつの世界24.ばらの花 - 弦楽四重奏 メンバー - 須原杏(1st Violin) 町田匡(2nd Violin) 秀岡悠汰(Viola) 佐藤響(Cello) くるりのえいが [Blu-ray] くるり Amazon