2025-03-03 【ライブレポ・セットリスト】フィッシュマンズ 『Uchu Nippon Tokyo』at 東京ガーデンシアター 2024年2月18日(火) フィッシュマンズ ライブのレポート 自分がフィッシュマンズと出会ったのは、高校生の頃だった。 TSUTAYAで借りた『FILM BEAT(1)』というサブカルな映画の主題歌が集められたコンピレーションアルバムに『ナイトクルージング』が収録されていて、そのCDで初めてフィッシュマンズを聴いた。 FILM BEAT(1)(初回限定盤) アーティスト:映画主題歌,Cocco,Kazufumi Kodama,フィッシュマンズ,UA,くるり,THE HIGH-LOWS,スーパーカー,つじあやの,LITTLE TEMPO&藤田陽子 ビクターエンタテインメント Amazon 第一印象で「なんか不気味な音楽だな」と思った。だが何度か聴いているうちに「不気味」が「不思議」になり、それがクセになり好きになった。このような感じに好きになった音楽は初めてだった。個性が強すぎる音楽だからこそ、このやうなハマり方をしたのかもしれない。 それからフィッシュマンズのベスト盤を聴いて、オリジナルアルバムへと手を伸ばし、どんどん深みにハマっていった。当時はボーカルの佐藤伸治が亡くなっていることは知らずに聴き始めたので、その事実を知った時は大きなショックを受けた。でも残されたメンバーとサポートをしていたミュージシャンとライブ活動を再開したとことを知った時は希望を感じた。 フィッシュマンズは本数こそは少ないものの、 佐藤が亡くなった後も定期的にライブを行っている。それなのに自分はタイミングが合わなかったりチケットが取れなかったりで、ライブをずっと観れずにいた。それがフィッシュマンズの存在を知ってから約20年経ち、ようやくライブを観ることが叶った。 東京ガーデンシアターで行われた『Uchu Nippon Tokyo』というタイトルのライブ。バンドにとって過去最大規模のライブであり、自分にとっては初めてフィッシュマンズを生で観るライブである。 開演時間を過ぎるとSEとして『POKKA POKKA』が流れる。ライブ会場には今でも佐藤伸治の歌声が響いている。彼の意志をついでバンドを続けていることを、言葉ではなく音楽とささやかな演出によって伝えている。 今回のフィッシュマンズのメンバーは茂木欣一(Dr, Vo)、柏原譲(B)、HAKASE-SUN(Key)、木暮晋也(G / ヒックスヴィル)、関口“dARTs”道生(G)と佐藤が存命の時からバンドを支えたメンバーや元メンバー、サポート達が揃っている。そこに再始動後に何度も共演している原田郁子をコーラスに迎えた布陣だ。 まだSEの『POKKA POKKA』が流れる中、メンバーが順番に登場し「みなさん、宇宙、日本、東京へようこそ!」という茂木の挨拶からメンバー紹介がされる。そしてメンバー紹介が終わったタイミングでSEをかき消すように小暮が歪んだギターを爆音で鳴らし、今のフィッシュマンズの演奏が始まった。 1曲目は『Weather Report 』。音源よりも生々しいバンドサウンドで、茂木がメインボーカルを務め原田がコーラスをする。しかし途中でメインが原田に入れ替わったりと、ツインボーカルだからこその強みを見せる。長いアウトロも心地よくて最高だ。 メドレーのように曲間なしで早くも代表曲のひとつ『いけないBABY』が続くと、客席から歓声と拍手が響く。印象的なイントロを生で聴けただけでも感動してしまった。Aメロを茂木が歌いBメロを原田が歌ったりと、曲の魅力を最も引き出す歌割りで2人が歌うことによって、楽曲が今でも進化し今のフィッシュマンズと鳴らしていることを感じる。アウトロがドラムの音だけになり終わるアレンジもカッコいい。 「次はこの男から始めましょう!」と茂木が言うと、ボーコーダーでエフェクトをかけたボーカルの小暮の歌から『MAGIC LOVE』か始まる。茂木と原田も加わり3人で歌うサビのハーモニーが美しい。サビ以外では茂木と原田が交互に歌うのもやはり最高だ。 ビアノの美しい音色が印象的なアレンジがほどこされた『IN THE FLIGHT』をインタールドにしてメドレーのように『バックビートにのっかって』へと続くと、ステージにハナレグミが登場した。今回のライブは複数人のゲストボーカルが参加しているのだ。 ハナレグミの歌唱力は圧倒的だし、自身の活動でも何度も共演していることもあり原田郁子のコーラスとも相性が良くて最高だ。まさにバックビートに乗っかるような心地よい歌声を響かせ、ステージで踊るように動いていた。 そういえばハナレグミと原田郁子の共演を自分が観るのは、2007年に行われたフジファブリック主催イベント『倶楽部AKANEIRO』以来だ。久々に生で聴いた2人のハーモニーは、やはり相変わらず素晴らしい。 「タカシと一緒にやりたかった!フィッシュマンズのデビュー曲です!」と茂木が言ってから演奏されたのは『ひこうき』。 ハナレグミは飛行機のようにゆらゆらと腕を拡げて動きながら歌う。やはり歌唱力の高さには唸ってしまうし、フィッシュマンズの楽曲とも声質の相性が良い。快晴の青空のように澄んだ青色の照明も美しくてグッとくる。ハナレグミが客席のステージ上手側の高い位置を指差し〈飛んでった〉という歌詞のフレーズを歌い、その後に音源よりも激しく手数の多いドラムが響くアレンジも最高だ。 ハナレグミがステージを後にし、続けて登場したゲストは君島大空。薄暗いステージでポロンとアコースティックギターを爪弾いてから『BABY BLUE』を弾き語りで歌い始める。テクニカルなギターと会場に響きわたる歌声の凄みによって、客席から歓声が響く。その歓声は興奮によるものというよりも、感嘆して思わず漏れてしまったかのような歓声だった。 曲の途中でバンドも演奏に入ってくるかと思いきや、最後まで君島の弾き語りで『BABY BLUE』が終わった。フィッシュマンズが演奏に参加していないので、これでは君島大空によるフィッシュマンズのカバーだ。しかしあまりにも素晴らしい弾き語りだったためか、客席からは大歓声と盛大な拍手が長く続いた。 今回のゲストボーカルの中では、フィッシュマンズのファンにとって君島大空が最も馴染みが薄かったと思う。だが歌とギターの実力によって、一瞬で観客の心をつかんだ。それどころか予想外の素晴らしさに驚いているような雰囲気だ。 観客を味方につけた君島はハンドマイクになり、今度はフィッシュマンズの演奏で歌い始める。披露されたのは『なんてったの』。君島の声質は佐藤伸治とは全く違うし、歌唱方法も寄せようとはしていない。君島大空として歌っている。それでもどことなく生で佐藤伸治を見たことがない自分には「もしかしたら佐藤伸治はこのようなオーラを纏っていたボーカリストだったのかな」と少しだけ思った。それをバンドも感じていたからゲストボーカルとして招いたのかもしれない。 MCではサポートギターの関口が君島があまりにもギターが上手くて焦り、レコーディングスタジオで先輩風を吹かせていたという話に。ステージ上でも「君島くんは高校生みたいな後輩感があって可愛らしくて」と先輩風を吹かす関口。茂木は「今日もいい風が吹いてるねえ(笑)」と言ってイジっていた。 再びアコースティックギターを手に持ち、関口に嫉妬させたテクニカルなギターを弾き倒す君島。その演奏にバンドが合わせるような編曲で『感謝(驚)』が披露された。今回披露された楽曲の中でも特に疾走感がある瑞々しい演奏で、観客も身体を揺らしたり腕をあげたりと自由に楽しんでいた。カラフルな照明がステージとバンドを照らす景色も見ていて楽しい。 今日は6000人の人が集まってくれています!こんなにたくさんの人が集まってくれて嬉しいよ!ありがとう! 1999年に佐藤くんが亡くなって、それから活動を止めていましたが、2005年にライブ活動を再開しました。フィッシュマンズの曲をしっかり生演奏で届けたいと思ったからです。それから20年経ちました。 これからもフィッシュマンズの音楽がみんなの生活にあってくれたら嬉しいし、これから先も佐藤くんの作った曲をライブでさらにアップデートしていきます。今日も新しいチャレンジをしています。その目撃者として楽しんでください。 茂木が観客への感謝と活動の振り返り、そしてこの日のライブと今後の活動への意気込みを語って「さらに深い場所へ潜っていくよ!」と言ってから演奏が再開。薄暗い照明の中で怪しげな音色でジャムセッションが始まる。そのドープな空気感に観客は引き込まれる。 そしてドラムが激しく響いて、ジャムセッションから『Go Go Round This World!』のイントロへと変化し、3組目のゲストボーカリストのUAが登場した。佇まいからしてもスターのオーラがあり、センターに立ち床に手が付くほどに深々とお辞儀する姿が印象的だ。 歌声は力強く声量も物凄い。その迫力に圧倒させられる。シャウトするように歌う姿は原曲とはかけ離れた表現ではあるが、これも今のフィッシュマンズの進化した姿でもある。演奏も歪んだギターが印象的なオルタナティブなサウンドになっていた。曲終わりに「祖師谷?」「世田谷」「祖師谷?」「世田谷」と茂木とUAでやりとりするゆおなお茶目な演出の後に歪んだギターで締めたアレンジも最高だ。 UA「うーちゃんです!」 茂木「お茶目だね」 UA「欣ちゃんバンドに来るUAはお茶目になっちゃうの!あなたのせいよ!」 茂木「俺のせい?」 MCでもお茶目なUAのせいで茂木までもお茶目になってしまっていた。 しかし歌い始めるとお茶目ではなくクールな姿を見せるUA。『WALKING IN THE RHYTHM』でも相変わらず力強い歌声で圧倒させつつも、観客にコールアンドレスポンスを求めたりと観客のテンションも上げさせ熱気を生み出す。歪んだギターが印象的なロックバージョンの演奏も最高だ。演奏もUAの歌に比例して力強く熱くなっている。 UAが最高の盛り上がりを作りステージを後にしたが、次の曲のイントロが流れた瞬間、空気が大きく変わった。始まった曲が『LONG SEASON』だったからだ。 繊細に音を積み重ねるように演奏が静かに始まる。後方のスクリーンは夜の海で波が打つ映像が流れ、そこから海に潜り深海へと進む映像へと移り変わる。そして再び浮き上がっていき、そのまま空を飛び宇宙へと向かう。そんな幻想的な映像に合わせて演奏も目まぐるしく変化していく。 演奏が進展するただにメンバーが1人ずつステージから消えていき、最後は茂木だけがステージに残った。すると佐藤の写真がスクリーンに映り、佐藤の生前録音された歌声がスピーカーから響いた。今のフィッシュマンズと佐藤の歌声が入り混じる音と景色に鳥肌が立つ。 佐藤の歌声が響く中Gomaが登場し、オーストラリアの伝統楽器ディジュリドゥを演奏する。スクリーンには茂木とGomaの姿が重なるようなエフェクトがかけられた映像が映っていた。音だけでなく映像でも2人は重なりあう。そんな幻想的だけど怪しくてヒリヒリした音と映像に引き込まれてしまう。 後半にはバンドメンバーが1人ずつ順番に戻ってきて、フィッシュマンズの迫力ある演奏へと戻っていった。音源でも1曲で35分ほどあるが、ライブではアレンジも加わって50分ほどの演奏になっていたと思う。それでも中弛みすることなく最初から最後まで観客は集中して聴いていた。きっとあまりにも魂のこもった圧巻の演奏だったからだろう。 この日1番に感じる大きさと長さの拍手と歓声が響き余韻が残る中、ステージは暗転し『DAYDREAM』が始まる。ゲストボーカルはマヒトゥ・ザ・ピーポー。「天国で見る夕焼けはどんな色だろう?」というセリフが含まれた朗読から始まり、丁寧に噛み締めるように歌っていた。 個人的な好みとしてはGEZANの音楽はクオリティが高いとは思っているが、あまり好みではない。だが彼の歌声はフィッシュマンズの音楽とマッチしていて最高に思う。ステージのミラーボールに光が当たり、それが反射して会場一面に星のような光が散らばる景色は美しかった。この日のライブで最も美しい演出だった。 約2時間半の本編を終えたが、ライブはまだ続く。アンコールに応えてメンバーは再登場した。そして茂木の声掛けによりゲストボーカルも全員ステージに戻ってくる。今回参加予定だったものの病気療養により不参加となったこだま和文にも言及し「次のライブは絶対に一緒にやりたいです!」と、宣言にも近い言葉を残す茂木。 出演者全員で披露されたのは『ナイトクルージング』。代表曲のひとつだ。そして自分が初めて聴いたフィッシュマンズの曲なので、思い入れが強い。この曲が高校生の時にTSUTAYAで借りたコンピレーションアルバムに収録されていたのだ。 ボーカリストがリレーのバトンを繋ぐように1フレーズから2フレーズを歌う。原曲は夜が似合う少し怪しげで不思議な空気を纏った曲なのに、この日の演奏は多幸感に満ちたアンセムのように会場に響いていた。観客もみんな楽しそうに身体を揺らしている。 歌い終えて出演者全員で写真撮影をして大団円かと思いきや、茂木が客席を見渡しながら話し始めた。 夢のような時間でした。 フィッシュマンズがこれからもさらに進化していくことにみんな喜んでくれるだろうし、サトちゃんもライブの都度に進化することが好きな人だから、きっと今日のライブも喜んでくれたかなあと思います。 客席から温かくて長い拍手が響く。その音はフィッシュマンズの演奏と同じぐらいに心地いい。そして今年は音楽フェスに出演することや、海外でもライブを行うことが発表された。まだ詳細は言えないらしいが、夏フェスにも出演するらしい。 茂木「来年は武道館で!」 観客「おおおおお!!!」 茂木「やれたらいいよね(笑)」 観客「www」 茂木「そんな妄想もしてしまうぐらい、みなさんの空気感が最高でした。ありがとうございました!」 茂木が最後にお茶目な挨拶をして客席が和み、最後にフィッシュマンズだけで『新しい人』が演奏された。 ドラムとベースの演奏から始まり、ゆったりとしたリズムが鳴り響く。この日の余韻を噛み締めるように茂木は歌う。ひたすらに圧巻の演奏をした本編とは違い、アンコールはずっと多幸感が満ちていて心が温かくなった。音楽を聴いていてこのような感覚になることは、本当に良い演奏を聴いた時以外はありえない。「また会いましょう!」という茂木の挨拶により、ライブは終演した。 悲しい出来後があり一度は歩みを止めてしまったバンドが、それでも活動を再開してから20年が経ち、今でも進化を続けている。そのこと自体が希望だし、こうして佐藤伸治を知らない自分のような世代が生でフィッシュマンズに触れることができることは喜びでしかない。 フィッシュマンズの過去最大規模の公演は、天からの贈り物のような素晴らしいライブだった。ステージからはいい声がたくさん聞こえた。 ■フィッシュマンズ 『Uchu Nippon Tokyo』at 東京ガーデンシアター 2024年2月18日(火) セットリスト 1.Weather Report 2.いかれたBaby 3.MAGIC LOVE 4.バックビートにのっかって (Vocal:ハナレグミ) 5.ひこうき (Vocal:ハナレグミ) 6.BABY BLUE (Vocal:君島大空) 7.なんてったの (Vocal:君島大空) 8.感謝(驚) (Vocal:君島大空) 9.Go Go Round This World! (Vocal:UA) 10.WALKING IN THE RHYTHM (Vocal:UA) 11.LONG SEASON (Didgeridoo:Goma) 12.DAYDREAM (Vocal:マヒトゥ・ザ・ピーポー) EN-1. ナイトクルージング (ALL CAST) EN-2. 新しい人 - バンドメンバー - 茂木欣一(Dr,Vo) 柏原譲(Ba) HAKASE-SUN(Key) 木暮晋也(Gt) 関口“dARTs”道生(Gt) 原田郁子(Vo) - ゲスト- ハナレグミ 君島大空 UA Goma マヒトゥ・ザ・ピーポー HISTORY Of Fishmans (限定盤)(3枚組)(Blu-ray付) アーティスト:フィッシュマンズ ユニバーサル ミュージック Amazon FILM BEAT(1)(初回限定盤) アーティスト:映画主題歌,Cocco,Kazufumi Kodama,フィッシュマンズ,UA,くるり,THE HIGH-LOWS,スーパーカー,つじあやの,LITTLE TEMPO&藤田陽子 ビクターエンタテインメント Amazon