2018-08-07 「ももクロの10周年を祝う夏Sは失敗だった」 ライブのレポート ももいろクローバーZ そんなこと言う人いるの? チケットの売れ行きは良いとは言えなかった。3万5千人以上収容できる会場に集まった客数は1万3千人。キャパの半分も売れていない。 『夏S 2018 ももクロトリビュート~ももクロの10周年をお祝いしちゃうぞ~』というタイトルのライブのことだ。メットライフドームで行われたスターダストに所属する女性アイドルが一堂に会して行われたイベントライブ。 スターダストにはドームやスタジアムでもライブを行っているももいろクローバーZを中心に、私立恵比寿中学やチームしゃちほこなど人気アイドルも多く所属している。 人気アイドルが総出でももクロの結成10周年を事務所のアイドル総出で祝おうという企画。しかし、チケットはキャパの半分も売れない。 ももクロの10周年を祝う企画だとしても、ももクロだけを観たいモノノフは多い。それ以外のグループのファンもももクロの10周年に興味はなく、自分の好きなグループを観たい人が多い。 行く人も自分が好きなグループのワンマンライブほど気分が高まっている人は少なかったと思う。「好きなグループも出てるし行ってみるかあ」ぐらいのテンション。それほど期待はしていなかったかもしれない。 しかし、夏S、めちゃくちゃ良かった。自分にとって「本当に行って良かった!」と思えるライブが1つ増えた。 これは実際に会場まで足を運んでライブを観た人の殆どが同じように感じたのではないだろうか。素晴らしいライブイベントだった。 ライブへ行った人はきっと「夏Sは失敗だった」とは思わないはずだ。 会場の不安 ライブに対する不安がなかったわけではない。会場に入った瞬間から不安が生まれた。 ステージがしょぼかったのだ。 3万人規模のドームとは思えないほど小さく装飾のないシンプルなステージ。メインステージとサブステージがあったが、どちらもお金がかかってなさそうな感じ。派手な照明もない。ホール公演をやるアーティストの方が凝ったステージと思えるほどにシンプルなステージ。スピーカーも複数個あるがドームとは思えないほどの小さなスピーカー。 普段のももクロの大規模なライブと比べるとかなり質素なステージだと思う。先日まで行われていたエビ中のホールツアーの方が豪華なステージだった。 しかし、このしょぼいステージは正解だったのかもしれない。そんなことどうでも良くなるほど素晴らしいライブだった。いや、むしろこのしょぼいステージセットだからこそ成立するライブだったのかもしれない。 映像では伝わらない楽しさ このライブは6時間の長丁場だったが中だるみもなく最後まで飽きずに観ることができた。それは様々な企画が組み合わさったライブだからかもしれない。 それぞれのグループのライブがあることはもちろん、各グループのコラボやももクロのカバー曲を他グループが歌う企画など盛りだくさん。 その中でも目玉企画でもあり力を入れていた企画は「全グループ参加のノンストップメドレー」だったと思う。この企画が特に素晴らしかった。実際に会場にいなければこの凄さは分からない演出になっていた。 スターダストに所属する全グループのメンバーが参加し、全グループの楽曲がメドレーで48分間続くメドレー。使われる曲も順番も客は全く分からない。メドレーに使われた曲は今では殆ど披露されない楽曲や解散した過去のグループの曲やカバー曲も含まれている。 次にどの曲が来るかわからないワクワクと意外な曲が来る驚きでテンションがあがる。しかし、このメドレーの見どころは曲順だけではない。 会場全体がステージになっているのだ。 メドレー中はメンバーがどこから現れてどこで歌うのかも予想がつかないのだ。メドレー最初のももクロはスタンド席の階段に現れて歌った。スタンドの通路やバックネット裏にも様々なグループが出てきて歌ったり踊る。 さらに客席通路にメンバーの乗ったトロッコが現れて客席全体を回ったり、アリーナにはメンバーを上に乗せた車が走る。もちろんメインステージにもメンバーはいる。 どんな曲が披露されるのかわからない。どこから誰が出て来るかわからない。メインステージがシンプルな装飾だからこそメインステージ以外の場所にも目が行きやすいようになっている。そんなワクワクが詰まったひたすら楽しいメドレーだった。 そして、これは一点を映す映像とは違って自分の目で様々な場所を観ることができたからこその楽しさだと思う。実際に会場まで足を運びライブを観る理由が詰まったような演出だった。 しかし、全てが良かったかと言うとそういうわけでもない。 聴かせるか?観せるか? 「夏S」は音が物凄く悪かった。 ライブ会場のメットライフドームは通常野球の試合を行っているドーム球場だ。そのため、音楽のライブを行う会場としては適した会場ではない。 コンサートを行うことを前提としているライブハウスやホールのように音響を考えられて作られたわけではない。野外の会場のよう空を突き抜けていく音が気持ちいわけでもない。 音響のことなど考えられていないし、凄腕のPAがいたとしても良い音で聴かせることが難しいであろう会場。実際に「夏S」の音響は酷かった。音楽を鑑賞するような環境ではなかった。 しかし、その事は運営も理解はしていたと思う。 ライブは音楽を聴くことが大きな目的の1つではある。しかし、音楽を聴くだけでなく観ることも目的の1つだ。 それは歌っているメンバーの姿であったりステージの演出であったり周囲の客の盛り上がりであったり。 「夏S」は会場の作り的に良い音で聴かせることが難しい。しかし、ドームはライブハウスやホールとは違う作りなので様々な場所からメンバーを登場させる面白い演出は他の会場よりもできる。 会場の特性を考え、音が悪いという欠点に対処するよりも、演出で他の会場と違うことができる利点を最大限に生かすライブになっていた。 欠点に対処するのではなく、長所を最大限に引き出すようなライブだった。 費用をかけるか?知恵を絞るか? ライブで凝った演出の魅せるライブをやろうとすれば、費用がかかってしまうことが多い。ステージセットを豪華にしたりぎんテープや火薬などの特攻を使ったり照明にレーザーを使ったりプロジェクションマッピングを行ったりと。 しかし、「夏S」にはそのような「お金のかかった演出」はなかった。シンプルなステージセットだった。もしかしたらチケットが売れなかったことが理由で質素なステージセットだったのかもしれない。 しかし、夏Sの演出が悪かったとは思わない。お金をふんだんに使って派手な演出をしたライブに負けないぐらいに魅せられるライブで満足感もあった。 「夏S」はお金をかけなかった代わりに、施設を最大限に活かして楽しませる方法を知恵を絞って考えたのだと思う。 48分間あるメドレーの曲順や組み合わせも、どのような順番で組み合るかを熟考したと思う。なんとなく繋げただけのメドレーでは中だるみしてしまう。客席にメンバーを登場させるタイミングがずれてしまっては流れも崩れてしまうし、違和感がないように登場しなければ雰囲気も壊れてしまう。 このメドレーを行うために導線やタイミングなど様々なことを考慮して知恵を絞って最高のものを作ろうとしたのではと思う。メンバーだけでなくスタッフの事前準備やリハーサルもみっちり行わなければできなかったと思う。 本気で面白いことをやろうと知恵を絞って考えたことは、大きな費用をかけたライブと同じぐらいにエンターテイメントとして面白いものになることを実証したようにも感じる。 夏Sは失敗だったのか? 「夏Sは失敗だった」というファンも少なくはない。じっさいに会場のキャパは半分も埋まっていない。チケットは大量に余っていた。興行的には成功とは言えないのかもしれない。 しかし、実際に会場に足を運びライブを観た人で「夏Sが失敗だった」と思う人はほとんどいないのではないだろうか。 観た人なら感じたと思うが、素晴らしいイベントだった。客の数は想定していたよりも少なかったかもしれないが、そんなことは気にならないぐらいの楽しさだった。興行ではなくライブとして考えると大成功なのではと思う。 ライブに感動した人がたくさんいる。楽しいと思った人がたくさんいる。もしも夏Sが失敗だったのならば、感動したと思った人も楽しかったと思った人も1人もいないはずだ。 実際に自分は「夏S」に行って本当に良かったと思っている。心の底から楽しいと思った。そんなイベントを失敗とは言わせたくない。 「夏S」は成功だった。これは断言できる。きっと自分以外のライブを観たお客さんも同じように思っているんじゃないかと思う。客がライブの成功か失敗かを決める基準は「自分が楽しめたかどうか」という基準だけあれば良いのだと思う。 ↓↓関連記事↓↓ ・ファンではないのにももクロの新曲『クローバーとダイヤモンド』に感動してしまった ・ホールの最前列でエビ中のライブを観たら良いことも悪いこともあった ・〈ライブレポ〉エビ中のライブが最高だったんだけど違和感も感じた件 スターダストプラネット公式Special Book (日経BPムック) 日経エンタテインメント! 日経BP社 2018-07-19 Amazonで購入 楽天市場で購入