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【ライブレポ・セットリスト】奥田民生と山内総一郎の『なんて日だ!』 at Zepp Haneda 2025年2月23日(日)

「開場時間前には到着できそうだ!整理番号も良いし良い場所で観れるかも!」と思いながら意気揚々と電車に乗って、数駅過ぎたところで自宅にライブチケットを忘れたことに気がついた。この日のライブは電子チケットではなく紙チケットで取っていたのだ。

 

「なんて日だ!」と心の中で叫びながら最寄り駅まで引き返し、自宅にいた妻に連絡して駅までチケットを届けてしまった。妻にはミスドを奢ることで勘弁してもらった。

 

会場に到着したのは開演3分前。フロアはパンパンになっていて、整理番号の良さは無力と化した。

 

奥田民生と山内総一郎がメインとしてステージに立ち、様々なゲストを招くといつ特別な公演。ライブタイトルは『奥田民生と山内総一郎のなんて日だ!』。ライブタイトルとベストマッチした状況で自分はライブを観ることとなった。

 

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開演時間を過ぎステージが暗転すると、スクリーンに奥田民生と山内総一郎が所属する事務所であるSMAの50年間の歴史を辿る映像が流れた。所属アーティストの映像も新旧様々なものが流れていて、人気アーティストの映像が流れると歓声が上がっていた。 今回のライブはSMAの創立50周年企画の一環でもあるのだ。

 

SMAにはお笑い芸人も所属しているからか、今回のライブには小峠英二とやす子が司会として参加していた。

 

やす子「どうも!人気者です!」

小峠「こちらはもっと人気者です!」

観客「wwwwww」

やす子「小峠さん、めちゃくちゃ酒くさいです!」

小峠「民生さんに勧められたから仕方がない!」

観客「wwwwww」

 

音楽ファンの心も笑いによってしっかりと掴む小峠とやす子。やす子が「はいー」と言うだけでフロアは爆笑の渦に。やす子は「返事だけで笑いがとれるとは、芸能界はチョロい」とキャラに似合わないことも言っていた。

 

台本があったようだが小峠同様に酔っ払った奥田民生と素面の山内総一郎が台本を無視して早くもステージに登場する。

 

民生「今年でSMAはごじゅー、えーと、何周年だっけ?」

小峠「50周年でしょ!51周年とかで記念ライブはやらないでしょ!」

やす子「誰ひとりとして台本通りに進めてくれない!」

民生「今日高速降りたら渋滞して車が止まったまま15分ぐらい動かなかったんだけど、これってどういう日なの?」

小峠「フリが下手くそだな!」

 

民生はお酒の力もあってかご機嫌である。民生と酒の組み合わせは過去のとある出来事を彷彿とさせるので心配にはなるが、今日は適度な量で抑えているように見えるので安心だ。

 

民生のフリが下手だったため、自ら「こうやってお客さんがたくさん入ってくれるなんて、なんて日だ! 」と小峠が自ら言うことでライブがスタート。

 

1曲目は『大迷惑』。山内がおそらくライブでは初披露のピンク色のエレキギターてイントロを弾いた瞬間、フロアから大歓声が響く。伊藤大地(Dr) に砂山淳一(Ba) に奥野真哉(Key)というバックバンドのメンバーも一流ばかりで最高の演奏をしている。

 

しかし観客の歓声は笑い声へと変わる。ボーカルを務めたのが小峠だったからだ。本来のボーカルである民生はやす子と一緒にタオルが飛び出るバズーカ砲を観客に向けて、爆笑しながら撃ち続けている。

 

だが2番のサビからは民生も参加し、本家本元のボーカリストてしての凄みを見せつけた。カオスな状況ではあるのにステージで鳴っている音は一流なのだ。そんな1曲目のミスマッチなギャップとお祭り騒ぎな雰囲気から察した。今回は音楽を軸にした何でもありなエンターテインメントショーなのだと。

 

しかしやはり軸は音楽なので、最高の歌と演奏も聴かせてくれる。「どんどん行きましょう!」と民生が言ってからの2曲目は『人の息子』。

 

オリジナルは奥田民生だが今回は山内がボーカルを務めている。伸びやかで突き抜けるような歌声は迫力あって最高だ。フジファブリックの活動休止前のラストライブでも思ったが、ここ最近の山内の歌声は絶好調に思う。間奏になると山内が「ギター!奥田民生!」と叫び民生が前方まで出てきてギターソロをかき鳴らす。

 

奥田民生の曲なのだから、本来ならば民生が歌い山内がギターソロを弾くことが普通かもしれない。だがあえて逆のことをすることで、この日限りの新鮮さや面白さが加わる。

 

西野カナ『トリセツ』のカバーも、この日限りの新鮮さや面白さがある。バンドにやって力強い演奏にアレンジされた音に乗るように民生が歌い始めると、あまりにも意外な選曲にフロアに笑い声が響く。だが民生の渋い歌声も山内の真っ直ぐな歌声も以外と曲とマッチしている。サビでは2人の歌声がピンク色の照明の中で響き、観客は腕を振って楽しんでいた。

 

ここで再び登場する司会の小峠とやす子。

 

小峠「中学生の頃からユニコーンを聴いてたんで光栄でした。裏で緊張してたらやす子が大きなカラオケだと思えば良いとか言ってた。そんな失礼なことはないだろ!」

やす子「元気づけようと思って間違った言葉を選んでしまいました!小峠さんが歌う姿はもう二度と観れないから元気に歌って欲しくて...」

小峠「なんか不吉な感じに言うな!」

 

しっかりと観客席を笑わせて空気を和ませ、2人の紹介で事前に発表されていたゲストの1組目としてチャラン・ポ・ランタンのももが登場。

 

民生と山内を含めたバンドの演奏に合わせ、久保田早紀『異邦人』のカバーを歌う。ステージを練り歩きながら力強く歌う姿は、原曲とは違う魅力が溢れている。歌い終わると小峠とやす子のやり取りを引用し「大きなカラオケだと思って歌いました」と言って爆笑を巻き起こすのも流石だ。

 

チャラン・ポ・ランタンは9年間SMAに所属していたものの、2021年に個人事務所を立ち上げて独立している。そのことにも「事務所は辞めたんですけど今でも関係は良好です(笑)」と触れていた。

 

続けて演奏されたのはチャラン・ポ・ランタンの楽曲である『ぽかぽか』。このバンドで演奏するからこそのロックなサウンドは原曲とは少し違って新鮮だ。ももはステージを練り歩きながら観客を煽る。お昼のバラエティ番組の主題歌だから知っている人も多いからか観客の盛り上がりも上々だ。

 

間奏でももが「事務所は辞めました!辞めたけど呼んでもらえました!」と叫ぶと観客が歓声と拍手を贈る。辞めた人間がこれほどまでに活き活きと古巣に来れるということは、SMAがいい事務所である証明になっている。

 

圧巻のパフォーマンスをし、ステージを後にするもも。ももの歌声に感動した司会の小峠が「全然チャランポランじゃなかったですね。チャントシテル・チャンでした」と話していた。

 

司会の2人の紹介から2人目のゲストである土岐麻子が華やかな黄色い衣装を着て登場。歌ったのは『迷い道』。渡辺真知子のカバーだ。 軽快なピアノの音が印象的な演奏で、そこに土岐の透き通った声質の優しい歌声が重なる。そんな歌と演奏が心地よい。

 

土岐「私もSMAを退所した身なんですけど......」

山内「退所した人ばかり来る!」

土岐「楽屋でももちゃんと辞めたのに呼んでもらえてありがたいねって話してました」

民生「この事務所は辞めた人を干したり潰したりしないことが照明されましたね。干す事務所もありますから。最近は毒吐いたら直ぐにネットで色々書かれて炎上するからあんま言えないけど」

 

土岐麻子と民生は付き合いが長いのか、トークにも花が咲いていた。

 

民生「SMAは昔は歌謡曲のヒット曲を出す事務所ってイメージでしたね」

土岐「CSAになってから変わっていってロックになってきましたね。ユニコーンがCSAって歌ってましたけど」

民生「あれは俺じゃなくて阿部が、歌ってるから!ユニコーンだからって一緒にしないで欲しい!別物として違う方向で活動してるから!」

土岐「ユニコーンはバンドだからひとつでしょう!それこそ問題発言で炎上する!」

 

民生に炎上の火種が生まれたところで演奏が再開。土岐が「大きなターニングポイントになった曲」と言ってから演奏されたのは、彼女の代表曲のひとつである『Gift〜あなたはマドンナ〜』。貫禄ある歌声で届ける。爽やかな空気と民生の炎上の火種を残し、土岐麻子の出番は終了した。

 

司会の小峠とやす子による「ミスター情熱大陸」という紹介から登場したのは葉加瀬太郎。佇まいと髪型からオーラが発されているのか、登場しただけで観客からどよめきに近い歓声と拍手が贈られた。

 

葉加瀬がバイオリンの音を確かめるように少しだけ奏でてから、間髪入れずにバンドの演奏が重なり奥田民生の楽曲である『マシマロ』が始まった。今度は葉加瀬の髪型や佇まいではなく、演奏の凄みによって歓声が響いた。

 

ここまで民生の楽曲だとしても別の出演者が歌っていたが、この曲では民生がボーカルを務め、本家本元の歌声を響かせた。バンドのロックな演奏にバイオリンが重なることで、壮大さも加わる。途中てバイオリンソロとギターソロで掛け合うような展開もあり、そこから情熱が伝わってきて最高だった。

 

民生「葉加瀬もSMAを辞められて......」

葉加瀬「辞めてない!」

山内「そもそもSMAにいましたっけ?」

葉加瀬「SMAに居たことないから!そもそも今日は来るまで奥田民生還暦記念ライブだと勘違いしてたから!民生さんに随分前に頼まれたから来たけど、SMAのことは全く知らん!」

民生「お客さんもなんで葉加瀬太郎が来るんだって不思議に思ったでしょ?」

葉加瀬「そりゃあ思うでしょ!でも奥田民生の頼みは断っちゃいけないから!」

 

SMAと無関係ではあるものの、まるで所属していたかのように情熱的に演奏をしてくれた。続く『情熱大陸』ではイントロから手拍子を煽り、誰もが知る有名なフレーズを弾き倒す。

 

その音の迫力は凄まじくて、バイオリン主体の曲を生演奏で聴く機会が少なかった自分は衝撃を受けた。バイオリンはこれほどまでにロックな演奏ができるのかと。

 

中盤にさらなるサプライズがあった。真心ブラザーズの桜井秀俊がバイオリンを片手に登場したのだ。桜井も実はバイオリンが一応は弾ける。歓声を浴びながら葉加瀬と向き合い食らいつくように演奏をする。流石に音の太さや音色の美しさは葉加瀬には全然敵わないものの、その必死さにはロックの魂を感じた。

 

演奏が終わるとYO-KINGも登場し、真心ブラザーズの2人が揃った。登場すると開口一番に「同じ楽器なのに全然音が違うんだね!桜井の音、ほっそっ!でもハートはつっよっ!」と桜井をいじり倒す。

 

YO-KING「俺なら葉加瀬太郎と一緒にバイオリンは弾けないよ!普通は断るよ!しかも総くんのギターソロで変な踊りしてたし!」

桜井「民生さんの頼みは断れないんです」

民生「これのために葉加瀬さんに来てもらいましたから」

桜井「練習をいっぱいして上手くなったのにリハーサルで面白くないって民生さんに怒られました......」

 

民生と真心ブラザーズの気心知れた仲だからこその会話の後に演奏されたのは『アースの休日』。奥田民生と真心ブラザーズによるユニットである地球三兄弟の曲だ。

 

この曲では山内はステージには立たず、YO-KINGがドラムを叩き民生がベースを弾き、桜井がボーカルとバイオリンを務める。伊藤大地がドラムではなく口笛と鈴を担当していたのもシュールで味があった。しかも葉加瀬も引き続きバイオリンで参加する豪華さだ。

 

桜井と葉加瀬がバイオリンソロを弾き合う光景は技術力の差が歴然すぎたが、やはり必死な桜井にはグッとくる。桜井は熱くなりすぎたのか、ピアノを激しく弾く奥野真哉に「うるさい!」と演奏中に言って怒っていた。

 

そんな必死さとユーモアが入り交じった演奏の後に披露されたのは『呼びにきたよ』。こちらも地球三兄弟の楽曲だ。

 

民生とYO-KINGと桜井が一列に並び3人がギターを弾き、民生がボーカルを務める。先ほどまでとは違う隙のない心地よい演奏とのギャップが最高だ。後半のYO-KINGが吹くハーモニカの音も切なさを感じて良い。

 

真心ブラザーズがステージを後にし、再び司会の小峠とやす子が登場した。小峠はさらに酒を飲んだのだろうか。顔も頭皮も真っ赤になっている。やす子が「茹でタコみたいになってますよ!でもビール瓶を鼻の前に置かれたような臭いがして臭いな!」と先輩相手とは思えない言葉を発するほどに酔っていて、しかも呂律が回らなくなっていた。司会としての仕事が出来なくなっている。

 

やす子の紹介で登場したのはJo0ji 。今回の出演者の中ではダントツの若手だ。Tシャツとジーンズに黒いパーカーを左肩を見せるように着崩したファッションが印象的だ。後のMCで「『Maybe Blue』の時の民生さんを意識した」と話していた。

 

そんなJo0jiが歌う1曲目は『 南佳孝スローなブギにしてくれ』のカバー。色気のある声色で観客を魅了する姿は貫禄すら感じる。間奏で民生が「総ちゃん!ギターソロ!」と言って山内がギターソロを弾く姿からも、民生と山内が楽しんでいる様子が伺える。

 

民生「若手が後半で出てくるって順番が謎で本人もやりにくいでしょ?」

山内「ようやくSMAの人が出てきましたね」

民生「辞めた人と無関係の人しか出てこなかったからね。これからのSMAをよろしくお願いします。

 

若手との共演を民生と山内は喜んでいるようだ。Jo0jiは少し照れくさそうにステージに立って2人の話を聴いていた。

 

民生が「スペシャルゲストがいます。みんな誰が出るかわかると思うけど」という紹介から、再び登場する葉加瀬太郎。またもや事務所と無関係な人物であることをいじり「無関係なのに実は1番活躍してる説がある」と言う民生。

 

演奏されたのはJo0jiの曲である『眼差し』。葉加瀬太郎のバイオリンが哀愁を楽曲に漂わせていて、それが歌謡曲の影響を感じるメロディと相性がよくて沁みる。Jo0jiも全身で歌うような魂がこもった熱いボーカルだった。初めて生で彼の歌声を聴いたが、今回のゲストボーカリストで最も自分の心に刺さったのはJo0jiだった。

 

司会の靖子と酔っ払って使い物にならなくなった小峠の紹介から登場した次のゲストは八熊慎一。村下孝蔵のコスプレをしていて、春日俊彰を彷彿とさせるピンクベストを着ている。

 

そんなコスプレで披露されたのは『初恋』。もちろん村下孝蔵のカバーだ。あえてだろうがクセの強い演歌のようなコブシを感じる歌唱が曲とマッチしていた。コスプレ姿もマッチしすぎて違和感がなく、本人は笑わせるつもりだったのだろうが観客も笑わずに真剣に聴き入っていた。

 

民生「みんな意外とこんな格好の人がいても笑わないものだね」

山内「廊下をうろうろしてたから見慣れてきました」

八熊「次はスパゴーの曲を」

民生「その格好のままやるんだね」

 

バンドメンバーがステージからいなくなり、3人が横並びでアコースティックギターを弾きながら歌ったのは『ルーシーはムーンフェイス』。アコースティックなサウンドだからこそ、メロディや歌詞の良さが際立つ。三人の歌声のハーモニーも相性抜群だ。自分はこの曲を知らなかったが、ライブで聴いて一発で気に入ってしまった。

 

八熊の出番が終わると3人揃ってステージを後にする。するとステージに電子楽器などの機材が運ばれてきて、映像が流れ始めた。

 

その映像はIMOことイモマミレオーケストラの紹介VTRだった。IMOは北海道倶知安町で行われたイベント『JUNK! JUNK! JUNK!』で結成されたものの、解散してしまった伝説(?)のバンドである。映像はバンドの歴史をダイジェストにまとめたものとなっていた。伝説(?)のバンドなはずなのに、カッコいい演奏姿よりも茶番をしている姿ばかりが映されていた。今回のライブで再始動されるという。

 

映像が終わり登場したIMO。オリジナルメンバーも多数参加しているようだが、再結成で初参加したメンバーもいるようだ。全員がYMOに関連する人物を彷彿とさせる名称だった。やす子にそっくりなルックスのメンバーは矢野やす子という名前で矢野顕子を彷彿とさせるし、山内にそっくりなルックスのメンバーはえりんぎという名前だった。松武 秀樹をキノコだと勘違いした故の名前だろうか。

 

そんなメンバーが演奏した1曲目はYMO『ライディーン』にそっくりな曲に歌詞が付けられたものだった。とうもろこしやじゃがいもなどの名産品が歌詞に登場し、それに合わせた映像がスクリーンに映し出される。打首獄門同好会と同じような方向性のライブである。途中でダフトパンクのコスプレかのような格好をした桜井秀俊に似た男性が現れ、タオルが入ったバズーカを撃ったりと、シュールな演出があった。

 

「いもすくえや!みずすうえや!T-SQUARE!」という掛け声から始まった2曲目はT-SQUARE『TRUSH』にそっくりな曲。これまた北海道に関連した言葉が歌詞と映像になっている。途中でやはり桜井秀俊に似た男性がレーサーのコスプレをして登場し、タオルが入ったバズーカ砲を撃っていた。歌詞の最後のフレーズが山内総一郎の出身地である大阪府茨木市の地名で終わったのは、IMOから山内へのリスペクトの気持ちもしくはイジりなのだろう。

 

「最後に新曲をやります」と言ってから演奏されたIMO最後の曲は東京スカパラダイスオーケストラ『Paradaise Has NoBorder』にそっくりな曲。この曲の歌詞は北海道についてではなく、SMAに所属しているアーティストを順番に紹介する内容になっていた。桜井秀俊に似た男はピエール瀧を彷彿とさせる富士山の格好をしてバズーカ砲を撃っていた。

 

小峠「もうだめだ!民生さんが飲んでいいっていったから呂律が回らない!

やす子「ここまで飲むとは民生さんもたぶん思ってないですよ」

小峠「だから酒の飲みながら聴いてたけど、すげえかっこいいねえ」

やす子「今の小峠さんはすげえダサいですよ」

 

再び司会の小峠とやす子が登場したが、小峠はただの酔っぱらいになっていた。ステージの準備が終わるまでの繋ぎとして小峠にもタオルが入ったバズーカ砲を撃たせようとしていたが、酔っ払って足取りはふらふらだし銃口を最前列の観客に向けてしまったりと、酷いことになっていた。

 

やす子の紹介から真心ブラザーズが登場し『どか〜ん』を演奏する。小峠の汚名を晴らすかのような盛り上がりだ。観客はすっかり小峠の失態を忘れたかのように楽しんでいる。この1曲でステージ裏へ戻ろうとする2人に観客が「えー!」とブーイングをしたものの「どうせこの後も出てくるから!」と言って宥めるYO-KING。この後さらに豪華なお祭りになる予感を思わせる言葉だ。

 

民生と山内が再登場すると「女性陣に登場してもらいましょう」と民生が言って、ももと土岐麻子が再びステージに現れた。そんな2人のデュエットで歌われたのは『アジアの純真』。PUFFYの代表曲かつ名曲だ。

 

もものパワフルな歌声と土岐の繊細な歌声は、持っている個性としては真逆かもしれない。だが異なる個性が組み合わさると原曲のPUFFYとも違う新しい魅力が生まれて、これも悪くはない。サビでは観客は飛び跳ねたりと盛り上がりも上々だ。

 

ももも土岐がステージを後にすると、間髪入れずに今度は今回参加している男性ゲスト一同が出てきた。「時間がないから紹介される前に巻きで出てきたよ!」と話すYO-KING。どうやら出演者が喋りすぎたことで時間が押しているようだ。

 

「SMAといえばこのバンドですね」と民生が言ってから演奏されたのは、すかんちのカバー『恋のマジックポーション』。全員が繋ぐように歌え姿は観客以上に楽しそうだ。特に民生はここまでの演奏曲の中で最も演奏しながら笑顔を見せていた気がする。観客の盛り上がりもこの日1番に感じるほどだ。

 

歌い終わった後の男性陣も余韻を楽しむかのように元気で「すかんち!」「ローリー!」「従兄弟はマッキー!」などと掛け合いのように無駄な発言を繰り返していた。

 

そんなハッピーな空気の中、本日の出演者が全員ステージに登場した。小峠は酒を飲みすぎてフラフラになっており、やす子が「後輩として情けないです......。でも小峠さんが1番楽しんででいたんで!」とフォローしていた。今回のイベントのMVPはやす子かもしれない。

 

全員で最後に披露されたのはユニコーンの名曲『素晴らしい日々』。葉加瀬太郎の凄まじい音色のバイオリンと桜井秀俊の頑張ってる感じが伝わるバイオリンの演奏から始まるアレンジになっていた。歌は山内から始まり、全員が順番に歌い次いでいく。

 

名曲だと改めて思うと同時に、フジファブリックが活動休止したばかりの山内が歌い演奏すると、よりメッセージが心に響いて切なくなる。

 

お祭り騒ぎの盛り上がりと、この日だからこその茶番と、このメンバーだからこその名演と、様々な方向で音楽を楽しませてくれた。そんな本編を終えてからのアンコール1曲目では、民生と山内だけがステージに登場した。

 

自分の話なんですが、SMAに入ったきっかけは民生さんなんです。

 

実はデビュー前にフジファブリックは色々な事務所から声がかかっていたんです。それで東高円寺駅のドトールにバンドメンバーで集まって、どこの事務所にしようかと話し合いしていたんです。それでSMAは民生さんがいるから、民生さんのように好きな音楽をやらせてもらえるんじゃないかと思って決めたんです。

 

それから20年間以上経ちましたが、ちゃんと好きな音楽がやれています。

 

言葉を選ぶように丁寧に事務所へ入ったきっかけと今の想いを語る山内。その言葉には奥田民生へのリスペクトと事務所への感謝の気持ちが込められているように感じた。そういえばフジファブリックの活動休止前のライブで、マネージャーは20年間変わっていないと話していた。本当に良い事務所なのだと思う。

 

山内「いつ民生さんは事務所に入ったんですか?」

民生「知らん」

観客「wwwwww」

民生「たしか21歳で入ったから来年で40年だと思う」

山内「そういえば60歳ですね。還暦おめでとうございます」

民生「なんか還暦なのに色々と仕事が入って忙しいです」

山内「忙しくて髪の毛はちりちりになっちゃんたんですか?」

民生「そうなんです」

 

パーマのかかった髪型を山内にイジられる民生。2人の共演は何度かあったしプライベートでも交流があるはしいが、このようなやり取りをファンの前で見せるのは珍しい気がした。

 

山内が「やりましょうか」と言ってカウントを取ってから演奏されたのは『イージュー☆ライダー』。2人による弾き語りで、1番を民生が歌い、2番を山内が歌っていた。山内が歌う前に民生が「総ちゃん!」と言って、最後のサビ前には「あなた!」と言って観客に歌うよう促していた。

 

温かく多幸感に満ちた空気に包まれる中、再び本日の出演者全員がステージに登場した。やはり小峠は泥酔していた。

 

出演者は全員学ランを着ている。もうこの時点で氣志團の曲をやることを暗示しているようだ。なぜか葉加瀬太郎の学ランは本人の私物らしく、裏地に「拍手」「愛してる」と文字が書かれていて、それを観客に見せつけて拍手と歓声を浴びていた。

 

最後に全員で披露されたのは『One Night Carnival』。氣志團の代表曲のカバーだ。ステージの全員が楽しそうに歌い踊っている。 土岐麻子が完璧に振り付けをマスターしていることの凄さと、振り付けを間違えまくっている山内総一郎の姿が目に焼き付いて離れない。

 

観客も同じぐらいに楽しんでいるようで、氣志團は出演していないのにダンスを踊りこなしている観客もたくさんいた。もしかしたらSMAという事務所の所属アーティストをまとめて愛している音楽ファンがたくさんいるのかもしれない。アーティストに愛される事務所はファンにも愛されるのだろう。

 

開演前はどのようなイベントになるのか予想がしづらくて、期待と不安が入り混じっていた。だが蓋を開けてみれば不安は杞憂だった。それぐらいに楽しさで溢れたイベントだった。酔いつぶれた小峠以外はみんな素晴らしいパフォーマンスだった。最後に「うちの小峠がすみませんでした!」と言って笑いにして去っていったやす子は立派だとも思う。

 

今回のライブでフジファブリックの曲は演奏されなかった。聴きたかった気持ちが無いわけではいが、自分は演奏されなかったことに安心した。まだ自分はフジファブリック以外の演奏でフジファブリックを聴く心の準備ができていなかったからだ。たとえ山内総一郎が歌ったとしても、いや、むしろ山内総一郎が歌うからこそ。

 

出演者のほぼ全員をイジり倒していた民生だが、山内のことはいじらなかった。フジファブリックの事にも言及しなかった。それは民生なりの優しさだったのではと思う。

 

様々な愛がこもったイベントで「なんて日だ!」というよりも「素晴らしい日々」と思えるイベントだった。

 

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奥田民生と山内総一郎の『なんて日だ!』 at Zepp Haneda 2025年2月23日(日) セットリスト

1.大迷惑

2.人の息子

3.トリセツ

4.異邦人

5.ぽかぽか

6.迷い道

7.Gift〜あなたはマドンナ〜

8.マシマロ

9.情熱大陸

10.アースの休日

11.呼びにきたよ

12.スローなブギにしてくれ

13.眼差し

14.初恋

15.ルーシーはムーンフェイス

16.ライディーンのパクリっぽい曲

17.TRUSHのパクリっぽい曲

18.Paradaise Has NoBorderのパクリっぽい曲

19.どか~ん

20.アジアの純真

21.恋のマジックポーション

22.素晴らしい日々

 

23.イージュー⭐︎ライダー

24.One Night Carnival