オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】奥田民生『ソロ30周年記念ライブ「59-60」GOZ LIVE AT RYOGOKU KOKUGIKAN』at 両国国技館 2024年10月27日(日)

自分が奥田民生の音楽をきちんと聴き始めたのはフジファブリックがきっかけで、彼がソロデビュー10周年の年だった。

 

当時のインタビューで「ソロデビューシングル『愛のために』で〈10年たったら空行こう〉と歌っていたけど、10年後に『スカイウォーカー』という曲を出して、本当に空に行った」と話していたことを覚えている。だから自分が彼の音楽を聴き始めた時期がハッキリとわかる。

 

だから奥田民生のデビュー当時のサポートバンドであるGOZでのライブを観たことがない。ちょうど20年前に、奥田民生のサポートが終わってしまったからだ。

 

f:id:houroukamome121:20241028140842j:image

 

今回ソロデビュー30周年を記念した公演で、GOZが1日限りで復活するという。それに自分は参加した。おそらく今回が自分にとってGOZの最初でおそらく最後のライブになることだろう。

 

当然ながら会場の両国国技館は見切れ席や後方の席まで満員だ。記念すべき公演かつ久々のバンドメンバーのライブへの期待で満ちた空気で包まれている。

 

そんな空気の中で会場が暗転しステージが青い照明に包まれ、盛大な拍手に迎えられ登場した奥田民生とGODのメンバー。ドラムの古田たかしのカウントから始まった1曲目は『ルート2』。20年ぶりとは思えない息のあった演奏に鳥肌が立つ。アウトロでジャムセッションのように重厚な演奏が繰り広げられていたのも最高だ。この時点で最高のライブになることを確信した。

 

続く『彼が泣く』も素晴らしかった。現在の奥田民生のバックバンドMTR&Yは、民生を含めて4人組で、ギターは民生のみだ。それはそれで民生のギターを堪能できて良いのだが、GOZは長田進がギタリストとして参加しギターの音が2つになるので、演奏がより重厚になる。ライブだとそれが顕著で、GOZの方が演奏中迫力はある。

 

『ときめきファンタジーⅢ』では、そんな演奏の凄みをさらに感じた。おベースの根岸孝旨が前方に出てきて煽ったり、長田のギターソロや斎藤有太のキーボードソロがあったりと、音だけでなくバンドメンバーの存在感も強い。客席の360度に観客を入れているため、大会場ではあるものの映像演出や派手な特効による演出はない。その代わりに最高の演奏とバントの存在感によって、大会場をロックサウンドで包み込み圧倒させる感じのライブだ。

 

「昨日は弾き語りだったから、1人のライブで寂しかったです」と話すと会場から笑いが溢れる。今回の周年ライブは2日間開催で、GOZでのライブは2日目で、初日は弾き語り形式で行われた。

 

しかし初日はカーリングストーンズのメンバーや吉井和哉など、ゲスト盛りだくさんのライブだったらしい。それをファンも知っているからこその笑いだ。最初のMCから民生節を感じるユーモアが含まれている。

 

奥田民生「このメンバーでのライブは20年ぶりですからね。ベースは峯岸さんでしたっけ?」

根岸孝旨「高嶺です」

奥田民生「ベース、根岸孝旨!」

 

民生だけでなくバンドメンバーも適当なことを言う。色々な意味で相性が抜群だ。その後も古田たかしを「ドラムの古田新太さんです!」と民生は適当に紹介していた。

 

奥田民生「メンバーも久々ですが、曲も久々のものをたくさんやっていきます」

根岸孝旨「真面目に話すね」

奥田民生「普段真面目じゃないみたいに言わないでください」

 

ゆるいMCのやりとりの後に披露されたのは『夕陽ケ丘のサンセット』。ゆるいMCによって会場の緊張も解けたのか、自然と観客も手拍子を鳴らし楽しんでいた。

 

それにしても演奏だけでなく民生のボーカルも良い。少しだけ鼻声ではあったものの、それをカバーするかのようにいつも以上に大きな声量で歌っているように感じた。そんか歌声に迫力を感じたし今回のライブを最高のものにするという気合や熱量を感じる。

 

民生の歌とギターから始まった『風は西から』では、サビで観客が腕を上げて盛り上がっていた。2013年の楽曲なので、このメンバーでの演奏は初めてである。それなのに初めてと感じさせないほどに、このメンバーでの演奏が様になっている。そこから重厚な演奏で『メリハリ島』を続ける。やはり5人体制で音が分厚い分だけ迫力がある。

 

「やってもいいけど、やってなかった曲というか、これはできるのかっていう曲というか、キャラと合わないというか、次はそんな曲です(笑)」という曖昧な説明をしてから『トリコになりました』が演奏された。

 

根岸のベースから始まり、奥田民生楽曲としては珍しい速いBPMの疾走感ある演奏で盛り上げる。斎藤のキーボードの速弾きも最高だ。「キャラと合わない」と言いつつも奥田民生の魅力が存分に発揮されたロックンロールで楽しい。

 

とはいえ次に演奏された『ワインのバカ』の方が、キャラに合っているのは事実だ。斎藤のキーボードの音色が印象的で、民生節といえるゆったりとしたボーカルでしっかりと届けていた。。

 

『KING of KIN』は前半のハイライトに思う。音源のゆるいアコースティックな演奏ではない壮大なロックサウンドになっているだけでもテンションが上がるし、演奏に合わせサビで観客が「KING of KIN!」と歌いながら拳をあげる景色も最高だ。

 

アウトロでは音源を再現するように少しずつ演奏の音を小さくしていき、最終的に無音の中弾いているフリをするメンバーまユーモアがあって楽しい。

 

奥田民生「昔の方がもっと上手かったんだけどな...」

根岸孝旨「リハよりは上手かったよ」

奥田民生「弾いたフリをして実際は弾かないっていうのは疲れるんだよ!」

 

演奏後に客前で公開反省会をするメンバー。だがすぐに気を取り直して「次です」と言って演奏を始める。

 

次の曲は『息子』。音源よりも少し長めの民生のギターから歌が始まり、青い照明に包まれながらしっとりと語りかけるように歌い演奏していた。個人的には今1歳の息子を育てていることもあり、以前とはこの曲が違うニュアンスで心に響くようになった。だから個人的に今回のライブで特に感動したのが、この楽曲だ。

 

民生が確かめるように丁寧にギターを爪弾いてから演奏が始まったのは『The STANDARD』。奥田民生を代表する名曲のひとつだ。やはり民生は少々鼻声ではあるものの、それをカバーするかのように魂をこめて歌っているように聴こえた。その歌声に身体も心も震える。この日の奥田民生の歌声は、技術を超越したかのような心に突き刺さるような凄みがあった。

 

GOZの演奏の凄まじさを特に感じたのは『手紙』だ。ミドルテンポだがサウンドは重厚で少しの緊張感がある息のあった演奏が素晴らしい。アウトロで民生が前方に出てきてギターソロを弾き倒し、バンドメンバーはドラムの古田の方を向きジャムセッションをするかのように音を重なる。このアウトロだけでチケット代の元が取れたと思うほどに圧巻だった。

 

奥田民生「次はこのメンバーではやってない曲ですね」

根岸孝旨「知らない曲です」

観客「wwwwww」

 

あれだけ緊張感ある重厚なロックを鳴らしていたのに、MCはゆるゆるだ。

 

続けて演奏されたのは『無限の風』。2007年の曲なので、このメンバーでの演奏は初めてである。「知らない曲」と言っていた根岸も、知り尽くしているかのように素晴らしい演奏をしていた。観客の反応も上々で、腕をあげて盛り上がっている人がたくさんいる。

 

続く『MANY』も2006年の曲なので、GOZでの演奏は初めてだし根岸にとっては知らない曲かもしれない。だがそうとは思えないほどに厚みのあるサウンドで最高のグルーヴを生み出していた。

 

とはいえGOZで何度も演奏したであろう『コーヒー』は、流石と思うほどにさらに素晴らしい音を奏でてくれる。重厚なロックサウンドながらも心地よいリズムで、メンバーのコーラスは美しくて聴き入ってしまう。それに対して熱く叫ぶようにサビを歌う民生のクールさにもグッとくる。

 

民生が「ここから後半です」と告げて古田の力強いドラムから始まったのは『恋のかけら』。歌詞の雰囲気に合わせたかのよつなピンクの照明が美しかった。

 

今回のライブは演出は最小限で歌と演奏をしっかりと聴かせるようなライブではあったが、それでも楽曲を理解しているであろうささやかな演出もあって、それがライブをより魅力的なものにする材料となっていた。

 

ここから会場の熱気を急上昇させる曲が続いた。まずは『MILEN BOX』。始まった瞬間に歓声が湧き上がり、観客も歌いながら拳をあげる。

 

この日一番の盛り上がりとなった『御免ライダー』も楽しすぎた。始まった瞬間の歓声はこの日の披露曲で1番大きかったし、観客も自由に踊っていた。自分の座席は二階席だったが、そこから見える客席の景色は、ステージと同じぐらいにカッコよくて美しい。

 

演奏後の大歓声を浴びながら、満足気にしこを踏む直前の動きをする民生。会場が両国国技館だからだろう。しかしシコを最後まで踏まないひねくれた感じが彼らしい。

 

演奏中以外はずっとゆるいのに、やはり曲が始まるとロックミュージシャンとして最高の音を聴かせてくれる。民生の弾くギターリフから始まった『トロフィー』では、壮大で感動的な演奏が会場に響き渡る。音源以上にバンドの演奏が際立つサウンドになっていて、GOZというバンドの凄みを改めて実感する。間奏で「ありがとう!」と叫ぶ民生の姿も印象的だ。

 

「もう一曲だけ」と小さく呟いてから、最後に『CUSTOM』が演奏された。彼の楽曲の中でもメッセージ性が強くて、珍しく音楽に対する彼の想いがダイレクトに伝わる歌だ。

 

自分は何度も奥田民生のライブを観ている。ソロのバンドでも、弾き語りでも、ユニコーンやサンブジンズや、他のアーティストとのコラボだったりと、様々な形で。その中でも今回のライブの『CUSTOM』の歌声は、特に感情的な表現だったし良い意味で荒々しくて熱いものに聴こえた。これが30年間の魂を込めた歌唱なのかとも思った。

 

こんか完璧な締め方を本編で行った後のアンコール1曲目は『マシマロ(ック)』。『まんをじして』のカップリングに収録されていた『マシマロ』の別アレンジバージョンだ。

 

予想外ながらもGOZだからこその選曲なので納得の1曲ではある。観客は思い思いの方法で自由に踊っていた。

 

民生が「ありがとう!」と叫んでから最後に演奏されたのは『愛のために』。30年前のソロデビュー曲だ。それなのに今の時代でも古くならないような、むしろ今の時代を反映させているかと思ってしまうような楽曲で、30年経ってもロックアンセムとして観客の心を震わせている。

 

2番のBメロとサビで民生がマイクスタンドから離れると、客席から割れんばかりの大合唱が響く。そんな客席全体の景色を顔と身体を動かし、穏やかな表情で民生は眺めていた。

 

鳴り止まない拍手が響く中、楽器を置いた奥田民生とGOZ。そしてステージを練り歩き、客席にできる限り近づいて、感謝の気持ちを伝えるかのように手を振ったりお辞儀をしたりしていた。普段の奥田民生のライブではこのようなことをするのは珍しいが、それほどまでに30周年を噛み締めていたのかもしれない。

 

それは観客も同じなのだろう。メンバーがステージを後にし終演のアナウンスが流れても、拍手は鳴り止まなかった。奥田民生のライブに限らず、これほどまでに終演後の拍手が長いことは珍しい。それほどまでに観客は感動したのだろうし、奥田民生の30年を噛み締めていたのだと思う。

 

先日自分は小沢健二の『LIFE』のリリース30周年を記念したライブへ行った。

 

 

そこで小沢健二は「 30年間は振り返るとあっという間だけど、30年先は気が遠くなるほど遠い。振り返るとすぐそこの過去。だけど先を見ると果てしなく遠い未来」と話していた。

 

奥田民生の30年間も同じように「振り返るとすぐそこの過去。だけど先を見ると果てしなく遠い未来」なのだろう。これだけ続けて来た人だからこそ唄える歌があるのだろうし、これだけ続けた人だからこそできるライブがある。そんなことを感じる名演だった。

 

ちなみにこの記事の最後に添付した写真は、本文と関係ない。

 

f:id:houroukamome121:20241104125741j:image
f:id:houroukamome121:20241104125752j:image
f:id:houroukamome121:20241104125744j:image

 

■奥田民生『ソロ30周年記念ライブ「59-60」GOZ LIVE AT RYOGOKU KOKUGIKAN』at 両国国技館 2024年10月27日(日) セットリスト

1.ルート2
2.彼が泣く
3.ときめきファンタジーⅢ
4.夕陽ヶ丘のサンセット
5.風は西から
6.メリハリ鳥
7.トリコになりました
8.ワインのバカ
9.KING of KIN
10.息子
11.The STANDARD
12.手紙
13.無限の風
14.MANY
15.コーヒー
16.恋のかけら
17.MILEN BOX
18.御免ライダー
19.トロフィー
20.CUSTOM

 

アンコール
21.マシマロ(ック)
22.愛のために