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【ライブレポ・セットリスト】SHISHAMO ワンマンツアー2025春「NICE TO MEET YOUr town!!! 〜season2〜」at メガネのイタガキ文化ホール伊勢崎(伊勢崎市文化会館) 大ホール 2025年2月16日(日)

2022年。茨城県にある取手市民会館でSHISHAMOのワンマンライブを観た。

 

そのライブは「SHISHAMOが今まで行ったことがなかった市区町村へ行ってライブを行う」というコンセプトのものだった。地方の人はいつも都心に出てきてライブを観てくれるから、このツアーでは逆にSHISHAMOがファンの住む地方へ出向いてライブを行いたいと思ったからこそのコンセプトだという。

 


ファン想いなSHISHAMOらしいコンセプトだと思ったし、そのライブは内容も含めて素晴らしかった。その地域でライブをした意味を感じる内容でもあったし、自分のように逆にSHISHAMOを観るために地方へ足を運んだファンはその地域の魅力も感じさせてくれるライブでもあった。その詳細については上記のリンクのライブレポを読んでほしい。

 

そのツアーは好評だったのだろう。同様のコンセプトのツアー『SHISHAMO ワンマンツアー2025春「NICE TO MEET YOUr town!!! 〜season2〜」』が2025年にも開催された。今回自分が足を運んだのは群馬県伊勢崎市で行われたライブ。SHISHAMOどころか普段はロックバンドがライブを行うことが珍しい会館らしい。


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開演時間を過ぎるとステージにスクリーンが出てきて、そこに映像が上映された。宮崎朝子と松岡彩が伊勢崎のもんじ焼き屋で食事をしたり、地元民に愛されているショッピングモール『スマーク伊勢崎』でGong chaを飲んだり、伊勢崎の遊園地で遊ぶ様子が映されている。地元民にとっては「SHISHAMOが自分達の街に来てくれた!」ということまじまじと感じる内容だ。ただ地方でライブをやるだけでなく、地方に寄り添ってライブをやろうとしていることがわかる。

 

映像が終わりメンバーが登場し、力強いドラムの音が響きライブがスタート。現在ドラマーの吉川美冴貴が体調不良で活動休止しているため、今のSHISHAMOはサポートドラマーを招いている。今回のサポートはyucco。元THE2で現在はthe dadadadysのメンバーとして活動しているドラマーだ。

 

yuccoのドラムに合わせて「SHISHAMOです!伊勢崎!よろしくお願いします!」と宮崎が挨拶をし前方に出て『恋する』が演奏された。初めての会場だからかできる限りファンの近くに行こうとしてるのだろうか、いつも以上に前方に出てきたり台の上に立ってギターソロをかき鳴らしたりと魅せるパフォーマンスをしている。

 

そこから小さなトイピアノを宮崎が弾いてから始まった『君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!』でさらに盛り上げていく。カラフルでポップな照明は鮮やかで曲の雰囲気とマッチしていて良い。

 

yuccoのドラムは疾走感があり、良い意味で荒々しい。今回が初参加かつ1回限りということで細かいアレンジができなかったこともあるのかもしれないが、フレーズもシンプルで王道ロックンロールといったプレイだ。細かくて複雑なフレーズを入れつつも安定したドラムでしっかりと支える吉川のドラムとは違ったプレイスタイルなのが新鮮だ。やはりメンバーが1人入れ替わるだけで演奏は大きく変わる。

 

個人的に嬉しかった選曲は『君とゲレンデ』だ。自分がライブで聴いたのは久々だし、真冬に生で聴けたというシチュエーションも嬉しい。宮崎が前方に出てギターソロを弾く姿が印象的だった。

 

宮崎の「伊勢崎発上陸です!」という言葉から最初のMCへ。まずはサポートドラマーのyuccoを紹介し「今回はSHISHAMOに色々なことがありツアーをできないんじゃないかと思いましたが、こうしてyuccoさんがサポートしてくださったから来ることができました」と感謝を述べる。きっとギリギリのタイミングで調整がつき今回のライブが実現したのだろう。

 

そんな丁寧な感謝を述べたかと思いきや「この会場、あっちいな!こういうのはアピールしたほうがいい!空調をなんとかしてくれるかもしれない!しかもこの衣装、裏起毛じゃん!あっちい!」と一瞬で口が悪くなる宮崎。

 

宮崎「伊勢崎はあまりバンドがライブを行わない地でしょ?」

観客「wwwwww」

宮崎「そういう場所に住んでいる人はいつも遠出して私たちに会いに来てくれていると思います。だから今回は感謝の気持ちも込めて、私たちからみんなに会いに行こうというツアーです。そして普段はバンドがライブをやらない伊勢崎に来ました!」

観客「wwwwww」

 

悪気もないし愛もあるのだろうが、ほんのりと言葉選びを間違える宮崎のせいで客席から笑い声が響く。

 

宮崎「伊勢崎は良いところだよねえ」

観客「......」

宮崎「あれ?」

 

だが伊勢崎が褒められると、急に静かになる観客。

 

静かになった観客も演奏が再開されれば騒ぎ出す。疾走感あるドラムが印象的な『私のままで』で一気に盛り上げ、跳ねるリズムが印象的な『犬ころ』で観客を踊らせる。〈君がその瞼閉じる時 まるで夕日が海に沈んでくみたい〉という歌詞で照明が夕焼けのようなオレンジでステージを包み込んだ景色は、歌のメロディと同じぐらいに美しかった。

 

対して『真夜中、リビング、電気を消して。』では青く薄暗い照明の中で重厚なサウンドを鳴らす。照明の光によってステージの壁に窓が並ぶような景色を作り出していて、それが部屋の中を再現しているように見えた。今回のツアーは特別なステージセットはなかったものの、その代わりに照明演出が特に良い仕事をしている。

 

ライブ定番曲『きっとあの漫画のせい』で爆発するような盛り上がりになるのは、都心でのライブと変わりない。開催場所がいつもと違うだけで、SHISHAMOを好きな人が音楽に向き合う姿勢は変わらないのだと実感する。

 

観客「あ&%ちゃんかわいいーー!!!」

宮崎「朝ちゃんなのか彩ちゃんなのか聞き取れなくて反応できなかった(笑)」

観客「どっちもおおおおおお!!!」

宮崎「じゃあさっきの嘘じゃん!」

観客「wwwwww」

松岡「気を遣える良い人なんですよ!」

 

メンバーとファンとのゆるいやりとりも、地方でも都心でも変わらないようだ。

 

宮崎「伊勢崎のこと好きになっちゃったあ!どこを見ても山々が見えてのどかだし」

松岡「ちょっとした川もキラキラして綺麗だし」

宮崎「ちょっとしたは失礼!」

松岡「ちょっとしてない川もキラキラして綺麗です!」

 

メンバー同士のゆるいやりとりも地方でも都心でも変わらないようだ。

 

MCの話題はオープニングで流れた映像の話へ。

 

宮崎「映像に出てきたお店で聞いたんだけど、もんじゃ焼きじゃなくてもんじ焼きなんだって。なんでか理由は聞いたけど忘れちゃった」

観客「wwwwww」

松岡「月島が『もんじゃストリート』を作る時に勝手に”もんじゃ”と看板に書いてもんじゃが浸透しちゃったらしいです。小さい子が焼きながら生地を文字の形にして文字をの書き方を学んでたことが由来の名前だから”もんじ焼き”らしいです。もんじ焼き屋さんのお母さんが言ってました」

宮崎「よく細かく覚えてるね」

 

全てを忘れた宮崎と全てを覚えていた松岡。

 

ちなみにいちごシロップ入りのもんじ焼きを食べたらしい。「あれはどういう気持ちで食べるの?おやつ感覚?食事のつもりで食べたからびっくりしちゃった」といちごシロップ味のもんじ焼きを言葉を選びつつ感想を述べていた。

 

宮崎「ショッピングモールのスマーク伊勢崎はみんな行くの?」

観客「伊勢崎はそこしか行くところがない!」

宮崎「地元にそんなこと言っちゃダメでしょw なんかお店が全員集合みたいな場所だった。ぎゅっとお店全部が詰められて集められた感じというか」

観客「wwwwww」

宮崎「そこでGong chaを飲んだ」

観客「今飲んでる!」(Gong chaを掲げる観客)

宮崎「なんで持ってんのwww 別にライブは自由に楽しめば良いけれどタピオカ飲みながらライブを観るとはギャルいねwww 」

 

今回のライブはおそらく初めてライブに来た人もいると思う。だからか普段は滅多にいないGong chaを飲みながらライブを楽しむギャルもいたのだろう。ライブは自由なのだと改めて感じた。

 

宮崎がギターをグレッチに持ち変え『春に迷い込んで』から演奏が再開。前半はアップテンポのロックナンバーで盛り上げていたが、この楽曲はミドルテンポのロックバラード。桜色の照明の下で繊細に歌う声に心が震える。

 

宮崎の優しい音色と声色の弾き語りから始まり、松岡とyuccoが丁寧に合わせるように静かに音を鳴らした『天使みたい』は、その繊細すぎるほどに繊細な演奏に息を呑んでしまう。音に吸い込まれるような不思議な感覚になる。前半とは全く違う雰囲気を音によって作り出してしまうのだから、SHISHAMOは凄まじいバンドだ。

 

何の説明もなく新曲を演奏したことには驚いた。宮崎がスポットライトを浴びながらアルペジオで弾き語りをして、そこからバンドの壮大な音が重なるロックバラードだった。〈鬱陶しくても疲れてもあなたの隣で眠ります それを運命と呼んでいいですか〉というサビの歌詞が印象的で忘れられない。長尺のギターソロがあったことも印象的だった。

 

続くMCでは「座っていいですよ。別に立ってもいいけど。演奏中も座りたければ座っていいし、立ちたければ立てばいいしどっちでもいいですよ」と話す宮崎。すると観客は全員座った。「みんな座っちゃったwww」と笑う宮崎。

 

ここで観客に「初めてSHISHAMOのライブに来た人」と「伊勢崎に住んでいる人」がどれだけいるかアンケートを取って、観客に挙手をさせた。

 

すると会場の7〜8割ほどが手を上げていた。これだけ多くの人がSHISHAMOを好きでありながらも、地元に来ないという理由によってライブを観れずにいたということなのだろう。伊勢崎は都心からも日帰りできる距離ではあるものの、それでも簡単にライブに行ける人ばかりではないのだと思う。

 

宮崎「SHISHAMOのライブ、どうですか?」

観客「好きになりました!」

宮崎「ライブに来るまで好きじゃなかったの?好きじゃないけど来てみようって?」

観客「wwwwww」

宮崎「付き合いで連れて来られた人はいる?

観客(10人程度手を挙げる)

宮崎「連れてこられたって感じの顔してる」

観客「wwwwww」

 

初めて来た土地だからだろうか。いつも以上に観客と会話をするメンバー。SHISHAMOはMCが長くなることが多いが、今回は特に長い気もする。

 

宮崎「初めてライブに来た人が多いけど、何で来た?」

観客「wwwwww」

松岡「今のは何がきっかけで来たんですかって意味ですからね?」

感覚「回覧板!」

宮崎「回覧板でライブを知ることある!?回覧板も捨てたもんじゃないね!回覧板きっかけで来たライブはどうだった?」

観客「最高です!」

 

都心のライブではあり得ない理由で来た観客もいた。もしかしたらファンというわけではなく、地方ならではの理由で開催を知って興味本位で来た観客もいるのかもしれない。地方の1000人以上のキャパがしっかり埋まっていることも、ファン以外の人の力があったからなのだろう。

 

「やっぱ立とうか?」という宮崎の声かけで観客が立ち上げってから演奏が再開。

 

「SHISHAMOにとって初めてのアニメ主題歌です」と紹介してから演奏されたのは『自分革命』。ポップながらも疾走感があり以前からのバンドの魅力が詰まってはいるものの、新境地も感じる楽曲だ。これからライブでさらに成長しそうな雰囲気を感じる演奏で、今後ガッきょくが成長すればライブ定番曲になる予感がする。

 

カラフルな照明とホーンのオケに合わせ、ポップな演奏を響かせた『カラフル』では観客を踊らせて華やかな空気を作り出す。朝の情報番組のテーマソングということもあって、回覧板きっかけできたような観客も知っているのだろう。最近の新曲ではあるものの盛り上がりは最高だった。

 

宮崎「ここから終盤戦です!」

観客「ええええええ!!!」

宮崎「ここから終盤戦です!」

観客「ええええええ!!!」

宮崎「ここから終盤戦です!」

観客「ええええええ!!!」

宮崎「ありがとうございます(笑)」

 

名残惜しむ観客の姿に喜び、何度も名残惜しませる宮崎。

 

『夏恋注意報』で終盤戦に相応しい盛り上がりを作り出し、そこからなだれ込むように『君と夏フェス』へと続く。やはり代表曲のひとつだけあって、この楽曲は盛り上がりが凄まじい。松岡も台の上に乗ってベースを弾いたりとパフォーマンスでも魅せて盛り上げていた。

 

松岡の「次の曲ではタオルを回してください!持っていなければ拳でも全然大丈夫です!臭くない自信があれば靴下でもいいです!後ろまでバッチリ見えてますよ!」という煽りから『タオル』が続くと、会場一面がタオルを回す。その景色は圧巻だ。流石に靴下を回す者はいなかった。

 

そこから曲間なしで宮崎がギターリフを鳴らし始まったのは『明日も』。紅白歌合戦でも披露された代表曲でもあり、始まった瞬間に歓声が響く。最初のイントロで金テープがステージから発射された時の歓声も最高だった。

 

ほぼ毎回ライブでやっているから都心のライブではこの曲で大歓声が挙がることは少ないので、地方だと大歓声があがることが新鮮だ。だがその大歓声の中に喜びが溢れているようでグッとくる。落ちサビでミラーボールに光が当たり、光が会場に飛びかう景色は美しく感動的だった。

 

ラストは『明日もない』。なだれ込むように始まった演奏は、この日で最も荒々しくて激しい。SHISHAMOのロックな部分が最も表面に出ているような演奏だ。様々なタイプの楽曲があるバンドだが、軸はロックであることを音で伝えているかのようだ。そんな演奏を終えると颯爽と去っていく姿はロックスターのようにも見えた。

 

アンコールでもメンバーはロックな一面を出してくる。挨拶もせずに『狙うは君のど真ん中』を紫の照明に包まれながら激しく演奏する。その衝動的な演奏は初めてSHISHAMOのライブを観た人には衝撃だったかもしれない。さらになだれ込むように『最高速度』を演奏したりと、アンコールになって最もロックバンドであることをアピールするかのような音を鳴らしていた。

 

だが2曲の演奏を終えて着ているグッズのTシャツをアピールするかのようにポージングするお茶目な2人。その姿は先ほどまでとギャップがありすぎる。

 

初めてライブをやる場所はすごく緊張します。でも今日はみんなの眼差しがすごく温かかったの。だからリラックスしてライブができました。

 

演奏中も何がそんなに面白いんだと思うぐらい笑顔の人がたくさんいて(笑)。でもそんなふうに聴いてくれることがすごく嬉しかったです。伊勢崎に来れて本当に良かったと思いました。

 

最後の挨拶をする宮崎。そして「この人が居なければ伊勢崎にはくることができませんでした!」と言って改めてyuccoを紹介していた。客席からはyuccoに対して長くて大きな拍手が贈られた。

 

宮崎「終わっちゃうね。寂しいね」

観客「もっとやっていいよ!」

宮崎「いや、終わっとく(笑)」

 

観客ともゆるいやりとりのコミュニケーションを取って、最後に『恋じゃなかったら』が演奏された。力強い演奏ながらも優しさを感じる音色で、観客は心地よさそうに身体を揺らす。多幸感に満ちた空気が感動的で、演奏を終えてからもその余韻は長く残っていた。

 

普段ロックバンドがライブをやらない地方の会場だけを選びツアーを回るということは、利益を考えるとメリットは小さい。集客に不安要素はあるだろうし、都心だけでツアーを回った方が利益も出しやすいだろう。

 

それでもあえて地方を回るツアーを行う意味はあるのだと思う。それは今回のSHISHAMOのライブを観てより強く実感した。例えば回覧板をきっかけにロックバンドのライブに行こうと思うなんて、地方でなければあり得ないことなのだから。

 

このライブをきっかけに新しい音楽に出逢った人や、大好きな音楽が増えるきっかけになった人が、都心でのライブ以上にたくさんいたと思う。なぜなら今回のSHISHAMOのライブは初めて来た人や地元の人が大多数だったことが証拠だ。

 

次に伊勢崎でライブをやる時がもしもあるのならば、吉川がドラムを叩くライブも観れたらいいなと思う。

 

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SHISHAMO ワンマンツアー2025春「NICE TO MEET YOUr town!!! 〜season2〜」at メガネのイタガキ文化ホール伊勢崎(伊勢崎市文化会館) 大ホール 2025年2月16日(日) セットリスト

1.恋する
2.君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!
3.君とゲレンデ
4.私のままで
5.犬ころ
6.真夜中、リビング、電気を消して。
7.きっとあの漫画のせい
8.春に迷い込んで
9.天使みたい
10.新曲
11.自分革命
12.カラフル
13.夏恋注意報
14.君と夏フェス
15.タオル
16.明日も
17.明日はない

 

アンコール
18.狙うは君のど真ん中
19.最高速度
20.恋じゃなかったら