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【ライブレポ・セットリスト】フジフレンドパーク 2022 (出演:フジファブリック 凛として時雨) at Zepp Divercity Tokyo 2022年9月30日(金)

フジファブリックと凛として時雨は、キャリアや世代が近いロックバンドだ。しかし音楽性は全く違うし、目指してきた場所や活動スタイルも離れている。

 

メンバー同士に交流があることは知られていたし、音楽フェスやイベントで同日に出演したことはある。しかしこれまでの活動を考えると、2マンライブを行うことは意外だった。

 

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そんな2組だがフジファブリック主催の対バンライブ『フジフレンドパーク2022』で、初めてツーマンライブを行った。発表時からお互いのファンが、予想外の組み合わせに驚いていたと思う。

 

しかし実際に2組のライブを観たら、この組み合わせの意味や必然性がわかった。

 

彼らはお互いに日本のロックシーンて切磋琢磨してきた仲間なのだ。むしろもっと早くに対バンしても不思議ではない関係なのだ。

 

凛として時雨

 

出てきた瞬間から主催のフジファブリックとは違うオーラをまとっているとわかる。ステージ照明やSEからしても雰囲気が違う。照明は薄暗く。メンバーが登場した時も白い照明の光が微かに3人を照らしている程度だ。SEも怪しげな音である。

 

準備を勧める様子からも緊張感があり、その空気か観客にも伝わっている。初めて彼らを観たフジファブリックのファンは、張り詰めた空気に驚いたかもしれない。

 

しかし演奏が始まれば、その緊張は良い方向へ作用する。彼らは張り詰めた空気を轟音によって引き裂き、それによって圧倒させるライブを行うからだ。その瞬間に心をつかまれてしまうのだ。

 

この日も1曲目の『I was music』から耳を劈くような轟音を鳴らし、ハイレベルな技術を見せつける演奏をしている。観客はあまりの凄さに圧倒され、傍観してしまうほどに凄まじい。

 

その緊張感ある空気は『ハカイヨノユメ』から興奮へと変わっていく。フジファブリックのTシャツを着ている人も、サビで腕を上げている人が増えてきた。演奏が凄まじくハイレベルなので、それを観て自然と興奮してしまったのだろう。

 

はじめまして。凛として時雨です。誘っていただき嬉しいです。

 

初めて観てビックリされている人が多いかもしれませんが、怖い人ではないですよ

 

2曲の演奏を終え穏やかな表情で観客に語りかけるTK。345は笑顔で客席に手を振っている。ピエール中野は無表情だった。彼はおしゃべりだが、今日は無言でお口がミッフィーちゃんだ。

 

序盤にこのようにTKがMCをすることは珍しい。おそらくいつも通りに自身の音楽を貫きつつも、フジファブリックのファンに寄り添おうとしたのだろう。

 

とはいえここからの演奏も轟音だし、いつも通りの凛として時雨を貫いたライブである。345のゴリゴリのベースから始まった『DISCO FLIGHT』ではピエール中野もスティックを回して煽ったりと、むしろ演奏は激しくなっていた。音色も相変わらず耳に刺さるほどに尖っている。

 

しかし最初は怖がっていたフジファブリックのファンも、次第に彼らの凄さを理解し魅了されているようだ。序盤の緊張感ある空気は観客の間では流れていない。

 

アニメPSYCHOPATHの主題歌としてヒットした『abnormalize』が演奏されれば、さらに盛り上がり、熱気が上昇していく。彼らが怖い人でないことを理解できたからこそ安心して楽しめているのだろう。

 

音を叩きつける様な激しい演奏が続いていたが、次の2曲はまた違った感情を与えてくれる楽曲だった。

 

『a 7days wonder』では音色が美しくなり、フロアに幻想的な空気を作りだした。しかし中盤のギターソロではTKがギターをかき鳴らしたりと、彼らの演奏の凄みを感じさせる展開もある。そんな演奏に魅了されつつも興奮してしまう。

 

初めて凛として時雨を観たフジファブリックのファンを特に驚かせたのは『laser beamer』かもしれない。

 

この曲はレーザーのような電子的な音がギターから鳴らされる。エレキギターから鳴らされているとは思えない様な不思議な音色は、他のライブで聴いたことがない。緑色の照明がレーザーのようにステージを飛び交う演出にも引き込まれる。

 

スリーピースバンドは楽器の数が少なく、限られた数の音しか出すことができない。しかし凛として時雨の演奏術や音色の作り方に触れると、スリーピースバンドは工夫次第で物凄い可能性があるのだと実感することができる。

 

そんな楽曲で魅了した中盤だが、後半に入ると再び熱気を帯びた激しい演奏が再開した。『竜巻いて鮮脳』で耳を劈くような轟音を鳴らし圧倒させ、そのまま『Telecastic fake show』へとなだれ込む。

 

当然ながら3人の演奏はキレッキレだし、ピエール中野は立ち上がり観客を煽っている。最初は怖がっていたフジファブリックのファンも、彼らの演奏に興奮し感動したはずだ。

 

この曲でライブが終わったかと思うほどの熱気が会場に満ちていたが、ここでTKがMCで長い話を始めた。

 

普段はピエール中野が長尺のMCを行いシュールな空気にすることが定番だが、今日のピエール中野はしゃべらない。お口がミッフィーちゃんである。

 

最初にフジファブリックさんと一緒になったのは、福岡のイベントでした。

 

志村さんが楽屋に来てくださり、志村さんの名前や連絡先が書いてある名刺をいただきました。バンドマンから名刺をいただくのは初めてでした(笑)

 

そこから連絡を取り交流するようになりました。一緒にご飯を食べに行く約束をしていたんですが、お互いに忙しくてなかなか予定が合わなくて、約束を果たすことができませんでした。

 

凛として時雨は2010年に『still a Sigure virgin?』というアルバムを出しました。そこに『eF』という曲が収録されています。たぶん他のところで話したことはないんですが、この曲のタイトルはフジファブリックの頭文字から取りました。

 

この曲を最後に演奏したいと思います。

 

TKは穏やかな表情で優しくフジファブリックや志村正彦との思い出を語った。彼がライブ中にこのように語ることは珍しい。思い出話を語ることなんて滅多にない。

 

そして「スペシャルゲスト、総くんとダイちゃんです」と言ってフジファブリックの山内総一郎と金澤ダイスケをステージに呼び込んだ。

 

ピエール中野はこの曲ではギターを担当したが、慣れないギターを抱えて緊張気味である。そんな彼の方を叩いてステージに登場した山内が印象的だった。

 

さらにTKは「こちらにもスペシャルギタリスト、ピエール中野」と紹介しイジていた。ピエール中野は俯いたまま、苦笑いをして黙っている。今日のピエール中野は、ずっとお口がミッフィーちゃんだ。

 

果たせなかった約束を、1番近い場所で果たします

 

そう言って5人で『eF』が演奏された。

 

山内のギターと金澤のキーボードはフジファブリックの個性をしっかりと感じる。しかし他の3人の演奏は凛として時雨の音楽としか言い表せない演奏でもある。

 

先ほどまで叫ぶ様に歌っていたTKは、繊細で優しい声色で歌っている。腕をあげたり踊ったりと楽しんでいた観客も、じっと5人の演奏に聴き入っている。

 

凛として時雨のライブを観ると、毎回圧倒的な演奏と物凄いサウンドに鳥肌が立ち、興奮で目が冴える酔うな余韻が残る。

 

しかし今日は少しだけ違った。心が温かくなって、穏やかで優しい余韻が残った。そして、少しだけ切なく思ったりもした。

 

形が変わってしまったかもしれないが、この日の凛として時雨は志村正彦との約束を、ステージ上で約13年越しに果たしただろう。

 

■セットリスト

1.I was music
2.ハカイヨノユメ
3.DISCO FLIGHT
4.abnormalize
5.a 7days wonder
6.laser beamer
7.竜巻いて鮮脳
8.Telecastic fake show
9.eF with 山内総一郎&金澤ダイスケ

 

フジファブリック

 

ポップなSEが流れる中、笑顔で登場したフジファブリック。凛として時雨の登場時とは全く違う雰囲気ではある。しかし凛として時雨がステージに出てきた時と同じように、姿を表した瞬間に自分たちの空気にしてしまうのは流石だ。

 

そんな空気の中演奏された1曲目は『銀河』。ここ最近はライブでの演奏回数が減っていた、フジファブリックが飛躍したきっかけとなった楽曲のひとつである。そんな楽曲から始まったことと、熱量ある演奏によって、フロアはいきなりフルスロットルで盛り上がっている。

 

フジファブリックと凛として時雨は、2009年にZepp Fukuokaで行われた『ROCKだぜ!2009』というイベントで初共演したらしい。

 

他の出演者はandymoriにサカナクション、NICO Touches the WallsにMO'SOME TONEBENDERと、今にして思うとかなり豪華なラインナップだったようだ。(ROCKだぜ! 2009|キョードー西日本 オフィシャルサイト)

 

当時のセットリストを調べたところ、この日のフジファブリックも1曲目に『銀河』を演奏していた。もしかしたらメンバーもそのことを覚えていて、凛として時雨とのツーマンだからこその、粋な選曲をしたのかもしれない。

 

続く『徒然モノクローム』では山内総一郎と加藤慎一が前方に出てきて煽ったりと、さらに盛り上げてライブの空気を作っていく。

 

そんな熱気でテンションが上がっているのだろうか。山内の語気が強い。2曲を終えてからの挨拶は手短で「凛として時雨から刺激をもらったんで、今日は伝説の夜にします」と宣言し『夜明けのBEAT』から演奏を再開。

 

ギターソロでは金澤の近くに行き、背面奏法を披露する山内。前日のSaucy Dogとの対バンでは加藤の近くで弾いていた。日替わりで位置を変えているのだろうか。これで金澤が加藤に嫉妬することはないだろう。

 

さらに『カンヌの休日』で熱い演奏をして『楽園』で観客を気持ちよく踊らせた。今回のフジファブリックは序盤からフルスロットで飛ばしている。演奏はいつも以上に衝動的だし、いつも以上に客席を煽っている。凛として時雨に大きな刺激を受けたのだろう。それによって演奏が変わることが、対バンライブの面白い部分だ。

 

しかし繊細な演奏で聴かせる曲も、しっかりと披露している。「次にやる曲はこのイベントにピッタリな曲です。この日に感じたことを忘れないでというメッセージが込めています」と山内が語ってから始まった『Water Lily Flower』は、繊細な演奏で披露された。観客はじっと集中して演奏に聴き入っている。込められたメッセージをしっかりと受け取ろうとしていた。

 

そこから薄暗い幻想的な照明の中で『若者のすべて』を演奏する流れも良い。〈何年経っても思い出してしまうな〉という歌詞があるこの曲は『Water Lily Flower』と近いメッセージが込められているのだろう。

 

金澤ダイスケ「凛として時雨、すごかったですね。鉄のような音を久々に聴きました。凛として時雨のピュンピュンビュンって音(おそらく『laser beamer』のこと)はなんですか?ギターの音?」

山内総一郎「俺らがコラボした時にマイクスタンド置いて貰えなかったのは、俺らと喋ったらゆるふわな空気になってライブの雰囲気が壊れるからかも」

金澤ダイスケ「でも裏での凛として時雨はゆるふわなんですよ。わたあめみたいな人達です」

観客 (わたあめ......???)

 

凛として時雨のライブを観た感想について、ゆるふわな空気を醸し出しながら喋るメンバー。話題は初めて会った時の思い出へと移る。

 

山内総一郎「凛として時雨と初めて一緒になったのはZepp Fukuokaのイベントでした。 音楽のイメージもあるし楽屋のドアも閉まってたから挨拶に行きづらかったんですよ。でも志村くんは普通に楽屋のドアを開けて挨拶に行くから勇気があると思いました(笑) 今では僕とTKくんはサシで飲みに行くぐらいの仲ですけどね」

金澤ダイスケ「その日のライブでトラブルがあったことを、今思い出しちゃった(笑)

山内総一郎「俺も今思い出した(笑)そのライブで俺、志村くんのMATCHLESSっていうめちゃくちゃ高価なアンプの上に乗ってコケて壊しちゃって、アンプから煙が出たんですよ。ヒューズが飛んだだけで済んだから治せたんですけど、それからはギターアンプに乗っていません(笑)」

 

自身の失態を振り返る山内。そういえば当時の志村はブログでご立腹しているようだった。

 

盛り上がりました。盛り上がったのは良いけれども、ソウ君が俺のアンプをすっ飛ばしまして、アンプが壊れました。ソウ君に怪我がなかったのは良かったですけれど、俺のアンプが。初期MATCHLESSなのに。日本に3台しかなかったのよ。最近売ってるものとはわけが違うんですよ。 

(引用:東京、音楽、ロックンロール 完全版 2009年8月23日より)

 

そういえば久々に志村との思い出話を、ライブ中に聞いた気がする。フジファブリックと凛として時雨がお互いに大切な存在になれたのは、志村がいたからかもしれない。だからこそ凛として時雨もフジファブリックも、今回のライブで志村について話をしたのだろう。

 

こうしてまた共演できたのはバンドを続けてこれたからです。でも思い出話ばかりしたいわけでは無いんです。未来の話をしたいんです。未来の話をしてトキメキを感じたいんです。生きていくにはトキメキが大切なんです。

 

2009年の日常は日常ではなくなってしまいました。最近もコロナや戦争によって日常は変わってしまいました。でも未来に向けてトキメキを作っていきたいです。

 

普段はゆるふわなのに、最も伝えたいメッセージは真っ直ぐな目で伝える。

 

未来の話をしてから演奏されたのは『SUPER!!』。再び演奏は熱気を帯び、観客も湧き上がるように盛り上がっている。やはり山内はいつも通り〈君をわすれはしないよ〉という歌詞を歌う時、天を仰いでいた。

 

ライブも後半戦。音源よりも長尺のセッションを取り入れた『Feverman』や、疾走感ある演奏の『電光石火』でスパートをかける。やはり凛として時雨から刺激を受けたのか、演奏はいつも以上に激しい。

 

しかし山内が「必ず笑顔で再会できるようにと願いを込めて演奏します」と語ってから始まった『破顔』は、繊細ながらも壮大な演奏だった。激しさはないものの、想いを全力で込めているかのような魂を感じた。

 

そんな熱くて感動的な本編を終えたものの、アンコールに出てきてからのMCはゆるふわである。相変わらず茶番の寸劇を挟んだ物販紹介を行っていた。凛として時雨のファンは傍観している。

 

しかしやはり最も伝えたいメッセージは、しっかりと伝える。

 

昔話ばかり今日はしてしまいましたけど、過去を振り返りたいわけではないです。未来の中に過去があると思っているんです。

 

次にやるのは僕らが今の体制になって、バンドを続けていこうと思った時に作った曲です。

 

当時は凛として時雨とレコード会社の担当が同じで、お互いに情報交換して切磋琢磨していました。ずっと隣にいる存在が凛として時雨だったんです。

 

山内が語ってから演奏されたのは『STAR』。現体制になってから最初に発表されたアルバムのリード曲だ。

 

煌びやかなサウンドが壮大に響く。白い照明が客席まで眩しく伸びていく景色は感動的だ。この曲も凛として時雨との対バンだからこそ演奏したのだろう。

 

そのまま曲間なしで『LIFE』へとなだれ込む。〈ちっちゃい頃に思ってた 未来の姿と今はなんだか 違うようだけれどそれもいっか〉というフレーズから始まり〈戻らない日々に手を振って行くのさ 今日も続いてく〉という言葉で歌詞が終わる楽曲だ。

 

「未来の中に過去がある」と語ってから披露されたのだから、演奏したことには特別な意味があるのだろう。フジファブリックはいつでも演奏やセットリストに「想い」を込めているのだから。

 

この日のライブは特に「想い」を演奏から強く感じた。フジファブリックだけでなく凛として時雨からも。

 

どちらも素晴らしいライブだった。「いつまでも忘れない」 そんな事、思う日になったし、何年経っても思い出してしまう対バンライブになった。

 

■セットリスト

1.銀河
2.徒然モノクローム
3.夜明けのBEAT
4.カンヌの休日
5.楽園
6.Water Lily Flower
7.若者のすべて
8.SUPER!!
9.Feverman
10.電光石火
11.破顔

 

EN1.STAR
EN2.LIFE

 

↓フジフレンドパーク2022東京初日のレポはこちら↓

↓去年のフジフレンドパークのレポはこちら↓