2022-08-05 リセールを1回しか行わず払い戻しもしないロッキンの対応を自分は全面的に支持する ROCK IN JAPAN FESTIVAL コラム・エッセイ 『王様のレストラン』というドラマが好きだった。ストーリーが面白かったことはもちろんだが、劇中に出てくる台詞が胸にグサッと刺さるほどにインパクトがあって、忘れられないものが多かった。だから自分はこのドラマが好きなのだ。 その中でも特に印象深い台詞がある。それはドラマの舞台となるレストランに「お客様は神様」だと思い込んでいるクレーマー客が来た時、主人公が言い放った台詞だ。 私は先輩のギャルソンに、お客様は王様であると教えられました。 しかし、先輩は言いました。王様の中には首をはねられた奴も大勢いると。 目から鱗だった。この台詞によって客が絶対的な権力を持っているわけではないと気づいた。王様は王国の民に感謝すべきだし、敬意を持つべきなのだ。王様だから偉いわけではなく、国民とは立場が違うだけなのだ。 自分が王様の時は、王様として恥のない立ち振る舞いをしたいと思った。そして自分が王国の民になる時は、場合によっては王様の首を跳ねる覚悟を持たねばと思った。 インターネットを見ていると「この人は首をはねられるタイプの王様だ」と思うことがある。最近だとROCK IN JAPAN FESTIVALのTwitter公式アカウントへの一部の反応を見た時に、それを思った。 【ROCK IN JAPAN FES. 2022】RIJF2022ではチケットのキャンセル・譲渡・同行者変更はできません。前方エリアのチケットも含め、SNS上で譲渡を呼びかけるツイートが散見されますが、電子チケットでの発券となるので、誰かに譲渡したり、譲渡されたチケットでご入場いただいたりすることはできません。— rockin'onフェスOFFICIAL|ROCK IN JAPAN FES. 開催 (@rockinon_fes) 2022年8月3日 このツイートに対しコロナの感染拡大しているにも関わらず、リセールを開催ギリギリまで行わないことや、チケットを自由に譲渡できないこと、行けなくなった人への返金を行わないことに対しての批判的な反応があった。 もちろん意見や要望を伝えることは自由だ。それが必要な時もある。 しかし「どのように伝えるか?」も重要だ。「首をはねられる王様」の態度になって、意見を押し付けていないかを気をつけるべきだ。 主催者のロッキングオンの立場や考えを想像し尊重した上で意見を述べている人もいた。素晴らしいと思う。しかしそれとは真逆な自分勝手に意見を押し付け相手を傷つける言葉を投げかける人もいた。 「金のことしか考えていない」「参加者のことを考えていない」「ここまで感染拡大するとは予想していなかったから運営が対応しろ」などなどと。 「ロッキングオンは炎上して欲しい」とツイートしている人までもいた。改善ではなく炎上を求める発想が自分にはわからない。自身の思い通りにいかないならば、誰かが傷ついて損失を受ければいいと思っているのだろうか。 どんな出来事に対しても「炎上して欲しい」という発想になることは危険だ。炎上によって得をするのは、炎上する様子をエンタメとして楽しむ趣味の悪い他人だけである。人が傷つく様子を楽しむ心を持っていることを恥じて欲しい。 そもそもロッキングオンは間違った対応を一切行っていない。 チケット先行時から7月中旬から下旬にかけて1回だけ抽選によるリセールを行うと発表していたし、記載通りにリセール申し込みが1回行われた。申し込みをする際には長文の注意書きが掲載されていたし、それを読んでから申し込みをするように案内されていた。それ以外にも公式サイトや公式アプリにはチケット先行時から様々な注意事項の補足や開催に向けての想いが書かれていた。 買い物は契約を結ぶ行為でもある。売り手が提示した条件を納得した買い手のみが購入するものだ。ライブのチケットも例外ではない。 特にコロナ禍になってからのライブイベントは、様々な制限やルールが増えた。これは「協力するもの」というよりも「従うべきもの」である。ほとんどの場合、申し込み時に注意事項として掲載されているのだから。 つまりロッキングオンが提示した条件に納得した者のみが購入すべきだったし、提示した条件に納得せずに買った者に落ち度がある。コロナに感染したとしても、自身の都合で払い戻しやリセール期間を伸ばすことができないことも、納得した上でチケットを申し込んだはずだ。それを契約締結後に変更を求めることは御法度である。 それは運営側も同じだ。例えば興行中止保険では感染症を理由に興行を中止しても保険金は支払われない。ビバラロックの運営はコロナ禍初期に保険金が降りないことを確認したが、それに納得し赤字を抱え込んだらしい。そのことはインタビューで主催者の鹿野淳が語っている。 鹿野:まずは1月中旬から末にかけて、コロナウイルスの影響でフェスが開催できなくなった場合に興行中止保険が下りるか調べておこう、結構まずいかもしれないからという打ち合わせをして。これは僕らだけじゃないと思うけど、みんなうっすらしか知らなかったんですよ、ウイルスで保険が降りるか降りないかってことを。 だからウイルスが「免責」に含まれるかどうかを確認したところ、「あー……やっぱり下りないですね」ってなりました。ちなみにテロ、戦争、原発事故関係も補償の対象に含まれないんです。その時点でまず、これはヤバいとなった。 鹿野淳が語る『VIVA LA ROCK』 エンタテイメント復興の道 | CINRA つまり契約とはそういうものなのだ。最初の条件に納得して契約をしたのならば、イレギュラーな事態になっても受け入れるしかない。 売り手が詐欺師だったり必要な情報を提示していなかったりと問題がある場合もあるが、今回のロッキングオンはそれには当たらない。十分すぎるほどに情報を伝えていたし、丁寧に伝えようとしていた。 たしかに可能ならばリセールはギリギリまで行った方が、参加者にとってメリットが大きい。自分も可能ならばそうするべきだとは思う。参加できなかった人に返金ができるなら理想的だ。 軽症や無症状の感染者や陽性者が、チケットを無駄にしたくないからと参加を試みる可能性もある。それは危険だしリセールや返金によってある程度は防げたかもしれない。リセールを複数回行うことや開催ギリギリまでリセールを行うことを求めるのは、間違った意見ではない。 しかしリセールが1回限りの抽選だったのは、ロッキングオンが利用する今のシステムではそうするしかなかった事情や理由があるのだろう。自由に譲渡ができないことは例年は定価の数倍の値段でチケットを転売するダフ屋への対策だから仕方がない。 それらについては来年度は今年の反省を生かして改善を目指すと思う。ロッキングオンは常に改善を繰り返す会社だと自分は信じている。そもそも返金処理に関しては、主催者に落ち度がないのに行うことがおかしい。これは客側の身勝手な要望だ。 だから自分は今回のロッキンの対応を全面的に支持する。今後改善して欲しい部分はもちろんあるし、要望を受け入れて対応できればベストではあるが、現状でロッキンに落ち度が一切ないからだ。落ち度があるのは、契約内容を理解もしくは納得せずにチケットを購入した客側である。 できるかぎり信頼され感謝される王様でありたいし、首をはねられる王様にはなりたくはないじゃないか。 もしかしたらクレーマーであることに気づいていない王様は、すでに首をはねられていることに気づいていないのかもしれない。