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COUNTDOWN JAPANのコロナ禍で変わってしまった部分について

会場最寄りの海浜幕張駅に着いた時点で、コロナ禍以前のCOUNTDOWN JAPANとは違うのだと察した。

 

駅前や改札付近に居る人の数が、明らかに少ないからだ。駅から会場まで歩いている人の数も、やはり少ない。2019年までならば、道を埋め尽くすほどに人が歩いていることもあった。

 

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これは開場時間を過ぎた9時10分頃の写真だ。例年ならば会場へ向かう人の数はもっと多かったし、もっと多くのスタッフが誘導をしていた時間だ。

 

会場についてからも例年と違う部分が目立った。

 

2019年以前は派手で壮大な装飾やセット置かれていて参加者を迎えてくれたスペースや、イラストなどで魅せてくれた通路。

 

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そこが今年は何も装飾されておらず、寂しい状態になっていた。フェスという夢の空間への入口や通路だった場所も、無機質な展示場のままだった。

 

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会場内もそうだ。

 

下の写真のように以前ならば、派手な装飾やLEDビジョンやフォトスポットがいたるところにあった。


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しかし今年は簡易的な装飾になり、フォトスポットも限られた数だけになっている。

 

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何も無いスペースを多めに作って、できる限り密を防ごうともしているようだ。飲食ブースの椅子も両隣を空けて座るような仕組みになっていた。

 

今までスタンディングだったフロアには椅子が並べられている。座関は全席指定。基本的に参加者は両隣が空席になるように座るルールになっていた。

 

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なんなら行き帰りに乗った電車の方が、他人との距離が近かった。感染者数が減ってきたとはいえ、運営は油断せずに密を減らそうとしている。

 

客席の通路は広く、客の立場からすると「ここにも座席を置けるのでは?」と思ってしまう。客席後方も何も無い広いスペースがあった。

 

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4万7千人を収容できる場所を、ガイドラインを守り1万人以下にすると、この状態になってしまうのだ。

 

この収容人数ならば、もう少し小さいホールでも開催は可能だったはずだ。それでも例年と同じ広さで使用しているのは、やはり密を避けるためであったり、換気を徹底するためだろう。

 

ロッキングオンはコロナ禍で経済的な損失を多く被っている会社だ。

 

日本最大級の音楽フェスを開催しているが、2020年から2021年にかけて、3本の音楽フェスを開催直前で中止に追い込まれた。その損失は大きい。台風などの影響で中止になった際に払われる興行中止保険は、感染症で中止になった場合は適用外。損失のほとんどは主催会社が被ることとなる。

 

それについてはビバラロックを主催する(有)FACT代表の鹿野淳社長がインタビューでも語っていた。

 

彼は日本で新型コロナ感染者が出る前の2020年1月時点で危機感を覚えたようで、ウイルスを理由に中止しても保険では補償されないことを確認しており、開催可否について悩んでいた。おそらくロッキングオンも同じタイミングで確認はしていたと思う。

 

 

ビバラロックを中止にすると、単純計算で2億5千万の負債が生まれるとも語っている。

 

おそらく規模がさらに大きいフェスを主催し、3つのフェスを中止したロッキングオンは、さらに大きな負債を抱えているはずだ。もしかしたら音楽ファンが思っている以上に、会社はギリギリの状態かもしれない。

 

だからこそコロナ禍でもビジネスとして成立しつつ、安全で安心に楽しめる方法を模索した結果として、装飾を簡素化して1ステージで開催する形となったのだろう。

 

しかし装飾を簡素化したとしても、例年以上に経費がかかってしまう部分もある。それは入場や感染症対策に対する費用だ。

 

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入場するためには検温と手指の消毒、手荷物検査を行い、ワクチン接種証明書もしくはPCR検査の陰性結果を提示し、本人確認の顔認証をすることが必須となった。

 

そのため例年の5分の1程度の来場者しかいないはずなのに、2019年以前よりも入場までに時間がかかっている。

 

当然ながら1つでも問題点や不足物があれば入場ができない。転売や他人に譲ることが不可能なシステムになったが、かといってリセールも行われなかった。

 

リセールの対応にも経費がかかるので、そこに費用をかける余裕はなかったのだろう。もしも参加を断念する事態となっても、救済措置はない。チケットはただのゴミになってしまう。

 

参加者にとっては来場へのハードルが高くなる、厳しいルールだ。例年までの誰もが気軽に行けるフェスではなくなった。参加者に「覚悟と責任」を持って参加することを、運営側が求めているのだろう。

 

 

 

 

渋谷陽一社長は「今年の参加者はリピーターが多い」と、開演前の朝礼で話していた。それはフェスのファンが多いということだけでなく、参加のハードルが上がって新規の客を増やせなかったことや、参加を断念した人が多いことも示唆している。

 

2019年に1日あたり4万7千枚のチケットを4日間完売させたフェスにもかかわらず、今年はほとんどの日程で1万枚のチケットすら売り切ることができなかった。レジャーとして広く一般的になった音楽フェスは、閉鎖的なものになってしまった。

 

しかしそれは良くも悪くも「音楽フェスの原点回帰」かもしれない。

 

かつての音楽フェスは「音楽」がメインで、その副産物として「祭り」が生まれていた。「音楽を聴きに行ったら、会場がお祭りのような空気感だった」というような場だった。

 

それがここ数年は「祭り」がメインの楽しみ方で「音楽」は副産物になっていたと感じる。「お祭りへ遊びにいったら、会場で音楽が流れていた」という雰囲気だ。

 

そのような客層が増えたからこそ、装飾やフォトスポットや飲食ブースなどがどんどん充実していき、音楽以外の楽しみ方ができる場へと変化していった。それによって来場者数も右肩上がりで急上昇していた。日本全国で音楽フェスが乱立したことも、これが影響しているのだろう。

 

ステージをガッツリと観ないとしても「音楽フェス」はレジャーとして楽しめる場になった。そのためかフェスで集客できてもワンマンは売れないというバンドが、以前にも増して増えた気がする。

 

そんな音楽フェスがコロナ禍の影響で、開催方法や形が変わってしまった。

 

参加するハードルが高くなり、フォトスポットや装飾が簡素化され質素になったことで、レジャー感覚で参加していた人が淘汰された。

 

その結果として、CDJは1万枚のチケットを売り切ることができなくなった。コロナ禍での音楽フェスを成立させるために、失ってしまった客層もあるのだ。

 

しかしロッキングオンもそれは理解していたはずだ。その上でライブを観て音楽を聴いて楽しむ場としての「音楽フェス」への回帰を意識していたとも思う。

 

ステージは例年と変わらない豪華さだった。

 

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ステージ中央と両脇には大きなスクリーンがあり、ライブ中は出演者がパフォーマンスする様子が高画質で流されていた。凝った映像演出やレーザーの照明を使う出演者もいたりと、ワンマンライブかと思うステージを繰り広げるをする出演者も少なくはなかった。

 

スピーカーはステージ横だけでなく客席後方にも設置されており、全座席が良い音で聴けるよう配慮されていた。音質にも拘っているのだろう。座席の位置でも感じ方は変わるとは思うが、音楽用のホールではない展示場にもかかわらず、音質も良く迫力もあった。ステージも高いので、後方だとしてもしっかり出演者の姿を目視することができる。

 

つまり「音楽」や「ライブ」に関わる部分の経費は削減していないのだ。

 

むしろ例年以上に経費をかけているとすら感じる。そういえば過去もスピーカーを増設したり照明やスクリーンを増やしたりと、ライブに関する部分は毎年進化させていた。今年も例年通りに進化させたのだろう。

 

これは音楽フェスを長年作ってきたロッキングオンのプライドであり、この状況でも来場した音楽ファンに対する責任としての「ライブへのこだわり」に思う。自分はそう受け取った。

 

絶対に経費を削減できないし、お金をかけるべき場所は、ライブが行われる「ステージ」なのだ。

 

コロナ禍はまだまだ続くかもしれない。一昨年までと同じような音楽フェスが、これから開催できる保証はない。

 

そもそも「音楽フェス」はバブル的なブームでもあった。バブルが弾けるタイミングが、コロナ禍によってやってきたのかもしれない。

 

入場方法が複雑になり装飾は簡素になったりと、COUNTDOWN JAPANはコロナ禍になって変わってしまった部分が多い。音楽フェスをレジャーとして捉えた場合は、楽しめない空間になってしまった。

 

音楽フェスをライブを楽しむ場として捉えた場合は、今まで通りに最高の空間のままだった。音楽やライブへのこだわりについて、CDJは今までと全く同じだった。

 

今は様々なことが変化する時期なのだろう。CDJの変化は良い部分も悪い部分もあると思う。かつてのように大きな利益を生む仕事ではなくなったかもしれない。

 

しかし自分はライブを楽しむ場へ回帰する音楽フェスを支持したい。音楽ファンとして楽しみつつも、ライブを楽しむ場を守って支えていきたい。

 

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