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ROCK IN JAPAN FESTIVALが会場変更することについて想うこと

12月28日に行われたカウントダウンジャパン2122の初日。出演者の1人であるヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやが、ライブ中にこのようなことを話していた。

 

コロナ禍でフェスやフェスのステージが減ってしまって、枠の取り合いになった。特に若手はライブをやる場が少なくなってしまった。

 

来年はステージが増えて、たくさんの新しいバンドとの出会いが生まれたらいいなと思います。

 

以前は大小複数のステージがあったCDJだが、今回は1ステージのみの開催。例年ならば約5万人が入れる場所にだけステージが作られた。

 

そのためアリーナライブをやれる人気バンドや、テレビの音楽番組に出演している人気アーティストばかりが出演していた。例年の5分の1以下の出演者数で集客することを考えたら、仕方がないことである。

 

しかしこやまの言う通り、出演枠の奪い合いになってしまった。

 

デビューしたばかりの若手が入る隙はないし、邦ロック以外の出演者の枠も減ってしまった。毎年出演していた常連組も枠から漏れている。

 

様々な音楽に触れる場であることは今までと変わってはいないが、出会える音楽の幅や数は減ってしまった。これはCDJだけでなく、他のロッキング・オン主催フェスでも同様だ。

 

茨城県のひたち海浜公園で行われていた日本最大の音楽フェスである『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 』は、2022年以降は千葉県の蘇我スポーツ公園で行うことを発表した。

 

 

 

 

ひたち海浜公園は動線が狭く密になりやすいことや、都心から離れているデメリットで経費が嵩むことが、会場変更の主な理由らしい。「フェスを止めない」ためには、仕方がないことなのだろう。

 

自分はこの変更を支持するし、何度もロッキンに行ったファンとして応援したい。それに蘇我スポーツ公園は快適で良い場所だ。JAPAN JAMで行ったことがある場所なので、環境に恵まれていることも知っている。

 

しかし会場が変わることに寂しさもある。自分が初めて行った夏フェスでもあり、何度も感動的なライブを観せてくれた場所だからだ。

 

7万人以上を集客できる規模で好きなアーティストのライブを観れるのは、この場所のロッキンだからこその体験だった。ワンマンでこの規模でライブをやれるアーティストは日本に数えるほどしかいない。この規模の音楽フェスも他に存在しない。

 

特別な想いを持って立っている出演者も多かったようで、気合を入れたパフォーマンスをすることが多かった。

 

結果的にひたち海浜公園で行った最後のロッキンである2019年の大トリであるDragon Ashのステージは、まさにフェスへの愛が溢れた演奏だった。

 

最後にKjが「10代の頃から自分たちを育ててくれたフェスです。お世話になりました」と言って、頭を下げた姿が印象的だった。

 

フジファブリックにとってもロッキンは特別なフェスだ。現体制での初ライブはこの場所だった。フジファブリックがトリを担当したフェスも、たしかロッキンが最初だったと思う。志村正彦について言及することが、最も多いフェスでもある。

 

そんなステージをいくつもこの場所で観てきた。だから場所が変わってしまうことは寂しい。名前と主催者が同じなだけで、全く違う体験のフェスになるとも感じる。

 

もちろん千葉の会場がダメというわけではない。場所によって見え方も感じ方も変わることがあって、ひたち海浜公園にしかない景色や感動が失われることが寂しいのだ。

 

しかし「25年や30年など節目の年でのひたちなかでの開催を模索したい」と、ロッキングオンの渋谷陽一社長は語っている。(ロッキン会場 ひたちなか市から千葉市に “実は12月に伝えていた” )いつかまたひたち海浜公園に帰ってくるかもしれない。

 

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コロナ禍になってからロッキングオンは「フェスを止めない」という言葉をスローガンのように掲げている。

 

ロッキングオンは3つのフェスを中止に追い込まれ、資金面でギリギリであることは公言している。

 

全国で何十もあった音楽フェスは数えるほどに減ってしまった。そんな中でコロナ禍でもビジネスとして音楽フェスを成立させる方法を模索している。「フェスを止めない」ため、ロッキンは会場変更したのだ。

 

それに千葉で開催されるロッキンでも、いくつものドラマが生まれ、いくつもの最高の音楽が鳴らされるだろう。そうやってフェスは続いていくのだ。

 

しかし心配な部分もある。それは枠の奪い合いになり、人気アーティスト以外や若手のアーティストの出演する隙がなくなってしまうことだ。

 

7つあったステージは、2022年には4つに減ってしまう。千葉の会場規模では4ステージが限界なのだろう。おそらく例年なら出れていたとしても、2022年以降は出演できなくなるアーティストが何組もいる。駆け出しの若手は出演する隙はないかもしれない。

 

音楽フェスはビジネスとしても成立させなければならない。ビジネスとして成立するからこそ、発展し拡がり進化していく。

 

そのため集客力がある人気アーティストを運営側は求める。同会場で行われているJAPAN JAMは3ステージだが、少なくともホールやZepp規模でワンマンを行えるレベルの人気は最低限あるアーティストのみが出演している。

 

例年のロッキンで4つ目の大きさであるステージの『SOUND OF FORST』でも、そのクラスの集客力があるアーティストが出演者の中心だ。下北沢の小さなライブハウスを主戦場にしているようなアーティストは、それよりも小さなステージでなければ出演できていない。

 

 

 

人気のないアーティストはフェスに出れる立場では、本来ないのかもしれない。メインステージに立つアーティストとは違い集客に影響力はない。

 

むしろ今まで出れる枠があったことが恵まれていただけかもしれない。人気アーティストが集客してくれたからこそ、利益は関係なく小さなステージも作ることができたのだろう。

 

しかし小さなステージも必要だ。ロッキンの初出演が小さなステージでも、そこからメインステージまで上り詰めたアーティストはたくさんいる。

 

RADWIMPSやONE OK ROCKのような、今では日本を代表するバンドもそうだ。最初は最も小さなステージに出演していた。フェスの小さなステージは未来の音楽シーンを作るかもしれないアーティストで溢れてる。

 

その場所がなくなってしまうことは、音楽業界にとって将来的にマイナスになるかもしれない。

 

今ではSNSや動画サイトによってバズり話題になる音楽が増えてきて、ライブを一度もやったことがないアーティストでも人気を集めている。レーベルや事務所もライブに頼らず、ネットを駆使したマーケティングやプロデュースにより、多くのネット発アーティストを生み出してきた。

 

とはいえそれは「若手がライブをやる場」が減っているからこその、ライブとは違う場で活動するアーティストを関係者がプッシュせざるを得ない状況になっているともいえる。

 

コロナ禍でほとんどのライブが中止になってしまった時期に、とあるレコード会社の新人発掘の方と仕事で会い話しをした。

 

その時に「現場で新人を見つける機会が減ったし、現場に探しに行ける状況ではなくなってしまった」と言っていた。そして「ライブとは違う場で魅力を発揮するアーティストを探して育てるしかない」とも語っていた。

 

ここ最近ヒットしたアーティストを見ると、SNSをきっかけに人気を集めたパターンが多い。大ブレイクしてから初ライブを行うことも当然となった。生の現場で評判となり人気を集めたアーティストは、ほとんど見なくなった。

 

楽器を弾けなくても楽曲を作り録音し発表することが難しくない時代。それによって生まれた才能や見つかった才能もたくさんある。これは音楽シーンにおいて明るい傾向だ。音源だからこそ魅力が最大限伝わるアーティストが増えたとも感じる。

 

しかしライブには音源じゃ伝わりきらない細かな感動がある。そんな感動を生み出せるアーティストも大切にしたい。

 

現場を大切するアーティストはSNSでのアピールが苦手だったりするし、音源では魅力の半分も伝わらない場合がある。それなのにライブを観たら「最高だ」と思うアーティストもいる。彼らを埋もれさせてはならない。

 

大規模な音楽フェスに埋もれた若手が出演することで、誰かが見つけてくれるかもしれない。ライブが注目されることで、新しい音楽シーンを作る才能が発掘されることがあるかもしれない。若手だけの小規模なフェスも存在するが、そのような場に行かない人に見つけてもらうチャンスもロッキンにはあった。

 

ネットから生まれた音楽も最高だが、臭くて汚いライブハウスから生まれた音楽も最高なのだ。

 

コロナ禍という仕方がない状況が原因ではあるが、このままではライブシーンが少しずつ衰退してしまう。それは食い止めたい。

 

そもそもロッキングオンの本業は音楽雑誌の出版だ。音楽を紹介する立場であり、批評する立場でもある。音楽のジャーナリズムを行う会社であるはずだ。

 

しかし音楽フェスがバブル的な人気になってからは、ロッキングオンが積極的にフックアップしたアーティストはいないと思う。チャットモンチーを最後に、デビュー前のまだ誰も注目していないアーティストを推すことはなくなった。

 

ここ十年近くは人気者を特集するか、既に売れる兆しが見えて注目され始めているアーティストばかり特集しているように見える。出版不況の中で雑誌を売るには仕方がないことかもしれないが、新しい音楽との出会いを与える媒体ではなくなってしまった。

 

いつしか「ロキノン系」という言葉は使われることが減り、その代わりとして「邦ロック」という言葉が使われるようになったとも思う。

 

これはロッキングオンが音楽を紹介し批評する役割として、存在感が薄れてしまったからだろうか。ここ10年前後は「音楽フェスを開催する会社」というイメージが強いかと思う。

 

とはいえ主催フェスで小さなステージといえども、多くの新人や埋もれている才能を出演させている。ジャンルも関係なくステージに立つ機会を与えていた。それが雑誌の紙面でフックアップする代わりとなっていた。そこにロッキングオンの音楽ジャーナリズムを感じた。

 

しかし音楽フェスのステージも減ってしまい、コロナ禍以降は人気アーティストばかりが出演している。

 

ロッキングオンが大規模なフェスを開催することは、音楽業界にとって大きなプラスだし素晴らしいことだ。物凄い影響力を持っている。

 

だからこそ埋もれているアーティストをフックアップする立場を、失わないで欲しいとも思う。人気アーティストの魅力を改めて伝える雑誌やフェスを作るだけでなく、埋もれた才能を拡める雑誌やフェスも作り続けて欲しい。

 

もちろん4つステージがあるならば、そのうちの1つは例年のWING TENTに出演するような、新人や埋もれたアーティストが中心のステージがあるかもしれない。個人的にはそうであって欲しい。

 

そうやって「フェスを止めない」ように続けていき、新しい才能を見つけて育てていき、ひたち海浜公園で「何年経っても思い出してしまうな」と思ってしまうライブと花火が観れるフェスを、いつかまた開催して欲しい。

 

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