2022-01-03 さようなら、Zepp Tokyo コラム・エッセイ 2022年1月1日。Zepp Tokyoが閉鎖された。 Zepp Tokyoは自分が人生において、最も足を運んだライハウスだ。ここで様々なアーティストのライブを観た。大好きな音楽をたくさん聴いた。忘れられない思い出が数え切れないほどある。 ライブが楽しみすぎて早めにお台場に来てしまった時は、近くのロッテリアで開場時間を待っていた。必ず絶品チーズバーガーを食べた。その時間も好きだった。 ロッテリアのそばには、Zeppの会場内より100円安いコインロッカーがある。そこに荷物を預けて節約していた。全部使われている時もあって、その時は悔しがったりもした。 たまにビーナスフォートの中に入ってもみた。カップルやファミリーで溢れていて、少しだけ気まずくなった。場内はオシャレでロマンティック。なぜか教会もある。ここはデートで行く場所だと納得した。ライブ前の暇つぶしをする場所ではない。 だからバンドTシャツで歩いていると、完全なるアウェイだ。とても居心地が悪い。それでも「ライブへ行く人かな?」という雰囲気の人とすれ違うと、仲間を見つけた気分になって嬉しくなる。でも同じライブTシャツの人とすれ違うと、ペアルックみたいで恥ずかしくなる。 あそこは2階以上の階に行ってはいけない。暗いし迷路のように入り組んでいるので、迷ってしまう。なかなか出口が見つからず、開演ギリギリに入場したこともある。 開場時間が過ぎて自分の番号が呼ばれるまでの間、会場横にあるトヨタのショーケースで待つこともあった。 様々な車が展示されていて、場内にいるだけでも楽しい。それを眺めていたせいで番号が呼ばれたことに気づかず、遅れて入場したことが何度もある。 会場を上から眺めて待つのも好きだ。 建物とライブを待つ人たちを見て、気分を高揚させた。そういえば上から会場を見下ろせるライブハウスは珍しいかもしれない。 すぐ横にある観覧車は、Zepp Tokyoのシンボルだと勝手に思っている。 ライトアップされた美しい姿は、ライブ後に見ることで余韻をさらに感動的に彩ってくれた。乗ったことなどほどんどないのに、特別な景色を作ってくれる大切な場所に思っている。行く都度に毎回写真を撮ってしまう。 当然ながらここで観たライブはどれも素晴らしかった。初めて観たライブからずっとだ。 自分がZepp Tokyoで初めて観たライブは、2006年に行われたくるりのワンマンライブだ。 ベスト盤を出したばかりということもあって、シングル曲や人気曲が中心のライブ。『ワンダーフォーゲル』から始まった瞬間にフロアの熱気は一気に上昇し、2曲目の『青い空』では物凄い盛り上がりになっていた。 今では信じられないことかもしれないが、くるりのライブなのにモッシュがあったし歌っているファンもいた。約2700人もいる大きな会場なのに、やはりZepp Tokyoはライブハウスなのだ。ライブハウスだからこその熱気で包まれていた。 アンコールの『人間通』ではメンバーが楽器を持ってフロアを練り歩いていた。それもめちゃくちゃ楽しかった。15年以上前のライブなのに、その景色をはっきり覚えている。当時からブログをやっていれば良かった。もっと記憶が新鮮なうちに、自分の感想を書き残しておけばよかった。 そんな忘れられないライブを、何回も、何十回も、この場所で観てきた。 かつては日本一大きなライブハウスだったこともあり、アーティストの憧れの場であったと思う。Zepp Tokyoでライブをやることは、1つのステータスでもあり到達点の1つだった。だからか気合いの入ったライブをやるアーティストが多かった。 ライブハウスの名称には、その地域の名前が付くことが多い。新宿LOFTや渋谷クラブクアトロ、豊洲PITにZepp Haneda。名称を聞くだけで東京のどこの場所に存在するのか、ある程度はわかる。 しかしZepp Tokyoは「東京」という大雑把で大きな場所を名称に使っている。 これは「東京を代表するライブハウスになる」という意思が込められた名称かもしれない。会場の大きさだけでなく存在としても大きなライブハウスになるという、覚悟の上で名付けられたのかもしれない。 そして実際に「東京を代表するライブハウス」になったと思う。いや、日本を代表するライブハウスになれたと思う。それぐらいに多くの人にとって大切で、思い入れの強い場所になっていた。 代わりとなる規模のライブハウスは、今ではたくさんある。 関東だけでもZeppは他に3箇所もあるし、豊洲PITのようにZeppより収容人数の多いライブハウスもできた。Zepp Tokyoは役割を終えたのだろう。 しかしたくさんの思い出と感動を与えてくれた場所がなくなることは寂しい。ライブの感動はアーティストのパフォーマンスだけでなく、素晴らしい場所や環境によっても生まれるものなのだ。 「いい曲といい歌はいい人といい場所で」なのだ。Zepp Tokyoはまさに、素晴らしいライブを生み出せる「いい場所」だった。 2022年1月1日。Zepp Tokyoは閉鎖された。 すぐ横にあったトヨタのショーケースも、同時に閉鎖された。ヴィーナスフォートは2022年3月27日に全店閉店となり、観覧車は8月31日に営業終了する。 Zepp Tokyo周辺の施設は、全て消えてなくなってしまう。 もうロッテリアで時間を潰すことはなくなるし、ヴィーナスフォートで迷うこともないし、トヨタの車を眺めて入場に遅れたり、観覧車を眺めて余韻に浸ることも無い。 Zepp DiverCityと間違えて焦ることだってなくなるし、青海駅と青梅駅を間違えてライブをドタキャンするアイドルも居なくなる。それすらも寂しい。 音楽好きでギュウギュウに詰まったフロアで、一緒に歌って騒いでモッシュもできるライブを、最後にもう一度Zepp Tokyoで観てみたかった。初めてZepp Tokyoで観たくるりと同じぐらいの衝撃を、もう一度体感したかった。コロナが憎い。 会場周辺は再開発のため更地になる。Zepp Tokyoが存在した面影は残らないだろう。跡地には約1万人を収容する複合型アリーナが、2025年までに作られるそうだ。 しかし姿形が無くなったとしても、Zepp Tokyoという「東京を代表するライブハウス」が存在したことは、きっと忘れられることはない。 日本の音楽史やライブ史に「記録」として残るだろうし、音楽ファンの心に「記憶」として残り続けるはずだ 2025年以降、新しく完成したアリーナでライブが行われて、自分がそこに足を運ぶ時、きっとZepp Tokyoのことを思い出すだろう。 それぐらいに大好きな音楽が鳴っていた場所は、大切な場所なのだ。感動を与えてくれた場所は、特別な場所なのだ。 さようなら、Zepp Tokyo。ありがとう、Zepp Tokyo。 この場所でいくつもの最高のライブを観れたことは、自分にとって一生語り継ぐ自慢となることでしょう。 ↓関連記事↓