オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

NICO Touches the Wallsの終了について思うことを書き殴った

大きなステージが似合うバンドだった

 

2019年8月4日。自分がNICO Touches the Wallsを最後に観た日。

 

ROCK IN JAPAN FESTIVALのグラスステージ。日本最大規模の音楽フェスのもっとも大きなステージにニコは立っていた。

 

正直、約7万人が集まる音楽フェスのメインステージに立てるほどの人気をNICO Touches the Wallsは持っていなかった。

 

集客は良くはなかった。ここよりも1つ小さいステージでもちょうど良いほどの集客。自分がグラスステージで観たアーティストの中で最も客数が少なかった。

 

それは今年だけの話ではない。いつもメインステージに立っているけども集客力は低かった。

 

それでもメインステージの大きな舞台に立ち続けた。これはロッキンだけでない。他のフェスでもほとんどメインステージ。

 

それに対して疑問を持つ人もいた。「あっちのバンドの方が人気なのにニコがメインステージ?」と。自分も集客力だけならニコは小さなステージでも問題ないと思うこともある。

 

でも、ニコのライブを観る都度に「こういうバンドも音楽フェスのメインステージに立ち続けて欲しい」とも思っていた。

 

MCで煽ったりするわけでもない。アップテンポの曲でわかりやすく盛り上がるわけでもない。エンタメ要素が強いわけでもない。いわゆる「フェス向きバンド」ではない。

 

その代わり、演奏によって大きなステージで魅了した。息のあった演奏。それぞれの楽器が全て存在感がある。まっすぐ伸びる歌声。みんなが期待するような曲をやるわけでもないし、正直みんなが期待するようなヒット曲なんてない。

 

それでもロックバンドが演奏で数万人を魅了する。その姿がカッコよかった。そんな演奏が胸に突き刺さった。

 

ライブを観て「楽しかった」や「感動した」という気持ちよりも「痺れた」と思ってしまう。ロックバンドの演奏にヤラれたと思ってしまう。

 

音楽フェスにコンスタントに出演しているバンドの中で、メインステージに立ちこのようなライブを成立させるバンドは少ないのではと思う。

 

人気は7万人規模のステージに見合ってなかったかもしれないけど、実力的には大きなステージが似合うバンドだった。人気がなかったわけではないけども、もっと評価されるべきバンドだった。

 

この自分の考えを、全てを過去形で表現してしまうことが切ないし悲しい。

 

NICO Touches the Wallsを終了することにいたしました

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2019年11月15日。NICO Touches the Wallsが活動終了を発表した。

 

解散ライブもやらない。この発表が公表された瞬間に活動終了。この知らせをファンが知った時にニコは存在しない過去のバンドになっていた。

 

詳しい理由は語られていない。短い文章では語り尽くせないほどの理由があるのだとは思う。その理由は文面で語られているように前向きな理由でもあるとは思う。

 

それでも、悔しい。15年続けたキャリアのあるバンドかもしれないけど、今が最も旬で最高にかっこいいと思っていた。これからが楽しみにも思っていた。

 

『QUIZMASTER』は素晴らしいアルバムだった。ニコが今年リリースしたオリジナルアルバム。それについては別の記事に感想を書いたのでそちらを読んでほしい。

 

 

このアルバムでニコはさらにバンドとしての深みを増したと思っている。15年間続けたバンドの貫禄も感じる演奏や落ち着きもあるのに、バンドとして新しいことにも挑戦している。

 

日本の音楽シーンにおいて流行りとは真逆の音楽性のロックアルバム。邦ロックのトレンドからもズレた渋い作品。しかし自分たちのバンドとしての積み重ねた強みと個性が120%詰め込まれた作品。

 

この作品は10年後も聴かれ続ける日本のロックシーンに残る名盤になると思った。これは大げさにいっているわけではない。今のニコの集大成であり最高傑作でありつつ、未来も感じる名盤だ。

 

それが最後の作品になってしまった。もっと多くの人に届くべき作品だった。もっと多くの人に聴かれるべきバンドだった。

 

だからメインステージに立たせ続けようとする音楽フェスが多かったのだと思う。魅力が一見するとわかりやすいようで、実はひねくれていてきちんと観たり聴いたりしなければ伝わらないバンドだったから。メインステージに立てる実力を認められていたことと共に、多くの人に触れて欲しかったのかもしれない。

 

こうして書いていて、やはり全て過去形で表現してしまうことが切ない。

 

 観れる時に観るべき?

 

「好きなバンドのライブは観れるうちに観に行くべき。いつ終わるかわからないから」

 

このようにいう人もいる。最もな意見だと思う。自分もできる限り好きなバンドのライブには行きたい。

 

でも限界があるよなとも思う。金銭や時間や移住地など環境の理由で簡単にライブに行けない人も多い。音楽好き全員が都市に住んでいるわけではない。それにライブに何度行ったとしても、解散した時は悲しい。もっと観たかった後悔すると思う。

 

「ライブに来れないならばレコードで会いましょう。ライブが全てじゃねえ」 

 

これは以前THEラブ人間というバンドがライブのMCで話していた言葉。この言葉を聴いた時、自分は救われた気持ちになった。そして、今日もこの言葉を思い出し救われた。

 

 

自分はNICO Touches the Wallsのワンマンライブを観たことがない。本格的に好きになったのは最新作で最後の作品になった『QUIZMASTER』を聴いてからだから。

 

それまでもフェスやイベントでは何度か観たことがあって良いバンドだとは思っていた。でも『QUIZMASTER』を聴いて「このバンドめちゃくちゃすごい」と気づいて改めて聴き直してガッツリとハマったのだ。

 

一度ワンマンでたっぷりとニコの音を浴びたかった。本気で好きになるのが遅かった。悔しい。

 

後悔している部分はある。でも、活動を終えてしまったバンドの音楽が消えてしまうわけではない。聴こうと思えばレコードに針を落としたりCDを再生すれば聴くことができる。Spotifyでもいい。簡単にニコの名曲たちを聴くことができる。

 

環境さえあればどんな音楽だって聞ける。解散してしまったバンドの曲も居なくなってしまったミュージシャンの歌も聴ける。THEラブ人間がライブで言っていた通り、レコードでも好きなバンドに会うことができる。

 

NICO Touches the Wallsの曲だって再生すれば、彼らの音楽に触れることができる。新曲は聴けないかもしれないけと、音源の中で会うことができる。

 

自分は今『QUIZMASTER』を聴いている。聴きながら衝動的にブログの文章を書きなぐっている。40分ほどで書きなぐっているから、いつもよりも雑な文章になっているかもしれない。アルバムの最後の曲『bless you?』が流れ始めた。良い曲だ。やはり名盤だ。みんな聴くべきだよ本当に。

 

bless you?

bless you?

  • NICO Touches the Walls
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

NICO Touches the Wallsは活動終了を発表した。もう存在しないはずのバンド。でも、こうして彼らの曲を再生すれば耳元でニコの演奏が聴こえる。メロディや歌詞が心に響く。iPodの再生ボタンを押せばそこにニコは存在している。

 

もしかしたらこれから曲を偶然聴いてファンになる人もまだまだいるかもしれない。

 

つまりだ。本人たちが「終了した」と言い張っても、リスナーが曲を聴いているときにNICO Touches the Wallsは存在しているのだ。終了なんてしていない。自分たちが再生ボタンを押す都度に「活動再開」だ。

 

ライブで観ることができないならば、レコードで会えばいい。本人たちがバンドを終了させたつもりでいても、こっちは何度でも再生ボタンを押して活動再開させてやるよ。

 

これこそファンが活動終了というバンドの発表をひっくり返して活動再開させる、必殺【鬼の隠し拳:天地ガエシ】だ。