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THE FIRST TAKEの私立恵比寿中学『なないろ』を聴いて想ったこと

2021年7月16日。またエビ中に泣かされてしまった。

 

5月にパシフィコ横浜で観たライブでも、自然と涙が出てきた。あれは素晴らしかった。6人のエビ中の軌跡と奇跡を感じた。

 

音楽を聴かせ、ダンスを魅せるだけでなく、グループの歴史や物語を伝える内容だった。ずっと応援していたんだ。そんなライブを観て感動しないはずがない。

 

そして今度はPCの画面越しに観たエビ中にやられてしまった。YouTudeの人気チャンネルTHE FIRST TAKEで配信された『なないろ』が素晴らしかったのだ。

 

 

グループにとって大切な仲間の誕生日に配信された動画。松野莉奈という亡くなった大切なメンバーのことを、想って創られ歌われた楽曲。この日も”7人で歌っている”と思った。そんな想いを込めて歌っていると思った。

 

音楽には”想い”が必要で大切だ。技術だけでは、人の心は動かせない。

 

エビ中は女性アイドル界ではトップクラスの歌唱力ではあるが、彼女たちよりも技術を持ったボーカリストは星の数ほど存在する。エビ中の歌の魅力の本質は技術ではなく、まっすぐに想いを伝える歌唱にある。

 

THE FIRST TAKEのコメント欄には、初めてエビ中を見た人のコメントがいくつも書かれている。感動して衝動的に書いたコメントが幾つもある。技術の素晴らしさだけでは感動して感情的にコメントを書く人を生み出すことはできない。これがエビ中が歌に想いを乗せている何よりの証拠だ。

 

特に『なないろ』は様々な想いが込められている。求心力は他の曲以上に強い。この6人だからこその力強さがある。

 

名曲には2つのタイプがあると思う。

 

1つは誰が歌っても素晴らしさ伝わる普遍的な名曲。もう1つは「誰が歌うか」が重要で、それにより価値が変わる名曲。 

 

『なないろ』は後者に思う。

 

楽曲制作の背景やそこに込められた特別な想いがある。それを意味を持って”今の私立恵比寿中学”が歌うからこそ、価値があり魅力が最大限伝わる名曲になっている。

 

THE FIRST TAKEは6人のエビ中でパフォーマンスされている。「安本彩花が病気による休業から復帰した曲」という大切な意味や想いが1つ増えた。さらに特別な曲になった。

 

特別すぎるからこそ、今回を最後に『なないろ』は封印される可能性があると思った。

 

エビ中には3名の新メンバーが加入した。次のワンマンからライブに参加する予定だ。きっと様々な曲を9人のバージョンで披露するだろう。試行錯誤しつつ、グループを深化させ進化させるはずだ。

 

しかし9人のエビ中が『なないろ』を歌う姿を、想像できない自分がいる。

 

6人の完璧なパフォーマンスの『なないろ』を、THE FIRST TAKEで聴いたからだ。

 

楽曲としての『なないろ』に魅力を感じると同時に、想いとしての『なないろ』にも心を動かされている。この曲があったから松野莉奈が居なくなったことと向き合うことができたし、これからもエビ中を応援する覚悟を持てた。

 

自分は新メンバーを応援しているし、新体制が楽しみではあるが、新メンバーがこの曲を歌うことについては、期待よりも不安が大きい。

 

そんな不安は過去にも感じたことがある。フジファブリックの『茜色の夕日』のカバーを聴いた時だ。

  

茜色の夕日

茜色の夕日

  • フジファブリック
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 

『茜色の夕日』はフジファブリックの志村正彦が、上京して初めて作った曲である。

 

彼が音楽の道を諦めて地元に帰ろうとした時に、バイト先の先輩だった氣志團の綾小路翔に「それなら茜色の夕日をちょうだい」と頼まれ「それは嫌だ」と断り、音楽を続けるきっかけになった曲でもある。

 

また新宿ロフトの樋口寛子氏が偶然この曲を聴いて「デビューさせたい」と思ったことで、フジファブリックがCDデビューするきっかけを掴んだ曲でもある。

 

彼が地元の山梨県富士吉田市でライブを行った時には「ここでこの曲を歌うために今まで頑張ってきたのかもしれません」と語ってから歌った曲でもある。

 

『茜色の夕日』には様々な思い出と想いがある。この楽曲が存在しなければフジファブリックは続いていなかったし、デビューできなかったかもしれない。

 

現体制になってから山内総一郎がボーカルを務めているが、彼は未だにこの曲を歌ったことはない。様々なことを想い考え、歌わないようにしているのかもしれない。

 

それぐらいにメンバーにとってもファンにとっても、大切で特別な曲なのだ。

 

だからこの曲を志村正彦以外が歌うことを想像できなかった。フジファブリックのメンバー以外には演奏できないと思っていた。言葉を選ばずに言うと、気軽にカバーされることに嫌悪感を覚える。

 

菅田将暉が『茜色の夕日』をカバーした時は大きな話題になったが、その情報を知った時は、不安な気持ちになった。

 

茜色の夕日

茜色の夕日

  • 菅田 将暉
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし聴いてみて自分の意見も考えも180度変わった。

 

きっと菅田将暉はフジファブリックや志村正彦や『茜色の夕日』が大好きなのだろう。彼の他のオリジナル曲とは違い、志村正彦の歌唱方法を意識した表現をしていた。

 

彼の歌声からは、愛とリスペクトを感じた。だから受け入れられた。

 

 

自分はカバーされることが嫌なわけではないと気づいた。愛やリスペクトを持たずに歌われることが嫌なのだ。

 

作者が歌わなければならない理由はない。関わりの深い人が歌えば感動できるわけでもない。技術があっても無機質に感じる歌もある。

 

伝わるかが大切なのだ。伝えようと想いを込めることが大切なのだ。

 

『茜色の夕日』と『なないろ』は特にそれが大切な楽曲に思う。歌い手は背景や意味や想いを知れば知るほどに、歌う覚悟を持つ必要性を感じると思う。

 

エビ中の新メンバーは、松野莉奈と直接的な関わりがあったわけではない。それでも自分は新メンバーにも『なないろ』を歌ってほしいとも思う。

 

きっと新メンバーは先輩メンバーの意思や想いは受けついでいるはずだし、理解もしているはずだ。彼女たちも伝えることができるはずだ。

 

大切な曲だからこそ歌い継いでほしい。歌われ続けることで音楽の中に松野莉奈は生き続けるし、永遠に中学生で居続けられる。だから続けて欲しい。

 

それにファンだって歌わないものの、特別な想いを持って聴き続けている。やはり直接の関わりがあるかどうかは関係ない。想いがあればいいのだ。

 

新メンバー加入後に『なないろ』が歌われるかはわからない。それはメンバーやスタッフが考えて決めることだ。

 

しかし自分は可能ならば、新しい9人の『なないろ』を聴いてみたい。特別な曲すぎて新メンバーが歌う姿を想像できないが、大切に歌って届けてほしい。想像できなかった感動を巻き起こしてほしい。

 

「これからも、君とここにいる」ということを、これからも証明し続けてほしい。