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【ライブレポ・セットリスト】フジファブリック『LIVE TOUR 2021"I Love You"』 at Zepp Tokyo 2021.6.30(水)

フジファブリック『LIVE TOUR 2021"I Love You"』

 

歓声も声援も出すことができない。一緒に歌うこともできない。それでも始まった瞬間に、ステージと客席とで一体感が生まれていた。客席が声を一切出さずとも、ライブだからこその空気が完成していた。

 

良い意味で緊張感がなく、ステージも客席も全員がリラックスしている。思い返すとここ数年のフジファブリックのライブは、いつもそんな雰囲気だ。それはコロナ禍になっても変わっていない。自分は他のバンドのライブに行くこともあるが、この空気を他で感じたことはない。

 

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フジファブリック『LIVE TOUR 2021"I Love You"』の千秋楽を観て、そんなことを思った。

 

ロックバンドとしてカッコイイのに、とても温かくて優しい。それが心地よい。不思議なロックを鳴らしている。

 

特に今回のライブはいつも以上に温かくて優しかった。バンドも客席も同じぐらいに。

 

前半

 

SEが流れる中で、手拍子をしながら1人ずつ登場するメンバー。その手拍子からしても温かく優しい。ファンを言葉ではなく態度で「来てくれてありがとう」と迎え入れるような感じ。

 

ファンもメンバーを手拍子で迎え入れる。それもやはり温かく優しい。「ライブを開催してくれてありがとう」と歓声ではなく動きで表現している感じ。感染症対策で声を出すことができなくても、バンドに想いを伝えることはできるのだ。

 

どんどん大きくなっていく客席の手拍子。それに合わせて1曲目の『LOVE YOU』が始まる。ファンの手拍子も演奏の一部に感じる一体感。最初から心が通じ合っている。「I Love You」というツアータイトルを表すように、バンドとファンの間での愛を感じる♡//////

 

そんな空気を維持したまま金澤ダイスケと加藤慎一がさらに手拍子を煽り『SHINY DAYS』へ雪崩れ込む。この曲では金澤と加藤もボーカルを務めている。意外にも美声で歌が上手い。そんな姿を見て、かつて志村正彦が「ユニコーンのようなバンドをやりたい」と語っていたことを思い出した。曲中にはソロプレイもあり、メンバー全員が主役に感じる演奏である。彼の意思はしっかり引き継がれている。

 

フジファブリックはロックバンド。それを『efil』の重低音響くゴリゴリのロックサウンドで伝えてくる。緑色の照明がメンバーを染める。メンバーの肌色が緑になる。その肌色はピッコロ大魔王と同じである。

 

この曲はアウトロの演奏がものすごい。そこが盛り上がりのピークだ。歌がなくても演奏だけで興奮させるし、時には演奏が主役になる。それがフジファブリックの音楽の魅力の一つだ。

 

〈君のいる所に会いにいくよ〉とまるで集まったファンに語るような歌詞の『会いに』を演奏してから「会いに来てくれてありがとう!」と山内が挨拶しMCに。

 

「口を閉じてのハミングはOKです」と言って『たりないすくない』のサビをハミングする山内。絶妙に難しくて、歌いにくそうな山内。

 

結局「ハミングは逆に難しいですね」と言って微笑を誘う。この後のMCでも大爆笑はなかった。笑い声の数がたりないすくない。

 

ハミングで披露した『たりないすくない』をバンドで演奏し『東京』『楽園』とダンサンブルなナンバーを続ける。打ち込みとバンドサウンドがミックスされた『Dear』でファンをさらに音楽に浸らせ、演奏に引き込んで圧倒させていく。

 

みんながアルバムを聴き込んでいるのが反応から伝わってきて嬉しいです。今回のアルバムでは大切な人を想って創った曲があります。みなさんにとって大切な人を思い浮かべながら聴いてください

 

山内が語ってから『手』の演奏が始まる。優しい音色のキーボード。演奏を支えるようなベースとドラム。温かく包み込むようなボーカル。

 

ここまではアップテンポの曲やロックバンドとしての力強さを感じる曲を中心に演奏されていた。だからこそミドルテンポの心地よい曲が胸に沁みる。

 

今はコロナ禍で大切な人にも会うことを躊躇ってしまう世の中。だからこそフジファブリックの『手』が胸に刺さる。

 

 

後半

 

『金澤ダイスケ生誕祭』という悪夢のようにカオスな多幸感に満ちた伝説のライブが2020年2月に行われた。

 

 

金澤ダイスケだけを映す『金澤専用カメラ』が今回のライブに導入されていると知った時、今当時の悪夢伝説を思い出した。意気揚々と「今日は配信を観ているために、金澤専用カメラを用意しました!」と言って自信をアップで映すメラマンを呼び込んだ時、あの時のカオスな時間をハッピーな時間を思い起こしてしまった。

 

加藤に「ツアー中に新しい趣味を見つけましたか?」と無茶振りな質問をした時、まさか再びステージ上で料理やマジックのようなカオスな行動愉快な行動をするつもりかと恐れ慄いた期待に胸を膨らませた

 

至近距離でドアップで金澤を撮影し続けるカメラマンの姿や、チューチュートレインを踊る山内はカオスではあった。しかし「今回はさまざまな事情でツアーへの来場を諦めた人もいると思うので、配信で観ている人も会えるようにまたツアーをやるので、その時は会いましょう」という言葉は、カオスさなどなく優しくて温かくて想いがこもっていた。

 

山内が「このツアーでダイちゃんは我が道を行っていると思っているので、そんな曲をやります」というカオスな曲紹介をしてから『Walk On The Way』を演奏。

 

金澤はピアニカを演奏し楽曲を温かな音色に彩る。MC中は我が道を行くが、演奏中はいつもバンド全体を考えているようだ。※金澤ダイスケ生誕祭でのライブを除く

 

フジファブリックでカオスな存在は金澤ダイスケだと思っていたが、どうやらそれは間違いだった。加藤慎一が、一番カオスだった。「どうしても話したかった」と怪談話を披露し始めたのだ。

 

知人の部屋に2匹のパグを連れた女子高生が深夜に表れたという内容。「パグがかわいい♡」と思いながらベッドで寝ていたら、気づけば自分がセーラー服を着ていたという怪談話。恐カオスだった。カオス慎一だった。怖がるべきか笑うべきかわからなくなり、頭も心も混乱した。ぶっ飛んだ話しすぎて、聴いているこちらの感情もぶっ飛んだ。

 

しかし「今は通常通りにライブをやれないけれど、いつかこんな時代もあったなと振り返れる時がやってくると思います。そんな未来を想像しながら今日は楽しみましょう」という言葉には、カオスさなどなかった。優しくて温かかった。

 

演奏が再開されればカオスさは消滅する。『陽炎』は音源とは違うアコースティックアレンジでしっとりと演奏し、『あなたの知らない僕がいる』を山内がハンドマイクで感情的に歌う。それに感動してしまう。カオスな怪談話を一瞬で忘れさせるような名演だった。

 

ここでスペシャルゲストのJUJUが、赤いドレスを纏って登場。「ダメ元でお願いした」とメンバーが語っていたが「フジファブリックに誘われて断る人などいないでしょう」と答える懐の深いJUJU。

 

「1度メジャー7のコードがJUJUさんぽいんだよなあ。とはいえ次の曲はマイナーキーなんですけど、最初のコードがこれなんです」とマニアックな話をする山内。マニアックな話に困惑する客席。「ここにいる人のほとんどが理解できない話だよ」とツッコミをする金澤。しかし喜んでいるJUJU。カオスなトークではあるが、お互いにリスペクトしあっていることが伝わるトーク。

 

フジファブリックとJUJUのコラボレーションは素晴らしかった。演奏された『赤い果実』にはロックバンドとしての力強さの中に、JUJUの色気と華やかさが加わっていた。音源以上にその凄みと魅力を感じる。コラボによってフジファブリックの新しい魅力が発掘されたとも言える。

 

『I LOVE YOU』というアルバムは、今までのフジファブリックと比べるとストレートすぎる作品だと思います。でも挑戦して変わりながらも普遍的なものを作りたいと思って活動していました。次の曲はみんなの未来がキラキラであることを願って作りました。みんなが腕につけているLEDライトやスマホのライトでステージを照らしてもらって良いですか?

 

客席が白い光で包まれる。美しい景色が作られる。それを穏やかな表情で見渡すメンバー。ライブ空間はファンも一緒に作っていることを改めて感じる。

 

演奏された曲は『光あれ』。この曲はリリース時にファンの間でも評価が分かれていた。今までのフジファブリックにはないタイプの楽曲だったからだ。

 

しかしライブで聴くと、バンドにとって大切な楽曲なのだと感じてしまう。想いのこもった演奏と歌声は心を動かすのだ。間違いなくこの日のハイライトと言える感動的な瞬間だった。

 

 

最新アルバム曲を全て演奏し、ここからはライブ終盤戦。今回のツアーで久々に演奏された『ポラリス』で熱気を急上昇させ『バタアシ Party Night』で盛り上がりをピークまで持っていく。

 

こうやってライブをやれて観てもらえることは幸せだと思います。このタイミングでやれることは特に貴重だと思います。この状況だからこそ、このライブは絶対に記憶に残り続けると思います。せっかくだから音楽だけでなく別の思い出も持ち帰ってもらえたらと思って、次の曲だけ写真撮影はOKにします。SNSとかネットに投稿しても大丈夫です。ダイちゃんの白目の写真とか投稿してください。

 

『徒然モノクローム』では、写真撮影&ネット投稿OKというサプライズが行われた。自分も写真を撮影したのだが、ダイちゃんの白目写真は撮れなかった。残念である。

 

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やはり演奏に引き込まれてしまったので、数枚しか撮れなかった。写真を撮るのも良いのだが、やはり自分は音楽が好きだからフジファブリックが好きだ。

 

この状況だからバンドを続けていくことも大変です。でも続けていくと最高の時間が待っていると信じてください。最高のツアーになりました。ありがとうございました。

 

改めてコロナ禍でライブをやることへの想いと、今回のツアーへの想いを語る山内。そ

 

そして本編ラストの『LIFE』の演奏が始まる。曲中で「アイラブユー!」と叫んだり〈大切な何かをZepp Tokyoで見つけたよ〉と歌詞を変えたりと、この日に伝えたい全ての感情を詰め込むように歌っていた。

 

この状況でツアーをやることは不安に思っていました。最初は震えながらステージに立っていました。みんなに元気を与えたいと思ってツアーを決めたけれど、逆に自分たちがみんなから元気をもらっています。ありがとうございます。

 

アンコールのMCではファンへの想いを語っていた。

 

ミュージシャンにとって、今の世の中では活動が難しい。世間の風当たりは強い。今まで当然にできていたことが簡単にはできなくなった。それについての葛藤があったのかもしれない。

 

この話を聴いて「音楽は不要不急ではない」と改めて思った。

 

音楽によって心の健康を保っている人がたくさんいる。ミュージシャンもリスナーも同様に平等に、音楽に救われている。音楽によって生計を立てている人は、音楽がなければ生きていけない。絶対的に音楽は必要なのだ。

 

アンコールで演奏されたのは『手紙』。もう1人のフジファブリックのメンバーを想って作られた楽曲だ。

 

やはりフジファブリックは過去も今もずっと想いを込めて音楽をやっている。愛を込めてライブをやっている。大袈裟だけどファンはそんな愛を受け取っている。

 

ここ最近のライブでは『手紙』をほぼ毎回演奏していることや、ライブで重要な箇所で演奏していることも含めて、そこに想いを感じる。

 

9月には対バンライブ『フジフレンドパーク』の開催が発表された。こんな世の中なのに先の予定を発表してくれた。それが大きな喜びと希望になる。それを楽しみに生きていける。

 

フジファブリックのライブはいつも温かい空気で満たされている。しかしこの日のライブは特にずっと温かくて優しい空気で包まれていた。久々のツアーだからこそファンの前で演奏することに喜びを感じているようだった。

 

加藤が怪談話をしている時だけは、冷ややかな空気になっていた気もするが、それもフジファブリックの魅力の一つだと思っておこう。

 

フジファブリック『LIVE TOUR 2021"I Love You"』at Zepp Tokyo 2021.6.30(水)

■セットリスト

1. LOVE YOU
2.SHINY DAYS
3.efil
4.会いに
5.たりないすくない
6.東京
7.楽園
8.Dear
9.手
10.Walk On The Way
11.陽炎
12.あなたの知らない僕がいる
13.赤い果実 feat.JUJU
14.光あれ
15.ポラリス
16.バタアシ Party Night
17.徒然モノクローム
18. LIFE

EC1.手紙

 

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