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【ライブレポ・セットリスト】佐藤千亜妃 Special Cover Live VOICE4 ~far and near~ @ Billboard Live TOKYO 2020.11.14 第一部

 佐藤千亜妃 Special Cover Live VOICE4 ~far and near~

 

Billboard Live Tokyoへ行くのは初めてだった。

 

そして、ビビった。

 

ジャスのライブが行われることが多く、食事をしながら音楽を楽しめる会場ということは知っていた。

 

しかしだ。自分が観に行ったのは佐藤千亜妃のライブ。普段のライブと変わらない服装と感覚で気軽に会場に向かった。

 

そして、後悔した。

 

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入口の雰囲気からして普通のライブハウスと違う。スタッフも気軽に働いている学生バイトでもなさそう。ピアスをしていたり派手髪の店員もいない。

 

まるでリッツカールトンホテルで働くホテルマンのように、身だしなみを整えてビシッと接客をしている。

 

そもそも会場のある建物にはリッツカールトンホテルが併設されている。本来はロックミュージシャンがライブでやる箱ではない。普段のライブとは違う緊張感がある。

 

パーカーで来てしまったことを後悔している。パーカーを着るとはバカだった。

 

パーティーに行くような服装をするべきだった。

 

前半

 

今回は佐藤千亜妃が邦楽の名曲をカバーするというライブ。いつもとは違う特別な催しである。

 

だからこそパーティに行く服装が似合う会場なのだ。パーカーで行くべきではなかった。

 

オシャンティーで高貴な雰囲気な会場に、開演時間ジャストでバンドメンバーが登場する。

 

宗本康兵(Key)、藤田顕さん(Gt)、種子田健(Ba)、BOBO(Dr)という凄腕が揃ったバンド。どんな楽曲も見事に演奏できるであろう布陣。

 

しかし彼らの服装はシンプルなシャツでラフ。パーティに行く服装ではない。彼らは週末のららぽーとを歩いていそうな服。それに少し安心した。

 

パーカーを着ている自分と同類だ。

 

ギターの藤田が手拍子を煽りドラムの音から演奏が始まる。会場の高貴な雰囲気とは違い、いつも通りのライブと同じアットホームな雰囲気。

 

客席も手拍子をして一体感が増す。会場が温まったタイミングで、階段から佐藤千亜妃が登場。ステージへと笑顔で歩いていく。

 

彼女もパーティに行く服装ではない。

 

ららぽーとには居ないかもしれないが、成城石井で買い物はしていそうな服装だ。少しセレブな服装だが、成城石井はパーカーでも入れるから良しとしよう。

 

彼女がステージに辿りつくと、誰もが聴き慣れているであろうイントロが聴こえる。

 

Official髭男dismの『Pretender』だ。

 

Pretender

Pretender

  • Official髭男dism
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

原曲に忠実なアレンジ。それを凄腕のバンドが演奏する。

 

佐藤千亜妃の声質や歌唱方法では、より楽曲の儚い部分が強調される。原曲とは違う魅力を感じるカバーだ。

 

しかし自身の楽曲を歌う時よりも、力強く歌っている。他者の楽曲を歌うことで、いつもとは違う表現方法に挑戦しているように聴こえた。

 

次に演奏された『コミュニケーション・ブレイクダンス』もそうだ。

 

コミュニケーション・ブレイクダンス

コミュニケーション・ブレイクダンス

  • SUPER BUTTER DOG
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ファンキーで踊りたくなるようが楽曲。こちらも力強く、かつリズムに乗るように跳ねるように歌う。

 

間奏では1人ずつメンバーを紹介し、各自がソロプレイをして盛り上げていた。

 

そんな「いつもと違う佐藤千亜妃」に驚いたり聴き入ったりしていたが、「いつもの佐藤千亜妃」としてカバーする楽曲もあった。それにも引き込まれてしまう。

 

椎名林檎の『闇に降る雨』のカバーは、きのこ帝国の頃に近い繊細さと憂いを感じる歌声だった。

 

闇に降る雨

闇に降る雨

  • 椎名林檎
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

それでいてロックを感じるような刺があり、胸に突き刺さるような表現の歌声。それは普段の彼女の歌唱に近い。

 

それに続く荒井由美『中央フリーウェイ』と松田聖子『赤いスイートピー』のカバーも同様である。

 

赤いスイートピー

赤いスイートピー

  • 松田 聖子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

2曲とも原曲に近いアレンジで演奏されたが、それが彼女の歌声と相性が良い。普段と変わらない表現方法で歌っているようだ。

 

誰もが知る有名曲で、普段の音楽性からすると意外な組み合わせの2曲だが、しっかりと自身の音楽に昇華している。

 

5曲続けて演奏してからこの日最初のMCが始まった。久々のライブな上に普段とは違う会場だからか、いつもより少し緊張した様子の佐藤千亜妃。

 

バンドメンバーを1人ずつ紹介していくが、不思議な雰囲気になっていた。

 

メンバー全員に、好きな食べ物や最近食べた物について話を振っていく。オシャンティーな会場に似合わない庶民的な会話のせいで、不思議な雰囲気になったのだ。

 

「種子田健はカレーが好き」「藤田顕はコロナ禍で暇になり自炊をしている」という無駄知識を披露する佐藤千亜妃。宗本康兵とは休日課長(ゲスの極み少女。)と一緒に焼肉に行ったという話をしていた。

 

BOBOは「うまかっちゃん」というインスタントラーメンを楽屋で食べているらしく、それをSNSで拡散するようにと客にお願いする佐藤千亜妃。

 

しかし終演後にSNSで拡散した人は数人しかいなかったようだ。

 

 

「MCが苦手で今日もなんか不思議な雰囲気になったちゃったけど、いつもよりも良い感じのMCです」と自画自賛する佐藤千亜妃。

 

それを聴いた客席は、さらに不思議な雰囲気になる。

 

そんな不思議な雰囲気は、音楽で全て塗り替えてくれた。

 

次に演奏されたのは、山崎まさよし『コイン』のカバー。藤田のアコースティックギターと佐藤の歌だけでしっとりと届ける。

 

コイン

コイン

  • 山崎まさよし
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この日はシングル曲や有名曲のカバーが中心だった。

 

しかしこの曲はアルバム収録曲で、他に披露された曲と比べるとマニアック。知らない人も多かったかもしれない。

 

それでもセットリストに入れたのは、特にやりたい曲の一つだったからだろうか。優しく繊細なアコースティックギターと、彼女の憂のある声質はベストマッチだった。

 

MCの不思議な雰囲気を一瞬で変え、切ない余韻を残す。

 

 

後半

 

歌声に最も圧倒させられたのは、宇多田ヒカル『初恋』のカバーだ。

 

初恋

初恋

  • 宇多田ヒカル
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この曲は歌いこなすことが難しいだろう。歌の音域も広く、宇多田ヒカルだからこそ歌えるような楽曲だと思っていた。

 

しかしそれを見事に自身の表現方法で歌いこなしていた。普段の歌声で表現しつつも、そこに裏声を駆使しすることで歌に深みを増す。その歌声に鳥肌が立つ。

 

そして歌声を支える壮大な演奏も素晴らしい。

 

ブレることがないハイレベルな演奏があるからこそ、佐藤の歌声が生かされるのだ。個人的に『初恋』がライブのハイライトに思う。

 

きっと会場全体が圧倒させられていた。空気が今までと違った。

 

そんな雰囲気を多幸感に満ちた演奏と歌声で塗り替えたのが、平井堅『Sweet Pillow』のカバーだ。

 

Sweet Pillow

Sweet Pillow

  • 平井 堅
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

心地よいR&Bのリズム。それにキャッチーなメロディが乗っかる。客席からは手拍子が聴こえる。

 

カバー曲のライブだからか、1曲ごとに会場の雰囲気が全く違うものに変化していく。それが面白い。

 

そして歪んだギターの演奏からチャットモンチー『世界が終わる夜に』へ。

 

世界が終わる夜に

世界が終わる夜に

  • チャットモンチー
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

原曲に近いアレンジで演奏され、泥臭いロックサウンドがオシャンティーなBillboardに響く。

 

そしてサビで叫ぶように歌う佐藤千亜妃の姿を見て、今でもロックボーカリストなのだと改めて実感する。

 

「次で最後の曲になりました。ビルボードは70分と決まっているので短いですが、楽しんでもらえたでしょうか。最後にどうしても歌いたい曲を歌います」

 

そう言ってアカペラで歌い始めた。

 

最後に披露されたのは中島みゆき『ファイト!』。

 

ファイト!(リマスター)

ファイト!(リマスター)

  • 中島みゆき
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

語るように感情を込めて歌っている。それを息を吞むように見つめて、息を合わせるように丁寧に少しづつ音を重ねるバンド。

 

『ファイト!』は明るい曲ではない。暗くて悲しい表現が歌詞にはある。

 

それでも「ファイト!」と力強く歌う声には力をもらえる。中島みゆきが歌に込めた意味を、佐藤千亜妃は自分なりに消化して、自身の表現として昇華していた。

 

歌いきってステージを後にした佐藤千亜妃とメンバー。

 

すぐにアンコールを求める拍手が客席から巻き起こる。

 

それに応えて佐藤が1人でステージに戻ってきた。アコースティックギターの弾き語りで1曲披露するという。

 

演奏されたのは『STAR』。彼女が作詞作曲を行い演奏を04 Limited Sazabysが行ったロックナンバーである。

 

STAR

STAR

  • 佐藤千亜妃
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかしこの日はスローテンポで優しくコードを弾き、歌詞をかみしめるように歌っていた。

 

笑われても 晒されても
胸の奥の火は消えない
夢破れても 叶わなくても
生きてきた証になるんだ

(佐藤千亜妃 / STAR)

 

アップテンポで聴いているだけでテンションが上がる曲だと思っていたので、今まで歌詞に深く注目はしていなかった。

 

しかし強いメッセージが込められた歌詞なのだと、弾き語りによって気づいた。

 

そして再びバンドメンバーを呼び、「最後はバンドと一緒に演奏します」と伝える。

 

最後に演奏されたのは『キスをする』。これも佐藤千亜妃の作詞作曲だ。

 

キスをする

キスをする

  • 佐藤千亜妃
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 曲が始まるとステージ後方のカーテンが少しづつ開いていく。そこは大きな窓ガラスになっており、後方には東京の夜景が広がっていた。

 

バンドは壮大な演奏を、佐藤千亜妃は儚くて切ない歌声を、美しい夜景を背にして響かせる。会場は音楽の魅力を視覚でさらに引き立てる。

 

演奏を終えてバンドメンバーも前に出てきて挨拶をした。

 

今までなら全員で手を繋いでお辞儀をしていたのだろうが、コロナ禍だからか「ディスタンスを保ちながら」と佐藤が言って、距離を保ち一列に並んでお辞儀をした。

 

これはコロナ禍によって変わってしまった部分の一つかもしれない。しかし素晴らしいライブに対して贈られる客席からの拍手は、今までと変わらずに温かくて大きかった。

 

そしてバンドの演奏も佐藤千亜妃の歌声も、今までと変わらずに素晴らしい。音楽による感動は、何があっても変わらないのだ。

 

ライブを観終わって、自分が勘違いしていたことにも気づいた。

 

それはBillboardはオシャンティーで高貴な会場だと思っていたが、それは間違っていないかもしれないが、正しくもないということだ。

 

会場の美しい内装や美しい夜景、食事を楽しみながら音楽を聴ける環境は、楽曲をより美しく感動的に聴かせるためのもので、お洒落で高貴な雰囲気を作るためではない。

 

必要以上に構えて会場に入って緊張する必要はなかった。どのような環境でも純粋に音楽を楽しむ気持ちを持つべきなのだ。

 

それを今回のライブで教えられた。

 

でも、やっぱり、パーカーで行くべきではなかった。あれほどにオシャンティーな会場でパーカーは、少し恥ずかしかった。

 

パーティへ行く服装にすべきだった。

  

佐藤千亜妃 Special Cover Live VOICE4 ~far and near~ @ Billboard Live TOKYO 2020.11.14 第一部

■セットリスト

 1.Pretender ※Official髭男dism

 2.コミュニケーション・ブレイクダンス ※SUPER BUTTER DOG

 3.闇に降る雨 ※椎名林檎

 4.中央フリーウェイ ※荒井由実

 5.赤いスイートピー ※松田聖子

 6.コイン ※山崎まさよし

 7.初恋 ※宇多田ヒカル

 8.Sweet Pillow ※平井堅

 9.世界が終わる夜に ※チャットモンチー

10.ファイト! ※中島みゆき

 

EN1.STAR ※佐藤千亜妃

EN2.キスをする ※佐藤千亜妃

 

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