オトニッチ-音楽の情報.com-

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】吉澤嘉代子『赤青ツアー2021』@ 昭和女子大学 人見記念講堂 2021.3.24

赤青ツアー2021

 

人見記念講堂で行われた吉澤嘉代子のワンマンライブ『赤青ツアー2021』の東京公演。

 

2020年末に私立恵比寿中学のライブにシークレットゲストで出演したものの、有観客のワンマンライブとしては1年以上ぶり。久々に生の彼女の歌声に触れる人も多いと思う。

 

1年以上のブランクがあるとは思えないステージだった。むしろ進化していると思った。物凄いライブだと思った。歌も演奏も演出も。

 

f:id:houroukamome121:20210326161754j:image

 

ライブが始まった瞬間に、吉澤嘉代子が神に見えた。完全にミューズだった。それぐらいに圧倒的だった。歌も演奏も演出も。

 

最新アルバム『赤星青星』の1曲目と同じ『ルシファー』からスタートしたライブ。

 

ルシファー

ルシファー

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ステージ中央の壇上には薄い幕が張られている。その幕には〈羽の舞い散る夜に〉という歌詞をイメージしたようは、白い羽が舞い散る美しい映像が映し出される。

 

その幕の向こうで揺れながら歌う吉澤嘉代子。幕の向こうなので姿がはっきり見えず、幻想的に揺れ動く姿と、高い歌唱力と表現力に圧倒させられる。だから神に見えた。完全にミューズだった。

 

始まった瞬間に一瞬で吉澤嘉代子の音楽の世界に引き込まれてしまう。そしてライブが終わるまでの2時間、ずっとその世界から抜け出せずに浸ってしまう。そんなライブだった。

 

前半

 

吉澤嘉代子はライブで様々な表現を見せて魅せてくれる。1曲目で独自の世界観に引き込み圧倒させたかと思いきや、2曲目の『綺麗』でパッと華やかな雰囲気にした。

 

綺麗

綺麗

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ステージ中央壇上の幕が開き、姿を表した吉澤嘉代子。ステージセンターマイクまで歩いて行き、ポップに明るく歌う。くるっと回ってスカートを靡かせる姿が美しい。

 

そして『ユキカ』では手拍子を煽り会場の一体感を高め、『運命の人』では上手から下手まで動き回って歌う。

 

運命の人

運命の人

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

まるで演劇のように歌詞に合わせた動きをする。それも彼女のライブで唯一無二の世界観を感じる秘密だ。

 

MCもまるで演劇のようだ。

 

電話で恋人に電話をかけるという設定の小芝居を挟んだMC。「もしもし?久しぶり!ずっと会いたかったよ!」と演技の世界に入りながらも、会場に集まったファンにも語りかけるような言葉から始まったMC。

 

世界観を守りつつも自らの想いも伝えるような言葉だ。

 

「私は最近新しいアルバムを作ったよ。恋人をテーマに作ったけど、異性でもいいし同性でもいいし人じゃなくても、いいし、聴く人の心の中に浮かぶ大切な何かを思い浮かべて聴いて欲しいなって思うの。わたしにとっての恋人は、あなたかな?」

 

日向坂46のメンバーかと思うようなアザトカワイイことを言うMC。

 

そしてライブ衣装は『赤星青星』とのジャケット写真と同じ田中大資が制作したことを説明し、バンドメンバー紹介をしてから演奏再開。

 

カラフルな照明に照らされながら最新アルバム収録曲『鬼』を披露。

 

鬼

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

指を頭の上で立てて鬼のツノをイメージしたダンスをしながら歌い踊る。ギターの弓木英梨乃に近づいてダンスを踊ったりと楽しそう。

 

明るくて楽しい曲で多幸感で満たすだけでない。バラードでは心を鷲掴みするような表現をする。

 

『ゼリーの恋人』ではアコースティックギターを優しく弾きながらしっとりと歌った。バンドの演奏も優しい。聴き終わってからも、深い余韻が体の奥に残ってる。

 

ゼリーの恋人

ゼリーの恋人

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

赤い電話を持って受話器についたマイク越しに歌った『リダイヤル』では、ミュージカルを観ているような気持ちになる。

 

底の知れない様々な表現で魅了する吉澤嘉代子と、その表現を最大限引き出すように支えるバンドメンバーの演奏。

 

しかし吉澤嘉代子のライブはステージ上だけで完結するわけではない。他のアーティストも同様ではあるが、ファンもライブの空気を作っているのだ。音楽を通してコミュニケーションを取っているのだ。

 

今回のライブは音楽を通してだけでなく、直接ファンと吉澤嘉代子が「電話」を通じてコミュニケーションを取る演出があった。

 

事前に選ばれた選ばれたライブに参加したファンが、客席に設置された電話からステージの吉澤嘉代子とトークをするという内容である。

 

コロナ禍で会えない時間が長かったからこそ、離れても交流が取れる電話を演出に使ったのだろう。

 

今回は女性と男性のファンが1名ずつ順番に会話をしていた。

 

吉澤「今まで何回ライブに行ったことあるの?」

女性ファン「嘉代子ちゃんのライブは3回目」

吉澤「他の人のところにも行ってるの!?」

女性ファン「ごめんなさい!」

吉澤「そうだよね。わたしも色々なお寿司屋さんに言っちゃうもん。あなたが最近恋しているものは何?」

女性ファン「ピスタチオ」

吉澤「どんなところが好きなの?」

女性ファン「殻を割ることの楽しさ」

吉澤「お世話をするのが好きなんだね」

 

 シュールな会話だった。

 

男性ファンとも同じように会話をしていた。

 

吉澤「あなたのこと、いつも何て呼んでたっけ?」

シンゴ「シンゴです」

吉澤「シンゴくん?私たちそんな名前で呼び合う関係だったっけ?」

シンゴ「はい」

吉澤「新しいアルバムは聴いた?シンゴくんが好きな曲は何?」

シンゴ「『鬼』と『ゼリーの恋人』です」

吉澤「前半にライブでやった曲を選んでくれてありがとう。シンゴくんは何に恋してるの?」

 シンゴ「甘いケーキです。1番はモンブラン」

 吉澤「モンブランかあ。話が広がらない......。酒のツマミなら広がるのに......」

 

 シュールな会話だった。

 

 

後半

 

会話だけでなく演出もシュールな方向性へ向かう「もう一人だけ電話しようかな?」と言って電話をかけると、ステージ上にある電話ボックスから煙が出てくる。

 

「火事!?どうしよう?弓木ちゃん!」とギターの弓木英梨乃に慌てて話しかける吉澤嘉代子。苦笑いしてスルーする弓木英梨乃。

 

出鱈目だと思ってしまうようなシュールな演出の後に〈このまま世界が出鱈目だったら〉と歌う『ニュー香港』でライブを再開。

 

そして『グミ』でエレキギターをかき鳴らしながら歌い、クールな一面も見せる。

 

グミ

グミ

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ここまで新曲が続けて披露されたが、ここで2017年に発表された『えらばれし子供たちの密話』をパフォーマンス。

 

えらばれし子供たちの密話

えらばれし子供たちの密話

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

〈大人たちが眠る夜にシークレットコールるるるるる〉という歌詞があるように、電話がテーマの1つになっているライブだからこその選曲だ。

 

「あの人起きてるかな?」と言って再び恋人に電話をかける設定を交えたMCへ。

 

「しばらくアルバムも作れなくて、ライブもできなかったけど、ずっと楽しみにしていてくれてありがとう。去年大切なライブが中止になった時、すごく悲しかったけれど、またあなたに聴いてもらえることが嬉しいよ。私が一番嬉しいことは、あなたに私の歌を聴いてもらえることなんだ。昔あなたが好きだって言っていた歌をうたうから、聴いてね」

 

優しくささやくようなMC。やはり演技をしつつもファンに語りかけているように聞こえる。

 

歌われたのは『残ってる』。ファン以外の多くの人に届いた、吉澤嘉代子の代表曲だ。今回は伊沢一葉のピアノと歌だけのバージョンだった。

 

残ってる -ピアノと歌-

残ってる -ピアノと歌-

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

マイクではなく受話器越しに歌う吉澤嘉代子。演出も相まって「自分のために歌ってくれている」と感じてしまう。

 

それぐらいに引き込まれてしまう。素晴らしい歌声だった。ピアノの旋律は美しかった。

 

感動的な余韻がまだ残ってる中、さらに名曲を畳み掛ける。次に披露されたのは『曇天』。

 

曇天

曇天

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

歌詞の内容に合わせて、窓枠の向こうに曇天が見える映像がビジョンに映る演出。

 

元々は私立恵比寿中学に提供した楽曲で、『サービスエリア』のカップリングでセルフカバー音源を発表したばかりの楽曲だ。

 

しかしエビ中のバージョンともセルフカバー音源とも違うアレンジで演奏された。柔らかな演奏で優しい歌声だった。

 

ライブアレンジによって楽曲に新しい意味を加えてしまったのだ。『曇天』はライブによって化ける楽曲だった。

 

ライブで化けた楽曲は他にもある。『流星』はライブでこそ凄みが伝わる楽曲だった。特にバンドの演奏の凄まじさがダイレクトに伝わるのだ。

 

流星

流星

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

夜空に流星が流れる映像が映る中で、壮大な演奏と歌声で披露された楽曲。魂のこもった歌をうたいきり、アコースティックギターを置き、バンドを残してステージを去る吉澤嘉代子。

 

そこからバンドの長いセッションが始まる。

 

凄腕のミュージシャンが揃ったバックバンド。ここまでは歌を支えるような演奏をしていたが、ここでは演奏が主役。技術とセンスを駆使した最高のセッションに鳥肌が立つ。

 

演奏の盛り上がりに比例して映像の流星も流れる数が増えていく。演出も徹底してこだわっているのだ。

 

そんな演奏に圧倒させられている空気が流れる中で、衣装をチェンジして戻ってきた吉澤嘉代子。『赤星青星』のジャケットと同じ衣装だ。

 

ステージの中央に立ち、スポットライトを浴びながら、スタンドマイクで『リボン』を歌い始めた。

 

リボン

リボン

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

離れ離れの日に泣いたのは
寂しいからじゃなくてあなたといられる幸せを思った

(吉澤嘉代子 / リボン)

 

この歌もファンへのメッセージに感じる。とても優しい歌声だった。

 

歌い終わると中央の壇上に再び上がった。そしてアルバムのリードトラックである『刺繍』が始まる。そして1曲目と同じように薄い幕が再び吉澤嘉代子を隠す。

 

刺繍

刺繍

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

〈青めいた雪の糸が街を隠して〉という歌詞を表現するかのように、バックのスクリーンと幕に雪が舞い落ちる映像が映る。その中で幻想的に歌い、壮大に演奏する。

 

この日のライブを総括するような魂のこもった歌と演奏。

 

楽曲が終わり吉澤嘉代子がステージを去る。そしてステージに置かれた電話のベルが鳴ると、暗くなったステージの、中央に張られた薄い幕に、この文字が浮かび上がった。

 

「あなたの運命の人は私」

 

〈もう私には貴方しかいないの 運命の人よ〉という『刺繍』の歌詞へのアンサーに感じる言葉。そしてアーティストからファンに向けた愛を感じる言葉。

 

この言葉を伝えるためのライブで、そのためにセットリストも組まれたのかもしれない。

 

電話をテーマにしたライブだからか、電話が出てくる楽曲を多く披露した。恋人をテーマにしたアルバムのレコ発ライブだからか、恋をテーマにした楽曲が多かった。

 

「運命の人」が需要なワードとして捉えられたライブだからか、『運命の人』をセットリストに入れたのかもしれない。

 

この日に披露された楽曲は、全てこの日に披露されるべき意味があったのだ。まるでライブを通して一つの物語を見たような気持ちになった。

  

今回のアルバムは恋人をテーマに作っています。衣装は獣をイメージして作ってもらいました。アルバムのイメージを作家さんに説明したときに、性別も種族も超えた、大事な存在を救い取れる場所を提供したいと思って、そこから獣というイメージが出てきました。

 

マスクだからみんなの表情がわからないとやる前は思ったんですけれども、マスクの向こうの感情が伝わってきました。今回は赤星青星のツアーなので、声を出せないし別の手段で繋がれたら良いなと思って、電話の演出を入れました。

 

私には電話をテーマにした曲が以前も作っていて、その曲をやろうと思います。

 

アンコールで歌う前に、今回のライブへの想いや感じたことを話した吉澤嘉代子。

 

最後に演奏されたのはインディーズ時代の楽曲『らりるれりん』。〈今夜 電話するよと あなたはそう言ったの〉という歌詞から始まる曲。

 

らりるれりん -新・魔女図鑑-

らりるれりん -新・魔女図鑑-

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

吉澤嘉代子は様々な楽曲を作ってきた。デビュー8年目で中堅のシンガーソングライターでもある。

 

しかし活動初期から変わらない軸はあるのだと思った。インディーズ時代の楽曲が最新アルバムの楽曲と繋がっているのだから。

 

私が電話に出たら受話器ごしに聴いてくれる?

二人の秘密恋の歌

(吉澤嘉代子 / らりるれりん)

 

『らりるれりん』のサビの歌詞は、まるでこの日のために用意されたフレーズにすら感じてしまうほどだ。

 

この文章はライブを観てから2日後に書いている。しかしまだ、ライブの余韻が体の奥に残っている。

 

それは各曲が素晴らしいだけでなく、1つのライブが1つの物語として成立しているからだろう。

 

そして受話器ごしに吉澤嘉代子が恋の歌を歌ってくれて、それを受話器ごしに聴いているような気持ちになる。

 

そこからは音楽を届けたいという想いと、聴いてくれる人がいるという喜びを感じる。それに心が動かされるのだ。これも余韻がずっと体の奥に残っている理由でもある。

 

吉澤嘉代子は6月に日比谷野外大音楽堂でライブを行う。野音でサンボマスターのライブを観たことがきっかけで、プロのミュージシャンを志したらしい。きっと彼女にとって特別なライブになるはずた。

 

でもそんな特別なライブでもきっと、この日と同じように、吉澤嘉代子はいつでも、受話器ごしに恋の歌をうたうようなライブをやってくれるのだと思う。

 

吉澤嘉代子『赤青ツアー2021』@ 昭和女子大学 人見記念講堂 2021.3.24
■セットリスト 

1.ルシファー
2.綺麗
3.ユキカ
4.運命の人
5.鬼
6.胃
7.ゼリーの恋人
8.リダイヤル
9.ニュー香港
10.グミ 
11.えらばれし子供たちの密話
12.サービスエリア
13.残ってる
14.曇天
15.流星
16.リボン
17.刺繍

EN1.らりるれりん

 

↓関連記事↓