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きのこ帝国について語るべきことはなくなった~新作タイム・ラプス感想,レビュー~

きのこ帝国は変わった?

 

きのこ帝国というバンドは語り甲斐が有るバンドだと思う。

 

バンドの存在自体も好みが別れる。流行りの音楽性でもないしキャッチーなわけでもないし、少し分かりづらい音楽。フェスで盛り上がるような音楽ではないし、音楽フェスで人気のバンドとは真逆のライブをやっているかもしれない。

 

好みがわかれるし、他の人気バンドとは違う方向性だが、しっかりファンもいて評価されている。だからこそ「語り甲斐」があるバンドだと思う。

 

しかし、きのこ帝国の新作『タイム・ラプス』については語るべきことがない。バンドについても作品についても語ることがなくなってしまった。

 

それは、語る必要がないぐらいの名盤を作ったから。

 

賛否両論があるアルバム

 

きのこ帝国がデビューした時のインパクトは大きかった。

 

「渦になる」というミニアルバムでデビューした時から注目されていた。「面白いバンドが出てきた」と。

 

渦になる

渦になる

 

 

ミドルテンポでシューゲイザーやポストロックの影響を受けたであろう音楽性は好みも分かれると思う。しかし、アングラ感がありつつもメロディや歌声は聴きやすさがある。そのギャップが個性にもなり注目されるきっかけになったと思う。

 

知名度と人気を上昇させるきっかけになった「フェイクワールドワンダーランド」も賛否両論あった。ファンの入れ替えもあったと思う。

 

フェイクワールドワンダーランド

フェイクワールドワンダーランド

 

 

アングラ感は薄まり正統派ギターロックになった。いわゆるロキノン系ロックの音作りに近い楽曲が揃ったアルバム。

 

これまでの作品とは違う方向性になったためファンも戸惑った人も多かった。しかし「東京」や「クロノスタシス」など代表曲も生まれた。

 

東京

東京

  • きのこ帝国
  • ロック
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

メジャーデビューアルバムの「猫とアレルギー」はかなりJPOPよりの音作りになり、また賛否両論様々な感想がファンから出てきた。

 

猫とアレルギー

猫とアレルギー

 

 

アルバムを出すごとに変化も進化もしてきたきのこ帝国。ファンの入れ替わりも多いと思うし、戸惑いつつも追いかけているファンも多いと思う。

 

そして、最新作の『タイム・ラプス』でも変化や進化をしている。過去のどの作品にも似ていない新しいきのこ帝国の音。

 

しかし、今作は賛否両論を生んでいない。方向性に関しての否定意見は殆どないように思う。

 

それは何故なのか。

 

タイム・ラプスについて

 

過去の作品は作品ごとに「カテゴライズ」できそうな方向性があった。

 

例えば初期の作品ならばシューゲイザーであったり、インディーズ時代後期はギターロック、メジャーデビュー後の『猫とアレルギー』はJPOPであったりと。

 

新作の『タイム・ラプス』はそういったカテゴリー分けができない。一応はジャンルとしてはロックであるというぐらい。

 

アップテンポの曲もスローテンポの曲も入っている。明るい曲も暗い曲もある。

 

今までのきのこ帝国の歴史がつまったアルバムにも感じるが、それは原点回帰とか単純なものでもない。メジャーデビュー後の流れを汲んだキャッチーなだけのアルバムでもない。

 

今作でも過去の作品と同じように変化や進化もしている。

 

特に音作りや演奏面での細かな工夫は今までの作品で最もこだわっているのではと思う。

 

ギターの音作りは今までの作品にはないような音作りや演奏もある。ドラムもリズムパターンは凝っているし、ベースのベースラインも独特な曲が多い。

 

金木犀の夜

金木犀の夜

  • きのこ帝国
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

アルバムのリードトラックで切ないメロディと歌詞が印象的な『金木犀の夜』も演奏をよく聴くと凝っている。変わった演奏をしている部分があるのに歌の良さを引き立てている名演。

 

様々な工夫がされているのに注意深く聴かなければ、その工夫は気づきにくくなっている。ただただ歌や演奏の心地良さや楽曲の良さを感じるだけ。

 

リスナーも過去の作品以上に純粋に音楽の良さを感じ、それを評価している人が多いのかもしれない。

 

きのこ帝国がずっと変わらない部分

 

きのこ帝国は今年で結成10周年。この10年で様々な変化をしてきた。しかし、どれだけ音楽性やスタンスが変わっても、変わらなかった部分もある。

 

それは、「常に個性的で良い音楽」をやっている事だ。

 

インディーズでデビューした時のシューゲイザーサウンドでもメジャーデビュー後のポップなサウンドでも、同じように歌のメロディのセンスは抜群で個性的だった。良い音楽を作ろうとしている姿勢も変わっていない。

 

編曲や音作りが変わっても聴けば「きのこ帝国の音楽」だとわかる。それは最初からブレずにきのこ帝国として良い音楽をやっているからだ。編曲はあくまで楽曲を作り上げる要素の1つで、そこばかりに注目すべきではないのかもしれない。

 

『タイム・ラプス』では過去のきのこ帝国の音楽性を全て取り込んだ上で進化させたアルバムに感じるそして、今作は編曲や方向性の変化や進化を注目される作品ではないように感じる。

 

『タイム・ラプス』は「きのこ帝国が良い音楽をやっている」という部分が過去の作品以上に引き立っている。根本の部分では全く変わっていないことを示すような作品に思う。

 

だから『タイム・ラプス』は賛否両論にはならなかったのかもしれない。

 

きのこ帝国について語ることはなくなった

 

きのこ帝国の『タイム・ラプス』は名盤だと思う。

 

過去の作品のようにシューゲイザーかJPOPかギターロックかなどを語ることがバカバカしくなり、余計なことを考えたくなくなるほどの名盤。

 

きのこ帝国は様々な音楽に挑戦してきた。良い音楽を鳴らし続けてきた。それが一巡してどんな音楽をやってもきのこ帝国の音にできるぐらいの進化をしたのだと思う。

 

今のきのこ帝国について語る必要はないのかもしれない。語らずとも聴けば魅力や凄さはわかる。語る前に音楽を聴くべきだし、余計なことを考えずに音楽を楽しむべきなのかもしれない。

 

それでも語りたくなるものが音楽かもしれないし、語りたくなる音楽こそ魅力的な音楽かもしれないけども。

 

とにかくきのこ帝国の『タイム・ラプス』を聴いてみて欲しい。きのこ帝国について語るべきことはなくなったと思うぐらいの名盤であり、それでも語りたくなってしまう名盤でもあるから。

 

タイム・ラプス(初回限定盤)

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