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女性アイドルの恋愛禁止とそれを破ったアイドルにされる誹謗中傷とプライバシー侵害について

結婚したアイドル

 

「女性アイドルは恋愛禁止」という暗黙のルールがある。恋人の存在が発覚したり男性と一緒にいる写真を撮られたら「スキャンダル」として扱われる。

 

それについてでんぱ組.incはインタビューで下記のように語っていた。

 

古川 このダンスをいつまでできるかっていうのは課題ですよね。あと、もし結婚とかすることになったら、普通はアイドル辞めるじゃないですか。それを変えられたらいいなっていうのはちょっと思ってて。まあ、まだ結婚とか全然ないんですけど(笑)。

夢眠 アイドルっていうもの自体、消費されてくことが前提の職業で、誰かのものになったら成立しないって思われてるもんね。

最上 でもアイドルは恋愛禁止だとか結婚したら辞めなきゃとか、そういうの偏見だと思うし、そういうこと考えないで、もうでんぱ組.incはでんぱ組.incでいいんじゃないかなって。

(引用:でんぱ組.inc「GOGO DEMPA」インタビュー )

 

それから3年後の2019年にメンバーの古川未鈴は結婚を発表した。

 

結婚してもアイドルを続けることを選択し、今でもアイドルを続けている。本人が「変えたい」と言っていたことを有言実行したのだ。

 

──発表前はネガティブな反応を予想していたということ?

 

それはそうです。私にたくさんの時間とお金をかけて応援してきてくれた人がいて、だからみんながみんな「おめでとう」になるわけはないと思ってました。たぶん半数の人ぐらいは怒るだろうな、そうなってもしょうがないよなと思ってた。なので当日まで恐ろしく緊張していて、普段は胃とか痛くならないタイプなんですけど、ごはんもあんまり食べられなくなっちゃったし、自分が緊張してるのが体の節々からわかるぐらい。

 

(中略)

 

──スタッフの皆さんにはどんなふうに報告したんですか?

 

本当のことを言うと「結婚しても続けたい」とか言ってはいたものの、現実問題そうはいかないだろうとも考えていたんです。そんな都合のいい話はないよなって。でも今の自分の気持ちを伝えたらみんな「そういう人生にも寄り添っていけるでんぱ組.incでありたいよね」みたいなことを言ってくれて、なんていい人たちなんだと(笑)。結局誰も卒業しろとは言わず、そう考えてもらえるなら私もこのまま続けたいと思って。

(引用:でんぱ組.inc「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019 SPECIAL」特集 第1回 古川未鈴インタビュー|結婚発表後の古川未鈴が描く新たなアイドル像 )

 

 

しかし結婚後に行われた古川未鈴のインタビューでは結婚発表をする際の葛藤について話している。自身が結婚したことで離れたファンがいることも知っていて悩んでもいた。

 

結婚しても続けるアイドルが出てきたことで少しづつ変わってきているのかもしれないが、それでも離れるファンや傷つくファンもいるのだと思う。

 

発表のタイミングは1人で家にいたんですけど、すごく不安で。(他のメンバーの)MeguとKaedeに前日、「一緒にいて」と言ったほどでした。もっとネガティブなコメントもあるのかなと思っていたんですが、温かいものばかりで、みんなが祝福ムード。これで良いのかな、という感じと、でも良かったな、という気持ちとがありました。

 

(中略)

 

結婚にもいろんな葛藤はあって。でも、ファンの方から「最初は落ち込んだけれど、一番不安だったのはNao☆ちゃんだと思う。30歳で結婚したいって言っていたのに、それをNegicco結成15周年という大事な年だからと、Negiccoの活動を優先してくれたこともありがたい。だから自分はぐだぐだ言っていてはいけないな、と思った」という言葉をいただけて。ほかにも「結婚したことでファンクラブに入りました」という方もいて、その気持ちに応えていきたいな、と思っています。

(引用:Negicco・Nao☆さん「私が結婚とアイドルの続行を決断するまで」)

 

2019年4月にはNegiccoのNao⭐︎が結婚を発表していた。2020年6月にはMeguも結婚を発表している。

 

アイドルの結婚について言及したり自身の結婚観について具体的に語り、ファンや関係者に対して真摯に対応した二組でも悩み葛藤していた。彼女たちの想いを知っているファンが多かったので受け入れられたのだと思うが、これはイレギュラーなことだ。他のグループならばこうはいかない。

 

それだけ現役女性アイドルの結婚はタブー視されている。ファンだけでなく世間一般においても「アイドルは恋愛禁止」が当然で破ってはならないものと思っている人が多いのかもしれない。

 

アイドルは恋愛禁止?

 

バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIのメンバーとしてアイドル活動をしている鈴姫みさこはアイドル活動と並行してマッチングアプリを使って婚活をしている。

 

婚活を始めた理由についてインタビューで語っていた。

 

去年、あるアイドルがディズニーランドで男の子と一緒にいるところを盗撮した画像が拡散されてて、その子がものすごく叩かれるっていう出来事があったたんです。そのときに彼女が浴びせられていた言葉が、人に対して言っていいようなものじゃなかったんですよ。でもその後、写っていたのは男子じゃなくてボーイッシュな女子だったことが判明して、それまで叩いてた人たちがその瞬間に「本当は俺は信じてたよ」「大変だったね」なんて手のひらを返し始めて。

 

いやちょっと待ってよと。アイドルが人間だっていうことをみんな忘れてないかと。そのグループは恋愛禁止のルールがあったのかもしれないけど、もし本当にデートだったとしても、そんな人でも殺したのかっていうほどひどい言葉をぶつけられるべきじゃない。アイドル業界においては異性との交際は犯罪並みにやっちゃいけないことになってて、みんな感覚がおかしくなってる。そう思っているうちに「アイドルだって祝福されながら結婚してもいいじゃない!」って気持ちになって、私とかが率先して結婚することで見えないルールをぶち壊すことにしたんです。

(引用:「現役アイドルは結婚できない」そんな見えないルールを壊すため、私は恋活アプリを使った)

 

「女性アイドルは恋愛をしてはいけない。異性と二人でいてはいけない」と思っている人が多いことがわかる。それを破ってしまうと怒りをぶつける対象になるようだ。

 

3月に欅坂46を卒業した長沢菜々香が男性と交際していることについてゴシップ週刊誌で記事になり、男性と手を繋いでいる写真が掲載された。相手の職業や年齢、写真を撮られた日の二人の行動について詳細に書かれていた。

 

 

この報道は話題になり長沢菜々香はInstagramで報道の内容を認め、卒業後に交際を開始し8月に入籍予定であることを伝えた。

 

彼女のTwitterには祝福するリプライも多く寄せられてはいたが、この件についてSNSや匿名掲示板で誹謗中傷をしている人も多い。アイドルを辞めた後に交際したとしても、卒業間もない時期にYouTubeなどでアイドルの延長と言えるような活動をしていたので「裏切られた」と怒るファンもいた。

 

相手のTwitterアカウントや本名や住所を特定しネット上に晒す人もいた。信憑性は不明だがLINEの履歴も流出している。様々な証拠を集めてグループ在籍時から交際し婚約していたのではと噂する人もいる。それらがまとめサイトの記事になりさらに拡散されていく。

 

盗撮され、プライベートを晒され、調べられ、誹謗中傷され、非難され、恨まれる。週刊誌やネット記事はネタにして好き勝手に書く。

 

ところで「アイドルの恋愛」を許せない人たちは、なぜアイドルの恋愛を許せないのだろうか。

 

 

アイドルにファンが求めるものとは?

 

熱狂的なアイドルファンとして有名な安田大サーカスのクロちゃんがアイドルについて語ったコラムで、個人的には共感できないし違和感を感じた内容だが、そう考える人が存在することには納得できる話が書かれていた。

 

そこではAKB48と結婚したメンバーのいるNegiccoを比較してアイドルの恋愛について分析されている。

 

そもそも48グループとNegiccoでは立ち位置が違いすぎますからね。夜の仕事でたとえると、AKB48は歌舞伎町のキャバクラ。指名をガンガン取らないと淘汰される戦場みたいな職場なんです。対してNegiccoは新潟にある場末のスナック。地元密着型で常連に支持されている。僕はキャバクラの方が上と言いたいわけじゃないんです。渋い煮物を出すようなママのいるスナックも、人情があっていいですよ。

(引用:クロちゃんの考えるアイドル恋愛論「恋愛禁止には『功』の部分もあると思うんです」)

 

自分は歌って踊るアイドルをタレントや歌手、パフォーマーに近いものとして捉えている。テレビやラジオなどのメディアやライブ会場のステージに立つ存在で、それが本業だと思っている。そこで見せるキャラクターやパフォーマンスに最も魅力を感じている。

 

自分にとっては握手会などのイベントはその副産物で「おまけ」だ。

 

だからアイドルを夜の仕事で例えることには理解はできても納得ができない。これはキャバクラやスナックを否定や批判をしているわけではなく、アイドルとは求められているものが違うと感じているということだ。

 

キャバクラやスナックは店員との会話やコミュニケーションを楽しむことがメインに思うが、アイドルはそれがメインだと自分は思っていない。

 

しかし「接触してコミュニケーションを取ること」が女性アイドルの魅力だと思っている人が多いのかもしれない。むしろ音楽が「おまけ」に捉えている人もいると思う。

 

握手会や撮影会などアイドルとコミュニケーションを取ることを目的にCDを購入するファンも多い。その中には複数枚同じCDを買う人もいる。最近ならばYouTubeやSHOWROOMの投げ銭システムでファンから集金している。

 

それはファンが“音楽を聴くために”CDを購入したりライブのチケットを購入した金額よりも多いかと思う。今のアイドルビジネスはキャバクラのビジネスモデルを発展させ変化させたものと言えるかもしれない。

 

それが受け入れられている業界なので、クロちゃんがアイドルを夜のお店に例えたことに共感し納得する人が多いと思う。

 

きっと「恋愛禁止」を当然のことと思っているファンやアイドルが大多数だ。恋愛禁止に違和感を感じている自分の考えの方が少数派だ。

 

先日芸能界を引退した渡辺麻友や乃木坂46を卒業予定の白石麻衣は、活動期間にノースキャンダルだったことを「プロ意識が高い」とネットニュースで称賛されている。

 

2人ともアイドルシーンに大きな影響を残した偉大なアイドルで、素晴らしい部分は他にたくさんある。それなのにピックアップされるのは「ノースキャンダル」であること。それがファンや世間の求める「プロのアイドル」ということなのだ。

 

しかし少数派でも「アイドルの恋愛禁止」に反対するファンもいる。

 

アイドルの定義や求めていることも人それぞれ違う。それはファンだけでなくアイドル本人にとっても違うはずだ。

 

歌やダンスが最も重要だと思う人がいれば、トークやバラエティでの対応力が大切だと思う人もいる。握手会などの接触対応が大切と思う人もいるだろう。お金を効率的に稼ぐ方法を重要視しているアイドルもいるかもしれない。

 

それぞれ考え方が違うのだ。答えは存在しないし、アイドルの定義など存在しないかもしれない。

 

だから気にせず恋愛を楽しむアイドルがいるし、恋愛禁止を徹底するアイドルもいる。それを許せないファンがいる。恋愛について気にしないファンもいる。アイドル運営も同じだ。恋愛禁止をルールとする運営も、恋愛を許可する運営も両方存在する。

 

個人的には「アイドルの恋愛禁止」というハウスルールなど無くなって欲しいと思う。

 

好きなアイドルには長く活動して欲しいし、本人が望む限りは続けて欲しい。「恋愛禁止」のルールがあると、長く活動を続けるにはデメリットが大きい。

 

 

「ずっと乃木坂の仕事してたいなと思うし、今年で25(歳)になりますけど、それを気にせず活躍できるようにいい年にしたい」という、まだまだ現役で頑張っていきたいという内容のもの。これを聞き、番組MCのバナナマン設楽統が「じゃあ30になっても、40になってもいてもらって…」と冗談っぽく話すと、秋元は「46?」とグループ名にちなんだ46歳までは現役を続けたいともとれる意気込みを見せたのだ。

(引用:乃木坂46秋元真夏、「卒業は46歳」発言にファン大歓喜! )

卒業の話になった時ですね。岩下監督に「卒業って必要なんですか?」って質問をされて、私もそれはずっと考えていたことなんです。今は個人でもいろんな活動ができているんだから、卒業をせずに所属していてもいいんじゃないかな、って。


ー乃木坂46に籍を置いたまま、個人活動をより充実したものにする?


そうですね。『実家』みたいな感じで、たまに帰るくらいの場所だとしたら、卒業をする必要はないんじゃないか?というのをずっと考えていたところに、監督からその質問がふっと来て。

(引用:BUBUKA 2019年9月号で行われた、映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』について秋元真夏のインタビュー)

 

乃木坂46の現キャプテン秋元真夏はテレビ番組や雑誌のインタビューでこのように語っている。しかし46歳まで続けることも卒業せずに所属し続けることもきっと難しい。

 

年齢を重ねていくうちに恋愛をしたいと思う相手に出会うことがあるかもしれない。「恋愛禁止」がルールならば「アイドル活動」と「恋愛」を天秤にかけて選ぶ日がやってくる。

 

別の職業ならば天秤にかける必要がないことなのに、アイドルだからと自身を犠牲にした選択と決断が必要になる。

 

アイドルの場合、恋愛に関する話題ってファンとの信頼の問題だけじゃなくて、事務所とかのスタッフだったりスポンサーにも関わってくる問題だったりすることもあるけど、私は結婚したいなと思う相手がいるなら絶対そのタイミングでするべきだと思う。だって80歳になったときに孫が見れない責任を、事務所の人たちは取ってくれないから。アイドルを続けながらでも、自分の人生のために今何が必要かを考えながら、好きなように生きられる世界になってほしいです。

 

男性アイドルが結婚しながら活動を続けるのが普通になってきたのと同じように、女性アイドルも結婚や出産をしても生涯ずっとグループに所属したまま活動できるようになってほしい。「アイドルだから人間らしい生き方ができない」っていうのは違うと思うから、アイドルが仕事以外のことも大事にできるように業界全体が変わっていったらいいなと思ってます。もちろん、自分たちで「私たちは恋愛をしません」って宣言するような人が一定数いても別にいいと思うし、そういうグループのよさもあると思うけど、それはアイドル全体のルールなんかじゃない。ルールがおかしいのであれば私はそれを変えていきたいし、音楽業界の人たちにもこのことについてもっと考えてほしいと思ってます。

(引用:「現役アイドルは結婚できない」そんな見えないルールを壊すため、私は恋活アプリを使った)

 

しかしバンもんの鈴姫みさこはこのように語っている。

 

個人的にはこの考えを支持するし、この考えが当たり前になって欲しい。アイドル本人が恋愛することも恋愛しないことも自由に決めて、続けることも辞めることも自由に決めてなって欲しい。

 

ファンはアイドル本人の考えを支持するべきだ。

 

推しているアイドルが結婚しても続ける選択を選んだとして、それを支持できないならば静かに離れるべきだと思う。結婚しても続けて欲しいとファンが思っていても、押しているアイドルが恋愛や結婚のために辞める選択をするならば祝福して見送ればいい。

 

アイドルが活動できているのはファンがお金を払っていることが大きく影響しているが、ファンが自身のエゴや考えをアイドルに押し付けるべきではないはずだ。

 

自分の考えとズレたことをアイドルがやったからと誹謗中傷したりプライバシーを侵害するべきではない。自分がファンとして思い描いた理想から外れた行動をアイドルがやっていても、叩いて傷つける理由にはならない。

 

長沢菜々香が男性と交際していたことや婚約を決めたことよりも、盗撮してプライバシー侵害してネットリンチのきっかけを作った週刊誌の方がずっと問題があるのではないだろうか。

 

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