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Negiccoと私立恵比寿中学はなぜ争わないのか?〜エビネギライブ3感想〜

それでいいのか?

 

芸能の世界は厳しい世界だと思う。

 

必ず誰かと比較される。過去の自分たちと比べられることもある。ファンですら無意識に比較してしまう。

 

バンドやシンガーやアイドルはライブで一般人の前に立つ機会が多い。対バンやイベントやフェスはファン以外もいる。そこでは直接他と比較される場所でもある。客は「どっちが良かったか」「どっちが優れているか」をワンマンライブ以上に比較してしまう。

 

しかし、私立恵比寿中学とNegiccoが一緒に行った『エビネギライブ3』では、そのような比較をした客は居なかったのではないだろうか。

 

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交流があったり仲が良い相手でも、対バンは演者側も比較されることを意識して勝ち負けを考え気合いを入れたり、ピリピリした雰囲気になることも少なくはない。

 

しかし、Negiccoとエビ中のライブにそんな雰囲気はない。最初から最後まで争う気がなさそう。常にほのぼのしていて平和。ファン同士も平和。

 

悪く言えばぬるくてゆるい雰囲気かもしれない。厳しい芸能界にいる2組がそれで良いのかとも思う。比較される場でそれで良いのかと。しかし、ライブを観て思った。

 

それでいいよ。

 

 

最初のエビネギ 

 

2組が共演する前は特別な交流があったわけではない。接点はほぼなかった。しかし、1回目の共演から2組はほのぼのしていて平和。

 

それはライブのサブタイトルでもあった「当日までに仲良くなろうね」というコンセプトが良かったのかもしれない。

 

Negiccoもエビ中も争う気はなさそうだった。お互いにリスペクトして、本当に仲良く一緒にライブを行なっているようだった。

 

ファンはアーティストを映す鏡と言う人もいる。仲良くライブをやっているメンバーを観ていたお互いのファン同士も、メンバーと同じように争わず楽しそうだった。

 

それでもNegiccoのメンバーは自分たちの声量がエビ中に負けていることを言及していたし、ファンもそれぞれのパフォーマンスを比較している部分もあった。それは仕方がないことだ。

 

しかし、それから2年後のエビネギライブはほとんど比較する人はいなかったように思う。

 

メンバーも「これほど平和な空間はない」とMCで話していた。まるで、同じグループとしてのライブのようにすら思えるほどに平和で優しい空間だった。

 

この言葉が出てくると言うことは、今までに「平和ではない空間」を経験してきたからだと思う。他にないような空間で特別だからこそ出てきた言葉だろう。

 

それは初共演から2年経ち、メンバー同士が仲良くなったり、ファン層が被り始めたことだけが理由ではない。

 

Negiccoもエビ中もお互いに特別な想いを共有している仲間と思うようになり、ファン同士もそのように感じるようになったからではと思う。

 

 

松野莉奈がエビ中の楽曲を歌った最期のライブ

 

2017年2月8日。私立恵比寿中学のメンバー松野莉奈が亡くなった。ステージに立ったのは港カヲルのライブの企画コーナーのゲストが最後だったが、彼女がエビ中としてエビ中の楽曲を歌い踊ったのは、エビネギライブが最期だった。

 

エビ中にとってもNegiccoにとってもエビネギライブは楽しかった思い出という意味だけではなくなってしまった。特別なライブになってしまった。

 

その後活動を再開したエビ中がツアーで新潟に来た時、Negiccoはライブに足を運んでいた。松野莉奈やエビ中のメンバーを想ってNegiccoのNao☆は涙を流していた。

 

その時、エビ中とNegiccoとの間でより信頼関係が強くなったのではと思う。エビ中にとってNegiccoはいっしょにライブをやった同業者以上の特別な感情を持ったと思う。

 

この様子はエビ中のツアードキュメンタリーにも収録されている。それを観たエビ中ファンも、Negiccoに対してより特別な想いを持ったはずだ。

 

 

 そして、今回のエビネギライブも特別なライブとしてファンも参加し、メンバーも特別なライブとしてパフォーマンスをしたのではと思う。

 

いつもの気合を入れているライブともまた違うような、想いのこもったライブに感じた。

 

 

セットリストの意味とライブに込められた想い

 

エビネギ3のサブタイトルは「エビネギ1のようなもの」。

 

ステージのセットも初回の公演をオマージュしたステージセット。ライブの構成も近い構成。まるで2年前の初回のエビネギライブの続きが行われるような雰囲気を感じた。

 

この日のセットリストは最近はライブで歌われることが少ない過去の楽曲が多かった。2年前のエビネギ1の頃には既に存在していた楽曲ばかり。今のエビ中のメンバーは6人。この日は星名美怜が怪我で休んでいたので5人でステージに立っていた。

 

ステージ上は人数が少なくても、あの時にステージに立っていたメンバー全員で立っているという想いを持っているように見える。あの日の全員が知っていて歌える曲を選んだセットリストに感じた。「エビネギ1のようなもの」というコンセプトには、あの日の続きであの日のメンバーでやっている気持ちというような想いも込められているのかもしれない。

 

セットリストだけではない。パフォーマンスも想いが込められているように思った。

 

このライブではお互いの持ち曲をいくつかカバーしあっている。

 

エビ中がカバーしたNegiccoの『光のシュプール』はNegiccoが初めてオリコントップ10に入った楽曲。人気がいまほどない頃から楽曲を作っていたconnieが制作した作品で、特別な楽曲。

 

 

Negiccoがカバーした楽曲は『感情電車』。松野莉奈が最後にレコーディングをした作品。こちらも特別な想いがこもっている作品。

 

 

Negiccoにとってもエビ中にとっても大切な楽曲で、ファンにとっても特別な楽曲。一部のファンにとっては気軽にカバーして欲しくないと思っている人もいるのであろう楽曲。

 

しかし、会場にいた全員がお互いのカバーを受け入れていた。自分も素晴らしいカバーだと思った。自分の色を出しつつもオリジナルへの敬意も感じるようなに歌っていた。とても丁寧で想いを込めた歌声。

 

カバー曲だけではない。自身の曲もお互いに良さをしっかりと出していた。

 

Negiccoが歌っている時のエビ中はステージの後ろに置かれたセットのこたつに座り、楽しそうにペンライトを振り、エビ中が歌っている時のNegiccoは笑顔でエビ中のパフォーマンスを見守っていた。

 

ファンもそれを見ながら推しではない方のグループもしっかり楽しんでいた。

 

その空間は平和だった。きっとこの日に行われたどのライブよりも平和だった。他の対バンライブでは感じることのできないような雰囲気。

 

本編最後に歌われた『ベイビィ・エビネギ・ポップ!』ではNegiccoのNao☆は感極まって涙を流していた。それを観た時、改めて特別で素晴らしいライブだと感じた。

 

 

争う必要はない

 

音を楽しむとかいて「音楽」と読む。音を楽しむことが音楽だ。この日にいた人たちは全員余計なことを考えずに音楽を楽しんでいたと思う。 お客さんはもちろん、メンバーや関係者も。

 

音楽でも勝ち負けを考えてしまう瞬間もある。エビ中もBiSHと対バンした時やフェスの出演ではメンバー自身も意識していることをインタビューなどで語っていた。

 

対バンライブや複数出演するイベントではそういったライブの楽しみ方もあるとは思う。例えばロックバンドの対バンならば、そのような楽しみ方のほうが盛り上がるかもしれない。

 

しかし、ただ仲良くライブをやって平和でしかない多幸感あふれたライブも最高だ。

 

対バンだからと比較して争う必要はない。芸能界は厳しい世界かもしれないけど、ずっとストイックでいる必要もない。対バンも楽しいものだし、芸能界も楽しいことだってきっと沢山あるのだと思う。

 

きっとメンバーにとってそんな楽しい1日が『エビネギライブ』なのかもしれない。

 

そして、ファンも様々なことを考えたり思うことがあっても、結局求めているのは「楽しさ」なのだ。

 

Negiccoもエビ中も争う必要はないし、他のグループも争う必要も本当はないのだと思う。音楽をただただ楽しむことが一番かもしれない。

 

つまり、純粋に音楽を楽しむことの大切さを思い出させてくれて、純粋に楽しませてくれたエビネギライブは最高だということです。

 

「エビネギ3~エビネギ1の、ようなもの。~」 2019年1月26日 新潟県民会館 セットリスト 

 

01. ねぇバーディア(エビ中 ver.)/ 私立恵比寿中学
02. 頑張ってる途中(Negicco ver.)/ Negicco
03. 仮契約のシンデレラ / 私立恵比寿中学
04. チャイム! / 私立恵比寿中学
05. 愛、かましたいの / Negicco
06. ネガティヴ・ガールズ! / Negicco
07. 踊るガリ勉中学生 / 私立恵比寿中学
08. もっと走れっ!! / 私立恵比寿中学
09. キングオブ学芸会のテーマ ~Nu Skool Teenage Riot~ / 私立恵比寿中学
10. 相思相愛 / Negicco
11. Never Ending Story / Negicco
12. ノスタルジア / Negicco
13. 熟女になっても / 小林歌穂、中山莉子、Nao☆[ラップ:YASUBOYS(MeguBOY、KaedeBOY、YASUBOY)]
14. アイドルばかり聴かないで / Megu、Kaede、真山りか、安本彩花、柏木ひなた
15. スターダストライト / 私立恵比寿中学
16. 幸せの貼り紙はいつも背中に / 私立恵比寿中学
17. 矛盾、はじめました。/ Negicco
18. Falling Stars / Negicco
19. ラブリースマイリーベイビー / 私立恵比寿中学
20. パクチー / 私立恵比寿中学
21. 揚げろ!エビフライ / 私立恵比寿中学
22. トキメキ★マイドリーム / Negicco
23. さよならMusic / Negicco
24. Negiccoから君へ / Negicco
25. 圧倒的なスタイル / Negicco×私立恵比寿中学
26. 永遠に中学生 / 私立恵比寿中学×Negicco
27. ベイビィ・エビネギ・ポップ! / 私立恵比寿中学×Negicco
<アンコール>
28. 光のシュプール(エビ中 ver.)/ 私立恵比寿中学
29. 感情電車(Negicco ver.)/ 私立恵比寿中学
30. 愛は光 / Negicco×私立恵比寿中学