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女王蜂の音楽ジャンルが意味不明だから誰か教えて欲しい〜新曲『火炎』感想・レビュー〜

かっこいい

 

女王蜂の『火炎』がカッコいい。

 

女王蜂はデビュー時からずっと日本のバンドシーンでも唯一無二の存在で、ずっとかっこいい存在だった。新曲がカッコいいのは当たり前。

 

だから余計な感想や説明など必要ないかもしれない。「カッコいい」の一言だけで全ての楽曲の説明がついてしまうかもしれない。

 

でも、不毛だとしても良いものについては語りたくなってしまう。特に新曲『火炎』については。

 

この楽曲は今までの女王蜂の楽曲と同様に個性的で魅力的だ。しかし、それでいて今までの女王蜂の楽曲にはなかったような新しさも感じる。

 

今年で結成10年目のバンド。そんなバンドがさらに新しい魅力をつけてしまった。

 

この魅力は一筋縄では説明できない。なにが魅力的かと言うと、ジャンルとして意味不明ところだ。

 

女王蜂はロックバンド。しかし『火炎』はロックでありつつも様々な要素取り入れている。

 

ロックバンドが他のジャンルを取り入れて楽曲を作ることは珍しくない。しかし、『火炎』は取り入れているというよりも、様々なジャンルをごちゃ混ぜにしているイメージ。

 

このごちゃ混ぜが最高で新鮮だ。しかし、ごちゃ混ぜすぎてこの曲のジャンルを何に当てはめれば良いのかわからなくなってくる。

 

火炎

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  • 女王蜂
  • ロック
  • ¥250
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  • provided courtesy of iTunes

 

Future Bass

 

世界的な大ヒットを出し続けているDJユニットのザ・チェインスモーカーズ (The Chainsmokers)。2019年のサマーソニックでは来日しヘッドライナーを担当するほどの大物。

 

彼らが音楽シーンで台頭し始めた2015年前後にEDMで新しいジャンルが広まった。Future Bassというジャンル。これはザ・チェインスモーカーズをきっかけにブームがきたとも言える。

 

Something Just Like This

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  • ザ・チェインスモーカーズ & コールドプレイ
  • ダンス
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  • provided courtesy of iTunes

 

EDMと言えば重低音が響く四つ打ちのダンスミュージックのイメージかもしれない。しかし、Future Bassというジャンルは重低音が響くわけでもないし、リズムは四つ打ち以外の場合も多い。

 

「Future」という言葉の通り、幻想的なシンセサイザーの音やキラキラとしたサウンドが特徴的。リズムは複雑な場合が多い。サウンドもリズムも近未来を感じるような雰囲気。

 

日本のアーティストでも「Future Bass」を取り入れているアーティストもいる。Pefumeだ。 

 

 

Perfumeが2018年に発売したアルバムのタイトルは『Future Pop』。アルバムタイトルの通り、Future Bassを取り入れた未来を感じるようサウンドが多い。日本ではまだ馴染みのない方向性の音楽かもしれないが、Perfumeは自然に取り入れて自身の音楽にしている。

 

 

海外での活動を見据えての作品だと思うし、海外の最先端の音を日本に広める役割も担っているのかもしれない。

 

女王蜂の『火炎』もFuture Bassを取り入れている。

 

曲の始まりと共にリバーブのかかったボーカル。複雑なリズムパターン。幻想的な雰囲気のコーラスワークと明るいシンセサイザーの音。

 

女王蜂はバンドだが海外のダンスミュージックのトレンドも上手く取り入れ、自身の音楽として昇華している。

 

しかし、全体を聴くと洋楽的なサウンドになっているわけではない。洋楽と言うよりも邦楽的なサウンド。

 

海外のトレンドを取り入れているのに日本を感じる音になっている。それにも理由がある。

 

ヨナ抜き音階

 

音楽を聴いていて「日本的なメロディだな」と感じる時がある。例えば歌謡曲や演歌などを聴いている時。

 

そういった曲は歌のメロディが「ヨナ抜き音階」であることが多い。「ヨナ抜き音階」とはドレミファソラシドから「ファ」と「シ」を抜いた5つの音を使う音階のことだ。(キーがCである場合)

 

この5つの音を使ってメロディを作ると、歌謡曲や演歌のような日本人に馴染みのある、日本人に好まれやすいメロディになる場合が多い。

 

『火炎』ではヨナ抜き音階を利用して歌のメロディを作っている部分が多い。そのためFuture Bassを取り入れていたとしても邦楽の特徴的なメロディが目立ち、日本的な音楽に感じる。

 

これは歌のメロディだけではない。シンセサイザーやギターの音でも使われているように感じる。

 

また、リズムを表拍を強くすると日本独自の演歌ぽさが出る。『火炎』では表伯のヨナ抜き音階でシンセサイザーを演奏している部分もあるように聴こえる。

 

他にも音作りや使われている音を日本の民謡などで使われる音に近づけている部分もある。

 

つまり『火炎』は海外のトレンドを取り入れることと同時に、日本的なサウンドも取り入れている。そしてその2つをミックスさせている。

 

ジャンルが意味不明な理由

 

さらに女王蜂はミックスさせているものがある。

 

ダンスミュージックを取り入れてはいるが、しっかり「バンドとして」取り入れている。『火炎』では骨太なロックサウンドも聴けるのだ。

 

ギターもベースもロックを感じる演奏。ボーカルもロック。普段の女王蜂と変わらずロックバンドとして演奏をしている。

 

また、途中にはラップのパートもある。それも楽曲の中でも多くの部分を割いている。

 

海外のトレンドも取り入れ、日本を感じる独自性もある。キャリア10年のロックバンドとしての骨太な演奏もあると思えば、ラップまでスマートにこなしている。

 

ロックに〇〇を加えているというレベルではない。どのジャンルの音も同じぐらいの濃さで『火炎』には取り入れられている。その結果、他では聴けない個性的な楽曲になり、女王蜂にしか作れない音楽になった。

 

『火炎』を聴いていると、音楽をジャンルで語ること自体が馬鹿馬鹿しいとすら思えてくる。『火炎』を音楽でジャンル分けできる人がいるのならば、どのジャンルに当てはまるのかを教えて欲しい。

 

しかし、ジャンルはわからなくなっても女王蜂の『火炎』を聴けば誰もが理解でき、同じ感想を持つ部分もあるとは思う。

 

それは『火炎』がめちゃくちゃかっこいい曲で、女王蜂はめちゃくちゃ凄いバンドだということだ。