オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】私立恵比寿中学『エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して「ちゅうおん」2020 』@秩父ミューズパーク野外ステージ 2020.9.19

ちゅうおん

 

「ここはどこ?」「秩父!」
「We're」「エビ中!」
「一曲!」「入魂!」
「エビ中!」「ファイトー!」

 

9月19日公演の第1部開演前、ステージ裏からメンバーの大声が客席に聞こえた。

 

ステージ裏で円陣を組んでいたいたようだ。。相当気合が入っていたのだろう。マイクを通していない声なのにはっきりと客席まで聞こえる大きさだった。客席はそれに対してライブへの期待や応援の意味を込めて拍手で応える。

 

始まる前から多幸感に溢れた良い雰囲気。これは無観客配信ライブでは体験できない、有観客の生ライブだからこその、演者と観客のコミュニケーションだ。

 

f:id:houroukamome121:20200919175155j:image

 

秩父ミューズパーク野外音楽堂で行われた私立恵比寿中学の約7ヶ月ぶりの有観客ライブ『ちゅうおん』。

 

声出し禁止で着席指定で生演奏でエビ中の音楽を聴かせるというライブ。今回で3回目となる秋の定番ライブで、今回は2日間開催され、1日2回公演の合計4公演行われる。

 

偶然にもコロナ禍のライブ対応としてベストなコンセプトであった。だからこの時期に開催できたのかもしれない。

 

しかしライブの内容は「コロナ禍だから」というものでは無い。良い意味でコロナ禍になる前と変わらない雰囲気だった。

 

アイドルとしてキラキラしていて、歌は個性的で上手い。凄腕バンドの生演奏も最高。

 

ただただ音楽のライブとして素晴らしいものになっていた。

 

前半

 

開演時間を過ぎてバンドメンバーが出てきてラテン調のリズムで演奏を始める。作曲家・音楽プロデューサーの橋本しんが率いる『エビ中バンド』はハイレベルな演奏を初っ端から聴かせてくれた。

 

しかしメンバーの歌声も負けてはいない。

 

バンドメンバーに遅れて登場したエビ中。自信に溢れた力強い声で歌い始める。1曲目は『風になりたい』。THE BOOMのカバーだ。

 

風になりたい

風になりたい

  • THE BOOM
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

カバーとは思えない程に自分たちのものとして歌いこなす。10年以上の活動で多くのアーティストから様々なジャンルの楽曲が提供されたからこそ、どんな曲も歌いこなせるのだろう。

 

「みなさんに久々に会えて嬉しいです!」と挨拶し、ここからはエビ中の楽曲を次々と投下していく。特に前半はアップテンポの楽曲で会場を温めていた。

 

今回のライブは体調不良で休業していた安本彩花が復帰後初めて直接ファンの前に姿を見せた復帰ライブでもある。

 

君のままで

君のままで

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

彼女の完全復活を商品を証明するかのように『君のままで』が2曲目に披露された。この曲は安本のサビのソロ歌唱が印象的なロックナンバーだ。

 

そして『自由へ道連れ』を間髪入れずに続ける。激しい演奏を引っ張るような力強い歌声に引き込まれる。

 

曲後半の柏木ひなたによる「道連れしちゃうぞ♡」のセリフは顔の横でピースをしながら言うというぶりっ子バージョン。アザトカワイイ。これはいつもとは違う表現である。たぶん客は全員道連れされた。

 

『SHAKE SHAKE』では手拍子や腕を挙げるように煽ったりと熱気を高め、『誘惑したいや』では可愛らしさと憂いや艶をミックスさせた歌唱で魅了する。

 

バンドの演奏は原曲の魅力を崩さない程度にアレンジされている。生バンドだからこそのグルーヴ感が生まれるように工夫してアレンジだ。こんな演奏を生で聴かされたらCDだけでは満足できなくなってしまう。

 

ピアノの伴奏が流れてから、少しだけ間が空く。小林歌穂がゆっくりと息を吸ってから歌い始める。

 

感情電車

感情電車

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

グループにとって特に大切な曲の1つである『感情電車』だ。

 

明るくまっすぐな歌声が自然が広がる野外を突き抜けていく。笑顔で時折メンバー同士で顔を見合わせて歌う様子や、最後のサビではステージを動き回り客席に手を振る様子は、心の底から久々のライブを楽しんでいるように見えた。

 

観客も同様に久々のライブに心の底から感動していたと思う。

 

「マスクで見えないけど、みんなが笑顔でいてくれるのがわかるから嬉しい」とMCで話していた通り、みんな笑顔でステージを見ていたと思う。演者とファンの間で同じ感情を共有していた。

 

新曲『23回目のサマーナイト』は初披露ながらアコースティックのバラードバージョンで披露。

 

アコースティックギターの音色が心地よく、メンバーの歌唱力の高さを実感するようなアレンジ。「23歳のうちに歌えて良かった」と真山りかは喜んでいた。

 

大人になったエビ中だからこそ歌いこなせる大人っぽい楽曲だ。

 

 

カバー楽曲のコーナー

 

『ちゅうおん』では毎年恒例になっている各メンバーによるカバー楽曲のコーナー。今年ももちろん行われた。

 

トップバッターは真山りか。中山莉子に「最近髪の毛を切って可愛くなった」と紹介されてからOfficial髭男dism『ノーダウト』をパフォーマンス。

 

ノーダウト

ノーダウト

  • Official髭男dism
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

低音が聴いたバンドサウンドを華麗に乗りこなすように、ステージを動き回りながら気持ちよさそうに歌う。原曲は男性ボーカルだが女性ボーカルになることで柔らかさも加わり、楽曲の新しい魅力を引き出していた。

 

星名美怜がカバーした楽曲はSuperfly『タマシイレボリューション』。

 

タマシイレボリューション

タマシイレボリューション

  • Superfly
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この曲は難しい歌だ。そもそもSuperflyの越智志帆は、J-POPシーンでトップクラスの歌唱力を持つボーカリスト。技術も才能もずば抜けている。そのためSuperflyの楽曲は越智志帆だからだからこそ成立するものが多い。

 

しかし星名美怜は『タマシイレボリューション』を力強く歌いこなしていた。アイドルとしての可愛らしさも加えて魅せるパフォーマンスをしていた。

 

柏木ひなたはアイドルというよりも、プロのボーカリストと言った方が納得できるような歌唱方法と表現力でiri『Wonderland』を歌いこなしていた。

 

Wonderland

Wonderland

  • iri
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

iriは『I'll be here』という曲をエビ中に楽曲提供している。レコーディング時にはボーカルディレクションも本人自ら行ったらしい。この曲はひなたの歌割りが多く、彼女がメインと言えるような曲である。ひなたとiriは相性が良いのかもしれない。

 

個人的にきのこ帝国に対しては思い入れが強いこともあり、安本彩花が歌うきのこ帝国『金木犀の夜』は特に印象に残った。

 

金木犀の夜

金木犀の夜

  • きのこ帝国
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

きのこ帝国の佐藤千亜妃は憂いと繊細さを感じる声質だが、安本彩花は優しくもまっすぐで明るく聴こえる声質。楽曲は切ない失恋ソングだが解釈が違って聴こえるのも面白い。

 

中島みゆき『糸』は何組ものアーティストがカバーしている定番曲である。小林歌穂も今回カバーしていたが、原曲とも他のカバー曲とも違う表現方法で歌っていた。

 

糸

  • 中島みゆき
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

小林歌穂の歌声は優しくて包み込まれる気持ちになる。それは中島みゆきの感情表現が豊かで太い声とは少し違う。そのため他とは違う表現に感じた。

 

唯一男性アーティストのカバーを行った中山莉子はが歌ったのは奥田民生『愛のために』である。

 

愛のために

愛のために

  • 奥田 民生
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

民生は良い意味で肩の力が抜けたボーカルだが、中山莉子は力強い。一生懸命歌っている。民生とは違う方法でロックを表現している。

 

そこにキュートさも加えて自分の歌にしている見事さ。そんな歌声に、惚れた。

 

 

後半

 

ソロのカバーコーナーが終わり、再びメンバー全員で歌い始める。後半戦は『紅の詩』からスタート。

 

紅の詩

紅の詩

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ひなたの物凄い声量の突き抜ける歌声が前面に出た楽曲。

 

<眠れず君のハートに翼広げ運命も加速したのに>というフレーズでは2人1組になって腕でハートを作ったりと、アイドルらしく魅せるパフォーマンスで盛り上げる。

 

そのまま「後半戦、盛り上がっていくぞ!」と真山が叫んでから『バタフライエフェクト』へ。元々歪んだギターが印象的な楽曲だが、生演奏だとサウンドにより重みが加わりカッコいい。

 

後半はアップテンポなナンバーを続けて盛り上げるかと思いきや、次の曲ではメンバーが椅子に座った。

 

アコースティックな演奏でバラードにアレンジされた『ちがうの』をしっとりと歌う。原曲はビッケブランカ作詞作曲のポップな楽曲だが、今回は歌詞の内容をしっかり届けるように、歌詞の主人公の気持ちを丁寧に代弁するかのように感情を込める。

 

ちがうの

ちがうの

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

第2部では『スターダストライト』のバラードバージョンにセットリストが変更されていた。こちらは夜の野外だからこそ映えるような楽曲で、鮮やかな照明によってより感動的に聴かせてくれた。

 

そしてエビ中屈指のバラード『まっすぐ』をまっすぐな歌声で届ける。座っていたメンバーが後半立ち上がり、より力強い歌声で感動的に盛り上げる。

 

まっすぐ

まっすぐ

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

「楽しい時間はあっという間で、残り3曲です」と告げる。しかし観客は声出し禁止。普段なら「えー!」と声が挙がるものの今回は無音。

 

それに寂しさを感じたのか「えー!」の代わりに手のひらを前に突き出すように観客に指示。全員が野外で手のひらを前に突き出すシュールな光景になってしまった。

 

そんなシュールなMCの余韻は曲が始まれば一瞬で吹き飛ぶ。ファンキーな演奏の『踊るロクデナシ』で一瞬でクールな雰囲気に変えた。

 

楽曲中盤ではバンドメンバーを紹介し、各バンドメンバーがソロで演奏を繋げていく。ストリングス隊はステップを踏みながら演奏したりと、バンドメンバーもエビ中に負けないほどにポップで可愛らしい。

 

明るいバンドサウンドが鳴って『頑張ってる途中』へ。ダンスを踊りながらキュートに披露する。

 

頑張ってる途中(中辛ver.)

頑張ってる途中(中辛ver.)

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

アイドルとしてはベテランのエビ中が歌うと、今の吉田拓郎が『人生を語らず』を歌う時と同じぐらいにエモーショナルだ。

 

第2部ではメンバーの歌唱力の高さやハーモニーの美しさが際立つ『星の数え方』に曲が変更されていた。ファンも夜の野外で聴きたいと思っていた人が多いであろう楽曲。シチュエーションともバッチリ合っていた最高の選曲だ。

 

ラストは『23回目のサマーナイト』を原曲に忠実なアレンジで披露。

 

23回目のサマーナイト

23回目のサマーナイト

  • 私立恵比寿中学
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

サビでメンバーが手を振れば客席も同じように手を振り返す。メンバーも客席も笑顔で楽しそう。

 

中盤は「せっかくだから一人ずつなにかやろうよ!」という真山の提案に対して、リズムに合わせてフリースタイルでソロ歌唱を繋げるという謎展開に。グダグダになるかと思いきや、メンバーの歌唱力の高さで綺麗に着地させ、全員の歌唱へとつなげていく。一見ふざけているようで、実は凄いパフォーマンスをしていることもエビ中の魅力だ。

 

生のライブは音楽を大きな音で聴けることだけが魅力ではない。わざわざ外出して、アーティストとファンが同じ場所で音楽を通じてコミュニケーションを取れることが魅力なのだ。

 

それによって音楽の素晴らしさを再確認できる。自分が好きなものは最高なのだと実感できる。その体験は忘れられない思い出になる。

 

そんな瞬間を求めている人は多いのかもしれない。少なくとも自分はライブに対して、それを求めている部分が大きい。

 

約2時間のライブを終えたメンバーの表情は笑顔で達成感に溢れているようだった。「またこうやってライブでみなさんと会えるようになれたら」と最後の挨拶で語っていた。やはりメンバーにとってもライブは特に大切なものなのだろう。

 

以前のようにファンが声を出したりタチがって盛り上がるようなライブは、しばらくは開催が難しいかもしれない。

 

しかし今回の『ちゅうおん』のようなコンセプトならば開催はできるし、12月には東京でライブを開催することを発表した。かつてのライブがある日常も音楽を心から楽しめる環境も取り戻しつつある。今回のライブの成功はグループにとって大きな前進だと思う。

 

ライブ中にコロナ禍について触れるようなMCはほとんどなかった。かつてと同じように『キングオブ学芸会』のエビ中として最高のライブをやってくれた。

 

そして安本彩花の復帰後初の有観客ライブだが、そのことにも触れなかった。特別扱いはしなかった。

 

彼女がいることは当然で、エビ中は6人でいることが当然のことなのだ。だから何事もなかったようにライブに参加していたと思う。

 

復帰することをイベント扱いもしなかった。ファミリーも特に騒がずにいることが当然のこととして優しく受け入れていた。

 

 6人のエビ中が依然と同じように活動できるような日常が、早く戻って来ますように。いや、こえだけ素晴らしいライブをやってのけたのだから、もう戻って来たのかもしれない。

 

それではまた次に会うときまで、ごきげんよう。

 

2020.9.19 私立恵比寿中学 『エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して「ちゅうおん」2020 』@秩父ミューズパーク野外ステージ

▪️セットリスト

 1.風になりたい
 2.君のままで
 3.自由へ道連れ
 4.SHAKE SHAKE
 5.誘惑したいや
 6.感情電車
 7.23回目のサマーナイト ※バラードバージョン
 8.ノーダウト ※真山りかによるOfficial髭男dismカバー
 9.タマシイレボリューション ※星名美怜によるSuperflyカバー
10.Wonderland ※柏木ひなたによるiriカバー
11.金木犀の夜 ※安本彩花によるきのこ帝国カバー
12.糸 ※小林歌穂による中島みゆきカバー
13.愛のために ※中山莉子による奥田民生カバー
14.紅の詩
15.バタフライエフェクト
16.ちがうの(第1部) / スターダストライト(第2部)
17.まっすぐ
18.踊るロクデナシ
19.頑張ってる途中(第1部) / 星の数え方(第2部)
20.23回目のサマーナイト

 

↓私立恵比寿中学の他の記事はこちら↓