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第8回アイドル楽曲大賞2019に自分が投票した楽曲を理由と共に晒してみる

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2019年度(2018年12月1日~2019年11月30日)に発表されたアイドル楽曲の内、良かったと思う楽曲を一般投票で集め、ランキングを作るという『アイドル楽曲大賞』というイベント。

 

メジャーアイドル楽曲部門、インディーズ/楽曲部門のそれぞれ5曲ずつと、アルバム部門で3枚、推し箱部門で1組参加者は選んで投票する。

 

それによって毎年一般のアイドルファンや音楽ファンに支持された(と思われる)楽曲がランキングとして可視化され、それの上位にランクインするとそれなりにファンだけでなく業界的にも少し注目されるという少し重みのあるイベント。

 

自分も選んで投票してみた。全てのノミネート曲を聴けたわけではないけど、自分が今年聴いたアイドルソングを純粋に楽曲の魅力だけを評価してみた。 

 

メジャーアイドル楽曲部門 

5位 sora tob sakana / ささやかな祝祭

 

作詞・作曲・編曲:照井順政

 

sora tob sakanaがこのような曲をやるのかと驚いた。

 

ハイスイノナサの照井順政がプロデュースしているグループ。普段はオルタナティブロック・ポストロックが基調。インスト曲がメインのハイスイノナサの楽曲にそのままアイドルの歌声が乗っかるような感覚が魅力的だった。

 

それが今回はジャズ。ジャスのビッグバンド。

 

『帰り道のワンダー』など過去にもジャジーな曲はあった。しかし今回はよりジャズに近づいているように思う。

 

帰り道のワンダー

帰り道のワンダー

  • sora tob sakana
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

ウッドベースなどジャズでは定番の楽器も使われているし、その音が楽曲において重要な印象作りをしている。

 

それでもメロディはキャッチー。歌声によってポップにも感じる。曲の構成はAメロ→Bメロ→サビ。JPOPの王道な構成で安心感もある。

 

そのバランス感覚がクセになる。

 

1番の後には40秒の間奏がある。アイドルソングとしては長め。これも楽曲自体に魅力があるから中だるみせずに聴けるのだと思う。

 

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4位 日向坂46 / ドレミソラシド  

作詞:秋元康

作曲・編曲:野村陽一郎

 

ドレミの矢に射抜かれました。

 

作曲の野村陽一郎はアイドルだけでなく様々なアーティストの作曲や編曲を行なっている一流作曲家。1stシングルの『キュン』も作曲・編曲を行なっている。

 

ポップでキャッチーな曲を作ることが得意な人だと思う。しかしいつも正統派ポップスに思わせておいて、引っかかるような個性的な部分を取り入れているように思う。

 

Bメロからサビに行く前に「ドレミドレミソラ」と歌いワンクッション挟みサビをより盛り上げる仕組みだったりと。

 

それが自分のツボにハマってしまった。めちゃくちゃ聴いた曲の1つ。こんな好きになると思っていなかった。

 

詳しい感想は別の記事に書いているので、そちらを読んで欲しい。

 

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3位 私立恵比寿中学 / 曇天 

 

作詞・作曲:吉澤嘉代子

編曲:野村陽一郎

 

曲の始まりのカウント。その後すぐに聴こえる歌声。それを聴いた瞬間に名曲だと確信した。

 

ミドルテンポで心地良いリズムなのに演奏は力強い。ボーカルの音量が小さくなればシューゲイザーとしても成立しそうな重めの演奏。

 

それにも負けないエビ中のボーカル。歌のテクニックや声の伸びだけでなく、メンバーの表現力が凄い。

 

作詞作曲の吉澤嘉代子は本人もアーティストとして歌っている。表現力も歌唱力もあるシンガー。他の人が歌いこなすには難しい曲も多い。

 

それでもエビ中は歌いこなして楽曲の魅力を最大限に引き出している。今までのエビ中にはなかったタイプの大人っぽい歌詞にもかかわらず。

 

エビ中は2019年で結成10周年。楽曲が素晴らしいことはもちらん、メンバーの実力もしっかりあるからこそ魅力的な楽曲になったのだと思う。

 

この曲はシングル曲にしてファン以外の多くの人に届けるべきだったのではとも思う。そういうところ、エビ中運営は売り出し方が下手どんでん。

 

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2位 lyrical school / LAST DANCE

作詞:大久保 潤也(アナ)

作曲:上田修平

編曲:上田修平・大久保潤也(アナ)

 

メジャデビュー曲でしっかりキラーチューンを持ってきたなあという印象。

 

アイドルソングは所謂『アゲ曲』と言われるアップテンポの曲やコールを入れやすい曲、歌詞を詰め込んだ曲などが人気曲になったりライブ定番曲になる。

 

特にアイドルがやるラップならそのような曲は作りやすいと思うし、盛り上げやすい。

 

でもリリスクはそのような方向に安易に行かなかったし、自らの強みを生かして活動しているとも思う。

 

それは過去曲もそうだったし、メジャデビュー曲の『LAST DANCE』もそうだ。

 

ゆるいBPMのヒップホップ。その代わりトラックは作り込まれていて心地よい。楽曲やメンバーのラップにより少しずつ盛り上げていく感じ。

 

一気に盛り上がるのではなく、丁寧にテンションを上げていって心地よく踊らせる感じ。サビのバックのリフが最高なのだ。この雰囲気のヒップホップをアイドルてやれているグループは殆どいないし、きちんとアイドルとしての面白さも加わっていて個性的、

 

ラップやヒップホップをやっているアイドルはたくさんいた。でも、それらのグループはほとんど消えていった。

 

リリスクも他人事ではなかったし、クオリティの高い楽曲とメンバーの魅力でなんとか繋げて活動できているようにも思う。

 

個人的にもっと評価されるべきグループだと思う。あとMVは映画の名作のオマージュになっていて面白い。

 

1位 でんぱ組.inc /  子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡

作詞・作曲・編曲:清竜人

 

こんな頭がおかしくなりそうな曲はでんぱ組.inc以外に歌えるグループはいない。歌詞は聴き取れないから何を言っているのか理解できない。歌詞を読んでみても何を言っているのか理解できない。なんなんだこれ。

 

カオス。まさに電波ソング。聴いていて呆気にとられたし、なぜか笑えてくる。そして何度も聴きたくなる中毒性がある。

 

これはめちゃくちゃ褒めているつもり。改めて唯一無二のグループで、メンバーが変わっても減っても「でんぱ組の魅力」の軸はブレないと思った。作詞作曲編曲は清竜人。頭がぶっ飛んでいるシンガーソングライター。相変わらず頭ぶっ飛んでる。

 

赤い糸で繋いでも

青い糸で繋いでも

あなたならば どうでもいいの

何色でもいいことなの

同じ景色を見られたら

素敵よ

 

基本的に高速BPMで早口で何を言っているのか聴き取れないのに、ここぞというフレーズでは聞き取れるテンポとメロディで歌うところもグッとくる。

 

でんぱ組が世間に浸透して最もヒットを飛ばしていた時期は2014〜2016年前後。その頃に多くの人が魅了されたでんぱ組のカオスで電波な部分を2019年にアップデートして凄みを増したような名曲。

 

他にも諭吉佳作/menが作詞作曲をした『形而上学的、魔法』も素晴らしい楽曲。今年のでんぱ組.incは原点回帰にも感じる曲も新しい挑戦とも思える曲もあったりと、名曲揃い。

 

ベテランアイドルではなく、今でも注目すべき勢いのあるグループの1つ。

 

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インディーズ/地方アイドル楽曲部門

5位 アクアノート / 水花火

作詞:T-KDR

作曲:Azbit

 

アクアノートはアイドルファンにも知名度は低いし注目もされていないグループだと思う。まだ結成1年弱。わかりやすい個性もまだないかもしれない。

 

でも、シンプルながら純粋に良い曲が揃っている。特に『水花火』はシンプルながら良い曲でアイドルが歌うことで儚さが加わる楽曲だと思う。

 

ミドルテンポのポップス。少し和風なメロディ。音数は少なめ。派手さはないけどもずっと胸に染みる楽曲。

 

『水花火』のYouTubeでの再生回数はまだ3800再生前後。もっと聴かれるべき名曲。

 

4位 開歌-かいか- / 歌の咲く島

作詞・作曲:タカハシヒョウリ

編曲:サクライケンタ

 

コーラスワークが美しい。序盤のコーラスで一気に引き込まれる。曲が始まって1秒でこのグループの個性や楽曲の凄さを感じてしまうほどに。

 

この曲は複数ボーカリストがいないと成立しない歌割り。音域は狭い。歌詞は可愛らしいフレーズも多い。複数歌唱メンバーがいるグループで可愛らしい歌詞が似合うアイドルの強みを生かしている。

 

バックトラックは音数少なめで歌声を生かすような編曲。しかし使われている音は独特で個性的。編曲はブクガのプロデューサーのサクライケンタ。

 

今年デビューの新人グループ。まだまだスキル不足な部分はあるかもしれないけども、現時点で良い曲に恵まれてグループの個性もはっきりしている。

 

今年デビュー組では個人的に最も注目しているグループ。

 

3位 Negicco / I Am A Punk!

I Am A Punk!

I Am A Punk!

  • Negicco
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

作詞・作曲・編曲:ミト(クラムボン)

 

Negiccoの曲にハズレはない。

 

毎回ポップスとして作り込まれた楽曲でアイドルソングとしても楽しめるポイントがある曲をリリースしてくる。それでいて歌声も曲も聴けばすぐにNegiccoだとわかる個性もある。

 

『I Am A Punk!』も聴けばすぐにNegiccoだとわかる個性がある。でも、今までのNegiccoにはなかったような不思議な魅力がある。

 

作詞作曲編曲はクラムボンのミト。演奏にはクラムボンのメンバーが全員参加している。

 

クラムボンの個性も爆発しているのだ。ボーカルが原田郁子に変わればそのままクラムボンの新曲としても通用しそうなぬらいに。

 

でもNegiccoが歌うことでNegiccoの魅力もしっかり感じる。今までとは感じだけど、Negiccoでしか聴けない音楽にも聴こえる。

 

これは楽曲提供というよりもコラボレーションだ。それぐらい両者の個性が混ざり合って素晴らしい音楽になっている。

 

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2位 RYUTist / センシティブサイン

作詞・作曲・編曲:シンリズム

 

新潟を拠点に活動しているRYUTist。同じく新潟のアイドルNegiccoに近い上質なポップスをアイドルが歌いアイドルソングとして届けている。

 

楽曲提供はシンリズム。本人もアーティストとして活動し上質なポップスをたくさん作り出しているシンガーソングライター。

 

心理の森

心理の森

  • シンリズム
  • ポップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし個人的に『センシティブサイン』からはシンリズムぽさはあまり感じなかった。男性ボーカルか女性ボーカルかの違いもあるかもしれない。共通しているのは丁寧に作り込まれたポップスであるということだけ。

 

これはシンリズムが「アイドルソングを作ろうとして作った曲」に感じた。いつもよりメロディが可愛らしかったり歌詞の一人称が「わたし」になっていたりと。

 

過去にシンリズムがゲストボーカリストとしてSHISHAMOの宮崎朝子を招いて作られた「ショートヘア」という曲も一人称が「わたし」になっていた。

 

ショートヘア

ショートヘア

  • シンリズム
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 シンリズムは楽曲提供する場合は提供先に合うように工夫して制作しているように思う。RYUTistとシンリズムはアイドルと楽曲提供者としては相性が抜群だと思う。

 

だから良い意味でシンリズムの個性よりもRYUTistの個性や魅力を強く感じる名曲になったのではないだろうか。

 

1位 tipToe. /  茜

 作詞・作曲・編曲:彼方あおい

 

もう、これには説明はいらない。それぐらい聴いた瞬間に鳥肌が立ったし、個人的にインディーズ/地方アイドル楽曲部門では圧倒的に感じた。それぐらい好き。

 

メロディも編曲も構成も新鮮に感じるのに切なくて懐かしさも感じる。不思議な感覚。儚げな歌声が胸に突き刺さる。

 

とにかく聴いて欲しい。歌詞は少し薄いとも感じるが、他には文句のつけようのない名曲。

 

良い音楽に言葉での説明は必要ない。つまりここまでの文章、すべて無駄。こんな文章読んでいる暇があるなら記事で紹介されている曲を全て聴いてくれ。

 

 アルバム部門

3位 lyrical school / BE KIND REWIND 

 楽しくて個性的で可愛らしいヒップホップが詰まっている名盤。

 

前作『WORLD'S END』も素晴らしかったけども、その方向性で音楽的にさらに深みをましたように思える。今作がメジャーでは最初のアルバムだが方向性を変えずにリリスクを続ける宣言にも思えた。

 

今のヒップホップはディープな作品やメッセージ性を強くもった楽曲がトレンドにも思う。しかしリリスクはそういった部分ではなく「ラップの楽しさ」「ヒップホップの面白さ」を楽曲と存在で伝えているように感じる。

 

アイドルファンだけでなく、今のヒップホップが好きな人にも新鮮に感じる作品かもしれない。

 

2位 tip Toe. / daydream 

 アイドルとしては実験的な楽曲や変わった楽曲が多いように感じる作品。

 

しかし聴いていて難しい作品に感じない。ポップスとしてもアイドルソングとしても成立している。複雑で難解な曲がアイドルというキャッチーな存在が歌うことで綺麗に混ざり合っている。

 

「聴いたことない雰囲気なのに心地よい」という感覚。むしろ王道アイドルソングにすら思えてくる。

 

収録曲の系統も幅広い。ジャンルレスで様々な音楽を取り込んでごった煮にして一つにまとめたような感じで聴いていて刺激的。

 

実験的な曲をやりつつ王道アイドルソングを作れるのかという実験なのかもしれない。

 

 1位 sora tob sakana / World Fragment Tour

 シングル曲なしで全曲新曲のアルバム。そのためか曲の流れも綺麗だし雰囲気も統一されているように感じる。

 

基本的にはハイスイノナサの照井順政がプロデュースし作詞作曲行っている。しかし今作では新進気鋭アーティストの君島大空や元School Food Punishmentの蓮尾理之も楽曲提供をしたりと新しい取り組みもしている。

 

一つひとつの楽曲が作り込まれている。それでいて個性的。リード曲『knock!knock!』は複数の曲をつなぎ合わせたかのような曲展開ながら、聴いてみると綺麗に1曲にまとまっていて複雑な構成と思わせないような凄みがある。

 

 

 

『World Fragment Tour』はアイドルアルバムとし2019年の個人的ベストアルバムというよりも、自分が2019年に聴いた全作品の中でもベストに挙げたいほど名盤だと思っている。

 

推し箱部門

桜エビ〜ず(ukka)

 

楽曲部門でもアルバム部門でも自分は選んでいないのに桜エビ〜ず(ukka) を推し箱部門で投票した。

 

去年から12ヶ月連続で新曲を配信していた桜エビ〜ず。その楽曲がどれも素晴らしかった。まあ自分は投票していないけども。今年リリースされたアルバムはそれらの楽曲に新曲を加えたものだったが、そのアルバムも素晴らしかった。まあ自分は投票していないけども。

 

しかし間違いなく2018年から2019年にかけて最もクオリティの高い楽曲をコンスタントに出していたグループに思う。

 

それまではそれほどアイドルファンから評価されていなかった。エビ中の妹分としてエビ中のファンの中で一部流れている人がいたぐらい。

 

それが良い楽曲が揃ってきたことで少しづつ状況も変わった。エビ中を通らずにファンになっている人も増えてきた。人気もどんどん拡大している。去年までは不可能に思えた1000人規模でのホールライブも即日チケット完売で成功させた。

 

良い曲も揃っている。グループに勢いもある。スキルもどんどん上がってきている。

 

まだ発展途上で伸び代がある。ukkaに11月に改名しアイドルファン以外に抵抗を持たれない名前になった。だからこそ今応援していて新規も入りやすくて楽しいと思えるグループに感じる。

 

だから私は推しました。

 

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 まとめ

 

2010年代は女性アイドルブームもあり、多くのアイドルが登場した。10年前とはアイドルのコンセプトも楽曲も増えてきて音楽ファンも無視できない存在になっていると思う。

 

2019年はそんな2010年代の最後の年。この10年間においてアイドル楽曲のジャンルは幅広くなり楽曲もクオリティが上がったと思う。2019年はその集大成とも思えるほど幅広く様々なアイドルソングが生まれたと思う。

 

それでいて伸び代のあるグループや新しいことに挑戦するグループもまだまだある。

 

アイドルブームは終焉して女性アイドルは冬の時代かもしれない。今からももクロになれるグループは出てこないかもしれない。それでも未来への希望も感じるような曲やグループもある。

 

アイドルファンとしても音楽好きとしても、これからのアイドルん楽曲にも期待している。良い音楽はたくさん聴かれて欲しいし、良いアイドルは売れて欲しい。

 

だから、アイドルだからと偏見を持たずに「音楽」として触れて欲しいと思う。

  

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