2020-05-06 秋元康はアイドルソングの低音を削るけど低音が鳴っていても音質が良いアイドルソングはある 音楽の紹介 秋元康は低音を削る 秋元康の持論に「ヒット曲に大事なのは田舎の漁港のスピーカーから聞こえるかどうか」というものがある。筆者がかつて『別冊カドカワ 総力特集 秋元康』の制作を担当していた時に聞いた話だ。かつて80年代に『ザ・ベストテン』の構成作家をやっていたときに、鹿児島の漁業組合の拡声器のような小さなスピーカーで、音が割れるようなひどい音質で田原俊彦の「NINJIN娘」を聴いた。その時に「これが歌謡曲なんだ」と思った、という話。 その後もテレビなどいろいろな場所で語っているので有名なエピソードだと思うのだが、その時に秋元康がいつも“仮想敵”として語るのが低音域なのである。「スタジオではミュージシャンやディレクターから『このベース、格好いいでしょ』と言われる。確かにJBLのいいスピーカーで聴いたら『お、いいね』となるけど、あの漁港のスピーカーからは聴こえない。だから『いいから、一番小さなラジカセを持ってきてくれ』と僕は言うんです」――てな具合に話が続く。 (引用:乃木坂46の新曲にみる、秋元康の“仮想敵”とは? サウンドの特徴から分析 ) 秋元康の音へ対する持論が書かれている記事を見つけた。2016年の記事なので秋元康も考え方や価値観が変わっているかもしれないが、この話には納得した。 48Gや坂道Gの曲を聴くと、不自然なぐらいに低音が削られていることが多いからだ。 アイドルは音楽のジャンルではない。形態による分類なので、音楽性は様々だ。同じグループでもジャンルが違う音楽をやっていることも多い。例えば乃木坂46でもEDMもロックもR&Bもポップスもある。 そのため必ずしも低音が響いていれば良いとは言い切れないが『シンクロニシティ 』のようなEDM要素を加えた4つ打ちのダンスミュージックでも『転がった鐘を鳴らせ!!』のロックナンバーでも低音は削られている。それはEDMやロックでは珍しい。 シンクロニシティ乃木坂46J-Pop¥255provided courtesy of iTunes 転がった鐘を鳴らせ!乃木坂46J-Pop¥255provided courtesy of iTunes 思い返すと秋元康が関連するアイドルだけでなく、多くの女性アイドルが低音を削っているようにも思う。AKBや乃木坂などを参考にしたのかもしれない。それが売れるための定石かもしれない。歌が前面に出てくるので、歌声は印象に残りやすくなる。 個人的にAKBGや坂道Gも好きではあるが、音色に関しては低音がしっかり鳴っている方が好きだ。聴く環境によっても感じ方は変わるととは思うが、個人的に「低音が良い感じのアイドルソング」だと思う曲をいくつか紹介したい。 でんぱ組.inc『生でんぱ』 生でんぱ でんぱ組.inc J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 作詞:岩下優介(ニガミ17才) 作曲・編曲:ニガミ17才 ニガミ17才による作詞作曲編曲。最初から最後までベース音が印象的になっている。 メロディを奏でるようなベースライン。イヤホンだとより低音が気持ちよく聴こえるかと思う。演奏もニガミ17才。 PassCode『Seize the day!!』 Seize the day!! PassCode ロック ¥255 provided courtesy of iTunes 作詞: 法橋昂広 作曲・編曲:平地孝次 今のピコリーモやスクリーモの楽曲が多いPassCodeとしては珍しいギターロック。活動初期の代表曲でライブ定番曲でもあった。 最初から最後まで低音が響いていて心地良いが、特にAメロのベース音は魅力的だ。 Negicco『アイドルばかり聴かないで』 アイドルばかり聴かないで Negicco J-Pop ¥204 provided courtesy of iTunes 作詞・作曲・編曲:小西康陽 ピチカートファイブの小西泰治が作曲編曲をしているからか渋谷系の匂いを感じる。 そのためか音作りが丁寧。ポップで華やかさを感じる編曲だが、終始ゴリゴリのベースが鳴っている。ポップなアイドルソングの中ではベースが前面に出ている楽曲に思う。 虹のコンキスタドール『トライアングル・ドリーマー』 トライアングル・ドリーマー 虹のコンキスタドール J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 作詞・作曲・編曲:村カワ基成 AKB48の『ポニーテールとシュシュ』のような王道アイドルソングらしさを感じるメロディや曲構成。 しかし秋元康関連グループと違い、太いベースの音が聴こえる。そのため王道アイドルソングとしては歌よりも演奏が耳に残りやすい音になっている。 Task have Fun『3WD』 3WD Task have Fun J-Pop ¥255 provided courtesy of iTune 作詞・作曲・編曲:GUCCHO 重低音が響くバンドサウンド。音の配置にも気を使っているように思う。イントロではエレキギターが左右交互に大きさが変わる。そのため音が立体的に感じる。 そして低音もしっかり鳴っおり、音の配置は一定の位置で安定している。演奏を支える役割をしっかり担っているベースが魅力的。 CY8ER『サマー』 サマー CY8ER エレクトロニック ¥255 provided courtesy of iTunes 作詞:Yunomi 作曲・編曲:Yunomi/KOTONOHOUSE この曲は全く低音がなっていない部分も多い。音数が少なく最小限の洗練された音を必要箇所に必要なだけ配置して楽曲が構成されている。 そのため低音部分も最適な位置に配置されているし、気持ちよく聴こえるように工夫されている。 桜エビ〜ず(ukka)『グラジェネ』 グラジェネ 桜エビ~ず J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 作詞:杉浦英治 作曲:太田晴之 編曲:高野勲 編曲はGRAPEVINEのサポートキーボードでも有名な高野勲。 Aメロでゆるいラップパートがあるが、その部分のベース音とドラムの音の響きが良い。サビでも目立たない程度に支えている。曲全体でしっかり低音をならしつつも、低音部分が目立つ部分も作っている楽曲。 低音が鳴らないとダメなのか? 低音が鳴っていなければダメなわけではない。 逆に低音が強すぎて魅力が半減する楽曲も存在する。秋元康も売れるかどうかも含めた「音楽へのこだわり」の結果として低音を削るという判断をしているのだと思う。 秋元康の関わっているアイドルソングは、ラジオで聴いてもCDを高価なヘッドフォンで聴いても、まるで小さなラジカセで聴いているような感覚になる。どのような環境で聴いても「田舎の漁港のスピーカー」から聴いても成立する音楽にしているのだ。 低音はなっていないので音はひらべったく感じる。それぞれの楽器の音も綺麗には分離していないので聞き分けしづらい。全体的にのっぺりとしている。その代わり歌は聞き取りやすく耳に残る。 それはヒットを出すための戦略でもあるが、秋元康のこだわりであり、作る音の個性にもなっている。実際に真似をしてサウンドを作っているアイドルグループもいる。その音響が好きな人もいるはずだ。だから「悪い音」ではないとは思う。 ただ「秋元康が低音を削っているなら真似すればいいのか」と思ってサウンドを作っているアーティストやアイドルがいるのだとしたら、それは悪い音だ。 秋元康は自身の確固たる考えがある上でやっていることなのでこだわりがある。その表面上の部分だけ真似することは、こだわりではなく手抜きだ。 アイドルだとしてもこだわりを持って音楽を作って欲しいと思う。 ↓関連記事↓