オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

それでも世界が続くならというバンドについて

それでも世界が続くなら

 

売れるようなバンドではないと思う。

 

マイノリティなことをテーマに歌っているからだ。でも世の中に必要なバンドだとも思う。彼らの音楽を求める人も世の中にはいるのだと思う。

 

『それでも世界が続くなら』という名前のバンドの話だ。

 

不思議なバンドだと思う。演奏はゴリゴリのグランジロック。時にはシューゲイザーのようなサウンドにもなる。耳を劈くような演奏をすることもある。でもロックの衝動を感じて、聴いてテンションが上がるわけではない。なぜか優しい音楽に感じる。

 

テンションが上がるのではなく、聴いていて気持ちが落ち着く。すっと気持ちが楽になる。じっと演奏と歌声に集中して聴いてしまう。

 

綺麗事のない歌詞だ。かといって汚いことを言っているわけでもない。

 

言葉を真っ直ぐ伝えてくる。「こういう歌詞がウケそう」「こういう曲が盛り上がりそう」とか考えていないような音楽。作詞作曲をしている篠塚将行の言いたいことを、そのまま歌っているように思う。

 

だから万人に好かれる音楽ではないのかもしれない。あまりにも真っ直ぐすぎる音楽なので批判する人もいた。響かない人には全く響かない音楽なのかもしれない。

 

音楽好きの”みんな”ではなく、それせかの音楽を求めている”あなた”に向けて歌っているように聴こえる。いや、誰かのためではなく、歌っている本人が自分のために音楽をやっているのかもしれない。だから好みに合わない人がいることは仕方がない。

 

しかし届くべき人にもまだ届ききっていないようにも感じる。それでも世界が続くならの音楽が必要な人でも、バンドの存在を知らない人は多いように感じる。

 

万人に受ける音楽ではないかもしれない。だからこの記事を読んでも得るものはないかもしれない。でも、もしかしたら、あなたはこのバンドの音楽が必要な人かもしれない。

 

だから試しに聴いてほしいと思う。

 

『水色の反撃』

 

 

『水色の反撃』という曲を自分は何度も聴いた。イントロのギターで耳を奪われた。歌い出した瞬間に心を持ってかれた。

 

「復讐してやるんだ」 君が笑って絵を描く
そんなの意味なんかないけど 君が笑うのは嬉しかった

 

手首にはたくさんの傷 その数だけ誰かを許したの?
パレットにはたくさんの水色 君が一番 嫌いな色

 

今日も君が こうして生きてる
それが僕は嬉しくて 痛いよ
君が生きることは 君が笑うことは 反撃みたいだな

 

今日も君が 泣かないで生きてる
それが僕は悔しくて 泣くんだよ
完璧じゃなくていいよ そんなのどこにもないんだよ
でも 君は生きてる

(それでも世界が続くなら / 水色の反撃)

 

「復讐してやるんだ」という言葉から始まる歌。絶望的な歌詞と思う人もいるかもしれない。歌詞の内容に引いてしまうかもしれない。でも自分は優しい歌だと思う。

 

「生きてくれ」「元気を出せ」「負けるな」

 

そんな安っぽい言葉で励ましたりはしない。ただ〈君は生きてる〉と存在を肯定してくれる。 認めてくれる。だから優しい歌だと思った。

 

自分は手首を切ったこともない。嫌いな奴もムカつく奴もいたけど「復讐してやるんだ」と思うほど恨んだことは殆どない。それは音楽があったからかもしれない。自分が学生だった頃にそれせかは活動していなかったが、他の音楽を聴くことによって心をの平常を保てていたのかもしれない。

 

君が生きることは 君が笑うことは 反撃じゃなくていい

 

後半ではこのように歌われる。自分は「反撃じゃなくていい」と気づけたタイミングがどこかであったのだと思う。だから『水色の反撃』の主人公と同じ状況でなくとも、この歌が心に響いた。自分のことを認めてくれたような気がして、何度も聴いた。

 

 

『晴れた日の教室』

 

 

ロッカーに死ねとかかれるようなことした覚えがない

誰かを傷つけないように気にしてたのにな

(それでも世界が続くなら / 晴れた日の教室)

 

まるで手記のような歌詞。具体的すぎるぐらいに状況を説明する歌詞。同じようなことを体験したり、同じような気持ちの人もいるかもしれない。もしかしたら聴くことでトラウマを思い出したり、傷ついてしまう人もいるかもしれない。

 

この歌も励ましたり応援するわけでもない。救いがある歌でもない。でも寄り添ってくれる曲だと思う。

 

だったらあいつらと違う方法で

殴り返してやればいいだろう

うるさいな もうどうでもいいよ

お前が死ねよと また思ってしまう

晴れた日の教室

 

このフレーズで曲が終わる。

 

〈お前が死ねよとまた思ってしまう〉気持ちを否定しない。肯定しているわけでもないが、その気持ちは受け入れてくれる。もしかしたら聴いていて辛い思いをするかもしれないが、この楽曲が大切な曲に思う人もいるのだと思う。

 

 

RE:僕がバンドを辞めない理由

 

学生や若者が主人公の曲が多い。しかし自分たちのことを歌っている楽曲もある。『RE:僕がバンドを辞めない理由』は彼らにしか演奏し歌えない音楽に思う。

 

 

さよならだけが人生さ 孤独だけが僕らの友達さ

そんなことあるはずないだろって

君を否定するために僕は来たんだよ

 

さよならだけが人生でも 孤独だけが僕らの友達でも

今 君と俺が話すそれだけが この世界への反撃

(それでも世界が続くなら / RE:僕がバンドを辞めない理由)

 

 自分は本気でバンドをやったことがない。学生の頃に趣味で適当にやっていたことはあるが、すぐに辞めてしまった。バンドを辞める理由があっても、辞めない理由がなかった人間だ。

 

でも歌の内容が心に刺さる。嘘偽りない言葉に思えたからだ。

 

〈君を否定するために僕は来たんだよ〉という言葉が印象的だ。これは突き放しているわけではない。むしろ味方でいようとしている。孤独な君の味方でいようとしている。

 

薄々気づいてはいたが、自分も少しだけマイノリティな人間かもしれない。だから『RE:僕がバンドを辞めない理由』が響いてしまうのかもしれない。

 

それでも世界が続くならの音楽は「頑張れ」「前を向こう」というありきたりな言葉では希望を感じない人のための音楽に思う。そのような人はきっとマイノリティなのかもしれない。そんなマイノリティな人の気持ちや感性を認めてくれる音楽に思う。

 

 

有料の無観客ライブ配信

 

2020年3月29日現在、新型コロナウイルス「COVID-19」が蔓延している。

 

日々感染者は増え続けている。外出の自粛を命じられたり、コンサートやスポーツなどのイベントには自粛要請が出されている。自粛要請を受けてほとんどのイベントが延期や中止を発表した。

 

もちろん他の業種にも大きな影響が出ているが、イベント業界は特に大きな損害を受けている業界の一つに思う。感染症は保険適用外の場合が多いため、大規模なイベントの場合数億円の損害が出ることもある。小さなライブハウスでも一回公演がなくなるだけで数十万円の損害が出る場合も珍しくない。

 

ライブハウスはワイドショーやニュースで、名指しで批判されていた。

 

実際にライブハウスの客に感染者がいたことは事実ではあるが、感染者が出たのはライブハウスだけではない。ライブハウスや音楽に関わった仕事をしている人たちへの風評被害もある。「ライブハウス」に行ったことがある人は世間的には少ないのだろう。いまだに印象が悪い場所なのかもしれない。だからメディアも「ネタ」にして取り上げやすいのだろう。

 

きっとライブハウスに音楽を聴きに行く人はマイノリティなのだ。

 

 

 それでも世界が続くならが3月29日20時から無観客ライブの配信を行う。無料ではなく有料。リアルタイムで観ることができなくとも、アーカイブが残るので後からでも観ることができる。

 

配信なら、不安な君が来場する必要はないし、僕の少ない売上でも、少しでもお店に入れられたら、バイトの子の時給になったりそのお店やレコード会社が音楽を作ったりできる。小規模だけど、僕が最初に出来ることはこれかな、って思ってます。

 

ここまで書いたけど、正直わかんない。

 

わかんないから、とりあえず、

僕は一人で、3/29、有料配信やってみます・

 

チケット?は600円。

売上はライブハウスにいれます。

 

見てほしいけどぼくの音楽が好きじゃない人もいっぱいいいるだろうし、有料だから見なくてもよくて、ただ「有料配信するやついるよ」て流れを手伝えたら嬉しいから、このツイートを拡散してくれるだけでも僕もライブハウスも嬉しいです。

 

 ボーカルの篠塚将行はこのように語っている。

 

ライブの中止によって無観客ライブも無料配信は増えた。それはファンへのサービスでファンとしては嬉しいが、アーティストにとっては損失を増やすことになる。

 

ceroなど有料配信を行なったアーティストもいるが、まだ有料配信は少ない。配信にお金を出すことに抵抗がある人も多いのかもしれない。「配信にお金を出す」ということはまだマイノリティなことだ。

 

マイノリティなバンドがマイノリティなことをやって、ライブハウスを救おうとしている。収益は全額会場のライブハウスに寄付するそうだ。

 

本人はボランティアで歌うということだろうか。自分だってライブがなくなって収入が減っているはずなのに。厳しい状況でも音楽で生活している人たちが生きていくための手段を探して作ろうとしている。

 

有料配信のチケットは下のリンクから購入することができる。

 

 

それでも世界が続くならの音楽はマイノリティかもしれない。でも必要としている全ての人にも届いていないような気もする。もしもこの記事を読んで興味を持った人や、何か感じるものがあった人は、一度しっかり聴いてみてほしい。そして有料ではあるが配信も観て欲しい。

 

いつも通り観客を入れたライブができない現状ではあるが、 それでも世界が続くなら、音楽は鳴り止まないし、音楽は人の心を動かし続ける。