オトニッチ

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有安杏果を嫌いにならないで

有安杏果さん、あなたを嫌いになりました

ももいろクローバーZの有安杏果の脱退について書かれたファンのブログが話題になっていた。「有安杏果さん、あなたを嫌いになりました」というタイトル。

 

個人的に意外だったことは、ももクロファンがこのブログの内容に共感している人が多いこと。自分はももクロは好きでアルバムは全て聞いているし、ライブも何度か観たことがある。しかし、熱狂的ファンというわけではない。だからずっと追いかけているファンと比べると温度差があるからかもしれないが、共感はできなかった。

 

むしろ、このブログの内容からは気持ち悪さと恐怖を感じた。

 

ブラック企業の経営者が辞める社員を精神的に追い込む時のような、厳しすぎる体育会系の部活が辞める部員を批判しているような、そんな気持ち悪さ。相手を認めているようで、実は人間扱いしていなく、自分の都合の良いように動かないのならば叩きのめすかのような恐ろしさ。

 

筆者のhisayonara氏はももクロのことを好きなのだとは思う。その想いは伝わる。でも、どうしてもアイドルに対して求めすぎているようにも感じるし、有安杏果に対して、何があってもファンのためにももクロを続けろと言っているようにも感じる。

 

文章の上手さ

hisayonara氏、読ませる文章を書く。長文でも読みやすいし、わかりやすい。そのため、違う考えを持っていた人でも流されて共感してしまった部分もあるかもしれない。

 

タイトルの付け方も上手い。「嫌いになりました」というフレーズは過激でインパクトがあり、過去は好きだったけど今は嫌いになったということもひと目でわかる。読者はタイトルで無意識にその理由が気になってしまう。どれだけ嫌いになったかを「有安杏果さん」と敬称をつけたり、他人行儀な「あなた」という言葉をタイトルに付けることで表している。心の距離の離れ方を表現する方法が上手い。

 

本文も前半で「有安さんのファンは読まないでください」と書きつつも、すぐに太字の赤字でタイトルでもある「有安杏果さん、あなたを嫌いになりました」と書かれてある。こんな流れだと有安推しも怖いもの見たさで読んでしまう。

 

そして読者への共感の求め方も上手い。全員に共感を求めているわけめはなく「ももクロを本当に好きな人なら共感できるよね?」という書き方。

 

Chanやライブの裏側を見てきた人は皆どこかで分かってたんじゃないかなって思います。

 

このように。この書き方によって読者は無意識に「ももクロが大好きな自分はこれに共感しなければならない」と思うのではないだろうか。

 

そして、その後は筆者の憶測を事実と捉えることができるような書き方でミスリードを誘っている。

 

4人は有安をハブってたわけじゃなく、有安が一人いつも意図的に輪から外れてたってこと。
そして、みんなが有安を気遣っていて、なんとかなっていたこと。

有安にとっては卒業なのかもしれない。
でも、ももクロから、モノノフから見たらやっぱり「脱落」でしかない。

 

例えば上記のようにだ。hisayonara氏の憶測を断定形式で書かれてあるために、無意識に事実だと誤認してしまうのではと思う。憶測の内容が文章の運び方によって必要以上の説得力が生まれている。

 

冷静に読んでいた人に「それは事実ではない」と突っ込まれないように、断定する書き方をした後、最後の一文に「私はそう思います」と付け加え、これは自分の憶測や感想だと逃げる隙も作っている。

 

思わず読み進めたくなるような工夫や、思わず共感してしまうような表現がされている。タイトルも文章もバズることを計算して書いたかのようだ。多くのアクセスがあるブログを書く人にはこのような文章の書き方をする人が多いし、ネット記事のライターにはこういう書き方をする人が多い。自分もバズりたくてこういう小細工した文章書こうと試みることあるし。感情のままに書いているようできちんと文章もまとまっている。

 

もしかしたら筆者は他のどこかでブログを書いたりライターとして活動をしているのかもしれない。文章がかなり上手いもん。

 

居酒屋の店員が辞めるのと同じ 

アイドルなんて職業のひとつにすぎないのだから、自分が辞めたくなったら辞めれば良いと思う。

 

このように思うのは自分が少し冷めているだけかもしれないし、自分が好きなアイドルやバンドの解散や脱退はもちろん、好きなバンドマンやアイドルの死までも経験したこともあるからかもしれない。辞めたくなったら辞めて本人が幸せだと思う生活をすれば良いと思っている。

 

例えば、行きつけの居酒屋で愛想の良い店員さんがいて、その人がお店を辞めるとしよう。その店員に常連客が「他の働いてる従業員が可愛そうだろ!裏切り者!客のことをもっと考えろ!」と辞める従業員に言っても居酒屋の従業員にどれだけ多くのものを求めているのだと思われるだけだ。

 

居酒屋の店員と同じように、アイドルグループは軍隊ではないし牢獄でもない。辞めたくなったら他の職業と同じように辞めれば良いと思う。ファンはアイドルの発売するCDやライブチケットなどを買ってその対価として楽曲やパフォーマンスを楽しんでいただけの〝客〟にすぎない。ただのビジネスの関係だ。

 

居酒屋でも仕事ができる従業員が辞めれば店舗の運営に影響は出てくるだろう。それでも他の従業員で接客や商品のクオリティが下がらないように試行錯誤をするはずだ。アイドルグループも他の職業以上に個々の能力が重要にはなってくるが同じではと思う。メンバーが辞めてもグループ自体は継続して他のメンバーで続けるのならば。

 

それが気に入らないのならば常連だった居酒屋に行くことをい辞めればいいし、アイドルをもう応援できないのならば離れれば良い。辞めた従業員の文句を言って居酒屋に通い続けるよりも、辞めたメンバーを批判してグループを応援するよりも、他の美味い店や他の楽しいアイドルを探した方が有意義に時間を使えるのではと思う。

 

普通の女の子になりたいという言葉の重み

「普通の女の子の生活を送りたいという想いが強くなり、わがままを受け入れてもらいました。」

 

有安杏果の卒業理由としてブログに書かれていた言葉。この言葉に対して「軽い」と思う人もいるようだ。この程度の理由で辞めるのかと思うファンもいるようだ。しかし、「普通になりたい」という言葉はとても重い言葉で様々な想いや覚悟が詰まっているのではと思う。

 

「じゃあ、そのあなたの隣に並ぶ4人は「普通の女の子」じゃないってこと?」

  

ブログの筆者であるhisayonara氏はこのように書いているが、有安杏果を含め、ももクロのメンバーは「普通の女の子」ではなく、スーパーアイドルだ。

 

有安杏果の言う「普通の女の子」 とはその人の性格や人間性などの内面の話ではないと思う。立場や生活の話ではないだろうか。有安杏果のブログでは「まずは規則正しい生活をしてゆっくりとした日々を過ごしたいと思います。」と書かれている。世間の多くの人が過ごしているような生活をおくりたいのかもしれない。

 

内面は同世代の他の女の子と同じでも、アイドルとしてテレビやCMにも出演して数万人規模の会場を売り切ってライブをするアイドルを、立場としては普通とは言えない。

 

有安杏果が「普通になりたい」と言うことはとても重い言葉だ。0歳から芸能界にいる有安杏果は、本人も自分がももクロや芸能人を辞めるという事が、どれほど大きな影響があるかは理解しているだろう。自分が働くことで収入を得ているスタッフや関係者がいることも理解しているはずだ。他のメンバーにも迷惑をかけたり悪影響があるかもしれないこともファン以上に理解しているだろう。

 

それでも自分の意思を貫こうとすることはとても勇気がいることだと思う。もしかしたら自分の気持ちを押し殺してももクロを続ける選択をした方が、視点を変えて見ると楽だったのかもしれない。

 

「続ける方が大変で立派なこと」と思われがちだが、そんなことはない。続けるにしろ辞めるにしろ、どちらも大変なことだし勇気も覚悟もいることだ。

 

他人のことを100%理解することは不可能

やりたいことがないって、結婚するわけでも妊娠でもなくて、それだけでやめるって、つまりは「もうももクロはどうでもいい」って思ったってことなんだから。

 

hisayonara氏はこのように書いているが、これも筆者の思い込みではと思う。自分も有安杏果の本心はわからないが、ブログでこのように語っている。

 

「何も予定のない日々を人生で一度くらい過ごしてみたいなと思ってます。」

 

有安杏果のやりたいことは「何も予定のない日々を過ごす」ことなのだ。しっかりとやりたいことを語っている。そして、ももクロをどうでも良いと思ったわけではなく、本人がももクロ以上に自分自身のことを大切にしようと考えた結果が、グループを辞めて普通の日々を過ごすことだったのではと思う。

 

本人が出した結論にファンが「その程度の理由」と判断はできないのではと思う。


日本のトップクラスの人気のアイドルである有安杏果がももクロを辞めてまで手に入れたいことが「普通の女の子の生活」と言っても理解することが難しいことかもしれない。〝普通〟の生活過ごしている世の中の多くの人は、有安杏果と立場も考え方も歩んできた人生も全く違うのだから。

 

家族や友人や恋人だとしても、他人の考えや気持ちを100%理解することは不可能だ。自分の親の気持ちを100%理解できるかといったら自信はないし、自分の親が自分のことを100%理解してくれていると思う人も少ないのではと思う。アイドルとファンの関係ならば、さらに理解は難しいだろう。〝アイドル〟という職業のフィルターを通した姿でしかファンは判断できないわけだし。

 

そして、10代から20代前半の8年間の間にすごしたグループを辞める際に、ブログや少ないテレビ出演の時間ですべての想いを伝えることもできないと思う。それは最後のライブでのMCでもそうだと思う。簡単に伝えられる想いでもないから誤解されることもあれば、伝わり切らないのかもしれない。

 

有安杏果はなぜファンに叩かれるのか

有安杏果の脱退に関して、本人への批判をするファンや、モヤモヤを感じるファンも少なくはないように思う。

 

それは、様々な理由があるとは思う。発表から脱退までの期間も短かったのでファンも受け入れるまでの心の余裕がなかったのだとは思う。有安杏果もそれほど気持ちを言葉にすることが得意というわけではないように思うので、勘違いされやすい部分もあるのかもしれない。

 

有安杏果に対して攻撃的な発言をしていたり、モヤモヤを感じたいるファンは〝自分が大好きで応援していたももクロの姿〟を壊されることが許せなかったのではと思う。

 

ももクロは5人になってから爆発的に売れた。6人の頃からも注目はされてはいたが、5人になってからの人気の加速度は凄まじかったし、今のファンも5人になってからのファンが多いだろう。

 

多くの人が5人のももクロが大好きだったんだと思う。5人のももクロが永遠に続くと思っていたのだと思う。有安杏果も言っていたように「奇跡の5人」と評価されることは多かったし、その通りだとは思う。

 

それが、有安杏果が辞める事で5人ではなくなってしまう。それも10周年という特別な年の始まりに。メンバーである有安杏果によって〝自分の好きなももクロ〟が壊されてしまう。

 

もしかしたら、ももクロのことをグループとして心から好きだった人や、アイドルとして心から好きだった人ほど、モヤモヤを感じたり失望したのかもしれない。その結果有安杏果を「脱落者」と表現したり「裏切り」と表現してしまっている人もいるのかもしれない。hisayonara氏もブログ内で下記のように書いている。

 

有安にとっては卒業なのかもしれない。
でも、ももクロから、モノノフから見たらやっぱり「脱落」でしかない。

ショックだったの。私より先に杏果がももクロを捨てたから。
裏切られて嫌いになるなんて小学生みたいだけど、今は小学生みたいな気持ちにしかなれない。あれだけ許せる4人の大人っぷりに改めて驚くくらい。

 

 アイドルは夢を見せる職業で幻想を見せる職業なので、自分の思い描いていた理想をアイドル本人に壊されたら失望するのかもしれない。辞め方に関してもタイミングや理由も含めてファンの思い通りになってほしいと思っているのかもしれない。hisayonara氏が下記のように書いているみたいに。

 

あかりんは辞めるときに「私はもうももクロは出来ない」といった。
「私はアイドルに向いてない」って。彼女の率直な心の叫びだった。
私は、有安にも、素直にそう言ってほしかった。
「普通の女の子になりたい」とか、そんな、(上手く言えないけど)4人を揺るがせるようなこと、言わないでほしかった。
ただ、たったひとこと、「もうできない。」と言ってほしかった。

 

でも、アイドルも人間なのだ。”普通の女の子の生活”は過ごしていないかもしれないが、中身は普通の人間なのだ。アイドルは商品でもあるが、それは「アイドル」として仕事をしている間だけであり、どんな商品でも販売が休止されたり、販売が終了することもある。それに有安杏果は発言などは少し不器用だったかもしれないけども、本人なりに最後までアイドルとして仕事を全うしていたように感じる。

 

有安杏果は犯罪を犯すわけでも倫理的に悪いことをしているわけでもないし、事務所との契約違反になることをしたわけでもない。ファンは切なかったり悲しかったりしても、一人の人間として意思を尊重してあげるべきなのかとも思う。だから、ももクロを辞める選択をしたとしても、嫌いにはならないで欲しい。

 

アイドルグループはいつかは脱退するメンバーが出てきてしまうものなのだよ。ももクロはその常識もぶち壊しそうな雰囲気があったから、ファンも受け止めきれない人がいるのかもしれないけども。でも、もう決まったことだし、他の4人も有安杏果も既に前を向いているし、先を見ているよ。

 

 許せないこと

hisayonara氏はももクロをアイドルグループとして心から好きなのだとは思う。それは伝わってくる。アイドルグループとして好きだからこそ自分の理想通りの姿でなくなることが許せないのかなとも思う。でも、好きすぎて多くを求めすぎているのではとも思ってしまう。日本トップクラスの人気アイドル相手だとしても。そして、そのことを本人も理解しているのではと思う。そのうえでブログを書いたのかなとも思う。

 

hisayonara氏がこのようなブログを書いて投稿したことはとても勇気のいる行動だと思う。メンバーや他のファンを傷つけてしまうような言葉が多く書かれている。有安本人に読まれてしまうことも想定していると思う。ファンならばメンバーがエゴサーチをすることも知っているだろう。特に有安杏果がエゴサを熱心にすることは知っているはずだ。

 

だからブログの冒頭でも「この汚い気持ち」「クソオタク」「内容の酷さ」「性格の悪い」など自信を卑下するような言葉がつづられているのかなとも思う。文章に興味を持たせるためのテクニックかもしれないけどそれでも、どうしても誰かに伝えたい気持ちを抑えられなかったのだと思う。

 

人を批判することは本来はしてはいけないことだ。するならば自分も同じぐらい批判される覚悟や傷つく覚悟も必要だ。hisayonara氏もそれを覚悟したうえでどうしても伝えたかったのだと思う。自分の記事の内容もhisayonara氏やそれに賛同するファンを否定するような言葉を書いていると思う。自分に対して批判が来ることもあると思っている。それでも伝えたいと思ったので書いた。hisayonara氏や今回の有安の脱退で失望しているファンに、有安杏果を嫌いになる人がいるということを残念に思うので。熱狂的なファンほどそう思うのかもしれないけども、有安が不憫にも思うので。

 

あと、どうしても許せないことがある。hisayonara氏の記事に対して、TwitterなどのSNSで「自分の気持ちを代弁してくれている」「共感です」と一言だけ付け加えてツイートしていた人たちのことだ。

 

hisayonara氏は勇気を持ってブログを投稿したと思う。それに「自分も同意見です」というような一言を付け加えるだけでツイートすることは、自分が批判され傷つかないための”逃げ”にも感じる。ずるいんじゃないのとも思う。

 

人を批判するなら自分の言葉で語れよ。その程度の覚悟は持てよ。

 

と思うわけです。

 

ちなみに、個人的にはアイドルには本人が選んだ結論ならば、ファンやメンバーや関係者のことなんて二の次で自分の意思を尊重してほしいとは思う。どのような理由だとしても。続けたければ続ければいいし、辞めたければ辞めればいいと思う。アイドルに限らず、すべての人に当てはまることではあるけども、みんな健康に元気に幸せに生きてくれればそれでいいよ。本当に。