オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

ZOCの「孤独を孤立させない」というコンセプトの実現は不可能に近いと思う

ZOCについて

 

 

ZOCを好きすぎてアンチになってしまったという人の書いた文章を読んだ。

 

「孤独を孤立させない」というコンセプトで活動していたのに、活動内容とメンバーの言動や行動がそれと不一致していることに苦しさを感じた元ファンで現アンチの話。

 

もしかしたら同じような気持ちのZOCファン、ZOCアンチの人が多いのかもしれない。Twitter経由で自分は見つけて読んだのだが、この記事の投稿者の投稿ツイートは850RT、4000いいねを超えている。

 

これはZOCだけでなく、他のアイドルやアーティストでもありえることだ。

 

例えばシンガーソングライターが歌のメッセージとは違うことをSNSで発言していたり、ステージで熱いメッセージを送っていたバンドマンが裏では酷い発言をしていたりなど。アイドル以外でもありえる話である。

 

ZOCの場合は諸々の噂や不祥事も理由でファンが離れたり批判されている部分が大きいとは思うが、それに加えてグループのコンセプトからかけ離れているメンバーのSNSでの発言や活動内容、運営の対応も理由の1つだと感じる。

 

しかしだ。

 

そもそも「孤独を孤立させない」というコンセプトは不可能に近いのだ。このコンセプトはアイドルとしては無謀で、過去のアイドルが誰も目指さなかったタイプのコンセプトに思う。良くも悪くもファンが期待しすぎてしまった部分があるかもしれない。

 

※この記事では諸々のトラブルや噂、不祥事の内容には触れない記事です。何が真実でどこまでが真実かもわからないので。

 

アイドルのコンセプト

 

アイドルのコンセプトとして最も有名なのはAKB48の「会いに行けるアイドル」だ。

 

専用劇場を作ってライブを高頻度で行い、大規模な握手会や写真撮影会を行っている。「テレビやコンサート会場でしか会えない」という従来のアイドルとは違う距離感の近いアイドルを目指す活動内容で、その活動内容を説明したようなコンセプトだ。

 

それは活動初期から実行し実現できており、人気が上昇し頻繁にテレビに出るようになっても劇場公演や握手会も続けてコンセプトを守り続けている。

 

ももいろクローバーZは「週末ヒロイン」「いま会えるアイドル」をコンセプトとしていた。

 

活動当初は土日を中心に活動し全国の電気店をドサ回りしてCDを手売りしたりと、コンセプト通りの活動を行っていた。こちらも活動内容を一言で表したようなコンセプトになっている。

 

この二組は「活動方法」や「活動内容」についてをコンセプトとして実現した。

 

ライブや握手会を頻繁に行い会える機会が多いから「会いに行けるアイドル」であり、土日をメインに活動し全国をドサ回りしたから「週末ヒロイン」であり「いま会えるアイドル」なのだ。

 

これは実現することは難しくはない。マクドナルドが「安価で早くハンバーガを作りますよ。テイクアウトもできましょ」と言っているようなものだ。活動内容やマーケティングを徹底的に考え、それを実現する活動をすればいいからだ。

 

「活動方法」ではない部分をコンセプトにするアイドルもいる。

 

例えば乃木坂46は当初「AKB48の公式ライバル」というコンセプトで活動していた。フレンチポップを取り入れた音楽性であったり、専用劇場を持たずに活動したりと、AKBとは違う内容の音楽と活動をしている。

 

第一期BiSは「新生アイドル研究会」と称して「アイドルを研究して、アイドルになろうとする、アイドルになりたいグループ」をコンセプトとしていた。そのためアイドルの体をとりながらも、世間が想像するアイドル活動とはかけ離れた破天荒な活動をしていた。それが個性となり多くの人に衝撃をを与えていた。

 

この二組はコンセプトが実現できているか判別が難しい。抽象的な内容だからだ。

 

活動指針といよりも「アイドルのドラマ」を作るためのキャッチコピー的なコンセプトである。タワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE」みたいなものだ。

 

つまりそのコンセプトを掲げてアイドルが魅力的になったり、アイドルのドラマとして面白くなり応援したいと思えるならば、実現できなくても全く問題ない。そもそも実現できているかの判別が難しい。

 

ZOCも「アイドルのドラマ」を作るコンセプトに近いとは思う。しかし乃木坂46ともBiSとも根本の部分が違う。

 

 

ZOCのコンセプトの実現が難しい理由

 

おそらくAKB48のコンセプトが崩れても怒るファンは少ない。

 

特にコロナ禍でライブも握手会もできない状態だと「会えないのも仕方がないこと」として納得するだろう。今のももクロも平日にライブをやってもコンセプトが崩れたと怒る人はいないはずだ。

 

乃木坂46のコンセプトは現在のファンは忘れている人も多いだろうし、BiSの活動もメンバーがあまりにも傷つく内容でなければファンは許容して楽しんでいた。

 

それはグループ自体の活動やメンバー自体の行動に影響していることだからだ。コンセプトによってファンの行動や思想を変えようとはしていない。

 

あくまで「自分たちはこういうコンセプトだから、よければ応援してください」という立場だ。

 

しかしZOCの「孤独を孤立させない」というコンセプトはそれらとは少し違う。だから実現できなければ失望するファンもいるのだと思う。

 

ZOCとは”Zone of Control”の略、ウォー・シミュレーションゲームやシミュレーションロールプレイングゲームで用いられるゲーム用語です。簡単にいえば、ゲームにおける「支配領域」の概念のことです。そこに、常に提唱している「孤独を孤立させない」の意味を持たせ、このユニットにおける「ZOC」とは"Zone Out of Control”とし、孤立しない崇高な孤独が共生する場所と定義します。ZOCは固定したり、流動的になったり、弾性的に様々な形で形成される。そしてZOCは、ZOCが影響を与え受ける全ての存在と繋がって存在します。私はZOCのプロデューサーではありません。一緒に戦い、一緒に遊ぶ、同じ心に黒い穴の空いた共犯者です。そして、わたしたちZOCの共犯者に、あなたもなってほしい

 

これはZOCの公式サイトから引用したグループのコンセプトや存在意義について説明された文章だ。

 

「ZOCは影響を与え受ける全ての存在と繋がって存在する」「共犯者に、あなたもなってほしい」と綴られている通り、ファンの内面に影響を与えようとしているようだ。

 

それはファンの内面や行動とは一線を引いている他のアイドルのコンセプトとは違う。

 

孤独を感じて生きづらいと思っている人を認めて救おうとしている。そんなコンセプトに感じる。

 

だからファンも「孤独を孤立させない」活動や行動を求めてしまう。強く期待してしまうから、失望する時も強いショックを受けてしまうのだ。

 

 

大森靖子の音楽

 

ZOCのメンバーである大森靖子は元々シンガーソングライターとして活動しており、現在もそちらの活動がメインだ。

 

彼女のソロ活動にコンセプトは存在しない。しかし結果的に「孤独を孤立させない」ことを音楽を通じて実現していると感じる。

 

大森靖子の音楽はとても優しいのだ。

 

尖った表現や過激な言葉で歌うこともある。それでも孤独を感じている人や社会からはみ出してしまった人など、心のどこかで生きづらさを感じている人に寄り添ってくれて認めてくれる音楽だ。

 

だから、とても優しい。大森靖子の音楽に救われた人も沢山いるはずだ。

 

マジックミラー

マジックミラー

  • 大森靖子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

あたしの有名は
君の孤独のためにだけ光るよ
君がつくった美しい君に
会いたいの

 

あたしのゆめは
君が蹴散らしたブサイクでボロボロのLIFEを
掻き集めて大きな鏡をつくること
君がつくった美しい日々を
歌いたい

(マジックミラー / 大森靖子)

 

『マジックミラー』のサビで大森靖子はこのように歌う。2018年に中野サンプラザで行われた弾き語りワンマンライブでは「全人類1人ひとりのことを歌いたい」と語っていた。

 

天才肌でアーティスト気質なシンガーソングライターではあるが、自身の自我について歌うことは少ない。基本的に「誰か」のことを歌っているか、「誰か」の為に作品を作り表現している。それによって誰かを救おうとしている。

 

大森靖子の活動や音楽は自然と「孤独を孤立させない」ものとなっていたし、自然とそのような音楽を目指していたように思う。

 

しかし「孤独を孤立させない」ということは簡単ではない。時間を掛けて才能を開花させ、技術と表現力を手にした結果、多くの人を音楽を使って救っているのだ。

 

珍しく自身のことを歌ったと思われるフレーズがある2013年に発表した『音楽を捨てよ、そして音楽へ』では、下記のフレーズがある。

 

音楽を捨てよ、そして音楽へ -シン・ガイアズ ver.-

音楽を捨てよ、そして音楽へ -シン・ガイアズ ver.-

  • 大森靖子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

全力でやって5年かかったし
やっとはじまったことなんだ

(音楽を捨てよ、そして音楽へ / 大森靖子

 

この曲がリリースされたのは2013年。それ以降も全力で活動をし続けているように思う。2020年の今は「全力でやって13年目」なのだ。

 

しかし大森靖子は誰もを救えた訳では無い。救えなかった人もいる。2018年のロックインジャパンフェスティバルでは、自ら命を絶ったファンの話をしていた。

 

 

全力で10年以上やっても救えない人がいた。それぐらいに人に影響を与えることも、希望を与えることも難しいのだ。

 

ZOCは2018年に結成されたグループである。まだ活動開始から2年たらずだ。そんなグループが「孤独を孤立させない」ための活動を行って実現するなんて難しすぎる。

 

 

ZOCは「孤独を孤立させない」活動が全くできていなかったのか?

 

しかしZOCはコンセプトを無視して適当に活動していたわけではない。

 

YouTubeに投稿されたMVは数百万回再生が複数ある。コロナの影響で中止になったものの、ライブもZeppクラスの会場で行える程の人気になった。

 

すでにメジャーデビューもして一定の地位を築いていた大森靖子が関わっていることで、活動当初からZOCは注目され話題になっていた。それが人気上昇の大きな理由だとは思う。しかしそれだけが理由で人気を獲得した訳では無い。

 

全ての人ではないかもしれないし、失望したファンもいるかもしれないが、確実に救われたと思っているファンもいるからこその人気だと思う。

 

今のZOCは様々なトラブルや不祥事の噂がある。卒業メンバーが出る都度にSNSは荒れていた。何が事実でどこまでが事実か不明で、不信感を持ってしまうことも仕方がない状況ではある。

 

しかしそれでも離れずに応援しているファンも少ならからずいるということは 「孤独を孤立させない」というコンセプトは完全ではないにしろ、少しだけでも結果は出せていたのではないだろうか。

 

 

失望したファンも多いかもしれない。ファン以外には色眼鏡で見られて偏見を持たれてしまう状況ではある。でも諦めていないメンバーもいる。

 

大森靖子は〈全力でやって5年かかったしやっとはじまったことなんだ〉と『音楽を捨てよ、そして音楽へ』で歌っていた。5年かかってやっとスタートラインに立てるぐらいに厳しい世界で、人に影響を与えることはそれほど難しいことなのだろう。

 

ZOCは結成2年目。全力でやったとしても、”はじまってさえいない”程度のキャリアだ。コンセプトを全然実現できないことは仕方がない。

 

その代わり、まだスタートラインにすら立てないメンバーがいるグループが全力で活動し「はじまったこと」と言えるスタートラインに立つまでの過程を応援するグループとも考えられる。それを温かい目線で見守ることも悪くはないのではと思う。

 

ZOCが「孤独を孤立させない」を掲げて活動しているのだから、ファンもメンバーの「孤独を孤立させない」ような応援方法をしてみるのはどうだろうか。

 

その時にメンバーとファンの間でより深い絆が生まれて、お互いに救いあえるのではと思う。

 

それが「孤独を孤立させない」ということかもしれない。

 

↓大森靖子の他の記事はこちら↓