オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

好きだった曲が自分の胸に刺さらなくなるタイミングについて

SHISHAMO『明日も』を聴いても、以前ほど胸に響かなくなってきた。

 

決して曲がダメだとは思っていない。むしろ名曲だと思う。大好きな曲だし、SHISHAMOのことも大好きだ。

 

昔の自分は『明日も』のイントロを聴くだけで鳥肌が立ち、サビを聴くと涙が溢れそうになる時期があった。その頃と比べると、冷静にこの曲を聴けるようになったということだ。

 

それほどまでにのめり込んでしまったのは、歌詞に理由がある。

 

月火水木金 働いた
ダメでも 毎日頑張るしかなくて
だけど金曜日が終われば大丈夫
週末は僕のヒーローに会いに行く

(SHISHAMO / 明日も)

 

この歌詞にヤラれたのだ。

 

当時の自分は仕事がめちゃくちゃ忙しく、身体的にも精神的にも余裕がない時期だった。毎日残業まみれだった。過労死ラインだった。週末に行く好きなアーティストのライブだけを楽しみに生きていた。

 

そんな自分に『明日も』の歌詞が真っすぐ刺さった。Aメロからいきなり刺さった。自分の気持ちを代弁してくれていると感じた。

 

良いことばかりじゃないからさ
痛くて泣きたい時もある
そんな時にいつも
誰よりも早く

立ち上がるヒーローに会いたくて

 

極め付きにサビはこの歌詞である。もう完全に自分のための歌である。自分への手紙にすら思える内容である。一番病んでいた時期は、宮崎朝子の顔を見るだけで泣けてくるほどだった。

 

しかし今ではそれほど響かなくなった。曲を聴いても、宮崎朝子の顔を見ても、泣くことはなくなった。SHISHAMOの名曲の一つとして、笑顔で聴けるようになった。

 

それは自分の仕事が楽になったからだ。労働時間は減ったし働き方も自由になった。『明日も』がリリースされた当初と比べると、自分の環境が良い方向に大きく変わったのだ。曲を聴いて背中を押され、環境を自ら変えたとも言える。だから冷静な視点でこの曲を聴けるようになった。

 

毎日 もう どうかしそうで
でもアイドルだって笑ってるし
ちょっとだけ どうにかしようね
毎日も手づくりだよね

(大森靖子 / ハンドメイドホーム)

 

大森靖子『ハンドメイドホーム』も、病んでいる時に救ってくれた曲だ。この歌詞が寄り添って励ましてくれた。

 

「そうだよな。アイドルだって笑ってるしな」と共感して、少しだけ心が楽になった。アイドルに興味を持つきっかけの1つが、この曲を聴いたことでもある。

 

 

 

思い返すと他にも四六時中聴いていたのに、いつしか聴く回数が減った音楽は多い。

 

例えば中学時代に延々と聴き続けていたBUMP OF CHICKENは、いつしか聴く回数が減った。

 

教室の後ろの黒板に『ダイヤモンド』の歌詞を書くほどにハマっていた。メンバーの写真と『ダンデライオン』の歌詞を組み合わせた自作画像を、ガラケーの待ち受けにしていた。黒歴史である。

 

もちろん嫌いにはなっていないし、今でもバンプの音楽を聴くことは多い。しかし思春期の心にぶっ刺さりすぎた音楽だからこそ、大人になるに連れて過去と同じ気持ちで聴けなくなった。その代わり冷静にバンプの音楽を楽しめるようになった。

 

幼少期から考えても、頻繁に聴いていたのに気づけば聴かなくなった音楽がたくさんある。

 

例えば『めざせポケモンマスター』や『ポケモン言えるかな?』は子どもの頃は狂ったように聴いて歌っていたのに、10年以上まともに聴いていない。イマクニ?は元気だろうか。

 

しかし聴く回数が減ったとしても、感じ方は変化したとしても、それらが大切な音楽であることは不動だ。自分のために「役割を全うしてくれた曲」だと思っている。

 

時として音楽は人生に影響を与えてしまうこともある。音楽があるから1歩踏み出す勇気を持てた人や、音楽の力に助けられ生きることを諦めなかった人もいる。

 

音楽をBGMとしか思っていない人には信じられないかもしれないが、音楽には物凄い力があるのだ。

 

自分も音楽によって心が救われて生活が変わった。そして「救ってくれる音楽」が「救ってくれた音楽」に変わる経験を何度もした。だから一生好きだと確信する音楽だとしても、自分の心への響き方や楽曲との関わり方は変わってしまうのだ。

 

それは昔の親友と会うような、お世話になった恩師に会うような、久々に実家の両親に会うような、そんな気持ちである。

 

そうやって音楽に救われ続けてきた。1つの曲に救われて、次は別の曲に救われて、自分の人生のステージの変化や成長とリンクして、頻繁に聴く音楽は変化していった。そして好きな音楽はどんどん増えていった。そうやって音楽と共に人生を歩んできた。

 

自分はそのような形で、音楽と一生関わり続けると思う。来年は今とは違う音楽に救われているかもしれないし、10年後も音楽によって生きる力を得ていると思う。

 

人生最後の瞬間も、何かしらの音楽を好きでいると思う。その時に自分が救われる音楽は、どのような曲だろうか。それを想像しながら歳を取るのも悪くない。

 

そんなことを考えながら、今日も何かしらの名曲に救われ背中を押される。それは今日だけでなく、明日も。

 

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