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Sexy Zone『POP × STEP!?(ポップステップ)』が名盤(アルバムレビュー・感想・評価・おすすめポイント)

これがJ-POPだと思った

 

これは簡単なようで難しいことをやってのけたアルバムに思った。

 

Sexy Zoneの7枚目のアルバム『POP × STEP!?』。

 

とことんポップでキャッチーなアルバムに感じる。J-POPド真ん中を攻めたような作品。

 

それゆえに一聴しただけでは「よくあるJ-POPのアルバム」と受け取られがちかもしれない。アイドルにたいして偏見を持っている音楽リスナーもいる。ファンでもないのに聴く必要はないも思うかもしれない。

 

でも自分はすごい作品だと思った。王道のJ-POPを突き詰めたクオリティの高い作品だと思った。

 

変わったことや個性的なことをやろうとするよりも、王道を突き詰める方が難しい。そんな難しいことをやってのけて、名盤を作り出した。

 

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「近年のJ-POPのまとめ」的なアルバムに感じた。それにSexy Zoneの色を付け加えることで他にはない個性的な作品になっている。

 

今作は様々なポップソングを『Sexy Zone』というフィルターを通して東京から発信する!をコンセプトに、過去作と比べても更に「ポップス」に言及した作品となります。
王道のポップスをはじめ、様々なジャンルのポップソングをSexy Zoneを通してオリジナルのJ-popに消化した彩りの豊かさが特徴の1枚です。

(引用:Sexy Zone Official Site|DISCOGRAPHY

 

公式サイトに書かれているアルバムコンセプトを読んで納得した。コンセプトを忠実に守っていると思ったからだ。

 

『POP × STEP!?』には様々な作曲者や作詞家が参加しているが1枚のアルバムとして綺麗にまとまっている。それは楽曲提供者にもコンセプトがしっかりと伝わっていたからだ。

 

そしてコンセプトがしっかり伝わっているからこそ、クオリティの高い作品になっているのだと思う。

 

 

 J-POPとしてバラエティ豊か

 

一言にJ-POPと言ってもジャンルは幅広い。

 

日本のヒットチャートにランクインしたり大衆に聴かれる音楽をJ-POPと呼ぶならば、ポップスもロックもR&Bもヒップホップも全てJ-POPの一部だ。

 

『POP × STEP!?』に収録されている楽曲のジャンルも幅広い。

 

『恋のモード』や『まっすぐのススメ!』のような明るい王道ポップスもあれば『タイムトラベル』や『Tokyo Hipster』ではシティポップにも挑戦している。

 

『Honey Honey』ではメロディラインやコーラスに韓流ポップスに近い雰囲気がある。『Blessed』『MELODY』『One Ability』はクールなR&Bになっている。

 

収録曲に統一感がないのだ。統一している点はSexy Zoneが歌っていることぐらい。

 

それなのに一枚のアルバムとしてまとめると、アルバムに統一感がある。

 

ヒットチャートの音楽もジャンルがバラバラなはずなのに、なぜか続けて聴くと統一感を感じる。時代や流行を表していたり、大衆の好みが反映されているからだと思う。

 

『POP × STEP!?』を聴いていると、まるでヒットチャートのJ-POPを聴いているような感覚になる。ジャンルはバラバラでもポップでキャッチーな音楽が揃っている。そこが一致している。

 

これが「様々なポップソングを『Sexy Zone』というフィルターを通して東京から発信する」ということなのかもしれない。

 

J-POPとしてのこだわり

 

気持ちよく聴くことができる工夫が、曲にも歌詞にも施されている。歌のメロディに対して言葉の乗せ方が綺麗なのだ。

 

真っ赤な太陽 黒々

大都会のジャングルをウロウロ

イカした君にメロメロ

狙う獣たちの目がギョロギョロ

危険な噂は色々

弄ばれた男はゴロゴロ

何を隠そう俺はジゴロ

 

Darling Darling Hury Hury

ばみ せっかち なもんで

Darling Darling わりぃ わりぃ

(禁断の果実)

 

『禁断の果実』はAメロとBメロで韻を踏み続けることで、歌詞が綺麗にメロディに乗っている。それによってノリのいいポップスになっている。

 

笑った 泣いた

手探 でも

全てが愛し

触れていた

(Honey Honey)

 

『Honey Honey』のBメロでは語尾の母音を「i」の音に揃えて韻を踏む部分が多く、ノリが良く聴いていて心地よい。その中でも違う母音を一部混ぜることで引っかかりを作り、楽曲の印象が耳に残るようになっている。

 

『極東DANCE』『タイムトラベル』『ダヴィンチ』でも歌詞の一部で韻を踏んでいる。それによって耳馴染みがよくなり印象に残る。結果としてキャッチーなJ-POPになる。

 

君とのラブストーリー
それは予想通

もっと違う設定 もっと違う関係
出会える世界線 選べたらよかった
もっと違う性格 もっと違う価値観
愛を伝えられたらいい そう願っても無駄だか

グッバ
君の運命のヒトは僕じゃな
辛いけど否めな でも離れ難いのさ
その髪に触れただけで 痛い いでも
甘い い

(official髭男dism / Pretender)

 

2019年最大のヒット曲であるofficial髭男dism『Pretender』。

 

この曲でも同じように母音を揃えたり韻を踏むことで心地よく聴ける仕組みになっている。これはヒットの法則の一つであり、J-POPを心地よく聴ける理由の一つでもある。

 

こういったポップスの定番でありながらも重要な部分を、しっかり押さえて楽曲が作られている。

 

「過去作と比べても更に「ポップス」に言及した作品」というコンセプトを考え抜いた結果の楽曲になっている。

  

 

新しさを感じる理由

 

『ダヴィンチ』は歪んだエレキギターが印象的なロックナンバー。ギタリストの川口進が作曲しただけあってギターの音が印象的な楽曲になっている。

 

『POP × STEP!?』には様々な楽曲が収録されているが、音楽的にロックに振り切った楽曲は『ダヴィンチ』のみだ。

 

メンバーがソロで歌い継いでサビへとつないでいく疾走感のある楽曲。ボーカリストが複数いるグループなので他の楽曲でも順番に歌ってはいる。

 

しかし『ダヴィンチ』では疾走感をたもったままバトンを繋ぐように歌い継いでいる。

 

ロックナンバーを複数人で歌い継ぐ楽曲は、近年増え始めている。

 

BiSHが小さな事務所ながらアリーナを埋めるほど頭角したのも、この歌割りが新鮮だったこともあるかと思う。

 

ツインボーカルではあるがロックチューンを繋ぐように歌う部分ではKing Gnuも同じだ。

 

tofubeatが作詞作曲した『MELODY』はダンスナンバー。

 

オートチューンによりエフェクトのかかったボーカルも近年音楽シーンで流行っていた手法の一つ。また歌メロよりも印象的なインストのリフがあることも印象的だ。

 

これはSEKAI NO OWARIやperfumeも取り入れている。アヴィーチやザ・チェインスモーカーズやビリー・アイリッシュなども海外アーティストも取り入れている手法で、世界的なトレンドとも言える。

 

 王道もしっかり抑えつつも、新しいものも取り入れている。だから面白みを感じる新しいポップスになっている。

 

 

Sexy Zoneの個性も感じる作品

 

クオリティの高いポップスが揃っているアルバムだが、Sexy Zoneが歌うからこそ魅力も引き立っているように感じる。

 

『POP × STEP!?』はボーカリストが1人だと歌えない楽曲が多い。

 

『恋のモード』『BLUE MOMENT』はAメロからBメロに移るスピードが早い。Aメロ終わりの歌唱とBメロ始まりの歌唱が少し被っているのだ。それにより楽曲の疾走感も感じるようになる。

 

これはボーカルが複数いなければ行うことができない。それでいて歌唱力が全員同じ水準でなければ違和感を感じる。

 

Sexy Zoneは全員の歌唱力が一定で全員がしっかりとした歌唱力を持っているように思う。声質は違うものの歌い方やニュアンスは全員が楽曲に合わせて歌うので近い。そのため違和感はないものの声色の違いに個性を感じる。

 

コーラスのある楽曲も多い。

 

全員が揃って歌った時の声にも個性を感じる。Sexy Zoneのメンバーが歌うことを想定していて、メンバーが歌うことで魅力が最大化される楽曲が揃っているのだ。

 

アルバムの特典CDのメンバーのソロ楽曲でもそれは感じる。ヒップホップに挑戦しているメンバーもいる。英語詞の楽曲を歌っているメンバーもいる。J-POPの幅広さを特典CDでも感じる作品になっている。

 

「様々なポップソングを『Sexy Zone』というフィルターを通して東京から発信する」というコンセプトの意味が、聴けば伝わるようになっている。

 

これは「上質なポップスが揃っているアルバム」ではなく「Sexy Zoneが歌う意味がある上質なポップスが揃っているアルバム」だ。

 

 

ファン以外には聴かれない作品かもしれない

 

『POP × STEP!?』は音楽ファンにはあまり評価されない作品かもしれない。SexyZoneのファン以外は聴かない作品かもしれない。

 

それは作品自体の出来が悪いからではない。聴いてもらう「きっかけ」が少ないからだ。

 

『POP × STEP!?』は配信ではリリースされていない。

 

ダウンロードして聴くことも、Spotifyなどの定額配信サービスで聴くこともできない。CDを購入しなければならない。

 

それが勿体無いと思う。

 

香取慎吾の『20200101』は多くの音楽ファンに聴かれて評価れた印象がある。

 

香取慎吾は今はジャニーズではない。しあしネット上では今までジャニーズやSMAPの楽曲に深く触れていなかった人たちも聴き、そのクオリティの高さに驚いていて高い評価をしていたように思う。

 

 

嵐もストリーミングで一部楽曲が配信された時は、改めて楽曲の魅力が評価されていた。

 

Sexy Zoneの『POP × STEP!?』も多くの人に聴いてもらうきっかけさえあれば、評価される作品だと思う。

 

今の音楽マニアや音楽ファンはストリーミングになければ作品自体に興味を持たない人も多い。音楽ファンが選ぶ近年の名盤は、殆どがストリーミング配信されている作品だ。

 

 ポップスのド真ん中を攻めたような作品。それでいて作り込まれていて、聴く都度に新しい発見のある作品。

 

ファン以外の人にも聴かれるべき作品だと思う。アイドルのファンアイテムとしてのCDではなく、ポップスの作品として価値があるCDだ。

 

嵐の配信解禁をきっかけに、他のジャニーズのグループも近いうちに配信がされるかもしれないが今のところは未定だ。

 

CDの販売を伸ばした方が利益はある。十分すぎるほど多くのファンがいるのかもしれない。だから配信には後ろ向きかもしれない。

 

しかしSexy Zoneの音楽を知らないだけで、気に入ってくれる人はまだまだたくさんいると思う。そのような人たちに聴いてもらいたい。

 

もしかしたらSexy Zoneのことを知らずにこの文章を最後まで読んだ人もいるかもしれない。読んでいるうちに興味を持ち始めた人もいるかもしれない。

 

そのような人はぜひCDを購入してみてほしい。ストリーミング全盛期には3000円を超えるCDを買うには抵抗があるかもしれない。

 

しかし『POP × STEP!?』はお金を出す価値のある名作だ。きっと気に入る作品になると思う。

  

 

 

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