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aikoの新曲『青空』に出てくる「ただの空」という歌詞が気になる(歌詞・レビュー・感想・評価)

主人公が見た空は、どのような空だったのか

 

青空

 

ボーッとした目の先に歪んで見えている

本当は涙で見えないただの空

 

aiko『青空』の歌詞。「ただの空」というフレーズで曲が終わっている。

 

「ただの空」とはどのような空なのだろうか。曲のタイトル通りの青い空なのだろうか。曇り空なのか。それとも夕暮れ空なのか。夜空なのか。それははっきりせずに曲が終わっている。

 

『青空』は恋の終わりについて歌っている。状況や登場人物の関係性を具体的に伝えている歌詞ではない。主人公の感情を綴る言葉を重ねていくことで、少しづつ状況や関係性が見えてくる。

 

感情を伝えることによって状況を伝わえるような歌詞だ。

 

青空

青空

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『青空』は不思議な歌詞に思う。

 

つかみどころがないような歌詞なのに、主人公の人格も伝わってくる。そして気づけば共感してしまう。まるで自分ことを歌われているような気持ちになる。

 

曲もいいのだ。ポップで明るい曲。だからこそ歌詞と重なることで魅力的ながら不思議な歌になっているのかもしれない。歌詞の魅力も倍増し、歌詞によって曲の魅力も倍増している。

 

 

切ない歌詞と明るい曲の組み合わせ

 

触れてはいけない手を 重ねてはいけない唇を
あぁ知ってしまった あぁ知ってしまったんだ

 

あなたにもう逢えないと思うと
体を 脱いでしまいたいほど苦しくて悲しい
あなたに出逢う前の何でもなかった 自分に戻れるわけが…

 

間違いを引き返せない目の奥まで苦い
だけど無しに出来ないよ ずっと背けてた

 

ちょっと唇に力入れて
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
ボーッとした目の先に歪んだ青い空

 

振り返るのは あっけなくて怖い あてもなく信じた心が愛おしい
ふとした時に剥がれた思い出 抱きしめる日が来るわけが…

 

想ったり嫌になったり自由で不自由だった
それはあなたがいてくれたからできたんだ

 

そっと薬指を縛る約束を外してもほどいて無くしても
まだ気をつけて服を脱ぐこの癖はなかなか抜けないな

 

なんだよあんなに好きだったのに
一緒にいる時髪の毛とか凄い気にしていたのに恋が終わった
破裂した音が鳴っている 今あたしの薄ら汚れた空に吸われていくの
恋が終わった

 

ちょっと唇に力入れて
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
ボーッとした目の先に歪んで見えてる
本当は涙で見えないただの空

 

(aiko / 青空)

 

『青空』は恋の終わりについて歌っている。まだ相手に気持ちが残っている主人公。「触れてはいけない手を 重ねてはいけない唇を」「間違いを引き返せない」というフレーズから浮気や不倫の匂いも少し感じる。危うい恋の歌にも思う。そんな苦しい感情と悲しい感情を4分間の歌にしている。

 

それなのに聴いていて悲壮感がない。明るい楽曲にすら感じる。

 

最小限の音数で編曲されている演奏。ストリングスを入れて壮大な曲にして感動させようとするわけでもない。最小限の音で寄り添うような優しい演奏に思う。

 

シティポップ感があるシンセサイザーとエレキギターのカッティングが印象的。跳ねるようなリズムのドラムとベースも曲を盛り上げる。

 

『青空』をはじめとするaikoの楽曲で使われているコードは複雑な構成のコードが多い。

 

ジャズで使われることが多いセブンスコードを多用することがaikoの楽曲の特徴の一つに思う。それによって音の響きがジャジーになる。所謂オシャレなサウンドになる。『青空』でも多用されることで「aikoらしいオシャレな曲」になっている。

 

『青空』はサビの最初のコード進行が【A♭M7→G7→Cm7】になっている。キーは違うが『ストロー』のサビのコード進行【DM7→C#7→F#7】や『花火』のサビ【B♭M7→Am7→Dm7】に似ているコード進行だ。

 

ストロー

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『ストロー』も『花火』も明るくてポップな曲。歌詞も幸せに溢れている曲。aikoの明るい曲では頻繁に出てくるコード進行かもしれない。

 

『青空』は失恋ソング。決して明るい曲ではない。しかしリズムもコード進行もaikoの明るいポップソングと共通する部分がある。

 

だから切なくて悲しい歌詞でもあるのに悲壮感はない。悲しさの向こうの希望を音楽で見せてくれる。切ない歌詞に共感したリスナーに寄り添って慰めるだけでなく元気もくれる。

 

もちろん歌詞も悲しい内容だけが綴られているわけではない。ところどころに希望を感じるフレーズもある。

 

 

青空に想うイメージ

 

ちょっと唇に力入れて
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
ボーッとした目の先に歪んだ青い空

(aiko / 青空)

 

「青い空」には明るいイメージがあるかと思う。晴わたった気持ちの良い天気を想像すると思う。希望の象徴のような使われ方を歌詞や文学作品で使われう事も多い。

 

歌詞の前半は「あなたにもう逢えないと思うと」など悲しさに暮れる様子が描かれているが、サビでは「青い空」という言葉を出すことで希望を感じさせる。

 

「今思い返すと馬鹿みたいだな」と過去を振り返って反省している。その次に繋がる「ボーッとした目の先に歪んだ青い空」という表現で、その先にかすかに希望があることを表現しているように感じる。

 

『青空』は悲しいだけの失恋ソングではない。その先の希望も見せてくれる歌だ。

 

ちょっと唇に力入れて
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
ボーッとした目の先に歪んで見えてる
本当は涙で見えないただの空

 

しかし最後のサビに「青い空」は出てこない。「ただの空」という言葉になっている。

 

「ただの空」がどのような空なのかはわからない。人それぞれ想像する空模様は違うと思う。「涙で見えないただの空」というフレーズから想像すると、希望が見えなくなったことを表現しているのかもしれないし。

 

でも涙を拭けば「ただの空」がどのような空なのかはわかる。

 

『青空』の歌詞はリスナーに想像を働かせるための隙も上手く作られているので、自然と感情移入してしまう。同じ境遇のリスナーにはより歌詞が響くような仕組みになっている。そして「ただの空」がどのような空なのか考えさせられてしまう。

 

前向きな気持ちになれても、落ち込むことはある。でもまた気持ちを切り替えて涙を拭けば青空が見えるかもしれない。

 

音楽は悲しい時にそっと寄り添ってくれる。前向きな気持ちにさせてもくれる。

 

しかしaikoはリスナーに受け身ではいさせない。「本当は涙で見えないただの空」と歌うことで、感情移入したリスナーにこの先どうするべきなのかを自ら考えさせる。「ただの空」とはどのような空なのかについてや「涙を拭いたら見える空はどのような空なのか」について考えさせる。

 

前向きに行動させるきっかけもaikoは音楽で与えてくれる。それがaikoの歌が持つ力でもあり『青空』が持っている音楽の力にも思う。

 

『青空』に心が動かされた人は「ただの空」がどのような空に見えるのだろうか。それは人それぞれ感じ方が違うとは思うが、きっと涙を拭いたらタイトル通りの希望を感じるような「青空」が見えるのではと思いたい。

 

aikoの『青空』はそんな希望を感じる楽曲なのだ。

 

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