オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

夢眠ねむと自分の最初で最後の会話について

でんぱ組に感謝をしている

 

アイドルなんて興味はなかった。むしろバカにすらしていた。

 

自分で曲を作れるわけでも歌詞を書くわけでもない。楽器も弾けないし歌が特別うまいわけではない。ダンスは踊ってはいるが、お遊戯会みたいなもの。なんの魅力もない音楽とパフォーマンス。

 

松浦亜弥は椎名林檎が褒めていたので、歌は上手いんだろうなとは思っていたが、自分がアイドルに持っていたイメージは、このようなものだった。

 

でんぱ組.incの存在を知るまでは。

 

でんぱ組の存在を知ったのは『ボロフェスタ』という様々なアーティストが出演するライブイベントだ。殆どの出演者がバンドであったが、その中に何故かアイドルのでんぱ組が出演していた。

 

ライブを観てショックを受けた。自分の音楽の価値観がひっくり返った。

 

ぶっ飛んだ歌詞とへんてこな展開をする曲。バンドでは聴けないような変な歌い方。そのわけのわからない世界観は衝撃だった。全力でステージを動き回る姿に不覚にもグッときてしまった。バカにしていたはずのアイドルのパフォーマンスを楽しいと思ってしまった。

 

特に『でんぱれーどJAPAN』という曲が頭から離れなかった。

 

自分は一生アイドルを聴くことはないと思っていた。それなのにアイドルを気になってしまった。ライブが終わってからYouTubeで動画を観たり、情報を調べるうちに、でんぱ組にハマってしまった。

 

CDもライブDVDも買ってしまった。ワンマンライブのチケットも申し込んでしまった。でんぱ組をきっかけに他のアイドルの曲も聴いてみる。「アイドルの曲もバンドに負けないぐらい良いのでは?」と思ってしまった。

 

でんぱ組は自分の持っていたアイドルへの偏見をぶちこわしてくれた。聴く音楽の幅を広げてくれた。

 

そして、今ではでんぱ組のCDは毎作品購入し、ライブも頻繁にいくようになる。バカにしていたアイドルなのに、でんぱ組は自分にとって大切な音楽グループの1つになった。

 

自分のアイドルとの関わり方

 

自分は特定のメンバー1人を推すということはしなかった。自分が好きになったのは「でんぱ組.inc」。自分が好きになった時のメンバー6人全員がいるから成り立っていると思っていた。所謂『箱推し』と言うやつだ。アイドルというよりも音楽グループとして応援していたと思う。

 

そのため、握手会などのイベントに行くことはなかった。

 

 自分は全員がステージに立っている姿が好きだった。ライブを観たり曲を聴いているだけで満足だと思っていた。そもそもでんぱ組の人気は急上昇したので、そういったイベントも不定期に行われるものになり、都合を合わせるのも難しかった。

 

しかし、たまに後悔することがある。最上もがが脱退した時だ。

 

現在の最上もがは、タレントとして活動はしている。イベントなどに出演することも多いので、その姿を見ることはできる。

 

それでも「タレントの最上もが」だけでなく、一回ぐらいは「でんぱ組の最上もが」と直接会ってみたかったと思う。ステージを観るだけでなく、直接話しをして、でんぱ組への気持ちを伝えたかったなと思う。

 

それはファンの自己満足かもしれない。それでも、ファンが直好きな気持ちや想いをメンバーに伝えられることは、素敵なことかもしれない。

 

たかが音楽と言う人や、たかがアイドルという人も世の中にはいる。それでも、音楽やアイドルに救われた人もいる。そういった人は、直接想いを伝えたいのかま当然だ。自分だってその1人だ。

 

2019年1月の日本武道館公演で、ミントグリーン担当の夢眠ねむが脱退することが発表された。そして、3月で芸能界も引退することも発表された。

 

もう後悔はしたくない。

 

でんぱ組がいなければ自分はアイドルを好きになることはなかった。聴く音楽の幅が広がることもなかった。そして、なによりもでんぱ組の音楽が心の底から好きだし、でんぱ組のライブは心の底から楽しいと思ってる。

 

メンバーに伝えたい感謝の気持ちや想いが、たくさんある。いつか全員に伝えたいとは思っていた。でも、夢眠ねむは1月で脱退してしまう。もうすぐ「でんぱ組の夢眠ねむ」はいなくなってしまう。

 

ねむきゅんに会いに行くと決めた。

 

最初で最後の会える日

 

11月24日。ヴィレッジバンガード渋谷店にて、夢眠ねむのサイン会が行われた。最初で最後のソロアルバムと最後の書籍の発売を記念して行われたもの。

 

 そのイベントに申し込みをした。なんとか参加する権利を手に入れた。自分にとって初めてのでんぱ組のメンバーと会って話せる機会で、おそらく夢眠ねむとは最初で最後の話す機会だ。

 

サイン会の長蛇の列に並んでいると、様々な感情で頭の中がいっぱいになる。でんぱ組と初めて出会った時から、今日までのことが走馬灯のように浮かぶ。なぜだか泣きそうになる。泣きそうになるぐらい、でんぱ組のことが自分は好きなのだと改めて気づく。

 

きっと夢眠ねむ脱退後もでんぱ組は続く。これからもでんぱ組もきっと楽しいのだと思う。

 

ライブ活動を休止して、最上もがが脱退して、新メンバーが入った時、ファンも不安な気持ちはあったと思う。しかし、でんぱ組は今まで通り最高の音楽とパフォーマンスを届けてくれた。今後も他のメンバーが全力で楽しませてくれると思う。

 

それでも、やはりメンバーの脱退は寂しい。

 

そして、サインをしてもらっている時、どんなことを話すべきなのか悩んでいた。

 

夢眠ねむとの最初で最後の会話

 

でんぱ組を知り、好きになってから6年以上が経っている。色々な思い出もあるし、様々な想いがある。話したいこともたくさんあるが、きっと一言程度しか話せないだろう。

 

それなのに、話したい言葉がたくさん浮かんでくる。

 

でんぱ組のおかげで他のアイドルも好きになったんだよ。

Future Diverのねむきゅんんのパートが好き。

ねむきゅんの地元の三重のライブにも行ったよ。

全部の曲が好きだけど、やっぱ1stアルバムは擦り切れるほど聴いたよ。

いつもライブは最高で最強だね。

アリーナツアーの幕張メッセでレスもらった気がする。

ごめん、いつも紫や赤や青のペンライト振ってた。

近くに来た時はミントグリーンにペンライトを変えてたから許して。

でんぱ組と出会えて本当に良かった。

いままでありがとう。

やっぱり辞めないでよ。

でんぱ組を続けてよ。

 

伝えたい言葉も、伝えるべきでない言葉も、様々な言葉と想いが出て来た。とても伝えきれない。

 

何も話す言葉が決まらないまま、時間が過ぎる。そして、自分の順番が来てしまった。目の前には夢眠ねむがいる。

 

サインを書いている時間はそれほど長くはない。何か話さなければと思った。伝えたい言葉も想いもたくさんあるのだから。何か話そうと思って、無意識に言葉をだした。伝えたい想いも、自分の無意識に出した言葉に全て乗っけた。

 

「ずっと好きでした」

 

斉藤和義の曲名みたいなことを言ってしまった。気持ち悪いことを言ってしまったかもしれない。痛々しいことを言ってしまったかもしれない。

 

ずっと好きだった

ずっと好きだった

  • 斉藤和義
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

「好きです」ではなく、過去形の「好きでした」を、無意識に選んだ。脱退はショックだ。しかし、無意識に自分は脱退を受け入れていた。改めて「でんぱ組の夢眠ねむ」に会える時間は長くないのだと実感した。

 

「ありがとう」

 

ねむきゅんは、一言だけ答えた。それに続く言葉はなかった。今後もアイドルを続けるならば「これからもよろしくね」「これからも頑張るよ」などの一言があったのかもしれない。

 

そのような一言はなかった。改めて、夢眠ねむがでんぱ組から居なくなってしまうことを実感した。

 

最初で最後の夢眠ねむと自分の接触は終わった。

 

たった一言の会話。気持ち悪い発言だったかもしれないけど、でんぱ組への想いも感謝も一言でまとめようとしたら、「好き」という言葉にしかできなかった。

 

自分の伝えたい想いも、伝えるべきでない想いも、感謝の気持ちも、全てのことをこの一言に詰め込むことができたとは思う。

 

ファン目線の勘違いかもしれないけど、きっとねむきゅんもそれを真摯に受け止めてくれて、最大限のファンへの感謝の想いを込めた言葉をくれたのではと思う。それが「ありがとう」という言葉だったと信じている。

 

これが、辞めるアイドルと、辞めるアイドルのファンの、最初で最後の会話だ。

 

 ミントグリーンを振る

 

でんぱ組の脱退は1月。芸能界引退は3月。もしかしたら、また夢眠ねむと会えるイベントはあるのかもしれない。しかし、それに予定を調整して参加することができるかもわからない。おそらく参加することは難しいと思う。

 

きっと11月24日が自分にとって「でんぱ組の夢眠ねむ」と会える最初で最後の機会だったと思う。

 

とはいえ、でんぱ組のライブはある。ステージに立つ夢眠ねむを観ることはできる。カウントダウンジャパンと日本武道館でのワンマンライブ。自分はあと2回観ることができる。新しいアルバムもリリースされるので、聴きまくる。

 

ライブは悔いが残らないように、ステージまで想いが届くように、全力で楽しもうと思う。悲しいライブや切ないライブじゃなくて、楽しいライブが観たいし、楽しいライブを一緒にやりたい。

 

最近は赤か青のペンライトを振っていたけど、ミントグリーンを振ってみようかな。