オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

TBSテレビ『CDTV ライブ!ライブ!』の良かった点と改善してほしい点について(感想・評価)

新しい音楽番組

 

『うたばん』が終わってから10年。『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』が終わってから8年。今では深夜帯以外の音楽番組はほとんどなくなってしまった。演歌や歌謡曲以外を扱う音楽番組で残っているのは『MUSIC STATION』ぐらいだ。

 

CDが売れない時代。音楽以外の娯楽もたくさん増えた。国民的ヒット曲なんてしばらく生まれていない。子どもが憧れるのはミュージシャンよりもYouTuber。

 

音楽業界にとっては冬の時代なわけだが、嬉しいニュースもあった。ゴールデンタイムの新しい音楽番組がTBSテレビで始まったのだ。

 

毎週月曜夜10時から放送される『CDTV ライブ! ライブ!』という番組。基本的に生放送で放送するらしい。3月30日の初回放送は夜7時からの生放送だった。

 

初回放送を観て、音楽やアーティストに敬意を持っている番組に思った。「音楽の魅力」をしっかり伝えようとする番組に思った。

 

〈視聴者が「まるでライブハウスに来ているような感覚」になるような、アーティストが主体となって作り上げる音楽番組〉がコンセプトの番組らしい。

 

そのコンセプトを見事に表現していた良い番組に思う。ほとんど文句のつけようのない放送ではあったが、音楽ファンとしては一部改善して欲しい部分があった。

 

基本的にフル尺でのパフォーマンス

 

クリープハイプに『テレビサイズ(TV Size 2'30)』という曲がある。

 

テレビサイズ

テレビサイズ

  • クリープハイプ
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

大事な作品を縮める事は出来ないけど今回だけ特別にやりますよ
曲を大事にしているけど局も大事にしないとなとかそんな
くだらない事ばっかり言ってる余裕なんて無いんだけど
大事な事を言える確信だって無いからこうやって歌ってるって歌です
だからいっそテレビサイズで
二分半にまとめてみます 

(クリープハイプ / テレビサイズ)

 

テレビ番組に出演すると音源よりも短い時間にカットして披露しなければならない。より多くのアーティストを出演させるために、長い曲も2分30秒にするすることが業界では一般的らしい。

 

『テレビサイズ』の歌詞はそれについて皮肉を込めている。曲の長さは2分30秒。それも皮肉が込められている。テレビサイズにカットすることに音楽への敬意がないと思っているアーティストがクリープハイプ以外にもいるかもしれない。

 

しかし『CDTV ライブ! ライブ!』は基本的にフルサイズで楽曲を披露していた。これは平成以降の音楽番組ではほとんどない画期的なことだ。

 

フルサイズで披露しなければ魅力が伝わらない音楽もある。フルサイズで聴くことで印象がかわる曲もある。それを伝えようとする番組の姿勢い、音楽やアーティストに対しての敬意を感じた。

 

複数曲を披露するアーティストもいたが、その場合もアーティストへの敬意を持っていた。

 

例えばFLOWER FLOWERは最新アルバム収録曲『夢』とメンバーのyuiがソロ時代にリリースした代表曲『CHE.R.RY』の2曲を披露した。視聴率稼ぎのために有名な代表曲だけ披露させるのではなく、アーティストが最も聴いてもらいたいであろう新曲もしっかりと披露させる。

 

メドレーを披露したためにフル尺で全曲は披露できかったアーティストもいる。

 

しかし一番はしっかり歌ってから繋げたりと、曲の魅力はしっかり伝わるように曲が繋がっていた。他の番組ならばテレビサイズの2分30秒に組み込むように強引にメドレーを作って歌わせていたかもしれない。

 

「意味のあるメドレー」を披露したグループもいる。

 

Kis-My-Ft2は〈感謝を伝えたい人への愛が詰まった曲〉というテーマをメンバー主体で決めてメドレーを披露した。

 

 

事前の打ち合わせ映像では北山宏光が「お世話になったからな…」など意味深に発言し、玉森裕太が「めっちゃ匂わすじゃん」とツッコミを入れると他のメンバーも笑顔に。ステージや番組で度々共演し関わりが深い中居へのメッセージを堂々と“匂わせ”た。

そして、「光のシグナル」「負けないで」を7人で歌うと、最後に中居がプロデュースを務めた横尾渉、宮田俊哉、二階堂高嗣、千賀健永の4人からなるユニット「舞祭組」の楽曲「棚からぼたもち」を披露。

 

(中略)

 

宮田は満面の笑みで「僕たちをお世話してくれたあなた、観てますか~?」とカメラに向かって呼びかけ、「ご飯連れてって下さい~」と叫んだ。

パフォーマンス中のステージ照明がSMAPのメンバーカラーの5色になった瞬間もあり、最後まで中居の名前は出さなかったが、分かりやすい中居へのメッセージに視聴者からは「感謝を伝えたい方ってどこの中居さん?」「キスマイが泣かせにくる」「中居くんへの愛がいっぱい」「全員での棚ぼた泣ける」「まさか棚ぼたで泣くとは」と感動の声が殺到していた。

(Kis-My-Ft2、中居正広への“匂わせ”メドレーに感動の声殺到「泣ける」<CDTVライブ!ライブ!> - モデルプレス)

 

キスマイは3月いっぱいでジャニーズ事務所を退所する中居正広へのメッセージを感じるメドレーを披露したのだ。アーティスト自身が今どのような曲を届けたいのかを考慮しているように思う。

 

〈アーティストが主体となって作り上げる音楽番組〉

 

この番組コンセプトを忠実に守っていることを実感する瞬間だった。

 

 

音楽だけでなくアーティストの力も伝える番組

 

嵐は4曲を披露した。

 

『One Love:Reborn』『カイト』の2曲を力強く歌い聴かせた後に「テレビの前の皆みてるか?今から明るい曲やるよ!」と松本潤が煽った。きっと、その瞬間、全国のお茶の間がパッと明るい雰囲気になったと思う。その後に披露された『Love so sweet』『Happiness』で全国のお茶の間に元気を与えたと思う。

 

Happiness

Happiness

  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

これはCDでは体感できないことだ。音楽番組だからこそ伝わる、アーティストの言葉が持つ力だ。ただパフォーマスをさせるだけではなく、パフォーマンスに込めた想いを伝える時間も作っている。

 

テレビでの初歌唱だったUruも歌う前に、今まで出演していなかったのに今回出演した意味について語っていた。自身がテレビに出る意味や想いについて視聴者に伝えていた。

 

その後に歌われた『プロローグ』と『あなたがいることで』の2曲は素晴らしかった。想いの込もった歌声に思った。

 

プロローグ

プロローグ

  • Uru
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

誰が歌うのかによって音楽の価値が変わることもある。アーティストがどのような想いを込めて歌うのかを知ることで、音楽の素晴らしさを感じることもある。

 

Mステのように司会者とトークをする時間を作る方法もあるが、それ以上にアーティストが自ら言葉を発信することで、パフォーマンスや音楽に対する想いをより強く感じる。

 

まさに〈アーティストが主体となって作り上げる音楽番組〉になっている。 

 

 

無意味な街頭インタビューがない

 

かつてはアーティストにとっても憧れの番組で、音楽ファンにとっても注目すべき存在であった某有名音楽番組は、ある時期から変わってしまった。

 

アーティストが歌う時間は短くなった。その代わりバラエティのような企画や一般人の街頭インタビューの放送に時間を充てるようになった。「音楽番組」というよりも「音楽関連のバラエティ番組」に変化したように思う。

 

『うたばん』や『HEY!HEY!HEY! 』などバラエティ要素の強い音楽番組もかつては存在したが、それらはアーティストの内面や音楽以外の人となりの魅力を引き出してバラエティにしていた。しかし金曜21時から放送している某番組は違う。出演アーティストとは離れた部分を組み込んでバラエティ化している。

 

この改変は音楽ファンには不評だったが、ほとんど変わらずにこの方針は続いている。バラエティ要素強めな方が視聴率が良いのかもしれない。

 

しかし『CDTV ライブ!ライブ!』は無意味な街頭インタビューはない。過去の曲を振り返ってゲストに意見を求めるような謎コーナーもない。X JAPANのToshIにカバー曲ばかり歌わせない。

 

アーティストにフル尺で歌わせて、アーティストからのメッセージを伝えるような構成。

 

それは「音楽関連のバラエティ番組」ではなく音楽の魅力をしっかりと伝える「音楽番組」だった。音楽を扱う番組のあるべき姿に思う。

 

改善して欲しい点

 

『CDTV ライブ!ライブ!』は音楽ファンにとっては良い番組だと思う。しかし一点だけ改善して欲しいと思う部分がある。

 

それは楽曲クレジットが出てこないことだ。

 

アーティストのパフォーマンス前にアーティスト名と楽曲名は画面に表示されていた。しかし作詞者と作曲者、編曲者の名前は出てこなかった。

 

番組には自身で作詞作曲を行なっていないアーティストやアイドルも多く出演していた。音楽ファンは「誰が楽曲を作ったのか」に興味を持つ人も多い。アーティストの歌声も音楽にとっては重要だが、楽曲製作者も同じぐらいに重要だ。

 

『CDTV ライブ!ライブ!』はアーティストに敬意を持って政策された番組だと思う。音楽に対しての愛もあると思う。それは観ていれば伝わってくる。それゆえに、他の音楽番組以上にクレジットが出なかったことを残念に思ってしまった。

 

しかし地上波の音楽番組としては、久々に音楽をしっかりと聴かせてくれる良い番組が出てきたことは確かだ。この番組を機に音楽への興味を強める視聴者もでてくるかもしれない。

 

今はCDが売れなくなってライブで稼ぐ方法にシフトしたアーティストも多い。

 

そのため新型コロナの影響でライブができなくなり、厳しい状況になっているアーティストや音楽関係者もいる。そんな音楽業界を活性化させるきっかけになる番組かもしれない。

 

メディアを使って音楽の魅力をしっかり伝えられる番組に思う。それだけの力がある番組かもしれない。