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【ライブレポ・セットリスト】VIVA LA ROCK 2022 Day2 atさいたまスーパーアリーナ 2022年5月1日(日)

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フェスの責任者である鹿野淳の「2日目、ようこそいらっしゃいました!」という挨拶から始まったVIVA LA  ROCK2022の2日目。

 

ビバラの公式マスコット美腹とさいたまスーパーアリーナの公式マスコットたまーりんを引き連れ「ソーシャルディスタンスを守るためのダンス」という謎のダンスを披露する鹿野。観客は苦笑いしている。さいたまスーパーアリーナの広いステージで、鹿野はスベってしまった。

 

そんな不思議な雰囲気から始まった、VIVA LA ROCK 2022の2日目。しかし観客は久々の大規模フェスへの喜びと興奮で満ちている。

 

ライブが始まれば鹿野がスベったことなど忘れ、最高のライブを楽しんでいた。

 

 

SHE’S

 

トップはビバラ初出演のSHE’S。しかし初の日本武道館公演を成功させたりと、現在特に勢いがあるバンドの1つでもある。今まで出演していなかったことが不思議なぐらいだ。だからこそ音楽フェスにおいて重要なトップを任せられたのだろう。

 

1曲目の『追い風』から、いきなり会場を飲み込むような壮大なサウンドを響かせていた。さいたまスーパーアリーナは、彼らにとって過去最大規模の会場だと思うが、この規模が似合うような演奏をしている。いきなり彼らの音楽の凄みと個性を見せつけて、会場の空気を作ってしまった。

 

そこから「行こうぜ!」という煽りから『Masquerade』を続けて、熱気をじわじわと上昇させていく。赤い照明に照らされるメンバーの姿はクールだ。アコースティックギターの音がフィーチャーされつつも壮大さを感じる演奏ができることは、彼らの個性にも感じる。

 

盛り上がりが爆発したのは3曲目の『Over You』だ。バスドラムが響くイントロに合わせて観客は手拍子し、楽曲が進むと腕をあげて踊りながら楽しんでいた。フェスはワンマンよりも時間は短い。それでもバンドの魅力をぎゅっと詰め込んだんようなセットリストで魅了していく。

 

「初めてはドキドキする///」と言って照れる井上竜馬。少しかわいい。「メンバー4人でブルーノ・マーズのライブを観て以来、久々にさいたまスーパーアリーナに来た」と話し、仲良しアピールする井上。

 

そんなメンバー全員が大好きなブルーノ・マーズの影響もあるのだろうか。ブラックミュージックの匂いを感じる『Ugly』を続けて披露した。そして美しいピアノの旋律から始まる『Chained 』の心に沁みる演奏で観客を感動させる。やはりSHE’Sは短い時間でも、自らの個性や魅力をセットリストに詰め込んで演奏で伝えている。

 

「思ったよりもみなさんの、顔が見えますね。外は寒いですが、温まって帰りましょう!話、うまくまとまったかな///」と照れながら話す井上。かわいい。

 

しかしかわいいのはMC中のみである。演奏が始まれば井上もカッコよくなる。『Blue Thermal』は新曲でありながらフェスが似合うキラーチューンになっていた。 壮大な演奏で盛り上げる姿は〈あなたを連れてくよ〉という歌詞に説得力を加えている。

 

『Blowing in the Wind』では井上がハンドマイクになり、ラストスパートをかけるようにステージを動き回り歌う。

 

そして最後に代表曲『Dance with Me』で盛り上がりを爆発させた。「最後みんな一緒に踊って歌って、いや一緒に歌えない!でも、一緒に心で歌いましょう!」とお茶目な煽りをする井上。かわいい。

 

しかしやっぱり、曲が始まれば井上もカッコよくなる。トップに相応しい最高の演奏で盛り上げ、SHE’Sにとって初めてのビバラロックのライブは終了した。この日のライブを見る限り、これは来年も呼ばれるだろう。それぐらいに素晴らしい演奏だった。

 

■セットリスト

1.追い風
2.Masquerade
3.Over You
4.Ugly
5.Chained 
6.Blue Thermal
7.Blowing in the Wind
8.Dance with Me

 

 

androp

 

andropもビバラ初出演だ。しかしメンバーの佇まいや雰囲気は、初出演とは思えないほどの落ち着いた様子に見える。すでにデビュー10年を超える中堅ロックバンドだ。初出演とはいえキャリアもあり経験豊富なのだから当然かもしれない。

 

バンドロゴが後方のビジョンに浮かび上がる中で『Voice』からライブをスタート。ステージ上のミラーボールが回ったりと、いきなり盛り上がりをピークにするような演出も取り入れている。

 

「andropです」と一言だけ挨拶してから続けたのは『Mirror Dance』。イントロのリズムに合わせて手拍子をする観客。彼らは落ち着いた楽曲が多いロックバンドに思われがちだし、激しく観客を煽ることもない。しかし自然と観客が盛り上がってしまう仕掛けが、演奏や演出に取り入れられているのだ。

 

初めまして。おはようございます。andropです。

 

このフェスが開催されることは、色々なことが前に進む一歩だと思います。

 

今日のこの場所は楽しい空間です。でも今日も戦争やコロナだとか辛い思いをしている人がいることは忘れてはならないと思います。フェスといえどもルールがあります。それを守りつつ楽しむことが、ここに来た人の努めだと思います。

 

もしよければ、次の曲ではスマートフォンのライトをつけてステージに向けてもらえませんか

 

短くも言葉を選んでMCをする内澤崇仁。伝えたい想いが誤解されないようにと、丁寧に話そうとしている。そして「あたなの心に光が灯り続けますように」と告げてから『Hikari』が演奏された。

 

会場全体の照明が落とされて真っ暗になった。その代わり客席がステージにスマホライトを向けて照らす。これだけ大人数がスマホライトを灯せば、たまアリの広い空間も明るくなる。会場の照明が全て落とされているはずなのに、観客が生み出す光によって、ステージが明るくなっていた。

 

ライブは観客と一緒に作るものだ。この曲が演奏されているときは、まさにバンドと観客が一緒に素晴らしいライブを作り出していた。

 

「帰りに充電がなくなったら、andropのせいだ思って、僕らを思い出にしてください(笑) 」と言って照れる内澤。その照れ隠しの言葉や表情からは、観客への感謝の気持ちも感じる。

 

『Beautiful Beautiful』で前半に披露した楽曲とは違うオシャレな演奏で魅了し、「おひとり様に捧げます」という煽りからの『Lonely』では映像演出も取り入れて観客を惹きつける。

 

おひとり様でライブに来た自分は、特にグッと来た。カップルでイチャイチャしながらライブを観ている前の座席の客がて気に食わなかったが、この曲を聴いているときだけカップルのことは気にならなくなった。

 

ジャジーな演奏とポエトリーリーディング風の歌唱が魅力的な『SOS!』で観客を踊らせ、最後は『Supercar』で客席から手拍子を響かせ、多幸感に満ちか空気を作り出しライブを終えた。

 

ロックな演奏をしつつも、盛り上げたりカッコ良さで痺れさせるだけでなく、心に沁みるロックを鳴らせるのがandrop なのだと実感した。

 

■セットリスト

1.Voice
2.Mirror Dance 
3.Hikari
4.Beautiful Beautiful
5.Lonely
6.SOS!
7.Supercar ミラーボール

 

 

BIGMAMA

 

SEの『No.8』が流れた時点で、客席から手拍子が鳴り響く。BIGMAMAが多くの観客に期待されていることが伝わってくる。

 

彼らはビバラの常連。毎年のように出演してフェスを盛り上げているバンドの一つだ。このフェスをきっかけに知ってファンになった人もいるのだろう。

 

メンバーが登場すると金井政人が「VIVA LA ROCKに希望の光を」と告げて『セントライト』からライブをスタート。〈希望の光へ セントライト〉というサビの歌詞が印象的だ。バンドの壮大な演奏とまっすぐな金井の歌声が会場に響く。それに応えるように腕をあげる観客。1曲目から彼らのロックサウンドが会場を包み込んでいる。

 

「ビバら二日目にようこそ!BIGMAMAです!よろしく!」と宣言してから披露されたのは、バンドの初期ナンバー『ダイヤモンドリング』。東出真緒のバイオリンが映えるロックナンバーだ。初期楽曲とは思えないほどに、さいたまスーパアリーナが似合う壮大な演奏である。圧倒されている観客も多いようだ。

 

そんな演奏の余韻に浸る暇を与えるつもりはないのだろう。『Paper-craft』を続けて、会場の熱気を上昇させていく。客席からは手拍子も鳴り響いていた。先程までは演奏に圧倒されていたはずの観客が、今度は演奏によって興奮している。

 

さらに『The Naked King 〜美しき我が人生を〜』『SPECIALS』を畳み掛けるように続ける。盛り上がりはさらに加速する。彼らはライブ中にMCをほとんど行わない。それでも観客の心を一つにして盛り上げられるのは、音楽だけで全てを語り心を掴んでしまうからだろう。

 

とはいえ重要なタイミングで重要なMCはしていた。「VIVA LA ROCKの9年目をこの曲でお祝いします!」という宣言は、常連組だからこその愛のある言葉だと感じたし。そこから『No.9』を続けることも、ロックバンドとしてユーモアを交えた開催へのお祝いに感じた。

 

この曲ではドラムのビスたん以外は前方に出てきて観客を煽っていた。ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章の『歓喜の歌』をサンプリングで取り入れた楽曲でもある。そのパートではメンバーのコーラスが会場に響き渡り、会場を飲み込むような壮大なサウンドになっていた。「ルールの中なのは当然。でもあたなだけの方法で自由に踊ってくれ!」と叫ぶ金井の言葉も印象的だった。

 

そこから『MUTOPIA』を続けて、さらに盛り上げていき、ラストの新曲『Let it beat』へと雪崩込む。キャリアのあるバンドが最後を締めるのもカッコいい。過去の名曲にすがることなく、新曲で勝負しているのだ。ビバラ常連組としての貫禄と、ロックバンドとしてのブレない芯を感じるステージだった。

 

■セットリスト

1.セントライト
2.ダイヤモンドリング(2035/09/02)
3.Paper-craft
4.The Naked King 〜美しき我が人生を〜
5.SPECIALS
6.No.9
7.MUTOPIA
8.Let it beat

 

 

ハルカミライ

 

始まる前から熱気に満ちている。集客数がめちゃくちゃ多い客席を見て、今のハルカミライは物凄い人気なのだと実感した。その人気は実力に基づいたものなのだ。それもライブを観て実感した。今のハルカミライ物凄いライブをやるのだ。

 

1曲目は『PEAK'D YELLOW』。メンバーのアカペラで〈ただ僕は正体を知りたいんだ〉という歌声が響く。そこから身体に響くほどの重低音のドラムが響き、轟音に感じるほどのベースとギターが重なる。その衝動的な音で一気にテンションが上がってしまう。一瞬でさいたまスーパーアリーナがライブハウスのような空気感になってしまった。

 

「調子どうだよ!ビバラロック!」と叫んでから始まった2曲目の『君にしか』では、早くもテンションが上がった橋本がTシャツを脱いで上半身裸になった。メンバーのテンションに比例して観客のテンションも上昇していく。カメラに向かって「カメラどれ?これか?よく来たな!ビバラロック!」と笑顔で言う姿も印象的だ。

 

「バンドマンの俺たちを早起きさせてくれた!いいライブも観れるし美味しいご飯も食べれる!ビバラロック、最高じゃねえか!あとは健康のために運動が必要だ!騒ごうぜ!」という独特な煽りから始まった『カントリーロード』も最高だ。矢継ぎ早にパンクナンバーを連発する衝動的なステージングには、ロックファンは誰もが心が動いてしまうだろう。

 

しかし衝動的な演奏だけがハルカミライの魅力ではない。『ヨーローホー』も疾走感あるロックナンバーではあるが、橋本の吹くハーモニカが心地よい楽曲でもある。それは心地よいし、音色は美しい。

 

この曲では観客がタオルを回し盛り上がっていた。「タオル振り回すの湘南の風っぽくて最高だね」と言って喜ぶメンバー。メンバーも観客も濡れたまんまでイっちゃったのかもしれない。

 

そこから『ファイト!!』『俺達が呼んでいる』『フルアイビール』と再び衝動的なロックンロールを連発していく。「初めましての人もよろしく!」と曲中に言っていたが、初めて見た人も彼らのロックの洗礼を圧倒されているようだった。

 

彼らのロックは優しいとも思う。激しく演奏しているのに、音で優しく包み込んでいると感じる時もある。『世界を終わらせて』では、特にそれを感じた。

 

橋本がサビをアカペラで歌う。その時だけは騒いでいた観客も静かにステージに集中している。そこからバンドの演奏が加わるのだが、この楽曲は他の曲よりも丁寧に演奏していると感じた。しっかりと楽曲のメッセージを伝えようとしているようだ。

 

「みんなの記憶の中まで、目にしっかりやきつけて、来年も出れるようにさいたまスーパーアリーナに焼き付けて帰ろう」と曲中に語っていたことも印象的だった。この日ハルカミライを観た人には、確実に焼き付いているはずだ。

 

『アストロビスタ』もそうだ。この演奏も優しいロックだった。

 

橋本のアカペラから始まったが、途中で「ビバラロック、開催おめでとうございます!鹿野さん、有泉さん、矢島さん、いつもありがとうございます!」と歌の途中で感謝を伝えていた。そして観客には音楽によって感謝を伝えるかのように、真っ直ぐな歌と演奏を響かせる。

 

「時間が余ったから、もう1曲だけやるぜ!」と言ってから演奏されたラストソングは『To Bring back memories』。衝動的に駆け抜けるように演奏し、颯爽とステージを去っていくメンバー。

 

令和4年に彼らほどの真っ直ぐなロックンロールが、アリーナを埋め尽くすほどの人に支持されていることは異例である。トレンドや時代の変化など関係なく、魂のこもったロックンロール。そんな音楽は普遍的で時代を問わず人の心を掴むのだ。ハルカミライのライブを観ていると、そんなことを思ってしまう。

 

■セットリスト

1.PEAK'D YELLOW
2.君にしか 早くも脱ぐ
3.カントリーロード
4.ヨーローホー
5.ファイト!!
6.俺達が呼んでいる
7.フルアイビール
8.世界を終わらせて
9.つばさ
10アストロビスタ
11.To Bring back memories

 

 

CHAI

 

この日の出演者で、最も異質で衝撃的なライブをやったのはCHAIだろう。

 

おそらくこの日の客層からしても、彼女たちのファンは少なかったと思う。最近は日本よりも海外で支持を集めているように見えるし、世間に注目され始めた時期とは、音楽性やパフォーマンスの方向性も変化している。

 

1曲目の『NO MORE CAKE』から度肝を抜くパフォーマンスをしていた。重低音響く打ち込みのビートに合わせてユナがドラムを叩き、それに合わせて他のメンバーが独特な振り付けのダンスを踊りながら歌う。

 

薄暗い照明の中で大きなフードの衣装を着て動き回りパフォーマンスする姿を観ていると「何かわからないけれど、ものすごいかもしれない」という不思議な感情になってくる。とにかく理解が追いつかないほどに圧倒されて惹きつけられてしまったのだ。

 

そんな不思議な空間はまだまだ続く。『IN PINK(feat. Mndsgn)』ではユナがサンプラーでドープなダンストラックを流し、それに合わせてメンバーが歌い踊っていた。

 

おそらく彼女たちの今回のライブは賛否が分かれていると思う。

 

異質なパフォーマンスのせいで呆気に取られているような感じの人もいれば、圧倒されて身動きが取れなくなっている感じの人もいたからだ。反応が人それぞれ違う。ちなみに自分は「圧倒された側」だ。ステージから目が離せなくなってしまった。

 

個人的に『END』のパフォーマンスには特に痺れた。ユナのドラムとユウキのベースの屈強なビートがクールで、それに合わせて流れるトラックは心地よくて不思議な気持ちになる。

 

彼女たちはロックバンドではあるが、ここまでの曲はバンドサウンドではなかった。海外のトレンドも取り入れてCHAIの個性を取り込んだ独自のポップスを鳴らしていた。CHAIは観客に媚びることなく、自身の音楽を貫くことで深くて個性的な世界へと引き込んでいくのだ。

 

「いっしょに踊ろう!」と煽ってからの『PING PONG(feat. YMCK)』でもサンプラーを駆使して、最高のダンスミュージックを鳴らすCHAI。次から次へと違う方向性のパフォーマンスを見せてくれるので、ライブの刺激がずっと続いていく。

 

ずっとアメリカでツアーをやっていて、久々に日本に帰ってきました。久々のライブがビバラで嬉しいです!」と叫ぶマナとカナ。続く曲は『まるごと』。ようやくここで全員が楽器を手にしバンドサウンドを響かせた。

 

『Donuts Mind If I Do』もバンドスタイルで披露された。メロウな演奏が心地よい。彼女たちの異質なパフォーマンスは観ていて楽しいが、バンドとして芯のある演奏が聴けることも嬉しい。

 

「今日は来てくれてありがとう!」と叫んでから始まったラストソングは代表曲の『N.E.O.』。

 

しかし音源以上に激しくパンキッシュな演奏になっている。ここまでダンスナンバーやメロウな楽曲が中心だったから意外だ。しかし、だからこそ、パンキッシュな演奏が映えて、自然とテンションが上がってしまう。

 

自分がCHAIのライブを最後に観たのは2019年のビバラだった。そこからバンドは想像もつかなかった進化をして、予想していなかった方向へと変化をしていったようだ。

 

しかしCHAIの根本の魅力は変わっていないし、むしろより魅力的になったとも感じる。色々な意味で衝撃的で、忘れられないパフォーマンスだった。

 

■セットリスト

01. NO MORE CAKE
02. IN PINK(feat. Mndsgn)
03. END
04. PING PONG(feat. YMCK)
05. まるごと
06. Donuts Mind If I Do
07. N.E.O.

 

 

NUMBER GIRL

 

サウンドチェックで『水色革命』を演奏している時点で音が他とは違う。

 

ものすごい轟音だ。それでいて音色は耳に刺さるような尖り方をしている。ハルカミライも音圧がすごいと思ったが、NUMBER GIRLはそれを超える音圧だ。

 

サウンドチェックを終えると「また来週お会いしましょう」と告げて去っていくThis is 向井秀徳。

 

自分の隣の席にはナンバガを知らないであろう、友達同士できたであろう若い女子がいた。向井の言葉を聞いて「は?どういうこと?来週?」と動揺して笑っていた。俺が思うに、向井の発言を笑った彼女は、透明少女。

 

出演時間になり登場するメンバー。向井はマスクを着用して登場した。コロナ禍になってから彼は必ずマスクをしてステージに現れ、歌う時に外すようにしている。これは向井が言葉ではなく行動によって伝えたいコロナ禍に活動するバンドマンとしてのメッセージであり、コロナ禍に活動するバンドとしてプライドなのだろう。

 

「福岡市博多区からやってまいりましたNUMBER GIRL」とお馴染みの挨拶をしてから始まった1曲目は『ZEGEN VS UNDERCOVER』。

 

やはりものすごい轟音だ。自分はライブ用耳栓を着用して楽しんでいたが、人によってはこの轟音は耳を塞ぎたくなるかもしれない。しかしこの身体に響くほどの轟音だからこそ圧倒されるし、心までも震えるバリヤバな音楽になっているのだ。

 

この日のセットリストは代表曲が目白押しだった。「鉄の風が鋭くなってきた」と一言だけ言ってから始まった『鉄風 鋭くなって』も代表曲の一つだ。4人のバリヤバな音が重なり、唯一無二のサウンドになっていく。

 

この日のナンバガはアウェイだったと思う。若い世代が多いフェスなのだから仕方がない。しかし彼らを知らない若者にも凄さが伝わっているようにも思った。腕をあげたり踊っている観客は少ないが、ジッとみんなステージに集中している。圧倒されているからこその反応だ。

 

「そこのあの子も透明少女!」という向井のシュールな言葉から始まった『透明少女』は、知っている観客が多かったのだろう。空気が少しだけ明るくなった。身体を揺らしたりサビで腕をあげている人が増えてきた。

 

しかしメンバーは客がどんな反応をするのかはあまり興味がないように思う。良い意味でステージにはずっと緊張感があったし、ただただひたすらに轟音を鳴らしている。

 

中尾憲太郎のゴリゴリのベースの速弾きから始まった『CIBICCOさん』も鳥肌が立つほどにカッコいい。『TATTOOあり』での田淵ひさ子の強烈なギターソロも最高だった。彼らは盛り上げようと煽ったりはしないが、演奏の凄みだけで押し切って心を震わせてしまう。

 

「NUMBERGIRLです。ドラムス、アヒトイナザワ!」と向井が叫びアヒトのドラムソロから『タッチ』へと雪崩れ込んだ。どんどん演奏に熱気が帯びている。観客はどんどん圧倒されて身動きがとれなくなっていく。

 

ラストは向井と中尾が向き合って息を合わせるように演奏を始めた『I don't know』。

 

振り絞るように叫ぶ向井の歌声と、その叫びに負けないほどに激しい演奏が凄まじい。『omoide in my head』をやらなかったのに満足度が高い、代表曲まみれかつキレッキレで隙のないセットリストと演奏だった。

 

最後はマスクを着用して頭を下げてからステージを去っていったThis is 向井秀徳。

 

伝説のバンドであることを演奏によって伝えるようなライブであり、今でも現役のバンドであることを演奏によって伝えるライブでもあった。

 

■セットリスト

01 ZEGEN VS UNDERCOVER
02 鉄風 鋭くなって
03 透明少女
04 CIBICCOさん
05 TATTOOあり
06 タッチ
07 I don't know

 

 

SHISHAMO

 

サウンドチェックの時点で本編かと思うほどに観客が盛り上がっていたSHISHAMO。

 

『好き好き』『君と夏フェス』『メトロ』『恋する』と代表曲&人気曲を連発していたのだから、それも当然だろう。「本編でやらないつもりなのか?」と思うほどにリハがキラーチューンだらけだ。

 

しかしそんな不安や疑問を吹き飛ばすぐらいに、本編のSHISHAMOは凄かった。

 

登場してすぐに「こんにちはSHISHAMOです!今日はタオルを回してもいいと言われたので、久々にこの曲をやります!SHISHAMOのタオルじゃなくていい。好きなバンドのタオルを回してください!」と宮崎朝子が宣言してから始まった1曲目は『タオル』。

 

かつてはライブ定番曲だったが、コロナ禍になってから演奏される機会が減った楽曲である。2020年のファンクラブツアー以来演奏されていなかった。

 

 

ビジョンにはアニメーション映像が流れ、ステージ後方には赤いバックに「SHISHAMO」と書かれたロゴが浮かんでいた。演出でも初っ端から盛り上げていく。

 

サビで会場全体が回るタオルの海になり、それを観て笑顔を浮かべる3人。SHISHAMOはビバラの常連組だ。久々にこの景色を観て喜んでいるようだ。

 

そして新曲『狙うは君のど真ん中』を衝動的に演奏し、彼女たちがロックバンドとしてカッコいいことを見せつける。新曲ではあるが、サビでは腕をあげている人がたくさんいて、しっかりと盛り上がっている。

 

朝子「今日の服装間違えたな。暑い。半袖にするべきだった。お客さんもみんな半袖じゃん」

松岡「そうでもなさそうだけど......」

吉川「普通にパーカー着てる人もいるよ」

朝子「ステージと客席は温度が違うのか?」

 

演奏はカッコいいのにMCはゆるいSHISHAMO。この空気感もバンドの魅力の一つである。

 

朝子「私たちはビバラの初年度から出させてもらいました。ビバラは9年目らしいですけど、私たちはデビュー10年目です。ビバラとSHISHAMOは一緒に歩んきました。だから今年も出れて嬉しいです」

 

ビバラへの想いを語ってから披露されたのは、最新アルバムのリードトラックである『中毒』。一体感ある重厚な演奏が心地よい。

 

フェスにおいて重要な序盤で新曲を続けたSHISHAMO。新曲に自信があるからだろう。実際に観客にも響いているようで、しっかりと盛り上がっていたし伝わっているようだった。

 

ライブ定番曲『きっとあの漫画のせい』では、カラフルな照明に包まれながら力強いサウンドを響かせる。音はゴリゴリのロックなのにメロディはキャッチー。それでいて歌詞は尖っている。この不思議なバランスが彼女たちの個性だ。

 

「SHISHAMOを初めて観た人もいるとは思います。わたしたちはライブを頻繁にやっています。だから、また会いましょう!」と朝子が言ってから演奏されたのは『明日も』。初めてSHISHAMOを観た人も知っているであろう大ヒット曲だ。

 

この楽曲ではカメラがバンドの後ろ姿と客席一面の様子を撮っていて、それがビジョンに映されていた。そういえばSHISHAMOがフェスでこの曲を演奏するときは、いつもこのカメラ演出を取り入れていた。久々にフェスで彼女たちを観て思い出した。

 

ビジョンに映されている客席の景色は、コロナ禍以前とほとんど変わらないように感じた。

 

集客数の制限も緩和されてきて、この日は2万人の集客がされていた。コロナ禍以前のビバラと変わらない集客だ。『明日も』という希望を感じる曲に合わせて、音楽フェスが前に進んだと実感できる景色を観て、様々な想いが溢れてきて涙が出そうになる。ミラーボールが周り会場全体を照らしていたのも美しくて最高だった。

 

そんな感動の余韻を吹き飛ばすように疾走感あるロックナンバー『明日はない』が続けて演奏された。これがラストソングである。

 

『明日も』と表裏一体に感じる楽曲だが、こめられたメッセージは近いものを感じる。どちらも希望を与えてくれることは共通している。

 

ポップな一面を見せつつも最後はロックバンドとして芯のある演奏を見せ付けて颯爽と帰っていったSHISHAMO。きっと来年もビバラのステージを盛り上げて、これからもビバラとともにバンドの歴史を刻んでいくのだろう。

 

■セットリスト

01. タオル
02. 狙うは君のど真ん中
03. 中毒
04. きっとあの漫画のせい
05. 明日も
06. 明日はない

 

 

Saucy Dog

 

『シンデレラボーイ』の大ヒットをきっかけに、人気が急上昇しているSaucy Dog。

 

去年と比べても集客数が桁違いに違う。客席の熱気も違う。彼らが誰もが知る人気バンドになったことを実感する。

 

サウンドチェックでメンバーが出てきただけで観客は立ち上がり、リハで『雀ノ欠伸』『リスポーン』『メトロノウム』が演奏されれば全力で盛り上がっていた。そのうち国民的バンドになるのではと思うほどに、観客の熱気がすごい。

 

予定時刻になりSEが流れると、ステージ後方にバンドロゴが現れた。それを背にして始まった1曲目は『煙』。

 

スポットライトを浴びた石原慎也の弾き語りから曲が始まると、客席が静まり返った。叫びそうな観客がいそうなぐらい熱気に満ちた空気がガラッと変わった。音楽によって彼らは空気を変えてしまったのだ。そこからバンドの演奏が加わり、唯一無二のグルーヴが生まれる。

 

そして『BLUE』を続ける。この曲の演出を観て、彼らが大きなロックバンドになったのだと実感した。

 

〈高層ビルの海の中〉という歌詞に合わせてか、海に沈む高層ビルの映像がステージ後方いっぱいに映されていた。バンドの演奏も演出に負けないほどに壮大だ。3人だけの音とは思えないほどに迫力がある。

 

せとゆいか「Saucy Dogはビバラに出るたびにフェスのことが好きになります。みんなは最初の1組目から観てるのかな?」

石原「いっぱい最初から観てる人がいる!おめでとう!

観客 (おめでとう......?は.....?どういうこと......?)

石原「去年のビバラはライブ前日に彼女にフラれて病んでたけど、今年は元気に演奏します!」

 

続いて演奏されたのは超絶バズっている代表曲『シンデレラボーイ』。去年フラれて病んだという話を聴いたばかりなので、歌詞の内容がより心にグサッと刺さる。

 

「ベース、秋澤和貴!」という石原の煽りから秋澤のベースソロが演奏され、そこから『雷に打たれて』が演奏された。

 

序盤は落ち着いた楽曲が披露されていたが、この曲がアップテンポのロックナンバー。ここから会場をいっきに盛り上げるつもりなのだろう。後方には稲妻が走る映像が映され、ステージ上のミラーボールが回り会場を光で照らす。その演出もカッコいい。

 

さらに「あなたに歌います!」と煽ってから『ゴーストバスター』を続ける。ライブ定番曲で盛り上がることが確実のキラーチューンだ。この日もやはり最高の盛り上がりになっていた。

 

それなのに、石原は、重要なサビで、歌詞を飛ばした。

 

苦笑いしつつ客席を眺める石原。誤魔化すように「あぁぁぁ!」と叫んだりしていた。歌詞を思い出してからは何事もなかったかのように涼しい顔をして再び歌い始めていた。

 

最近の石原は歌詞を飛ばすことが多い。ミスすることになれてしまい、上手い切り抜け方を覚えたようだ。

 

石原「今日は髪の毛にヘアアイロンを当ててオイル系のワックスを付けたら、髪の毛が禿げました」

せと「???」

秋澤「???」

観客「???」

 

意味不明の謎発言をMCでする石原。ミスをして動揺しているのだろうか。

 

しかし演奏が始まれば動揺も収まり素晴らしい歌声を響かせる石原。

 

続いて披露されたのは新曲『魔法にかけられて』。『シンデレラボーイ』でバンドを知った人には特に響くであろうロックバラードのラブソングだ。歌詞を飛ばしたことも、謎の発言をしたことも、観客は忘れて歌と演奏に酔いしれる。

 

ラストは『グッバイ』。石原の叫ぶような弾き語りから曲が始まった。

 

秋澤のベースとせとのドラムが重なる。石原はギターを掲げて手拍子を煽る。会場を埋め尽くす客席から大きな拍手が鳴り響く。

 

その演奏と客席の景色は圧巻で感動的だった。彼らが今の音楽シーンで大きな飛躍をしていることを改めて実感した。

 

自分は2017年に半分ほどしか集客できていない小さなライブハウスで演奏するSaucy Donのライブを観ている。その頃から「このバンドは飛躍する」とは思っていた。

 

しかしフェスのメインステージをきちんと埋めて、アリーナツアーをやるほどまで飛躍するとは思ってもいなかった。しかもまだまだ人気を集めそうな伸び代がある。Saucy Dogはこれからさらに凄いことになるだろう。

 

「ビバラ、楽しかった人!?」と演奏後に石原が叫ぶと、客席のほぼ全てで手が上がっていた。それも納得の名演だった。

 

■セットリスト

1.煙
2.BLUE
3.シンデレラボーイ
4.雷に打たれて
5.ゴーストバスター
6.魔法にかけられて
7.グッバイ

 

 

マカロニえんぴつ

 

現在超絶バズっているマカロニえんぴつ。その人気の拡大はSaucy Dogにも負けないほどだ。だからかやはりリハで『ハートロッカー』『愛のレンタル』『好きだった(はずだった)』が演奏された時点で、観客は盛り上がっていたしバンドも本編と変わらない熱い演奏をしていた。

 

お馴染みのSEであるThe Beatles『Hey Bulldog』が流れる中で登場したメンバー。そのまま『洗濯機とキミとラヂオ』で衝動的なロックをかき鳴らす。

 

〈ずっと前から僕らを待っていた 待っていたんだ〉という歌詞の後には「ビバラ、待っていか!?」と言って煽るはっとり。それに拍手で応える観客。まるでワンマンのような盛り上がりである。

 

そこから『keep me keep me』を続けた。ヒット曲だけしか知らない人にとっては驚くであろう、マカロニえんぴつがゴリゴリのロックバンドであることを見せつけるような曲順だ。

 

ここからはサブスクで知ったライトファンも喜ぶであろう楽曲が続く。歌い出しではっとりがスポットライトを浴びていた『はしりがき』では、スタンド後方の観客まで腕を上げたり身体を揺らしたりて楽しんでいた。

 

また春フェスによって音楽フェスのシーズンが始まりましたね。音楽好きにとっての日常が戻ってきつつありますね。

 

マカロニえんぴつは最近テレビに出させてもらったり、MVで僕がキスしちゃったり、ロックバンドっぽくないことをしています。そういうの嫌いなロック好きも多いでしょ?

 

でもロックバンドとしての意地をライブでは見せ付けますからね!

 

序盤は駆け抜けるような演奏をしていたが、短いMCを挟んでから披露されたのは『なんでもないよ』。現在ヒット中のミドルテンポの楽曲だ。しかしライブで聴くと演奏の力強さが際立つ。彼らはやはりロックバンドなのだ。

 

そして「ひー、ふー、みー、よー」のカウントから『恋人ごっこ』を続ける。こちらもサブスクで再生されまくった大ヒット曲だ。やはり演奏は力強い。お茶の間に浸透した音楽をやりつつも、根っこはロックバンドとして尖っている。

 

集中をするために感じる無音を挟んでから披露されたのは『僕らが強く。』DISH//に提供した楽曲のセルフカバーだ。

 

歌詞はDISH//メンバーの言葉を集めて、それをはっとりが歌詞としてまとめたという楽曲である。つまりセルフカバーといえどもDISH//の成分が強い楽曲でもある。

 

しかし〈笑ってたいんじゃなくてね、笑い合ってたいのだ〉というサビの歌詞は、マカえんが歌っても心に響く。それだけ普遍性のあるメッセージなのだ。白い光に包まれながら叫ぶように歌うはっとりの歌声は、魂を揺さぶる。名曲は誰が歌っても感動するのだ。

 

「ありがとう」と一言だけ告げてから続けたのは新曲の『星が泳ぐ』。

 

壮大なサウンドが会場を包み込む。この楽曲は大きな会場で演奏することを意識して作ったのだろうか。それぐらいにたまアリの空間が似合っている。バンド自体が大きな会場が似合う存在になったことを示しているともいえる。

 

誰かに頼っていいと思います。頼ることを恥じる必要はない。僕らを頼ってくれているあなた、ありがとう。僕らもあなたを頼っています。

 

自分が好きな人やものを馬鹿にされたら本気で怒ってください。好きな人やものを守ってください。僕たちは、ここに集まってくれたあなたが1人でもバカにされたら、怒ります。

 

音楽フェスはスーパーの試食品みたいなものです。美味しければ買うし、そうでなければ買わない。美味しくても買うほどではないと思う時もある。音楽フェスってそういうものです。

 

でもフェスは楽しいし、フェスをきっかけにワンマンまで来てくれる人もいます。それがすごく嬉しいです。でも僕らからフェスのお客さんにワンマンに来てくださいとは言いたくないです。でも、来る価値はあるということは、伝えたいです。

 

ここに集まったあなたと、また同じ時間を過ごせたら嬉しいです。最後に大切な曲を歌います。マカロニえんぴつという音楽でした。

 

はっとりの最後のMCが胸を打つ。最後に演奏された「大切な曲」は『ミスター・ブルースカイ』。青い照明に包まれながら、感情的でああるものの、それでいて丁寧に想いを伝えるように歌い演奏していた。

 

今年のビバラは派手な演出や映像演出を取り入れる出演者が多かった。しかしマカロニえんぴつは特別な演出を取り入れず、ひたすらにロックをかき鳴らしていた。

 

それでもアリーナで通用するライブをやっていたし、伝わる演奏をしていた。それは音楽としてもロックバンドとしても太くてブレない芯があるからに思う。

 

それが「マカロニえんぴつという音楽」なのだろう。

 

■セットリスト

1.洗濯機とキミとラヂオ
2.keep me keep me
3.はしりがき
4.なんでもないよ、
5.恋人ごっこ
6.僕らは強く。
7.星が泳ぐ
8.ミスター・ブルースカイ

 

 

Creepy Nuts

 

サウンドチェックの時点で圧倒させられる。DJ松永がサウンドチェックをしていたからだ。

 

彼のサウンドチェックは、世界一のDJプレイを堪能することと同じようなものだ。むしろ本人も世界一の凄さを見せつけるように、様々なテクニックを披露していたように思う。ドヤ顔でチェックしていたのだから、その可能性は高い。しかしドヤ顔が似合うほどにプレイはカッコいい。

 

そしてR-指定も登場し本編が始まり、日本一のラッパーと世界一のDJのパフォーマンスが組み合わさると、観客はその凄まじさにさらに圧倒させられる。そしてこの日一番と感じるほどのハイテンションさで盛り上がる。やはり松永はドヤ顔である。

 

1曲目は『合法的トビ方ノススメ』。いきなり代表曲かつキラーチューンをぶっ込んできた。

 

何度も「飛び跳ねろ!」と煽るR-指定。それに連れられて、うねるような盛り上がりになる客席。この2人はどんな場所でも盛り上げてヒップホップの魅力をしっかり伝える。彼らがロックフェスにヒップホップ代表として呼ばれ続けることも納得のパフォーマンスだ。

 

「俺たちと一緒に夜更かしできるやつは手を上げてくれ!」と言って観客全員の手を挙げさせてから『よふかしのうた』を続ける。こちらも代表曲でキラーチューン。観客に休ませる暇を与えないほどに盛り上げていく。後半には音源よりも長尺のDJ松永のスクラッチプレイも挟んでいたの印象的だ。

 

Creepy Nutsの凄い部分の1つは、誰も知らない曲だとしても観客全員をしっかりビートに乗せて踊らせることだ。

 

続いて披露されたのはまだ音源もリリースされていない未発表の新曲。しかし「みんな知ってるの?」と錯覚するほどに観客は踊り狂っている。

 

この楽曲でもDJ松永のソロプレイがあった。それをR-指定が「DJ松永!」と言って指差し観客を煽る。

 

それを観ていると自然とブチ上がる。やはり松永はドヤ顔である。ステージ上のミラーボールも周り、カラフルな照明が会場を彩る。それを観ているだけでも楽しい。

 

DJ松永「パンパンに埋まってますね。すごいな」

R-指定「さっきテンション上がって足元にある水を蹴っ飛ばしちゃったんですけど、俺の水はどこですか?」

 

盛り上がりすぎて水を失うR-指定。スタッフから水をもらいなんとか水分補給ができた。美味しそうに水を飲むR-指定を見て「お水飲めたねえ!よかったねえ!」と子どもをあやすように話しかけるDJ松永。

 

R-指定「俺たちはかなり前からビバラに出させてもらっていて、たしか結成して1年ぐらいの時から出させてもらっています」

DJ松永「初めてフェスに出させてもらったのがビバラだったと思います。あとCAVEステージのトリをやると翌年売れるというジンクスがあるんですよ。SuchmosがCAVEのトリをやって、翌年ドーンと売れて、King Gnuがやった翌年もドーンと売れて。それで2019年にCreepy NutsがCAVEのトリをやりました」

R-指定「これで俺らも2020年はドーンと売れてヒット曲がでるかなと思ったんよな」

DJ松永「でも何も起こりませんでした。しかもコロナのせいでライブも減ったし」

R-指定「めちゃくちゃ頑張ったけど2020年は現状維持」

DJ松永「でも今年はこんないっぱいのお客さんの前でやれてる!時間がかかっただけです!ちゃんと売れるというジンクスを守っています!俺たち、売れてます!」

 

MCではしっかりと笑わせて、音楽とは違う方向で盛り上げる2人。ゴミ屋敷で掃除をしたりNHKで司会をやる程に売れているDJ松永の「俺たち、売れた!」という言葉には説得力がある。

 

そして「コロナでライブを思うようにできなかった時期は辛かったです。でも制限がある中でもお客さんは最高に盛り上がることができています。この期間は苦しかったけど伸びたんです!そして俺たちには、まだまだ伸び代があります」というR-指定の言葉から『のびしろ』を続けた。

 

盛大な手拍子が鳴り響く。まだまだ観客の熱気は上昇していくし、それが止まることはない。

 

〈東京タワーの真ん中の頼りない背中〉というフレーズでは客席に背を向けて自身の背中を指さすR-指定。〈後ろ手でピースしながら〉というフレーズに合わせ、後ろを向いてピースした橋本奈々美を彷彿させる、歌詞に合わせた最高のパフォーマンスだ。

 

オレンジの照明にの中で『Bad Orangez』を披露しで手拍子をさらに大きくしてから、ライブ定番曲『かつて天才だった俺たちへ』でさらに盛り上が げる。

 

ロックフェスではあるがゴンフィンガーがあちこちの客席で上がる景色を観ていると、彼らがロックフェスにヒップホップ代表として出演し続けていることの意味と価値を感じる。

 

全然俺らが売れてない頃にビバラアンセムズに抜擢して選んでもらいました。そこで『日曜日よりの使者』をカバーさせてもらったことは、忘れられない思い出です。ラップとDJで自由にアレンジしてやってくれとオファーされました。

 

不安はあったけれど、亀田誠治さん、スカパラの加藤さん、ピエール中野さん、そして赤い公園の津野米咲さんに支えられて、演奏することができました。

 

ビバラのメインステージで初めてラップとDJをしたのが俺たちです。それがビバラアンセムズのステージでした。それは俺たちにとって重要で忘れられない出来事です。

 

だから、ビバラではこの曲を、これからも必ずやりたいと思っています。

 

R-指定がビバラへの想いを語ってから披露されたラストナンバーは『日曜日よりの使者』。

 

去年もこの曲は披露されていた。その時に「この曲は津野米咲さんがレコーディングに参加しています。津野さんのギターソロがカッコよくて最高なんですよ。今日もギターソロを流すんで聴いてください」と語っていたことを覚えている。

 

今年も津野米咲のギターソロが、ビバラの会場に響き渡っていた。その演奏は、やはりめちゃくちゃカッコよくて最高だった。

 

彼女の音楽とギターは、今でも生きている。こうしてライブで鳴らし続けてくれるアーティストがいるのだから。

 

『日曜日の使者』の津野米咲の弾くギターが使われたアウトロを流したままの状態で、最後の挨拶をして去っていくCreepy Nuts。熱いパフォーマンスで盛り上げただけでなく、ビバラへの愛で満ちたライブでもあった。

 

■セットリスト

01. 合法的トビ方ノススメ
02. よふかしのうた
03. 2way nice guy
04. のびしろ
05. Bad Orangez
06. かつて天才だった俺たちへ
07. 日曜日よりの使者

 

 

スピッツ

 

個人的に特に楽しみにしていたのが、スピッツのライブである。

 

自分がスピッツを観たのはコロナ禍になる直前のワンマンライブ。それ以降はライブ本数は減っていたし、コロナ禍の影響で満員の集客が難しくなったのでチケットが取れなかった。

 

オーケストラアレンジがなされた『SUGINAMI MELODY』のSEが流れる中、ゆっくりと登場したスピッツとサポートキーボードのメンバーのクジヒロコ。自分の隣の席にいた人が「本物だ......」とつぶやいていた。スピッツほどの大物となると、初めて観る人には存在する事実自体が衝撃なのかもしれない。

 

1曲目は『魔法のコトバ』。多くの人が聴き馴染みがあるイントロが響くと、自然と拍手が巻き起こっていた。

 

ゆったりとしたリズムでメロディはキャッチーで可愛らしい楽曲ではある。しかしバンドの演奏はずっしりとしていて安定している。それでいてロックバンドとしか言いようのない迫力とベテランだからこその貫禄がある。

 

長年日本のロックシーンの真ん中にいたバンドだからこそできる演奏だ。一瞬でスピッツにしか作れない空気を作ってしまった。

 

続く『春の歌』もファン以外でなくとも知っている人が多い楽曲だ。演奏の素晴らしさだけでなく、春フェスで演奏されるシチュエーションにもグッとくる。

 

早くも飛び跳ねたり予想外の位置まで移動するベースの田村明浩。

 

彼はライブ中に暴れ回ることで有名だ。彼のライブ中の消費カロリーは他のメンバーの10倍はあると思われる。それほどに暴れる。田淵智也に負けないほど予想外の動きをする。

 

ギターの三輪テツヤも前に出て煽ったりしていた。なぜか反対側の位置にいた田村が気付けば真横にいたりする。なぞである。田村は観客を煽るというよりも、観客にも煽られて自身が盛り上がっている節がある。

 

田村のテンションはさらに上昇していく。疾走感あるロックナンバー『8823』が演奏されたからだ。全体の演奏が激しくなるに連れ、田村の動きも激しくなる。

 

トリのマイヘアが準備をしている隣のステージにまで田村は移動し暴れていた。スタッフが躾のなっていない大型犬のリードを引っ張るかのように、田村のベースシールドを引っ張っている。これ以上遠くへ行ったら手が付けられないのだろう。

 

とはいえ観客も田村に負けないほど盛り上がっている。田村のように変な場所に移動しないだけで、激しく踊ったり拳を上げている観客がたくさんいる。世間的にはポップな印象があるスピッツだが、ビバラの会場では、みんながロックバンド・スピッツの演奏に痺れている。

 

フェスのステージに立つのは久々です。ビバラロックに来るのも久々です。俺たちは年寄りだから時の流れを早く感じるんですけど、それでもこの2年間は長かったです。

 

だから緊張しています。今日はまるで初めてフェスに出るバンドのような初々しさがあると思うので、初々しいおじさんを見届けてください////

 

アザトカワイイ発言をする草野マサムネ。結成35年とは思えない初々しい可愛さがある。

 

そんな可愛さを引き立てるように、代表曲『チェリー』を演奏するバンド。桜色の照明に包まれながら心に染み入る演奏を響かせる。

 

次に演奏されたのはコアなファンも驚く選曲の『アパート』。スピッツがブレイクする前に発表したアルバムの収録曲だ。

 

ミドルテンポで切ないメロディと歌詞が印象的な楽曲だが、サウンドはロックバンドとして重厚である。心地よさとカッコよさが共存している。

 

『アパート』は久々に演奏したよね。最近は昔の曲も溜まってくるお年頃になりました。結成して35年になってしまったので。

 

でも今でも色々なことに好奇心があるし、色々なものを音楽に取り入れています。まだまだ成長していきますよ。スピッツも“のびしろしかない”ですから。

 

スピッツの前に出演していたCreepy Nutsの楽曲『のびしろ』の歌詞を引用して、上手いことを言う草野マサムネ。彼のトークスキルにものびしろを感じる。

 

さらには「最近気になっている曲」と言ってチョコレートプラネットが歌っている日清のCMソングを弾き語りで歌うマサムネ。まさかこの曲が2万人の前で披露されるとは、チョコプラも思ってもいなかっただろう。

 

 

ワンマン以上にゆるいMCを続けるスピッツ。これが「初々しいおじさんの姿」ということだろうか。むしろおじさんだからこその余裕を感じてしまう。

 

のびしろしか無いことを音楽で証明するかのように『優しいあの子』『大好物』と近年のヒット曲を続けた。

 

この2曲はスピッツとしては新しい挑戦をしたシングル曲である。『優しいあの子』のリズムが途中で変わりミニマムな演奏になる展開はこれまでやっていなかったし、『大好物』のようにシンセのリフを要にしたアレンジの楽曲は少なかった。やはりベテランになっても、スピッツにはのびしろしか無いわ。

 

個人的にこのライブのハイライトに感じたのは『涙がキラリ☆』だ。

 

バンドの轟音と言えるようなロックなイントロが鳴らされると、眩しいぐらいに白い光がステージから放たれて、客席を明るく照らした。田村と三輪は前方に出て客席全体を眺めながら演奏している。演奏と演出の組み合わせが美しくも壮大で感動的だ。

 

ロックでありつつも心地よくてキャッチー。スピッツの魅力が詰まったような楽曲であり、それをきちんとライブで表現している。この日の『涙がキラリ☆』からは、そんなことを感じた。

 

ライブもラストスパート。ここからロックバンド・スピッツの魅力を全て伝えるような2曲が続いた。

 

『みそかでは重低音響くロックサウンドを赤い照明の中で演奏し一気に盛り上げていいく。アルバム曲で一般知名度は低いかもしれないが、会場全体が腕を上げて盛り上がっている。

 

というかこんな心が躍るような演奏をされては、曲を知っているかどうかは関係なくテンションが上がるはずだ。当然ながら田村はものすごく暴れ回っていた。やはり気づけば反対側の位置にいる三輪の真横で演奏していた。謎である。

 

ラストは『こんにちは』。ライブの最後に出会った時の挨拶がタイトルになった曲をやるというのが、ひねくれていて彼ららしい。

 

初期のスピッツを彷彿とさせるパンクナンバーでありつつ、今のスピッツだからこその安定さも感じる演奏だ。聴いていて楽しいのに、これが終わりと感じさるようなハイライトさも加わった演奏なので、少し切なくなる。

 

最後にマサムネが「またお会いしますよ」と言って、その言葉を合図に去っていくメンバー。

 

「また会いましょう」ではなく、会うことを確約するような「またお会いしますよ」という言葉で締めていた。それが力強くもたくましく感じる。

 

そういえばマサムネがパーソナリティを務めるラジオでも毎回「またお会いしますよ」と言っている。

 

この言葉に救われて、スピッツとまた会うためにと希望をもらって生きている人がたくさんいるはずだ。

 

スピッツは演奏も発言も全てがロックバンドとして力強い。だから結成35年目でもロックシーンの第一線で存在感を示しているのだろう。

 

■セットリスト

01. 魔法のコトバ
02. 春の歌
03. 8823
04. チェリー
05. アパート
06. 優しいあの子
07. 大好物
08. 涙がキラリ☆
09. みそか
10. こんにちは

 

 

My Hair is Bad

 

「My Hair is Badです!よろしく!ドキドキしようぜ!」と椎木知仁が叫んでから『アフターアワー』で始まったトリのマイヘア。

 

人気と実力を兼ね備えたバンドではあるが、音楽性を考えるとフェスのトリが似合うタイプでは無い。派手さはなく3人でひたすらにロックをかき鳴らすタイプのバンドだからだ。

 

しかし『アフターアワー』の曲中に「絶対に後悔させない!最高のトリをやるから!」と宣言していた姿と、それは嘘偽りない言葉だと感じるようなキレッキレな演奏を聴いて「トリに相応しいライブをやれるのでは?」と思い直した。

 

「最後だから笑って帰ってよ!」と叫んでから始まった『ドラマみたいだ』もそうだ。いつも以上に気合いが入った演奏に感じる。

 

観客もそうだ。彼らのライブを心待ちにしていたかのように全力で盛り上がっている。ロックフェスのトリは身体でぶつかってくるようなロックバンドが本来は似合うのだと思い直した。

 

「ビバラロックにも、ここまで繋いでくれた他の出演者にも感謝して、My Hair is Badらしいトリをやります!」とMCで椎木は宣言していた。その言葉は力強い。

 

「この先も、この曲を、忘れないように」と囁いてから演奏された代表曲『真赤』で、さらに会場の熱気が上昇していく。

 

椎木がスポットライトを浴びながら弾き語りをして、そこからバンドの演奏が重なる。真っ赤な照明に包まれながら激しく演奏する姿が最高だ。

 

ここからはさらに畳がけるように曲を連発する。『熱狂を終え』でさらに盛り上げると、そのまま衝動的な演奏で『クリサンセマム』へと雪崩込む。

 

YouTubeでもない。サブスクでもない。ここにいる俺たちが、本物で生のMy Hair is Badだ。フェスでトリをやるバンドは、ただカッコよければいいんだろ?

 

『ディアウェンディ』の曲中に叫ぶ椎木が印象的だった。大言壮語に感じる言葉でも説得力がある。この瞬間のマイヘアはカッコよかった。トリに相応しい。

 

「ここからは台本無しの即興。俺のことを信頼しなくていいけど、ちょっとだけ期待してよ」と椎木が話してから始まったのは『フロムナウオン』。その場で即興の歌詞を作り歌う楽曲だ。

 

目に見えないものの方が多いよ。コロナだってそう。でも、愛だってそうだし友情もそうだ。目に見えないものが幸せにしてくれる時もある。

 

音楽もそう。目に見えないものが救ってくれる。自由もそうだ。目に見えないし触れられない。

 

目に見えないものを、俺たちがロックバンドとして鳴らしに来ました!

 

即興とは思えないほどの、心に突き刺さるフレーズから楽曲が始まった。

 

そこから「オリジナルとは?」「自由とは?」などについて、今の椎木が想うことが即興で歌詞になり歌われていく。その言葉とロックバンドの激しい演奏が耳と心を震わせる。

 

「ゴールデンウィークだ!笑ってくれ!自分にも他人にも優しく!心の広さが優しさだ!」という言葉で、台本無しの即興ソングは幕を閉じた。

 

あまりにも凄まじい魂のこもった演奏に、圧倒されている観客。演奏後に拍手をするまで、少しだけ間が空いた。それは身動きがとれないほどにマイヘアの演奏が心に刺さったからだ。

 

2年前はこの景色は想像できなかった。でもコロナ以前のようには戻れないかもしれない。だから新しい当たり前ができることを期待しています。

 

みんなに聴かせたい新曲を、大切に歌います。

 

改めてビバラが無事に開催されたことにMCで言及してから、新曲『歓声を探して』が披露された。

 

大好きばかり 見つけに行きたい
今ドキドキできるものを手に取りたい

※ My Hair is Bad / 歓声を探して

 

サビの歌詞が沁みる。椎木は登場して1曲目を歌う前に「ドキドキしようぜ!」と言っていた。新曲の歌詞から引用していたのだ。それぐらい今のマイヘアにとってこの曲が重要で「ドキドキすること」を大切にしているのだろう。

 

会場を見渡しながら「笑ってくれよ!幸せになってくれよ!また来年!」と叫ぶ椎木。そして『いつか結婚しても』が演奏された。この曲がラストソングだ。

 

この曲では観客がゆったりとしたテンポで手拍子をして、サビでは腕を振りながら心地よさそうに身体を揺らしていた。

 

前半から中盤にかけては、衝動的でヒリヒリする演奏で圧倒させていたのに、後半は優しくて温かい空気で満ちている。ビバラのトリとして、フェスを総まとめするような多幸感を作り出している。

 

そういえばこの日の『フロムナウオン』で「俺たちは優しいロックバンドだ」と歌っていた。後半の2曲は、まさに「優しいロックミュージック」だった。

 

マイヘアは軸がブレないのだ。だから言葉に説得力があるし、たとえ言葉がなかったとしても演奏からそれを伝わってくる。だから彼らは最高にカッコいいロックバンドで有り続けているのだ。

 

いつか僕が有名になって
週刊誌かなんかに 撮られて 張られて
「どういう関係?」なんて聞かれてもすぐに答えるし

※My Hair is Bad / 虜

 

そういえば『虜』という曲には、このような歌詞がある。

 

ついこの間、実際に椎木が週刊誌に「どういう関係?」と聞かれた時、すぐに答えていたことを思い出した。

 

やはりマイヘアはブレない。

 

最後までブレない演奏をして、トリとして文句の付けようがないライブをマイヘアがやってのけたからこそ、VIVA LA  ROCK2022の2日目は大団円に終了した。

 

■セットリスト
1.アフターアワー
2.ドラマみたいだ
3.真赤
4.熱狂を終え
5.クリサンセマム
6.ディアウェンディ
7.フロムナウオン
8.歓声を探して
9.いつか結婚しても