2021-08-28 新木場STUDIO COASTの閉鎖について想うことと コラム・エッセイ 新木場STUDIO COASTの閉館が発表された。2022年の1月で、約20年の歴史に幕を閉じる。 定期借地契約満了が理由だが、更新しなかったことはコロナ禍であることも影響しているのかもしれない。寂しいし悲しい。 この場所で観たSUPERCARの解散ライブは、今でも忘れられない。 どうしても大好きなバンドの解散ライブをこの目で観たくて、貯めていたお小遣いを使って高速バスで会場に向かった。 地方に住んでいて田舎住まいだった自分にとって、これが初めて東京のライブハウスへ行った経験だった。 地元の200人キャパのライブハウスしかしらなかったのだから、その10倍のキャパのライブハウスを見るだけでも衝撃だった。 自分の知る小さなライブハウスの熱気が、10倍に膨れ上がったような迫力。音圧も小さなライブハウスと同じように、体が震えるほどに響く。同じ2000人規模でも、その迫力は、地元の市民会館とは全く違う。何もかもが衝撃で感動的だった。 そんな忘れられない衝撃を教えてくれたライブハウスだから、自分にとって特別に思い入れが強いのだ。 他にも特別なライブをいくつも観てきた。 きのこ帝国を最後に観たのもSTUDIO COASTだった。 当時は純粋なアルバムリリースツアーの千秋楽だったが、その後はライブを行わずに活動休止してしまったので、現時点では実質のラストライブになってしまった。それなのに内容は完璧で最高で感動した。 当日は予定が詰まっていて開演ギリギリに到着したことを覚えている。だから看板の写真を撮り忘れた。もったいなかった。 ここの会場はライブごとに、表の看板にアーティスト名とライブタイトルが表示される。これを入場時に見ると期待で胸が高鳴り、終演後に見ると余韻で胸がいっぱいになる。 この看板が大好きだった。来年には見れなくなるのか。寂しい。 スピッツは毎年ここでイベントを主催し「新木場」という言葉を、ライブタイトルに入れていた。それもあってか思い入れが強いスピッツファンは多いようだ。 ライブハウスの造りとしても優れていた。 会場は横長なのでフロアの後方でもステージとの距離は近い。2階席からは1階で盛り上がっているお客さんも含め、会場全体を見渡せる。そらなのに近さも感じて最高だった。 天井のミラーボールはかなり大きかった。その光でいくつものライブを美しく照らしてくれた。忘れられない景色をたくさん創ってくれた。 音響も良かった。ライブの生々しさや迫力を残しつつも、どの楽器の音も聴きやすく綺麗だった。 会場や土地の広さを活かして音楽フェスができることも、ライブハウスとしては珍しかった。会場内に複数のステージを作れたのだ。 そのため若手バンド主体のフェスやアイドルフェスも頻繁に行われていた。代替となる会場を見つけることは難しいので、このようなフェスはなくなってしまうかもしれない。 たまにLOVE MUSIC FESTIVALのように、人気アーティストばかり集めて開催されることもあった。大型野外フェスでも違和感がないメンツだ。このアーティスト達をこの規模で観れたことは、 きっと忘れない。 新木場STUDIO COASTは他とは違う特別な個性を持った特別な場所だった。それによって特別な思い出をたくさん作ることができた。 そんな特別な思い出は、ライブ会場の外にもある。 駅の高架下にあるカレーうどん専門店『千吉』にも思い出がある。自分はライブ帰りにほぼ毎回、ここのカレーうどんを食べていた。 この店、めちゃくちゃ美味い。マジで美味い。ガチで美味い。 その味はライブの疲れを癒してくれる。ライブの余韻ち浸るための良い時間を作ってくれる。 出汁はスパイスの風味が引き立つバランスの味付けで、甘すぎず辛すぎずの絶妙さが魅力的。麺は太くてコシがある。エッジもあるので出汁が麺にきちんと絡みつく。麺や茹で加減にこだわっていることがわかる。 基本的に白米がセットでついてくるのだが、麺を食べ終えてから出汁に白米を入れることで、カレーライスとしても楽しむことができる。 チーズを入れたらまろやかさも加わる。旨みの中にある優しさが引き出される。 ライブだけでなく千吉へ行くことも目的として、新木場へ行っていた節がある。それぐらいに千吉のカレーうどんは、ライブ後に食べると最強だった。 新木場STUDIO COASTがなくなってしまったら、この体験はできなくなる。 そもそも今も緊急事態宣言の影響で夜には閉まっているので、ライブ後に行くことは不可能になっている。1年以上この体験をしていない。 新木場の周辺は建物が少ない。駅前にはオフィスビルが1つと大きな公園がある程度。住宅やマンションは少ない。おそらく千吉の客層はランチタイムは周辺の会社員で、20時以降はライブ帰りの人が客層だったと思う。 ライブ後の店内はいつも賑わっていた。2000人規模のライブハウスだとしても、毎日のように公演があれば地域の経済に好影響を与えていただろう。ライブハウスがなくなれば、その恩恵もなくなる。 新木場の千吉も閉店してしまうことがあるかもしれない。 コロナ禍で多くの飲食店が閉店している。千吉は2020年に全国で16店舗あったものの、現在は10店舗まで減ってしまった。 錦糸町店や道玄坂店、田町店など繁華街の立地にある店舗や会社員の利用が多い店舗は、今年になってから相次いで閉店している。 遊びに出た人や会社員をターゲットにした店舗は、運営が厳しいのだろう。国からの助成金では損失を補えない規模の店舗だ。1年は耐えたものの、コロナ禍の終わりが見えないのならば仕方がない。 会社員やライブ帰りの客が多かったであろう新木場店も、今後どうなるかわからない。 1年半耐えてきたが、STUDIO COASTの閉鎖をきっかけによって大きな決断をするかもしれない。UberEATSやテイクアウトも始めたようだが、住宅が少ない立地では利用者は多くないだろう。 最近はライブエンタメ業界への補償について、話題になり問題視されることが多い。補償はされるようになったが金額は全然足りていないし、補償される業者の範囲も狭い。 当然ながら周辺の飲食店など間接的に影響を受けている業種は、その補償範囲外である。飲食店向けの補償もあるが、それで減った売上を補えるかもわからない。 今は様々な業種に充実した補償が必要だ。それが足りていない。しかも一部の業種や企業や人だけが潤う形式の補償になっている。 平等に補償されるべきなのに、格差が生まれてしまった。「補償金バブル」という皮肉な表現が生まれた裏では、廃業した店や企業がある。そのせいで同じ業種や業界でも無駄な分断が起きている。 千吉新木場店は自分にとって大切な場所だ。なんとかして守りたい。なくなって欲しくない。そこで働く人や関わる人の生活が守られて欲しい。 かといって電車に乗ってわざわざ食べいくような「不要不急の外出」を頻繁に行うわけには行かない。 ライブやイベントへの風あたりは強い。開催されれば批判され、中止になれば英断と称えられる。かといって国から補償を受けることに対し、批判をする人もいる。 ライブが行われることによって、音楽業界やエンタメ業界だけだなく、他にも様々な業種が助かっているのではないだろうか。そのように経済は繋がって回って、社会や生活は成り立っているのだ。 だから一部の業種冷遇すると、バランスが崩れてしまう。その影響は他の業種や業界へも波及する。マイナスの連鎖になってしまう。 それはライブや音楽フェスに対して良い感情を持っていない人の仕事にも関連しているかもしれないし、新木場STUDIO COASTがなくなっても困らない人の生活にも影響があるかもしれない。 コロナ禍になってから多くのライブハウスがなくなってしまった。多くの飲食店が閉店してしまった。どこかの誰かにとっての大切な場所が、いくつもなくなってしまった。 この連鎖をどこかで止めたい。かといって個人の力だけではどうすることもできない。 早く若者を含めた全ての人へのワクチン接種が進んで欲しい。政府には補償の方法や範囲や額について再考慮して欲しい。なんとかコロナが終息するまで耐えられるだけのサポートをして欲しい。 自分は閉鎖される前にもう一度STUDIO COASTに行けるだろうか。次に新木場へ千吉のカレーうどんを食べに行けるだろうか。 どうか誰かの大切な場所が、これ以上コロナ禍が理由でなくなりませんように。 ↓他のカレー関連の記事↓